RethinkFUKUOKAProject

(たまには)下を向いて歩こう! 床も、路上も、建物も! 2人のまちかど偏愛事情

Rethink FUKUOKA PROJECT レポートvol.057

アナバナではReTHINK FUKUOKA PROJECTの取材と発信をお手伝いしています。

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あなたは、日頃どこを見ながら歩きますか?
「そりゃ前に決まっているでしょ」「行く先を見るでしょ」
まあまあ、そんなに急がずにちょっとお待ちになって。
そっと足元をのぞいて見てください。
そこには味わいのあるカラフルな床、広がっていませんか?

今回のRETHINKは、1970年代の建築物を中心にかわいい模様の床を集めた「足の下のステキな床(※1)」の著者であるライター・編集者の西村依莉さんが登壇。西村さんは、福岡在住時代に、福岡のマイナーだけど個人的な視点でかわいい! と感じたスポットを集めたリトルプレス「福岡ついで観光」「中洲ついで観光」を刊行。福岡県外出身者から見た独特な視点が話題となりました。

そんな西村さんの相方役は、株式会社クラウドナイン代表のウェブクリエーターY氏こと山田孝之さんです。山田さんは、ブロガー、郷土史研究家としても活動されており、ウェブサイト「Y氏は暇人」にて福岡のB級スポットや郷土史を多数紹介。こちらも一般の愛好者からマスメディアなど、多方面から注目を集めています。2015年刊行の「福岡の歴史本」に加え、最近は「山田全自動」として侍のイラストもブレイク中だとか。

福岡のサブカル界に咲くあだ花として、ひと癖もふた癖も隠し持った二人が、今まで集めた写真を元にトークを展開します。
さあ、めくるめく床の世界へ共に旅立ちましょう!

(※1)西村さんの著書はこちらから購入できます
     10月には東京のビルを集めた共著「いいビルの世界」も刊行
(※2)山田さんのブログ「Y氏は暇人」 http://y-ta.net

 

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古くて新しいデザインとカラーリングに夢中!
昭和建築の床はこんなにもカワイイ!

山田 こんにちは。山田です。僕はブログで普段から面白いスポットを紹介しているんですけども、同好の士として交流を持ったのが西村さんと出会ったきっかけです。今回は、西村さんと僕が普段巡っているスポットを紹介します。

西村 …なんかY氏堅いよね。いつもはそんな感じじゃないよね?

山田 え、そうですか!こんな場では堅いんですよ。では最初はどの写真から行きますか?

西村 じゃあ、このフォルダ(スクリーンに映し出された山田さんのパソコンのフォルダ)から見たいものを選んでください。どこから見たいですか?

山田 じゃあ、福岡県内の小倉から行きましょう。

西村 このタイルは70’sのマンションとかにある床です。配色が違っているとか、グラデーションが違うものとか亜流が結構あるんですけど…。

山田 壁もいいですね〜。

 

冒頭から工場夜景クルーズや駐輪場での一コマなど、脱線に次ぐ脱線を見せた小倉のエピソードが続きます。西村さんの愛と好奇心にあふれた毒舌に会場内から笑いが巻き起こり、いつしか会場の人も一緒になってスライドにツッコミを入れる光景が。まるで一緒に街を歩いているみたい。

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山田 …まあこんな感じで、ゆるりと進めて参りましょう。

西村 台風の中来てもらって、こんなくだんない話で大丈夫ですか(笑)Y氏のまともそうな写真はないんですか?

山田 僕は最近、福岡の離島全島を巡ろうって企画に挑戦しているんですよ。福岡って、人が住んでいる離島が10島あるんですよね。それを周るんです。個人的にいいなと思ったのが筑前大島。「しおかぜ」という船に乗って10分くらいで着きます。こちらは宗像大社の末社があって、世界遺産に認定された関連で観光客も増えていました。見た目にもInstagram映えする場所ですね。(宗像大社の御神体とされる)沖ノ島は女人禁制なので、参拝できない人がここからお参りするんです。

西村 宗像大社は女の人もお参りできるの?

山田 そうですね。

西村 じゃあ宗像大社に行けばいいのにね。

山田 そう言われればそうなんですけどね…。ま、まあまあ、砲台跡とかもあって、Instagram女子みたいな人が結構来ていて。

西村 “インスタ映え”ね。写ってるこの牛って、もしかして野生の牛…?

山田 島内にはかなり自由に放牧されているウシがいて、ここから海が見えてすっごくいい景色なんですね。あんまり知られてない場所かもしれない。

西村 ここで育ったウシ、美味しいかもしれない。

山田 離島といっても、結構広いんですね。風車があって、洋風な景色もあったりして。では次、西村さんの写真から何かお願いします。

西村 八代の写真からいきますね。この城はすごくかわいいなと思って撮りました。ベルサイユ宮殿とかじゃなくて、ドイツのノイシュバンシュタイン城みたいな、山の中に建つ堅実な城って感じしません? この壁も城風で、たまたまフレームインしてきた人ともカラーリングがマッチして、いろんな意味で凝った店でした。

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画像は西村さんより提供

西村 次は、商店街の中に仏花みたいな花がたくさん置いている、お店なのか謎のスペースがあって、そこの入り口です。この緑の丸い模様、どこかで見たことがあるなあと思ってたら、大宮の靴屋さんの階段で見たオレンジと黄色のコンビカラーのクロスと色違いだったんです。大宮からこんなに離れた「い草の街」で、い草色のクロスに会えるなんて!すごい感動しました。

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画像は西村さんより提供

山田 いいですね〜。

西村 そこから一本路地へ入るとスナック街があります。スナック街ってカワイイのがいっぱいあるんですよ。小ぶりのビルのアーチとか階段とか。この「狩人」っていうスナックの入り口にあったタイルは、新潟県新発田市でもまったく同じ白いタイルを見つけました。「足の下のステキな床」には久留米で撮ったイエローの床と茶色の床が載ってたりします。人気があるデザインみたいですね。その近くにサウナ(八代センタービル)があって、そこもいい感じ。入り口から覗くとタバコのポスターとかもかわいくて。フロントのおじさんに声をかけて話を聞かせてもらったのですが、こんなに昭和っぽい雰囲気なのに、「ここはいつオープンしたんですか?」って聞いたら、「平成2年」だって(笑)。八代は見応えのある街で、時間が足りなかった。

山田 じゃあ、次は渋谷!

西村 「バーバーいとう」という床屋の入り口の床がかわいかったんですね。こんな狭い入り口で写真撮ってたら、どう考えても見つかって声かけられそうじゃないですか。できれば気づかれて声をかけられて話を聞きたかったけど、接客中だったのかな? 全然気づいてくれなくて。後日改めて許可を取りに行ったんですけど、渋谷といっても、住宅街の中だし、怪しまれると思ったら大歓迎。昔ながらの床屋さんって感じですごく良かったです。こういうお店だから安いのかと思ったら、そうでもない。毛染め6500円とか、顔剃が4500円とか。すごい技術を持っているから安売りしないのかも。

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西村 「バーバーいとう」の近くに、「車」っていう喫茶店があって。ここは床がイイとかじゃないけど、外観も内装も最高です! 多分これは店主のお父さんが書いたメニュー表ですね。ソーダ水の「水」がカタカナなのもツボ。

あれ?…大丈夫ですか?皆さん、ただの私の思い出見るだけですけど。

 

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山田 じゃあ、次は天下茶屋。大阪ですね。これは家ですか?

西村 これはね、発明家のおじさんが住んでいる家らしいんですけど、かわいいなと思って撮ろうとしたら、ここすごい自転車が通るんですよ。中国ばりに。頑張って待ったんですけど、すごい勢いで来る、という写真です。

近くの「喫茶軽食 セブン」もいい味でしたね。窓のぞいたら、キッチンで仕込みしてたんですよ。これで現役営業ってスゴイなと。Twitterで検索したら、2017年に閉店って書かれてたから、普通に自分ちの夕飯を作ってたのかも。ここの向かいにある花屋さんも装テン(装飾テント)がすごくカワイイ。

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山田 じゃあ次は新潟いきましょう!

西村 これは駅を出てすぐのビルです。この札の「関係者以外お断り」の「関」の字とか最高!

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西村 あと、エスカレーターのこのガラスの部分がぷっくりしているのが好きなんですけど、ここもそうじゃんって。

山田 あ、確かに!ベルトの下のところね。

西村 これは建て書き(※)なんですけど「ビ」の濁点もかわいい。

山田 ここに濁点を収めなきゃいけなかったのかっていう。

西村 そうそう。「ル」の幅と全然違う。

※物件でその建物自体の名前を示している部分のこと。
(参考サイト:http://tategaki-yoriyori291.tumblr.com/

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西村 これは…。

会場内 すご〜い

西村 いいですよね。後ろのこの、セクシーな色気のあるデザイン。体育館らしくって、中に入れるんですよ。窓とかも凝ってて。中ではちょうど「全国レクリエーションダンス巡回講習会」ってダンスみたいなのをやってて。この字詰めもすごいですよね。それを見てたら時間が無くなって。

西村 これは新潟美術館に行く途中に見つけた床なんですけど、私の地元で見つけた床と色違いなんです。

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西村 美術館は階段とかもかっこいい! 建築家は福岡市美術館を作った前川國男氏の作品です。

山田 へえ、同じ人なんだ。床のタイルは不思議な色の組み合わせですね。

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西村 喫茶店に入ったら演奏会が始まっちゃって出るに出られなくてしばらくいました。お母さんがパフェと合う感じのシャツ着てるのがかわいくて、撮らせてもらいました。

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福岡近郊にもある、身近な昭和遺産
そこにはさまざまな人間ドラマが…

山田 じゃあ後半を始めたいと思います。僕の写真ですけど、糸島に「初潮旅館」という昔ならではの旅館があって、今でも大衆劇場みたいなのをやっているんですけど。昭和丸出しな感じがいいんですね。おみやげ物屋さんみたいなのもあって。

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西村 床がカワイイ!カーペット?

山田 そう。枯葉みたいなじゅうたんを敷いているんです。ここは今だにやっているオリジナルの大衆劇場も有名です。多分、学生なんですけど学校に通いながらやっている。

西村 旅一座みたいな。

山田 そうそう。「劇団しらさぎ三兄妹」って、家族でやっている。一番下は中一の女の子かな。照明はおばあちゃんがやっているんです。

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山田 (笑)。次は、篠栗にある「子安観音」です。山の中にあって、長い階段を登っていくとちっちゃい小屋みたいなのがあるんですね。一見なんてことないお堂なんですけど、後ろのところにこんな…。

会場 怖い…。

山田 別に怖いものじゃなくて、安産祈願らしいです。なんでこんなに増えているかと言うと、参拝した時に人形を一体持って帰るんですって。それを大切に持っておくと安産になるらしくて、無事に生まれたらお礼参りの時にもう一体、つまり合計2体置くんです。倍々ゲームで増えていくんですね。

西村 人形のテイストとか決まっているんですか?アニメっぽいのでもいいの?

山田 そこは特に決まっていないみたい。ここはお守りもあるし、問い合わせ先のメールアドレスとかも意外にしっかりしている。

西村 サイズとかもバラバラなんだ。

山田 大体、3,40cmくらいかな。みんな思い思いに持ってきてる。

 

静岡大好きカメラマンも飛び込み参加!
全国各地に散らばるいい床を探して…

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山田 後半は西村さんの本「足の下のステキな床」写真監修の奥川さんにもお話をお聞きしたいと思います。

西村 奥川さんは10年ぐらいご一緒しているフォトグラファーの方です。この本にはマップが付いているんですけど、東京・大阪・名古屋についでなぜか静岡のスポットが多いんです。それは奥川さんが毎月のように静岡に行ってて、好きすぎるからこんなことになっちゃったんですよ(笑)

奥川 ライフワークだから。あ、すみません!西村さんと「足の下のステキな床」を作りましたフォトグラファーの奥川と申します。

西村 私ともう一人のデザイナーさんは女性なので、床の取材でも「カワイイですね〜」って言えばみんな気を良くして話してくれるんです。けど、奥川さんはガタイのいい男性だからちょっと警戒されるのか、「何やってるんですか!」とか言われて、「床撮ってます」「はぁ!?」って怒られる(笑)苦労して撮ってくださってます。

奥川 床はハードルが高いんですよね。壁とか看板とか窓だとこっそり撮れるんですけど、床は敷地内に入らなきゃいけなくて。やっぱり変質者扱いが多いです。でも、説明するとわかってくれることが多くて、そこから2時間くらい話して仲良くなるパターン結構あります。

西村 そのまま、「ウチの家業を継げ」とか言われるんですよね。

奥川 「お兄さん、職業は何してんの?」って聞かれて、「カメラマンです」って答えているのに誰も聞いてくれなくて。「うちで働け」とか。フラフラしているように見えるんですかね。

西村 あと、ガタイがいいから役に立ちそうとか(笑)

奥川 大体、工事現場の誘いを受けることが多くて。僕は仕事で真面目に写真を撮っているんですけどね。ちなみに、この床は熱海で撮影したんです。ところが、ここに来る直前に同じ床を見つけました。喫茶店のジャルダンが入ってるビルですね。ジャルダンの方がよく手入れされていてツヤツヤでした。

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画像は西村さんより提供

西村 昨日、八代にも同じ床がありましたよね?

奥川 この床はそんなに珍しくないんだなって分かりました(笑)。敷いている場所も結構無理矢理感があって。クッションフロアですよね。

西村 ここはね、結構水切りがいいパターンですけど、ここだけ上にとってつけたように敷いてて。なんでしょうね。でも、ドイツみたいで色合いがカワイイから許す。奥川さん、これは?

奥川 これは、渋谷近くの都立大学駅ってとこの食器屋さんの床です。昔の商店は割といい床を使ってる事が多くて。ここは撮影しようとしたら、急に店員さんが床をモップで磨きはじめて(笑)

西村 しかも、この柄は昨日ジャルダンに同じものがあって。あと、東京の東中野のビルにも同じ床が…。

奥川 この床も珍しくないんだなって分かりました。このビルは、階段も良くって、多分ライトが点くんですけど。おいしいところだらけのビルでしたね。

西村 山田くんはどこのフォルダが気になります?

山田 前川ってなんですか。

西村 さっきも話に出た建築家の前川國男さんの事なんです。これも熱海ですか?

奥川 熱海です。前川さんっぽいなと思って。建物もとてもかっこいいんです。聞いてみたけど、僕が変質者っぽいのか真面目に答えていただけず、今だに分からないですね。ネットでも調べたのですが…。

西村 奥川さん、熱海で写真展されているから、熱海の写真が多いですね。これは「フルヤ」でしたっけ?

奥川 そうそう。「フルヤ」は駅前の喫茶店なんですけど、床も階段も看板もカワイイんです。駅のすぐ前になるので、熱海に行ったらぜひ見てください。次は小田原ですね。この床はもちろん、キッチンの壁もカワイイですね。

西村 ちなみに、奥川さんはナポリタン研究家で、「ナポリタン」というリトルプレスも出した事があるんですよ! みなさんナポリタンにも注目です。

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西村 同じタイルを使った新宿の「シャモニーマンション」の床です。銀座のマルゲンビルとかにも使われているので、東京に来られた際はぜひ。これは?

奥川 熱海の話ばっかりで申し訳ないんですけど、これは熱海にあるホテル「ホテル水葉亭」。40年代の好景気に建てられたホテル。CMで有名なハトヤとかと同じ時代に建てられたんですが、この頃のものはゴージャスなものが多いですね。

西村 階段急ですね! バリアフリーとはなんぞや、みたいな。

奥川 ね。でもタイルなんかも手を抜かずに丁寧に作られているんですよ。このホテルは残念ながら昨年廃業してしまって、今は別の会社が買い取ったそうです。今は期待できる感じではなくなったかもしれませんね。

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奥川 これは那須ですね。たまたま入った洋食屋。クッション素材の床材は凹凸が残っていて、まだきれいな状態でした。クッションが効いているものは、人がよく通る動線平らになっちゃうんです。

山田 次の写真を・・・

奥川 また熱海ですみません! 熱海には街のあちこちに温泉弁がかなりの数あります。ちょっと懐かしい感じです。

西村 「温泉弁」って親切に書いてるんですね。こういうの温泉街によくあるんですかね。

 

スライドを見ながらゆる〜く続いた3人のトークですが、不思議なもので徐々に床への情熱が客席にも伝わったよう。この後の質疑応答では、福岡市内の床スポットや床の材質など、具体的な疑問が飛び出し、大いに盛り上がりました。帰り際には、なんとY氏の非売品ブックレットがお土産に手渡しされました。

なお、本文で「写真がないと伝わらないよ!」と感じた方、ぜひ本をご一読ください!

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見れば見るほど味がある、ステキな模様の床たち。
長年使われてきたからこそ付いた傷や剥がれも表情の一つであり、なんだか人間くさくて愛おしい気持ちが湧き上がってきたような気がします。

いつもよりもほんの少し、周りを見回す余裕が持てたなら、
あちらにもこちらにも素敵な床との出会いが待ち構えているかもしれませんよ。

 

ReTHINK FUKUOKA PROJECTについて
コミュニケーションや働き方、ライフスタイルに大きな変化をもたらしている福岡。新しい産業やコミュニティ、文化が生まれるイノベーティブでエネルギッシュな街となっています。
そのチカラの根底には、この街に魅力を感じて、自らが発信源となっている企業や人がいます。
ReTHINK FUKUOKA PROJECTは、「ReTHINK FUKUOKA」をテーマに、まったく異なるジャンルで活躍する企業や人々が集い、有機的につながることで新しいこと・ものを生み出すプロジェクトです。


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