インタビュー

九州の“今”本当においしいものを提供したい。「リストランテASO」の窪津朋生シェフが語る究極の地産地消

2月の穴バー「4種のネギとイタリアンの会」の料理を担当する「リストランテASO 天神」の料理長・窪津朋生シェフ。東京から福岡への転勤によって、シェフ人生の第二章の幕を開けることになりました。福岡という土地だからこそ目指したかった“地産地消”をコンセプトにしたレストランに向けての道のり、そして、そのコンセプトそのままに、2月の穴バーで披露してくださるネギ料理についてのお話をうかがいました。

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自らの足でひとつひとつ形にしていった“地産地消”への道

福岡市の中心地・天神にある商業施設「レソラ天神」内に店舗を構える「リストランテASO 天神」。いわずと知れたフレンチの名店「レストランひらまつ」から1997年に誕生したイタリア料理のグランメゾン、「リストランテASO」の地方初進出店として誕生しました。2011年のオープンと同時に東京から福岡に拠点を移し、料理長として腕をふるっているのが窪津朋生シェフです。

料理長を任されると決まった時から「海も山も近い福岡なら、地元の新鮮な野菜や魚が安く手に入るだろう」と思い、“地産地消”のレストランにしよう、と考えていたのだといいます。「その日の朝に捕れた魚や野菜がその日のうちに流通するというイメージを持っていました。しかし、実際はレストランに届くまでの間に業社を数社挟むような流通の仕組みになっており、鮮度も価格も東京とさほど変わりませんでした」。現実を目の当たりにした窪津さんは、鮮度のいい食材が手に入るルートをどうにか探っていこうと、自分自身の情報網や足を頼りに、直接取り引きすることができる業者を探すことを決意。まず取り掛かったのが“魚”でした。

まったくあてのなかった窪津さんは、漁業協同組合にコンタクトをとろうと、自分がどういう人間なのか、どういう思いで連絡しているのか、などといった熱い思いをつづりメールを送ります。その中で、1番に返事をくれた宗像漁協さんとはとは今でも関係が続いているそう。ただ、レストランで安定した食材を出すには、取引先がひとつでは足りません。試行錯誤が続く中、舞い込んで来たのが、「鹿児島県阿久根市出身のスタッフが地元の鮮魚店の知り合いがいる」という情報です。すぐにつなげてもらい、漁場近くの鮮魚店から魚を仕入れるという産地直送がはじまります。

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「スタッフは家族です」と話す窪津シェフ。昼休憩時にはスタッフ全員で食卓を囲ってまかないを食べて、スタッフ間の親睦を深めています

寺本ダーウィン農園・寺本さんとの出会いで広がった“野菜”ネットワーク

魚よりも遥かに難航したのが野菜でした。「どこからどう手をつけてどこに問い合わせたらいいのか、まったく検討もつかなかった」と窪津シェフ。農家の方へ直談判しようと出向いても、なかなかまともに話を聞いてもらえず心が折れかけたことも。少しでも情報収集しようと知り合いに相談していたことで話がつながり、偶然にも系列店の「レストランひらまつ 博多」で結婚式を挙げた農家夫婦がいるとの情報をキャッチします。それが、寺本ダーウィン農園の寺本洋平さんでした。

2月の穴バーでは、寺本さんの農園で育てられたネギを使い窪津シェフが調理をする、という最強のタッグで開催することが決定しました。なべちゃん葱やリーキ(西洋ネギ)など4種類のネギが、スープからパスタまで幅広いメニューに変身します。「ネギは調理方法によってまったく違った味わいに変化する食材なので、実は主役使いにもってこいなんです」と窪津シェフはいいます。野菜の中でも最も身近と言っていい「ねぎ」。身近な食材だけに、寺本さんが語るねぎのお話は、本当に目からウロコ、実は知らないことばかりでした。アナバナチームも、ねぎの定植から収穫まで、畑に足を運びながら寺本さんのねぎを追いかけてきました。開店が本当に楽しみです。

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寺本ダーウィン農園・寺本さん(左)と窪津シェフ。「窪津さんの期待に応えられる野菜を作り続けたい」と、寺本さん

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熱を加えることで、グリーンがより一層美しく際立ちます

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ペースト状にしたネギはこんなにも鮮やか。何に変身するのでしょうか?!

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調理中の窪津シェフの顔は真剣そのもの。お話している時のおだやかな表情からパッとスイッチが切り替わります

実は2月の穴バー「4種のネギとイタリアンの会」は、11月に開催される予定だったのですが台風や長雨の影響でネギの育ちが悪く、やむを得ず延期になったという経緯があります。「リストランテASO 天神」でも、取引先の農家さんたちに年間スケジュールを提出してもらい、それに合わせて2ヶ月ごとにメニュー変更を行っているそうなのですが、穴バーでの寺本さんのネギのように、不測の事態が起こった場合には、野菜に合わせてメニュー変更も時期をずらして対応しているそうです。

「食べたい時に食べたいものを食べる、というスタイルではなく、消費者が生産者に合わせていくというのが“食”の本来の姿だと考えています。必要以上の農薬や余計な手を加えることなく育った野菜は、1番適した時期に1番おいしく育つんです。だから料理人も“この料理が作りたいから食材を探す”のではなく、“今目の前にある食材をどう美味しく料理するか”だと思います」と窪津シェフはいいます。「平松会長の教えに”一手間、二手間、三手間、四手間、五に工夫“という言葉があります。いくつもの取引先との商談ややり取りも手間ですが、そこに工夫を加え、お皿に魂をのせることが料理人の仕事なんです」と話してくれました。

料理に魂をのせるには、魂をこめてつくられた食材が必要不可欠。寺本さんのネギと、窪津シェフの料理、この2つが掛け合わさることによって、ネギはネギ以上の力を発揮します。まろやかになったかと思えば、ガツンと来る力強い味にも。穴バーでは、想像の中にある“ネギ”の存在を遥かに超えてくるネギ料理が6種類並びます。

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ネギと玉ねぎとトマトソースのシンプルなパスタ。上にのせたネギとパスタがお互いを引き立て合う、後を引くおいしさです

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真っ白な卵白のメレンゲの下には、ネギのポタージュが。スプーンですくうたびに小さなサプライズがあります

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こちらはネギのテリーヌ。酢造発酵場スーさんの粒マスタードを混ぜ込んだクリームチーズとエディブルフラワーを乗せた、目でも楽しめる一品。乙女心をくすぐる繊細で華やかなビジュアルです

“究極”の地産地消を目指したリニューアル

今回もうひとつのニュースがありました。「リストランテASO 天神」は、2018年1月25日から窪津シェフ自身の名前を看板に掲げた「リストランテKubotsu」に生まれ変わります。窪津シェフが福岡に来て出会った野菜や魚。感動した食材の魅力を最大限に引き出す料理を追求し、地産地消を目指した窪津シェフの集大成ともいえるリニューアルです。「リニューアル後は、食材はもちろん食器や備品にも地産地消を意識したものを取り入れようと考えています」というお話のとおり、食器は唐津焼など九州の焼き物を中心としたものを、ナプキンリングには大川組子、メニューブックの裏表紙には博多織を取り入れる予定だそう。
「リストランテKubotsuを通じて、九州の素晴らしさを伝えていきたい」という窪津シェフ。どういう構想を思い描いているのが、窪津シェフの頭の中をのぞいてみたいところですが…今はまだお楽しみということで、リニューアルを待つのみです。

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「福岡の人はとても温かい」と話す窪津シェフ。1人で飲みに行った先で出会った人から情報収集することも多い

(取材・写真/編集部)

 

リストランテKubotsu

所在地 福岡県福岡市中央区天神2-5-55 レソラ天神 4F
TEL 092-724-0600
LUNCH 平日11:30〜15:30(13:30 L.O.)/土日祝11:30〜15:30(14:00 L.O.) ¥4,800
DINNER 17:30〜23:00(20:30 L.O.) ¥13,800
定休日 なし
サービス料 13%
席数 メインダイニング:36席/サロン:130席
個室 あり(3室:4~18名)

HP https://www.hiramatsurestaurant.jp/kubotsu/


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