RethinkFUKUOKAProject

感じる感性を鈍らせないこと。発酵デザイナー小倉ヒラクさんと事業プロデューサー江副直樹さんが考える“未来の種”の創り方。

ReTHINK FUKUOKA  PROJECT レポートvol.12

アナバナではReTHINK FUKUOKA PROJECTの取材と発信をお手伝いしています。

そして8月より、アナバナが企画する『コトバナプラス』が始まりました。
モデレーターに、プロダクトデザインやみそづくり、麹づくりのワークショップで、今や世界に発酵の風をふかせている発酵デザイナー小倉ヒラク氏を迎え、「未来の種」をキーワードに、毎回さまざまなゲストをお招きし、毎月第1水曜日に連続シリーズで開催します。

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九州のワクワクを発見するウェブマガジン「アナバナ」と、ReTHINK FUKUOKA PROJECTとの共同企画として8月よりスタートした「コトバナプラス」。「未来の種」をキーワードに、さまざまなゲストを招いて展開するトークイベントです。モデレーターを務めるのは、発酵菌のはたらきを、デザインを通して可視化する“発酵デザイナー”小倉ヒラクさん。そして初回となる今月のゲストは、ブンボ株式会社の江副直樹さんです。

コピーライターとしてキャリアを積み、その後は商品開発や広報計画をプロデュースする事業を展開し、小倉さんとも一緒に仕事をしている江副さん。ある組織のプロデュースワークを例に取りながら、自分からより良い未来を創っていくにはどうしたら良いか、「自分が未来の種になる。」をテーマに会場の皆さんと一緒に考えました。当日のトークの内容を、一部抜粋してお伝えします。

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コープという考え方が、
未来を自分たちの手で作っていくムーブメントだった。

小倉 まずは、今日のイベントの経緯を説明しますね。僕は今、「COOP男子」というコープ九州のWEB企画で取材を担当しているんですが、この話を僕に依頼してくれたのが、江副さんでした。この企画は、「そもそもコープって何?」というところから取材を始め、コープの実態に迫る連載企画なんですが、取材を進めていくうちにコープという組織のあり方にとっても興味が出てきたんです。コープって、消費者同士が助け合って、必要なものを調達し、シェアして、暮らしをよくしていく活動で、それは今の日本のコミュニティが分断された社会でこそ見直すべき試みだなと思って。それで、ライフワークとしてコープ九州のプロデュースを手掛けている江副さんをお招きして、コープの仕事から、未来を創っていくヒントを探っていけるといいなと思ったんですね。

江副 はい。

小倉 江副さんが、コープの仕事に携わるようになったきっかけは何だったんですか?

江副 最初は、コープの冊子のリニューアルを依頼されたんです。しかし、これはコピーやデザインですぐに解決できる課題ではないとわかってきて、商品構成の根本から見直していく提案をしました。そして、広報戦略プロジェクトが立ち上がり、月に2回のペースで会議をするようになって。

小倉 なるほど。

江副 コープは全国に2,500万人の会員を持ち、2兆円規模の市場を持っている、国内でも有数の組織なんですが、そのポテンシャルが十分に生かされていないんですよ。流通業界では、「眠れる獅子」と呼ばれて恐れられていますが、「ずっと寝ているんじゃないか」という声もあるぐらいで(笑)。大企業病に陥ってしまって、コープの本来の存在意義を働いている皆さんがすっかり忘れてしまっていたんです。

小倉 コープという言葉は、イギリスから出てきた「CO-OPERATIVE(協同)」という概念ですよね。モノやサービスの作り手と受け手が二分されてしまって、自分達が本当に必要としているものが手に入らないという状態から、消費者が協同で購入して分配するという仕組みを作って、社会的な課題を解決していった……これって、今でいうソーシャルビジネスのようなものですね。

江副 そうです。その本来のあり方に立ち返る必要がありました。福岡のエフコープでは、「エフコープは、非常識です。」という大胆なキャッチコピーで、広告を展開しました。発泡剤を含まないため泡立ちの悪い歯磨き粉や、真っ赤に着色されておらず3日で腐るウィンナーなど、デビュー当時は業界で驚かれた商品群を紹介し、「この非常識が、いつか常識になる」と銘打った広告です。この時もコープ内で物議を醸し、掲載直前にあわや取り止めかという事態にもなったんですが、なんとか説得して世に出せました。この広告は、その後いくつかの広告賞もいただいて話題になりましたし、コープで働いている人たちの意識も大きく変わったと思います。

小倉 コープという考え方が、未来を自分たちの手で作っていくムーブメントだったということを、江副さんが再び気づかせてくれたわけですね。

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その起点は、会議室か家庭のリビングか。
打ち合わせはお風呂に入りながら本音で話す。

小倉 江副さんは、今の日本の硬直化した社会にあって、それをほぐしてアイデアを通していくのがうまいですよね。ふつう、何か変えたいことがあったら「どうやって説得するか」を考えるけど、江副さんは「どんな人を集めたら話が通りやすくなるか」を考えているように思えます。

江副 プロデューサーって、フリーの政治家みたいなものですからね。正論を言い続けても、玉砕してしまったらしょうがない。正論を通せるように人を巻き込んでいかないと。巻き込むには、理性よりも感情や欲望に訴えるようにしています。正しいからやるべき、と頭で理解しても、自分にメリットがなかったら人は動きませんから。

小倉 なるほど。「コープをこんな風にしたい」という江副さんの判断基準は、どこからくるんですか?

江副 それも自分の欲望に従っていて、自分が欲しいと思うかどうか、ですね。携帯電話、車、家、どれも自分が欲しいと思うものが少なかった、だから自分で作る側に回ってみたいという思いはずっとありました。僕がコープに関わり始めた当初、商品構成の9割は食品でしたが、もっと他のものも増やしていきたかったし、将来的には日用品の範疇を超えたもの、例えば住宅を扱ったっていいと思ってます。コープの理念に則った、本質的なものであればね。

小倉 残念なことですけど、本質的なものより、業界が儲かりそうなものが先に広がっていくことが多いですね。

江副 商品開発の起点が、会議室にあるか家庭のリビングにあるかが、大きく違うんですよ。会議室でやったら、いかに儲かるかという話になっちゃうし、アンケートや他人の意見に左右されすぎて、本質から遠ざかっちゃう。

小倉 提案なんですけど、オフィスから会議室を無くしてみたらどうですか? 福岡はオフィス街の近くにリラックスできる場所がたくさんあるから、仕事中にももっと街に出たらいいと思いますよ。僕は今、山梨の山奥に住んでるんですが、打ち合わせをするときは山梨まで来てもらって、担当者とお気に入りの場所を散歩したり、一緒にお風呂に入ったりしながら話をします。そうすると、その人のこともよくわかるし、本音で話せますよ。

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感じるチカラを大切に。
まず感じて、それから行動する。それが未来をつくる

小倉 先日、山形県の羽黒山に行って、山伏に会ってきました。彼によると、いま山伏の修行に来る人の半分以上は女性だそうです。今の社会の行き詰まりは、頭で考えたことやデータが、感じる力よりも優先されていることにあって、それは主に男性主導でつくられてきた。でも新しいことをやる時にデータなんてないから、感じる力を信じるしかない。そして感じる力は女性の方が強い、そんなお話でした。

江副 確かに女性の方が直感的で、本質的な判断をしますよね。

小倉 田舎のおばちゃん達なんて、僕に会ったらいきなりムギューっとハグしてきますから(笑)。とにかくパッションが先走ってて、でもすごく伝わる。僕はおばちゃん達のパッションを、毎回しっかりと受け止めてますよ。

江副 おばちゃんは正直ですよね。まず感じて、次に感じたことを行動に移す、その順番が大事だと思います。

小倉 面白いのは、コープの契約数が飛躍的に伸びたのは70年代から80年代にかけてで、それは女性たちのクリエイティビティに火をつけたからだと思うんですよ。班配達の仕組みができて、班内での井戸端会議が始まる。そうすると、日頃感じていた商品の不満や改善点なんかも班長が聞くようになって、だんだんと本部に意見を通すようになって。
※班配達:集合住宅の何戸かをグループでまとめて配達する方法

江副 そうですね。高度経済成長の頃、子供を持つお母さんが、自分の子どもに与える食品の安全性に危機感を持ったんですよ。コープには、共同購入という井戸端会議の仕組みがあったので、子育て中のお母さんでも社会にコミットできた。それが、家庭にいながら社会に影響を与え、社会進出する手段にもなったわけですね。芯がないトイレットペーパーというアイデアなんか、無駄を嫌ってエコにもなる、お母さんらしい発想から生まれた商品だと思います。

小倉 僕は最近、意識的に家事をするようにしていて、魂を鍛える修行のつもりでやってるんです。ついつい頭だけで考えてしまいがちなので、自分の体で感じて、実感を伴った知性を身につけたいなと。

江副 自分の実感が伴わずに、“世の中はこうなるから、それに乗り遅れるな”と考えてしまうのは、不幸の元凶ですね。自分がどう感じるかを大事にして、自分自身が誇りを持って毎日暮らせるようになれたら、素敵なことだなと思います。

小倉 未来のことって、考えるのではなく感じるもの。自分が“いい”と感じたことをやるしかない。より良い未来を創っていくために、まずは感じる感性を鈍らせないこと、それが大事なんじゃないでしょうか。

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<モデレーター小倉ヒラクより追伸>
イベントレポートお読みくださってありがとうございました。
「感じることが何より大事だ!」とブルース・リーみたいなことばっかり言っている感じですが、僕、普段は微生物や発酵に関わる科学の世界にいるので、ちゃんと調べて裏付けをとって…という世界にもいます(蛇足ですけど)。
考えることと感じること、バランス良くいきたいものですね。

■ヒラクさんが連載中の「コープ男子」も必読です!

いかがでしたか? 立ち見も出るほど注目度の高かった、今回の「コトバナプラス」。どこか他所にある未来の種を見つけてくるのではなく、自分自身が未来の種になる!……そのヒントとなるような、本質的なキーワードが多く飛び出しました。コープの班配達のような、地域の人と井戸端会議ができる仕組みは、コミュニケーションが希薄になったと言われる現代で、あらためて必要とされてくるのかしれませんね。“発酵”をテーマに活動を続ける小倉ヒラクさんの、発想力豊かな進行とともに続いていく「コトバナプラス」、今後の展開にもご期待ください。
 

ReTHINK FUKUOKA PROJECTについて
コミュニケーションや働き方、ライフスタイルに大きな変化をもたらしている福岡。新しい産業やコミュニティ、文化が生まれるイノベーティブでエネルギッシュな街となっています。
そのチカラの根底には、この街に魅力を感じて、自らが発信源となっている企業や人がいます。
ReTHINK FUKUOKA PROJECTは、「ReTHINK FUKUOKA」をテーマに、まったく異なるジャンルで活躍する企業や人々が集い、有機的につながることで新しいこと・ものを生み出すプロジェクトです。


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