宗像地域創造ビジネスプロジェクト
イキのいい魚介に、アイデア豊富な新商品
福岡県の北西部に位置する宗像市。響灘と玄界灘の海域に接し、四塚連山や許斐山、新立山などの山々に囲まれた、海の幸山の幸の宝庫だ。そんな宗像市では、作り手たちが手を取り合い、特産物を使った新たなアイデアが次々に生まれている。地元への愛に溢れた宗像〝地産地消グルメ〟だ。
まず紹介したいのは、天然トラフグやヤリイカ、アジなど、多彩な漁獲を誇る鐘埼漁港で発足した「岬のね〜ちゃん」へ。ここ宗像では、毎朝日が昇る前に出かける漁師たちを影で支える女性たちを、親しみを込めて「ね〜ちゃん」と呼んでいる。そんな宗像漁協女性部のね〜ちゃん4人が、漁師町ならではの魚介料理を振る舞ってくれるのだ。
「岬のね〜ちゃん」のはじまりは、漁獲量の減少が止まらない鐘埼漁港の何か助けになればという、女性部でのアイデアが始まり。“港のおふくろの味”をテーマにメニューを開発、イベントで売り出したところ、大人から子どもまで幅広い年代が訪れるようになったという。
人気のイカコロッケをはじめとして、プリッと脂ののったアナゴの味噌汁やイカがゴロゴロ入った炊き込みご飯など、目移りしそうなメニューがずらり。食材は、漁師である夫や子どもが獲ってきた魚介。刺身でも食べられる新鮮な魚の身をふんだんに使って、4人のね〜ちゃんが一つ一つ手作りで仕込んだものだ。味付けには地元「マルヨシ醤油」の商品を使うなど、地産地消を心がけ、地元全体の活性化を図っているという。
味への探求は厳しくとも、現場では楽しく取り組むのが、岬のね〜ちゃん流。店頭では、常連さんが「新聞載っとったろ、買いに来たよ」「おいしかったよ」と声をかけるたびに、「ありがとうね」と朗らかな笑顔を返す。イベント出店では、ガスコンロのアクシデントでイカコロッケがなかなか揚がらない時にも、「すみませんね。失敗は成功の元やけん、この次は頑張ります」とご愛嬌。
厳しい荒波から戻って来た漁師達を癒してきた明るいね〜ちゃんの手料理は、心までじんわり温めてくれる。
漁師が命がけで挑む地島わかめ漁
次に紹介したいのが、地島わかめだ。神湊港から地島への連絡船に乗って15分ほど沖に進むと、真っ青な海の中で一箇所だけ白波が荒々しくうねっているのが見える。海底が山のように盛り上がり、その山肌にぶつかった水流が打ち上げられて絶えず波立っているのだ。このような場所は古くから「曽根」と呼ばれる。常に水が入れ替わるので清らかに澄み、盛り上がった部分には日光がふんだんに降り注ぐため、良質なわかめが採れるという。ただし、採る方にとっては荒波が絶えず牙をむく危険な場所でもある。地島のわかめ漁は、2人一組で小型のボートに乗って曽根へ向かい、近くに着いたら手漕ぎで曽根に上陸する。一人はボートを操縦し、一人は荒波に体をさらわれないようにわかめを刈る。漁師グループの代表で20年以上わかめ漁に携わってきた大江さん曰く「他の地区の漁師さんからは『ようこんな危なか場所に行くね』と驚かれます」。そんな過酷な漁で採られたわかめは、鮮やかなグリーンを損なわないよう、その日のうちに海水で茹でられ、塩蔵させる。丁寧な下処理がほどこされたわかめは、毎年皇室にも献上されるほど、上質の一級品だ。肉厚でしっかりとした歯ごたえがある地島わかめは、一度食べたら他のは食べられなくなるというほど。
現在は、わかめの生育環境保護と質を維持させるため、漁は寒さが和らぐ3月〜4月のほんのわずかな期間だけに絞って解禁される。少しでも育ちすぎたものは採らないなど、厳しい品質管理のもと、地島の特産品として、広く購入いただけるよう、ブランド化に取り組んでいる。
保存が効く塩蔵わかめは、この春商品化され、販売がスタートするそうだ。今回はその塩漬けわかめが登場する。
人好きな専務のアイデアと地元愛が商品化
岬のねーちゃんも御用達、創業1948年、宗像の食卓を支えてきた「マルヨシ醤油」がある。木樽で仕込む伝統的な醤油と味噌を作る一方で、チャレンジ精神旺盛な専務の吉村さんによる町おこしへの取り組みが様々な新商品を生み出している。福岡県内の複数の大学から募集した学生と一緒になって取り組んだ「ITABAJI(イタリアンバジルしょうゆ)」は、大豆栽培から、商品企画、販売まで全ての行程が共同作業だ。実は、この試みは、宗像市が実施する「大豆プロジェクト」として、遊休農地を利用し、収穫した大豆で作る商品での活性化を目的にスタートしたもの。ここで、手を挙げたのが「マルヨシ醤油」だった。自社の前の畑に大豆の種をまき、1年かけて大豆を収穫。「イタリア風の醤油があったらおもしろいのでは」という学生のアイデアから、バジルやワインをブレンドし、何度もテイスティングして、ようやくワイン仕立てのイタリアンな「ITABAJI(イタリアンバジルしょうゆ)」が完成する。パッケージや商品ポップのデザイン、呼び込みや試食の調理なども、ノウハウを指導しながら学生を見守ってきた。
このプロジェクトに参加した佐賀大学の立石翔馬さんは「初めてのことばかりで、大学の中では絶対出来ない経験をさせてもらいました。支えてくださったマルヨシ醤油さんをはじめヒトの優しさを感じると共に、自分に出来る事を常に考え、将来を見直すキッカケにもなります」と振り返る。
最初は地元のためと引き受けた吉村さんも、大豆プロジェクトの中で成長する若者を見つめるうちに刺激を受けたそう。「学生の柔軟な発想と熱意にこちらも背中を押されました。今後もいろいろな商品を一緒に開発していきたいですね」とラブコールを送る。
宗像の未来と学生の夢を育んだ自信作は、イベントでも1日で完売するほどの人気商品に成長している。
もう1品、マルヨシ醤油が生みだした商品を紹介したい。福岡県のブランドイチゴ「あまおう」を使った「あまおう甘酒」だ。女性を中心に支持されていてリピーターも多いそう。商品化するきかっけは、近所のあまおう農家で規格外のイチゴを処理しきれずに廃棄してしまう場面を目の当たりにした事。せっかく作ったイチゴは味が良くても形が悪ければ市場には出せない。ジャムなどに加工しても食べきれない量になってしまったと残念そうに語る農家さんの姿を見て、立ち上がった吉村さん。マルヨシ醤油の麹をベースに子どもも飲めるノンアルコールの「あまおうの甘酒」を開発したのだ。
フレッシュなあまおうの甘酸っぱい果肉とまろやかでコクのある麹が溶け合い、じんわりと沁みるような優しい味わい。生のあまおうで仕込むため、時期により果肉の色が変わるのも、その新鮮さを表している。
「ITABAJI」も「あまおう甘酒」も地元の人への思いやりがきっかけとなり誕生した商品。助け合いながら宗像を盛り上げたいという熱い思いが、ヒット商品を生み出した一番の秘訣かもしれない。