小値賀町担い手公社
“はおっ”と驚くほどおいしい!!
落花生100%、まじりっけなし。落花生そのものの味で勝負したピーナッツペースト。その名も『HAO(ハオ)』、方言であら!うわぁ、という感嘆の言葉で驚くほどおいしいという意味である。落花生の香ばしさと濃厚な味わい。粒のザラっとした食感も申し分なし。パンにつけるもよし、ケーキの生地に混ぜてもよし、料理の隠し味にも使えるという、なんとも贅沢な万能品である。
『HAO!ピーナッツペースト』は長崎県五島列島の北端に浮かぶ小さな島、小値賀島で作られている。「加工場へご案内します」と、商品を手がける小値賀町担い手公社の松山さんに連れられて向かったのは、本島と橋でつながる斑島の旧斑小学校跡。秋に収穫された一年分の落花生は、2回の乾燥を経て貯蔵庫へと保管される。その殻付き落花生を製品化に向けて少しずつ加工していくのだ。
まずは選別。殻つきとむき身用に手で選り分ける。さらに、むき身用の豆は煎りむらを防ぐために大きさごと4種に分別され、落花生のまま製品化するものと、ペーストに加工するものとに分かれていく。
選別後は煎りの工程だ。元体育用具倉庫らしき外の小屋からは、豆の香ばしい匂いが漂う。中では、大きな釜で火加減とにらめっこしながら豆を煎る吉永さんがいた。プロジェクトの立ち上げから関わっているというベテランで、自身も落花生を栽培する農家だ。 熱した窯に豆を入れて120度の温度を保ちながら30分でできあがり。煎りたての落花生からはぱちぱちぱちと美味しそうな音が鳴る。「本当は煎りたてより冷めてからが美味しいんやけどね」と言いながら、吉永さんが煎りたての豆をわけてくれた。甘—い! うん、これは食べはじめたら止まらない。誰かビール買ってきて〜と言いたくなる。人と知恵が交わり生まれる
「もともと落花生は、納島と大島という小値賀本島の属島の特産品として作られていたんです。島の高齢化で生産量が少なくなっていたので、特に納島の落花生は島外に流通することのない、幻の落花生と呼ばれていました」。そう教えてくれたのは小値賀町担い手公社の大賀さん。幻の落花生はテレビで紹介されたのをきっかけに、広く知られるようになる。美味しさは評判を呼び、落花生を求める声が高まっていったそうだ。相談を受けた小値賀町役場は、それならばと手立てを考えた。そして、小値賀本島でも2012年に「マメな島の豆プロジェクト」として、本格的な栽培が始まったのだ。その引き受け役として、栽培から加工までのほぼすべての工程を、小値賀町担い手公社が担うこととなったのだ。
人口2,800人の小値賀島は、2016年2月現在、46%が高齢者である。人口の減少も進み、落花生栽培が衰退してしまったように、島の産業が衰退し始めている。古くから鯨漁で栄え、外国との交流も盛んだった小値賀は、豊かな産業と営みが残っている。その島の暮らしを支えるために、小値賀町担い手公社が13年前に立ち上がったのだ。農業研修制度や景観を守るための耕作放棄地や遊休農地での農作物の栽培など、島に雇用を生み、あらたな経済活動を生み出している。10年前からはじまった、NPO法人 おぢかアイランドツーリズム協会による滞在型観光「小値賀アイランドツーリズム」の人気と重なり、小値賀の魅力はふたたび注目されつつある。
そんな担い手公社が手がけるプロジェクトに魅力を感じ、島外から移住する若者も増えているようだ。先ほどの吉永さんが煎った豆を、ペーストにして瓶詰めする最後の工程を担う小島さんと溝端さんも、地域おこし協力隊としてやってきた移住組だ。二人は時期は違うが、それぞれ東京と大阪でそれまで就いていた仕事を退職して、「島のためになることをしたい」とやってきたそうだ。
「最近注文が増えてきて、作業が追いつかなくなってきて」と小島さんは笑う。特産品開発の仕事に精をだす二人の表情は明るい。 ミキサーにかけたら、ひと瓶ずつお玉で充填していく。殺菌と密封のために湯煎して仕上げる。ラベルの洒落た落花生100%のピーナッツペーストは、なんとも手作り感溢れる工程で作られていた。島の人と外からやってきた人が共に汗を流し、知恵を出し合い、ようやく完成するのだ。島の“担い手”を育て、継いでいく
瓶詰されたピーナッツペーストは、ラベルを貼ってようやく完成だ。初めてピーナッツペーストをに手にとった時に「おしゃれなデザインだなあ」と感じたラベルは、触れると凹凸のある活版印刷だと分かる。
実は、HAO!シリーズの顔となるラベルは、島で唯一の活版印刷所『晋弘舎』が手がけている。担当したのは、4代目の横山桃子さんだ。「組むのはすごく苦労したんです」と、ラベルのデザインを活版で精巧に再現するために、ベテランの職人さんにアドバイスをもらいながら納品に辿りついたそうだ。手仕事ならではの温かく味わいのあるHAO!シリーズの“顔”が生まれた。
一般的には用いられることの少ない活版印刷だが、小値賀では町営船のフェリーの切符や役場の封筒など、昔から当たり前に島の文化として活版印刷が生き続けている。
「国産で無添加の落花生を求める方が増えてきて、小値賀の落花生は評判もよく特産品として定着しつつあります」と担い手公社の特産品推進部の総括リーダー田川さん。味の良さと安心して食べられる小値賀の落花生は、リピーターも多い。そんな世間の期待とはうらはらに、落花生の収穫量は限られているから、商品価値は高まる一方だ。「安売りはしたくありません。商品には自信がありますので、それでいいというお客さまに手にとっていただきたい」と、力を込めた。
ピーナッツペーストには島の食と文化、そしてそれを受け継ぐ人々の想いがたっぷりと詰まっている。