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これからの旅がつなぐもの ゲストハウスがもたらす旅人と地域の交わりが、街を変えていく〜前編〜

これからの旅がつなぐもの ゲストハウスがもたらす旅人と地域の交わりが、街を変えていく〜前編〜

2015.09.08(火)

旅は誰のものだろう? その土地のおいしいものが集まるテーブルを、旅人も街で暮らす人も、会話をしながら共にかこむ。そんな交わりは、旅人にとっても、その地域にとっても、新しい可能性のはじまりになるかもしれない。ワクワクする期待感に満ちた場所、そんな人と地域をつなぐ、ゲストハウスとカフェの複合施設『Tanga Table』が、2015年9月11日に北九州市・小倉にオープンする。街の中心部にありながら眠っていた空きスペースが、街に新しい流れや交流をつくり出す場所に生まれ変わる。


Tanga Tableが入居する旦過市場のそばの商業施設。こんなところにゲストハウスがあるなんて、外観からは想像できないかも。

眠っていた商業施設をリノベーション

JR小倉駅からほど近く、長いアーケードのある魚町商店街をぬけると、あらわれるのは、昔ながらの八百屋や鮮魚店、食料品店が立ち並ぶ旦過市場だ。ゲストハウスとカフェの複合施設『Tanga Table』は、この市場のすぐそばを流れる川をはさんだ向かい側、商業ビルの5階にある。現在、全国で最も人口減少と高齢化が進む政令都市である北九州市。街の衰退や商業地の変遷の影響で、一番の繁華街である小倉中心部にも空きビルやテナントが目立つが、このビルも、空きスペースのまま眠っている場所のひとつだった。


プロの料理人から地元の主婦まで、小倉の人々に愛され続けている昔ながらの食料品専門の市場である旦過市場。小さな飲食店が建ち並ぶ新旦過飲食街も隣接しており、まるでタイムスリップしたかのよう街並みが魅力だ。右手に見えるスーパー丸和は、日本初(!)の24時間営業スーパー。

Tanga Tableの構想が持ち上がったのは、今から1年半まえのこと。不動産オーナーとともに魚町エリアの空き家や空き店舗をリノベーションによって魅力的な場所に再生させる、まちづくり事業会社『北九州家守舎』による「第6回北九州リノベーションスクール」でのコンペティションがきっかけだ。商業ビルの空きフロアのリノベーション案として大賞に選ばれたのは、東京都練馬区にあるシェアハウス、青豆ハウス等を手がけた青木純さんと東京R不動産ディレクターの吉里裕也さん率いるチームによる、ゲストハウスへの転換というアイデア。この案を大家さんも気に入り、事業化することになったのだ。


アイデアの発起人であり、また現在も東京からTanga Tableプロジェクトの主要メンバーとして参加している吉里さん(左)と青木さん(右)そして、Tanga Tableの重要なキーワード、“食”に関わるメニュー開発などを行う寺脇さん(中央)。もちろん今回のオープン準備にあわせて、3名も小倉入りした。

提案された物件は、小倉の台所である旦過市場のすぐそば。「せっかくおいしいものがたくさんそろう環境にあるのだから、食と旅を結びつけたゲストハウスにしよう!」と、Tanga Table構想が始動した。
ユニークなアイデアと発信力で、色々な人が周りに集まってくる青木純さん(メゾン青樹代表取締役)が広報を担当、ワクワクする空間づくりが得意な吉里裕也さん(SPEAC inc. 代表取締役)は設計デザイン、世界中の味を自分の足で食べ歩いてきた寺脇加恵さん(Globe Caravan代表)はメニューづくり、と東京からは、これまでもその独創的な活動が注目されてきた3名が参加。現地小倉からは、北九州家守舎代表取締役の嶋田洋平さん、同代表取締役の遠矢弘毅さんが全体の統括や資金運用などゲストハウスとしての経営面を管理し、若き番頭としてTanga Tableの現場を仕切る西方俊宏さんがオープン準備をすすめてきた。


ダイニングレストランとなるスペースは、まず壁の塗り直しから自分たちでやる。たくさんのアンティークの扉やフレームなど、壁面をデコレーションする材料も続々と運び込まれていた。

宿泊者用の共同キッチンスペースをリノベーション中。以前は雑貨量販店だったというこのフロアは、当時の床材がそのままになっている。一枚ずつ床材を剥がし、Tanga Tableの内装に合わせたものに作り直していく。

この日作業には、主要メンバーに加え、県内外のプロジェクト関係者や、リノベーションスクール卒業生の方々が集結。それぞれに得意なこと、できることを持ち寄って、空間をつくりあげていく。

小倉に足りていなかったのは、“おもしろい宿”

「小倉にゲストハウスなんて必要なの?」という地元の人の声もあった。しかし、遠矢さんは、この街には宿泊施設というコンテンツが空白なのでは、という思いがあったという。「他県から北九州に来るリノベーションスクールの講師や参加者から、決まって『どこかおもしろい宿はないの?』と尋ねられることが多かった。でも、この街には安い宿や快適なホテルはあっても、面白い宿はない。「僕らの中で、ゲストハウスというビジネスが成り立つ、成り立たないではなくて、作らなきゃいけないよねっていう思いが、潜在的にあったんです。それに、この街には北九州芸術劇場や映画ロケのスタッフなど、ビジネスホテルとは違う体験を宿泊施設に求めるような人々も定期的に訪れているから、需要はあるという感触はありました」。


壁面を塗装したら、今度はデコレーション。Tanga Tableに直接関わる人から、小倉魚町商店街や地元の方まで、いろんな人々が持ち寄った白いお皿をダイニングに飾ることにした。このアイデアは、「誰が思いついたというよりも、みんなで話しているうちに、それいいね!ってなって…」と、西方さんが教えてくれた。

ゲストハウス内の案内表示は、シンプルでわかりやすく、温かみがあるデザインで統一。ドミトリーの各ベッドに備え付けられたカーテンは、東京在住の作家に依頼して作成されたもので、1点ずつ布の組み合わせが異なる。内装や細かなデザインまで作りこまれているので、ゲストハウス内を歩き回るだけでも楽しい。

Tanga Tabeのロゴは、テーブルを模したもの。リノベーションスクールで青木さん、吉里さんらのもとで受講していたデザイナーに依頼して作成してもらったものだそう。「青木さんを通じて、色んな人が集まってきてTanga Tableづくりを手伝ってくれている」とのこと。4日間のスクールからはじまったプロジェクトは、多くの人を巻き込みながら発展し、進化してきた。

宿は寝るための場所と思われがちだけれど、実はその滞在時間だって旅の一部。では、おもしろい宿とはどんなものだろう? 遠矢さんは続ける。「ゲストハウスって、お金のない若い人たちのための場所で、観光地でないと成り立たないと思われがち。でも、そうじゃないんだよっていうのをやっていきたい。ビジネスとして成立させつつも、ちょっととんがっていこう、デザインに敏感な人たちがいいなって思うよう内装で、食もくっつけて…」。寝るために泊まるのではなく、そこに滞在し、時間を過ごすという体験に価値がある場所。Tanga Tableに泊まりたいから、北九州に立ち寄るという風に、ゲストハウス自体が観光資源になったらおもしろいのでは、と遠矢さんは考えている。
そんな場所がこの街に加わるとしたら、地元の人間としても何だか誇らしい。おもしろいところができたから遊びにおいで、と友人に宣伝する小倉っ子もきっと増えるはず、と想像と期待をふくらませながらさらに話を伺った。

(文・写真 コウモトアツコ)


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