RethinkFUKUOKAProject

鹿児島の小さな島から、そして世界展開する600超の店舗から。 それぞれの立場から考える、“未来へと続く商いと暮らし”

ReTHINK FUKUOKA PROJECT レポートvol.19

アナバナではReTHINK FUKUOKA PROJECTの取材と発信をお手伝いしています。

そして8月より、アナバナが企画する『コトバナプラス』が始まりました。
モデレーターに、プロダクトデザインやみそづくり、麹づくりのワークショップで、今や世界に発酵の風をふかせている発酵デザイナー小倉ヒラク氏を迎え、毎回さまざまなゲストをお招きし、毎月第1水曜日に連続シリーズで開催します。

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「未来の種」をキーワードに、発酵デザイナー・小倉ヒラクさんをモデレーターに迎え開催するコトバナプラス。9月7日(水)に開催された第二回のテーマは、「地域と密に関わり合う“商い”」。東シナ海の小さな島ブランド株式会社の代表・山下賢太さん、株式会社良品計画の間野弘之さん、そして、山下さんとのトークを熱望し、今回の企画を立ち上げたアナバナの編集長曽我由香里さんも飛び入り参加して開催しました。

島の風景を取り戻し、次世代に残していくために、生まれ育った甑(こしき)島から小さな商いを始めた山下さん。一方、国内のみならず世界に向けて「無印良品」ブランドを展開しながらも、地域の魅力につぶさに目を向けるプロジェクト『諸国良品』を担当している間野さん。大きな商いと小さな商い、その両極から見える地域との関わり方を探りました。

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島の大切な風景を失いたくない!
それなら自分たちの手で守りたい

小倉 僕がコープについて調べていく中で(小倉さんとコープとの関わりは前回を参照 )興味を持ったのは、大きなビジネスと小さなビジネスの関係性についてでした。僕自身も、地域におけるデザインプロジェクトをたくさん手がけてきた中で、ローカルでできることの可能性も、大きなマーケットに対してアプローチしていく必要性も、両方感じていて。今日は、それぞれの立場から、お二人の話を聞いていければと思います。まずは、山下さんから自己紹介してもらえますか?

山下 はい、鹿児島の甑島で豆腐屋を営んでいる山下です。山下商店という名前で、豆腐以外にも農業をしたり、地域の商品をセレクトして販売したり、カフェや宿も運営しています。

小倉 最初からこういう事業をやりたいと思って始めたんですか?

山下 いや、そうではないんです。甑島には高校がなくて、みんな中学を卒業したら島を出ます。僕も同じで、15歳で島を出て、競馬のジョッキーになるために千葉県の養成学校に入ったんですが、減量に失敗して、その夢を諦めざるをえなくなったんですよ。無職になって島に戻り、何をしていいかもわからない日々が続きました。その頃、とても印象的な出来事が起こって。

小倉 どんなことですか?

山下 建設会社に勤めている父が、島のみんなが大事にしていた港を、港湾整備のためにつくり替えていた。「これが、なんの為になるんだ」と聞いたら、「お前のためだ」と言うんです。島には仕事がなく、家族を養うためにもお金が必要で、仕方ないと。それがすごくショックで、その公共工事をきっかけに、大切にしたい島の風景を残すために自分に何ができるかを考えるようになりました。それで、島の風景に直接的に関わり合える農業から始めたんです。

小倉 でも、農家を始めて、現在のような宿やカフェまで持つ複合体になるまでには、まだ結構な飛躍がありますよね?

山下 確かにそうですね。農家を始めて、作ったものを売るために島外のイベントに出たりしているうちに、ツイッターで「甑島に行ったら山下商店に行きたい」という意見を見たんです。僕らの活動が、島に来る目的にもなるんだと初めて気づいて、甑島らしいお店とは何かを考えるようになりました。そこから、今の活動に繋がっていきます。

小倉 何で豆腐屋にしたんですか?

山下 昔、実家の両隣が豆腐屋で、よくそこから豆腐を買っていたんですよ。そこのおばあちゃんが、僕らの食べ物を作るために朝早くから働いてるのを子供の頃から見ていて、その姿を思い出したんです。

小倉 なるほど。山下さんは、「野生の思考」で有名な文化人類学者レヴィ・ストロース的な世界に生きている人ですねぇ。

山下 どんなところが似てるんですか?

小倉 商才があって緻密に考えられるのに、大事な決断がエモいところ(笑) 。計算して成功する見込みを立ててビジネスを始めるというより、生活の文脈に合ったものから仕事を発想しているんでしょうね。

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地域で営まれてきた多様性のある生活が
これからの暮らしのヒントになる

小倉 続いて、間野さんも自己紹介をお願いできますか。

間野 はい。私は、「無印良品」を運営する、株式会社良品計画の社員です。入社して、店長を経験し、その後たまたま担当部署にいたことから、2年ほど前に『諸国良品』という、地域の産品を販売するネットサイトの立ち上げに携わりました。

小倉 『諸国良品』はどんなきっかけで始まったんですか?

間野 長谷川浩史さん・梨紗さんという夫妻がきっかけでした。二人は当時、リクルートを退社後に世界一周の旅をして戻ってきたばかりで、次のプロジェクトを探していました。話しているうちに、世界一周といっても、そもそも日本ですらよく知らないよね、となり、「日本全国の良いくらしを探す旅」をテーマにした「MUJIキャラバン」を2012年4月から1年にわたって実施することになりました。そこで、長谷川夫妻が47都道府県を巡る中で出会った330点のモノを、販売することから始まったのが、『諸国良品』です。

小倉 面白いですね。でも、全国に均一な商品を販売している無印良品からすると、ローカルプロダクトの販売は難しくないですか?

間野 ええ、まさに。販売できる数が少なくてすぐ欠品になったり、手作りだから品質にばらつきがあったり、そういうことは無印良品ではあってはいけないことでしたから、僕らも最初は戸惑いました。でもよく考えてみると、それって人間としては普通のことなんですよね。

小倉 人間としては普通のこと! それってすごい言い回しですね!

間野 だって、現代ではお腹がすいたらどこでも買ってすぐに食べられますが、昔はそうじゃなかったわけですよね。このプロジェクトは、人間らしさや、モノのありがたみを探っていくためのものでもあったので、そこは社内でも徐々に理解していただきました。

小倉 でも社内の理解を得るのが、また大変だったりしません?

間野 ええ。作業効率が悪くなったり、もっとうまくやれるんじゃないかと言われたりしてね。ただ、扱っている商品自体にとても魅力があるので、実際に食べたり使ったりしてもらってモノの良さを体感してもらうと、協力してもらいやすいですね。通常の商品の販売とはまったく違う特殊なプロジェクトですから、時間をかけてゆっくりと浸透していけばいいと思っています。

小倉 このプロジェクトをやることで、無印良品全体にどんな影響を与えているんでしょうか。

間野 無印良品は、おかげさまでグローバル企業として海外にも展開するようになりました。でも「Think global,act local」という言葉があるように、グローバルを考えていくときこそ、ローカルが大事になってきます。僕らは、商品の販売を通じて暮らしを提案していますが、その中で、甑島のようなローカルの暮らしが、グローバルの暮らしのヒントになることがあると思ってるんです。これから温暖化が進めば、暑い国の暮らしがヒントになるかもしれないし、少子高齢化が進めば、人口の少ない国にヒントがあるかもしれない。ローカルの中に、これからの日本や世界での暮らし方のスタンダードがあるかもしれないと考えています。


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ずっと昔から、変わらずそこにある。
そんな佇まいを作りたい

参加者Aさん 私は広告代理店でアートディレクターをやっているんですが、デザイナーにとって無印は神のようなブランドです。妥協ではなく、すっと腑に落ちて「これでいいな」と思える商品が、無印良品にはあって。それは地方に行った時に、そこの地域で生まれた商品を見て感じる感覚と近いと思うんです。さも自然にそこにあった、何年も前からそこにあったという佇まいを作ることが、いいデザインなんじゃないかと思って。

間野 それはよくわかります。「フロム〇〇」とか「メイドイン〇〇」と、地域性を意図的に強調したものは、デザインされすぎていてちょっと引いちゃう、という時がありますよね。本当に地域のことを考えた場合、もっと自然になじむ空気感を持ったものが必要なんじゃないかなと。

小倉 僕は生物学の研究者でもあるんですが、生物学ではデザインとデザイノイドという2つの概念があります。カメラの構造って、昆虫の眼を模してできてるんですが、そうやって人間が作ったカメラはデザインで、昆虫の眼はデザイノイドです。デザイノイドとは、先に目的があって作ったのではなく、その土地や環境での暮らしやすさを追求していったら、そうなったという形のこと。僕は、地域のデザインを考える時に、いつもこの言葉を思い出します。

山下 僕が最初に農業とかお店を始めた時は、結構反対もされたんですよ。でも、今はやってよかったなと心から思ってます。兄弟でも親戚でもない島の子どもたちが、僕のことを「ケンタ兄ちゃん」と呼んで慕ってくれて、船で島に帰ってきたら真っ先に山下商店に寄ってくれるまでになって。子供たちの風景の中に、僕らの活動が自然に存在できているってことが嬉しいんです。

小倉 自分の属している地域の良心的なインフラストラクチャーになることは、組織が発展していく一つの理想形だと思います。

山下 そうですね。子どもたちは、いつも未来を見ています。自分の暮らす島に、だんだん失われていくものしか残っていなくて、未来があると感じさせられなかったら、出て行ってしまうのも当然です。だから僕らの活動が、10年後、20年後の甑島を担っているという気概でやっています。

間野 『諸国良品』でも、生産者を応援して、認知度が上がって、地域での暮らしに役立てればいいなという思いが強いですね。事業としては未だに若干の赤字ですが、これは利益を出すためだけの事業ではないので、改善しながら続けていくことが大事と思っています。

参加者Bさん 長く続けていくために、どうやってモチベーションを維持しているんですか?

間野 私の場合は、最初の頃よりもむしろ、年を経るごとにモチベーションが高まってきています。地域によって課題も違うし、目の前に難問がたくさんあって、でもそれに取り組んで頑張っている人がいて、その状況にすごく自分が励まされます。

山下 僕の場合は、無理にモチベーションを維持しようとも思っていないんですよ。落ち込むこともあるのが人間ですからね。必死で何かを伝えようとすると、うまくいかなくて落ち込むこともあるけど、僕は何かを伝えるよりもただ、誰かの日常になることが大事だと思っています。特別なことをするんじゃなくて、その人の日常のワンシーンにいられたらいいなと思ってるだけなんです。だから、今日はトークの場ということもあっていろいろ話しましたけど、普段はこんな話は必要ありません。島では、僕らはただの豆腐屋なんです。

小倉 まさに、このトークのテーマ「自分が未来の種になる」にぴったりのお話でしたね。本日は、ありがとうございました。

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<モデレーター小倉ヒラクより追伸>
イベントレポートお読みくださってありがとうございました。
「グローバルになっていくブランドが原点を見つめる」という視点と、「甑島の未来をつくるために外へとチャレンジしていく」という視点が出会う時に、大きな世界のなかでのローカルなアイデンティの大事さが見えてくる。
対極にあるものこそ、対話が必要になる。そんなことを感じたトークイベントでした。無印も甑島も一層好きになったぜ。レポート読んで興味持ったら次回のイベントに遊びに来てくださいね。


いかがでしたか? 「アナバナ」は、九州のワクワクを発見するウェブマガジンで、九州の各地域でコツコツとモノづくりを続ける人たちを取材し、その取り組みや思いを伝えています。そんな中で出会ったのが、今回のゲスト・山下賢太さん。また無印良品は、大企業ながら大量生産・大量消費社会のモデルに依らず、独自の価値観を提案し指示を受けている企業です。お二人の異なった視点から見た地域と暮らしの話は、いくつもの共通点と気づきがあり、未来の商いを考える上でさまざまなヒントを伺うことができました。

さて、次回のコトバナプラスは、「やりたいことは自分でやる」を貫き通すお二人を招いてトークを開催。軽妙洒脱な小倉ヒラクさんの進行とともに、次回もどうぞお楽しみください。

 

ReTHINK FUKUOKA PROJECTについて
コミュニケーションや働き方、ライフスタイルに大きな変化をもたらしている福岡。新しい産業やコミュニティ、文化が生まれるイノベーティブでエネルギッシュな街となっています。
そのチカラの根底には、この街に魅力を感じて、自らが発信源となっている企業や人がいます。
ReTHINK FUKUOKA PROJECTは、「ReTHINK FUKUOKA」をテーマに、まったく異なるジャンルで活躍する企業や人々が集い、有機的につながることで新しいこと・ものを生み出すプロジェクトです。


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