コトバナ

ビジネスマンの“自撮り”も生業に? スーツを愛するサラリーマンのユニークな遊び方〜前編〜

VOL.018 ビジネスマンの“自撮り”も生業に? スーツを愛するサラリーマンのユニークな遊び方

2015.09.25(金)

ユニークで新しい活動を通じて、これからの福岡や日本を面白くする方々を招くトークイベント「コトバナ」。今回は、昨年福岡の人気TV番組で紹介されて話題になった、覆面アーティストの梅田創介さんがゲストです。今年7月にはギャラリーでの個展も開催し、いま勢いに乗っている梅田さんに、作品づくりのコンセプトや背景、今後の展開についてたっぷりとお聞きしました。

モデレーター 和泉尚吾
コトバナの開催地でもある、天神IMS 4Fにあるブックカフェ「solid & liquid TENJIN」の元店長兼雑貨マネージャー。京都生まれ。福岡在住一年生として、福岡を元気にしたい人を続々発掘していたが、8月より大好きな福岡を離れて東京勤務中。
ゲスト 梅田創介
スーツを愛する撮影者兼被写体。「スーツを着ている人が基本的にやらないこと」をセルフタイマーで写真に収めるスペシャリスト。人目を避けて、山や海に、街や牧場に出没中。

違和感が生み出す面白さを追求

和泉さん(以下、和泉) さて本日は、スーツ姿の自撮り写真で話題の、梅田創介さんがゲストです。早速、自己紹介をお願いします。

梅田 はい。普段は福岡市内で事務職員をしながら、スーツ姿の自分を収めた写真作品を作っている、梅田創介と申します。今日は、お客さんが全然いないんじゃないかと心配だったんですが、たくさんの方にお越しいただいて、嬉しいです!

和泉 まずは、梅田さんを知っていただくために、作品をいくつか観ていきましょう。

梅田 これは、福岡県筑紫野市と太宰府市にまたがる宝満山の氷瀑です。夏場に行くと水がちょろちょろ流れているだけなんですが、冬はこんなふうになります。

和泉 背景とスーツの違和感がすごいですね。

梅田 ずっとポージングしていると、足が吊ってきて、ズボンも履けなくなってしまって。足を引きずって歩いていたら、「そんな恰好で来るけんったい」って地元の人に怒られました(笑)。

和泉 これも面白い!

梅田 海浜公園があっていつも人の多い福岡市の百道浜で撮ったんですが、観客がたくさんいて、恥ずかしかったですね。何度もやり直していると、「……撮りましょうか?」ってよく聞かれます。

和泉 これは、決定的瞬間を捉えてますね。

梅田 真夏だったんで、暑くて死ぬかと思いました。

和泉 私はこの写真が好きで。これを見て、ぜひトークに来ていただこうと思ったんです。

梅田 この写真は結構話題になって、僕自身のターニングポイントにもなった写真です。

和泉 アンリ・カルティエ・ブレッソンの『サン=ラザール駅裏』みたい。

梅田 場所は中央区の港なんですけどね。

和泉 撮影に苦労されたんじゃないですか?

梅田 大変でしたね。雨の場合は、セルフタイマーの10秒間のうちにレンズに水滴がついてしまったらやり直しなんで、特に大変です。

梅田 こういった形で、「人が普段スーツを着てしないようなことを、あえてスーツでやってみた」というコンセプトで、本業の休みを利用して一年中撮影してます。

和泉 とてもアクティブに活動されてますよね。自分ですべて用意して、被写体もご自分だし、撮影も苦労されて。だから、写真にエネルギーを感じます。見ていてとても元気になる作品ですよね。

撮影はコンデジのセルフタイマーに任せる

和泉 どうやって撮っているのか、気になる人も多いと思うんですが、撮影の手順を教えてください。

梅田 まず、画角を決めてカメラをセットし、ベースになる画をだいたい決めます。それからセルフタイマーをスタートさせて、残り4秒半までは、「よしやるぞ」と気合いを入れて待ちます。残り3秒になるとカウントの音が変わるので、そこからポジションに入り、撮影します。

和泉 そう簡単にベストショットは撮れませんよね?

梅田 ええ。何度も何度もやり直します。例えば、このバケツをひっくり返したような雨、本当にバケツをひっくり返して降らせてるんですよ。

和泉 ええ? 1回やっただけで、ずぶ濡れですよね?

梅田 そうです。それに、結構な重さと衝撃で、バケツがすぐに壊れちゃって。ずぶ濡れのスーツ姿のまま、近所の100円ショップに買い足しに行ったり。

和泉 大変ですねぇ! カメラは何か特殊なものを?

梅田 casioのEXILIM EX-ZR800というコンパクトデジカメを使っています。セルフタイマーで連写がきくカメラって、なかなかないんですよ。このモデルは、ゴルフのスイングチェックができるということで、売り出されていました。撮影環境がタフなので、オートで任せられるこのカメラは、頼りにしてます。

和泉 撮影中に気をつけていることは?

梅田 撮影時間をなるべく短くして、通報や職務質問のリスクを避けることです!

和泉 ははは。

梅田 まあそれはともかく、失敗をなるべく少なくしたいですね。

和泉 どんな失敗が多いんですか?

梅田 撮影がハードなんで、眼鏡が外れたり、カメラが壊れたりってのはよくあります。この時なんて、眼鏡が川に落ちてしまって、慌ててスペアの眼鏡を車に取りに行って、水中を探しました。


道ゆく人が自殺だと思ったらしく、「大丈夫ですかー?」って何度も声をかけられたりして。カメラも何度も壊れて、すでに5台目ですね。

和泉 撮影した後に、加工や修正もするんですか?

梅田 基本的には、トリミング以外はしません。写真について専門的に学んだわけではないので、修正する技術もないですし。現場の一発勝負ですね。

見てクスッと笑えるわかりやすい作品を作りたい

和泉 そもそもどうして、こういった活動を始めたんでしょう? きっかけがあったんですか?

梅田 ええ。以前、一度会社を退職して、スーツを着ることがなくなった時期があり、兄貴の結納の食事会で久しぶりにスーツに袖を通したら、結構嬉しかったんですよね。それで昼過ぎに家に戻ってから、そのままスーツ姿で釣りに行きました。

和泉 え? スーツのままですか?

梅田 はい。そうしたら、割と立派なブラックバスが釣れて、道ゆく人に記念写真を撮ってもらったんですよ。後でその写真を見た時に、「スーツ着て釣りって、馬鹿だなー。でもこの違和感、結構面白いな」って思ったんです。

和泉 この最初の一枚から、ストーリーが始まったんですね。

梅田 そうです。「人が普段スーツを着てしないようなことをする」というコンセプトが、ここでできあがりました。

和泉 なるほど。それをどう展開していったんですか?

梅田 基本コンセプトに、いろんな要素を足していく、というのが基本的な考え方です。日本だとまず四季があって、季節の行事がありますよね。それと組み合わせて、写真に撮った時に違和感が最大になることをします。何かしらフォーマットを作ってしまえば、そのルールの中で発想することができますね。それで、作品を作って試行錯誤をしながら、クオリティを上げていきました。

和泉 誰が見ても楽しめたりクスッと笑える、わかりやすい作品ですよね。

梅田 それは心掛けてます。わかる人だけがわかる、現代アートのような作品はあんまり好きじゃなくて。見て笑ってもらえたらそれでいいし、「こんな馬鹿なことやってる人に比べたら、自分はちょっとはマシかも」って思ってもらえたら本望ですね。

私の一冊

天久聖一、タナカカツキ 「バカドリル」

僕の発想の源泉です。この本に出てくる「野生のホステス」が一時期頭から離れず、「野生のサラリーマン」を思いつきました。万人におすすめというよりも、若いうちに見て、早めに卒業した方がいい作品ですね(笑)。

別冊太陽「中島潔 いのちと風のものがたり」

日本画家の中島潔さんを特集した大判の雑誌です。9月中旬まで、佐賀の県立美術館で展覧会もやっているので、ぜひ観てみてください。

村上春樹「ノルウェイの森」

たぶん、僕が初めて読んだ〝文学〟らしい文学です。最初はバッドエンドだと感じたんですが、最近読み直したら結末の印象が違って。自分の成長に伴って読後感が変わるのは、面白いですね。

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