コトバナ

「一人の選択」の集まりがよのなかをつくる。“惚れた”野菜と旅する八百屋〜前編〜

VOL.017 「一人の選択」の集まりがよのなかをつくる。“惚れた”野菜と旅する八百屋

2015.09.02(水)

ユニークな活動を通じてこれからの福岡や日本を面白くする方々を招いたトークイベント「コトバナ」。今回は、各地の農家さんを訪れて集めた新鮮な野菜を、熱い想いに乗せてお届けしている八百屋「GOOD’S8083」の富松さんがゲスト。惚れ込んだ野菜の魅力、八百屋を通して伝えたいメッセージを、たっぷりと語っていただきました。

モデレーター 山内泰
「自分たちの求めるものを自分たちでつくる」文化的な社会を目指して、コミュニティデザインや文化事業に取り組むNPO法人ドネルモの代表理事。
ゲスト GOOD'S 8083 富松祥太
1983年1月14日生まれ。服飾系の専門学校を卒業後、就職と旅を繰り返しながら約11年間の社会人生活を過ごし、2014年11月11日に、『GOOD’S 8083』の店主として独立。毎週水曜日に福岡市中央区薬院のB・B・B POTTERS前で旬の野菜を販売中。

愛のある物を愛のあるかたちで伝えたい

山内さん(以下、山内) 本日のゲストは、移動販売の八百屋さんを営む富松さんです。

富松さん(以下、富松) こんばんは。GOOD’S 8083(グッズやおやさん)の富松と申します。口べたで気が利いた面白いことも言えませんが、今日はどうぞよろしくお願いします。

山内 では自己紹介をお願いできますか。

富松 僕はこれまで複数回転職をしながら11年間サラリーマン生活をしてきました。いま32歳なのですが、昨年11月から福岡市薬院にある雑貨店 B・B・B POTTERS前の駐車場をお借りして、野菜を販売しています。

山内 富松さんも農業をされているんですか?

富松 いえ、そうではないんです。野菜を知るために、GOOD’S 8083で販売する野菜農家さんの畑仕事のお手伝いをしています。7月と8月は畑仕事が少ないので、プールの監視員のバイトをしていて、それでこんなに日焼けしてます(笑)

山内 そうなんですね。もともとは広告代理店にお勤めだったということですが、どのような経緯で八百屋さんになったのでしょうか?

富松 広告の仕事って、だんだんと「コトを伝える仕事」から、「モノを売る仕事」に移っていってしまったと思うんですよ。「こういうキャッチコピーだったら売れる」という発想から商品を作っているというか。例えば、「乾燥や保湿を気にしている女性は、コラーゲンというキーワードに反応するから、パッケージにコラーゲン配合と書きたい。そのために一滴コラーゲンを垂らしましょう」みたいな。

山内 なるほど。商品としていいものがあり、それを広告することで人を幸せにする、という本来のあり方が、いつのまにか多く売るための手段になってしまった。そこに違和感を感じた、と。

富松 はい。それで、もっと純粋に自分が大切だと思えるものづくりを、背景ごと、まっすぐ伝えたいと思うようになって。

山内 背景というのは?

富松 例えば、ファストファッションと呼ばれるような大量生産の洋服屋さんは、外国の労働者を安い賃金で働かせて作っているケースもあるわけですよね。モノが作られる背景には過酷な労働がある。そのことにちゃんと想いを馳せられるかどうかが大事だと思うんです。

山内 ええ。

富松 いまここにある三角形のペン(手元のペンを例に手にする富松さん)、これはたぶん、丸い形だと転がってしまって使いにくいから、三角形にしたんだと思います。それは、使う人に対する愛ですよね。その愛を感じて、愛がある物を自分で選ぶ、それが大切だと伝えていきたいなと。

山内 なるほどー。なぜ野菜、なぜ「食」だったんでしょう?

富松 着るものや住むところはなくても生きていけますけど、「食」はないと生きていけませんよね。食べることは毎日必ず訪れる行為なので、その中に作り手のことを考えるエッセンスを出せたら、いろんなものに広がっていく気がしたんです。

山内 お店の場所が『B・B・B POTTERS』さんの前の駐車スペースというになったのはどうしてなんですか?

富松 実は他の候補地があって、そこに向けて準備を進めていたんです。開店日も決めて、「オープンするよ!」っていろんな人にもお知らしてたんですが、オープンの直前、予定していた場所のオーナーさんと、本質的なところで価値観が合わないと感じるようなやりとりがありました。ここでお店をやると、見栄えや売上を重視して、やりたかったことから遠ざかってしまうかもしれない、と思ってしまって。急遽その場所でお店を始めるのを取りやめました。
気落ちしながらあてもなくトボトボ歩いていたら、ちょうど B・B・B POTTERSさんの前を通りかかったんですね。元々このお店が好きで、食器とか雑貨を買ったりしていたので、ここだ!と思ったんです。好きなお店の前で、好きな野菜を販売できたら最高やん、と。それで、自慢のにんじんを使ったサラダを作ってオーナーさんに食べてもらって、直談判しました。

山内 勢いのある、富松さんらしいエピソードですね!


椅子に座らずに熱い思いを力強くお話してくださる富松さん)

打合で訪問した際の富松さん。GOOD’S 8083の移動のパートナーはロゴがあしらわれたオリジナルカー。木箱や値札は富松さん自ら手作りしたもの。愛情が感じられる温かいお店です)

農家さんが野菜と向き合う想いを感じてほしい

山内 GOOD’S 8083ではどんな野菜を扱っているんですか?

富松 扱っているのは、久留米、小郡、糸島の農家さんの野菜で、種類は季節によってさまざまです。農家さんの人柄や愛情を感じて、惚れ込んだ野菜だけを扱っています。単に野菜を売るだけでなく、彼らがどんな想いで畑と向き合っているのかを伝えたいんで、生産者の顔や現地の様子をパネルで貼ったり、お客さんと話しながら説明したりしてます。

山内 トーク前の打合で、買い付けも販売する当日にやってらっしゃるとおっしゃってましたね。水曜日の1日のスケジュールはどんな感じなのでしょう?

富松 扱っている野菜はすべて自分で農家さんのもとに集荷しに行くので、朝4時前から集荷を始めます。店は11時から開けて、20時まで売っています。

山内 長い一日ですねぇ。

富松 でも農家さんの苦労に比べたら全然ですよ。例えば、最近はすごく暑いですよね。都会にいても暑いんですから、畑に一日いたら、冗談じゃなく死ぬんじゃないかというぐらい暑いんです。逆に、冬は手がかじかんで動きません。でも農家さんは毎日毎日畑に手を入れていて、その過程を経てようやく皆さんのもとに野菜が届くんです。
例えば、先日はにんじんを育てる手伝いをしてきたんですが、まず畑に8,000個の穴を作って、その穴に種を2粒ずつ手作業で植えていきます。

山内 それは大変な労力ですね。

富松 もう腰が上がらなくなっちゃいますね。それで、芽が出てきたら、ひとつ間引きします。その時いつも、畑で泣きそうになるんです。やっと芽を出したにんじんを、僕が間引きなんてする権利があるのかと、自問自答してしまって…。でもそうしないと育たないんで、仕方ないんですが。

山内 それほど苦労を肌で感じながら販売をされると、また伝え方も変わってきそうですね。

富松 大きく育ってくれたのを見たとき、「俺のしたことは間違ってなかった」とようやく自分を肯定できます。


「ひとりの選択の集まりがよのなかを作る」という富松さんの考えを言葉にしたスライド。広告など、言葉を使って気持ちを伝える仕事をしていただけに、とてもわかりやすい表現

収穫も手伝うのが富松さん流。「道具の使い方ひとつ、トラックの止め方ひとつ、毎度毎度怒られながら覚えていきました」

富松 ごぼうの場合は、土から抜いて日にさらしたらすぐに日焼けしてしまうんで、朝の暗いうちからなるべく手早く作業をしていきます。僕もすぐに日焼けしてしまうタイプなんで、なんだか他人とは思えなくて(笑)。

山内 (笑)。GOOD’S 8083で扱っているのは無農薬野菜がメインですか?

富松 厳密な意味での無農薬野菜だけではありません。無農薬なのか、有機農法なのか、自然農法なのかということにこだわるのではなく、自分の判断で良いもの、安心できるものを選んでいます。

山内 なるほど。

富松 「無農薬」というのも曖昧な言葉で、定められた農薬を使っていなければ「無農薬」と表示できるんですよ。でも、それで一切農薬を使っていないとは言い切れないんです。基準さえクリアできれば「無農薬」表示できるので、本来のオーガニック(本質的な)とはかけ離れてしまって、キャッチコピー的に「無農薬」という言葉が出回っている現状があります。

山内 なるほど。

富松 もちろん、適切に野菜を育てるためには必要な農薬もあるので、僕は農薬を使うこと自体を否定しているわけではないんですが。例えば福岡県の基準では、いちごを育てるのに約63回の農薬が使われているんですが、そういうことはあまり知られていません。奇跡と言われているぐらい難しい無農薬のいちごづくりに挑戦している久留米市のやました農園さんを、僕はとても応援しています。もし皆さんが、「完全無農薬のいちごしか食べない」という選択をしたら、いちごの流通は減るし高価になるかもしれませんが、完全無農薬のいちごを食べられる日が来るかもしれません。

山内 できるだけ自然の力で育つ野菜、という基準で、富松さん自身が畑に足を運んで農家さんと会話をして選ぶ野菜が、『GOOD’S 8083』を作っているんですね。


お客さま同士で感想を共有し合う歓談タイム。お隣同士で自然に会話が生まれます

私の一冊

パウロ・コエーリョ「アルケミスト 夢を旅した少年」

サーフィンや旅が好きな僕にと、兄がすすめてくれました。キラキラとした世界感で、ウキウキするような冒険の本です。言葉のエッセンスがたくさん詰まっていて、真理がちりばめられていると思います。

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