2015.09.08(火)
食と地域と人をつなぐゲストハウス『Tanga Table』の事業を統括する遠矢弘毅さんと、これから現場を切り盛りすることになる“番頭”の西方俊宏さん。オープン準備に追われる日々のなかで見えてきた、この街の魅力、ゲストハウスとして大事にしたいこと、そしてTanga Tableが地域に与える可能性について、ふたりに話をうかがった。
街の新しい魅力は宿の名物番頭
『Tanga Table』で若き番頭を務めるのは、全国でも有数の温泉地、熊本県の黒川温泉の旅館で仲居として働いていたという西方俊宏さん。実は、北九州市のご出身で、小倉は高校生まで過ごしたまさに地元。「本当は、北九州市には戻ってくる気はなかったんです。
福岡市のほうが都会で面白いものもたくさんあるし、高校生の僕には地元は何だかつまらない場所に思えたから」。大学卒業後温泉旅館で勤務しながら、3年経ったら次の土地に行こうと考えていた西方さん。次は何をしようとかと眺めるのが日課になっていた求人サイトで面白そうな会社として北九州家守舎をチェックしていた。そして、ある日、その家守舎が、Tanga Tableのスタッフを募集していることを知り、偶然というべきか必然というべきか、帰ってくる予定のなかった故郷で新しいスタートを切ることになった。
なんと、自分ではゲストハウスに泊まったことはないという西方さん。「興味はあったんですが、物音がしたらすぐ眼が覚めるタイプなので…。繊細なんです(笑)」。だからこそ、初めての方でも安心して気軽に泊まれるゲストハウスにしていきたいそう。
小倉に戻って3ヶ月、昔は気づかなかった小倉の魅力を発見する日々だという。「旦過市場では、店のおばちゃんがまるで知り合いかのように話しかけてくるんです。あるときは、魚屋さんにタイラギを買いに行ったはずなのに、つい母親の誕生日プレゼントに、ってイサキを一尾買うことになったこともあって。昔ながらの風情というか、人情味が感じられる場所です。そういうのがやっぱりいい」。何もないと思い込んでいた地元だけど、今では毎日世界が広がっていくのが嬉しくて、と声をはずませた。 かわいいと形容したくなる顔立ちとやわらかい雰囲気で、いかにもおばちゃん方に好かれそうな西方さん。そのくせ、丁寧でしっかりとした話ぶりには、番頭としての頼もしさも感じる。名物番頭として、この街の魅力のひとつになりそうだ。
魚、野菜、肉、乾物、今となっては貴重なクジラ肉専門店まで、食料品ならなんでも揃う。とにかくどれも安くて新鮮。市場のあちこちで店主とお客さんの会話が飛び交っている。
旦過市場を味わう
旦過市場で手に入る小倉のおいしい食材こそ、Tanga Tableに滞在する醍醐味のひとつ。宿泊者以外も利用できるダイニングでは、メニュー開発担当の寺脇さんが実際に旦過市場で探してきた、北九州市ならではの食材をはじめとする鮮度や品質を大事にした無添加調理の食事が楽しめる。宿泊者用の共同キッチンには、旦過市場で手に入る素材を使ったレシピも設置する予定だから、アイデアと食材を持ち寄ったポットラックパーティーという手もある。旅先での忘れられない出来事や体験と一緒に、“あの時にあんな話をしながら食べたあの味”を、いつかきっと懐かしく思い出すだろう。
ダイニングで提供するメニューの試作の数々。小倉の郷土料理であるイワシめんたいや、中東料理のハムスのオープンサンドなど、寺脇さんが旦過市場で選んできた食材を使ったメニューを考案中。旅先の市場で食事をするような、にぎやかで多国籍なダイニングをイメージしているそうで、実際のメニューはグランドオープン時に公開されるそう。
こちらはTanga Tableの仕上げワークショップ期間中に参加者にふるまわれた、寺脇さん特製の朝ごはん。
ゲストハウス初心者も泊まりたくなる宿
これまでゲストハウスに宿泊したことがない女性でも、泊まりたいと思ってもらえる宿、というのもTanga Tableの重要なテーマのひとつ。「せまい」、「他人と同じ部屋は嫌だ」など、マイナスなイメージを持つ人は少なくないのではないか。ゲストハウスに宿泊することを、ごく自然に選択してもらうには、実は細やかな配慮が必要なのだ。
「Tanga Tableのことを話すと、面白そうっていう反応は多いけど、実際に泊まるのはホテルのほうがいいという女性が少なくないんです。でも、そこにはニーズがないと考えるのではなく、敬遠される要素を払拭していけばいいんだと考えました」と、遠矢さん。気軽に人が集って、交流が生まれる場所にしたいからこそ、宿としての空間づくりには気を配った。例えば、ほどよいプライバシーが保たれる設計のドミトリーや、最高の眠りを演出してくれそうな高品質の寝具など。できたばかりの部屋からは、旅行者目線の工夫が端々に感じられる。 居心地のよい空間と、土地の魅力が実感できる「泊まってみたい」と思わせるコンテンツが組み合わさり、一味もふた味も新鮮な魅力を放ちはじめた『Tanga Table』。知れば知るほどこの宿の未来にワクワクしてしまう。
Tanga Tableプロジェクトの全体総括と運営を担当する遠矢さんは、家守舎の共同代表でありながら、自身も飲食店を経営している。経営者の視点から、資金調達や事業計画などプロジェクトの屋台骨ともいえる部分を管理している。
ベッドの入り口を上下で交互に配置することで、自分のベッドのカーテンをあけても、隣の様子が見えないよう目隠しになっている。ドミトリーでも、自分のプライバシーはきちんと守れるよう配慮されている。
いきなりドミトリーは…という人には、1人〜4人で宿泊できる個室も用意されている。ちなみに、ベッドマットレスはドミトリーも個室もすべて高品質の寝具で知られる『シモンズ』というこだわり。(和室は除く)ゲストハウスで高級マットレスに寝られるなんて、かなりうれしい予想外!
旦過市場と魚町商店街をつなぐ交差点に面した和室。
窓から見える豊かな自然の景色とも都会の高層ビル群とも違う景色に、「実は、地元の人にこそ見てほしいかもしれない」と西方さん。
個室ベッドルームからは、旦過市場の店々の屋根が繋がる向こうにモノレールの駅や小倉の街並みが広がる。新しいものと古いものが共存する、ふしぎな情緒あふれる眺めだ。
人が出会い、次の何かが始まる場所に
宿泊施設を利用するというよりも、顔の広い友人の家に泊まりに行くような気軽さで、誰かと知り会ってくるという方が、感覚としては近いのかもしれない。そうしたTanga Tableならではの交流体験が、この場所のキーワードになっていくと西方さんは言う。「何か始めたいと思っている人がTanga Tableにやってきて、それいいね!やっちゃおうよって背中を押されることもあるかもしれない。ダイニングに食事に来た地元の人や旦過市場の人、いろんな出会いの可能性があって、お互いに違う視点を持ち寄ることで、新しい取り組みが起こるような場にできれば」。ゲストハウスという枠にとどまらない、地域の社交場としての役割も担っていくとすれば、新しい刺激を求めて地元の人々も足を運ぶにちがいない。
スタッフと話し合いながらオペレーションを考えていく。「こちらが一方的に指示するのではなく、スタッフみんなで考えてアイデアを出し合いながら、より良い形にしていきたい」と、西方さん。人と人、人と地域を繋げ、新しいものを生み出す場にしたいというTanga Tableのコンセプトにも通じる。
遠矢さんが期待するのは、この街が魅力あふれる地域として目覚めること。
「たとえばTanga Tableができたことで、周辺のお店が外国人観光客向けに英語メニューを用意したり、じゃあ旅行者向けのカフェ作ろうってなったり、波及効果で街が少しずつ変化していくかもしれない。そうこうしているうちに、新しいゲストハウスができて、街の価値が高まっていく。そうするともっと若い人たちにも勢いが出て、学生時代に仲間同士で始めたことがきっかけで会社を立ち上げました、ってなっていくとおもしろいよね」と、Tanga Tableに訪れる人々や出会いが、この地域にもたらす可能性を語る。
おいしいものを食べ、楽しい話をしながらテーブルを囲む。ごくごくシンプルなことではあるけれど、それは誰しもに共通する、心と体を満たす喜びだ。その気持ちの共有の先に、次に繋がる何かがあるとしたら…。「話すとき、食べるとき、皆が集まるところにはテーブルがあるから」と名付けられた『Tanga Table』は、訪れる人々の旅をより味わい深く、この街をより豊かな場所に変えていくだろう。
(文・写真 コウモトアツコ)
※紹介した写真の一部はTanga Tableのスタッフさまよりご提供いただきました
Tanga Table データ
〒802-0077 福岡県北九州市小倉北区馬借1丁目5-25 ホラヤビル4F
小倉駅より徒歩15分
モノレール旦過駅より徒歩5分
宿泊施設
ベッド数:67(男性専用ドミトリー1部屋、女性専用ドミトリー1部屋、個室(1名〜4名利用)3部屋、和室ドミトリー(5名まで宿泊可)2部屋)
バス、トイレ、キッチンは共同利用
飲食施設
ダイニング:30席
営業時間:07:00 – 24:00 不定休
そのほか詳細はTanga Table WEBにて
http://www.tangatable.jp/