株式会社ドリームファーマーズ
「市場規格外」から生まれた干しぶどう
口に入れた瞬間は無味。一度噛むと、しっかりとした果肉の食感に驚かされる。そして噛めば噛むほどにぶどうの芳醇な香りと自然な甘みが口いっぱいに広がるのは、ドリームファーマーズが作る全国でも珍しい国産の干しぶどうだ。
使用するのは、土づくりから丁寧に栽培されている大粒のぶどう。栽培の過程でどうしても生まれてしまうのが、味は文句なしだけど色付きの悪いものや大きさが不揃いの「市場規格外」。それをどうにかできないかと試行錯誤して誕生した。
砂糖や保存料などの添加物をいっさい使用せず、加工は乾燥のみのシンプルな工程。数日間丁寧に乾燥させることで、ぶどうの旨みがぎゅっと凝縮される。大粒の「種なしピオーネ」、高級ぶどうの「シャインマスカット」、甘酸っぱさが若かりし日の思い出のような「種あり巨峰 青春編」など、その種類も豊富かつネーミングもユニーク。また大分県産の完熟みかんをひとつひとつ手で皮むきし、房を分けて乾燥させた「濃縮蜜柑」も人気の品で、ドライフルーツの本場アメリカでも販売されている。
地元の農産物を使ったドライフルーツをさらに発展させたいと、現在干しぶどうを使った焼肉のタレやラムレーズンなども試作中。その魅力をつねに模索中だ。
農家も元気にしたい
大分県宇佐市安心院(あじむ)町でドライフルーツの加工に取り組むのは、株式会社ドリームファーマーズ。運営メンバーは、それぞれぶどう農家を営む3人の若者たちだ。農業の担い手が不足するなかで、どのようにこれからの農業を切り拓いていくのか――。そんな課題に直面した全国の青年が集まり精力的に活動を展開する「全国農業青年クラブ連絡協議会」、通称「4H」で知り合ってから15年余り。互いに誰よりも信頼を寄せあう仲だ。
「これから先の農業、作って売るだけでは限界がある」と感じていた代表の宮田宗武さんは、農産物を加工して販売できる組織を立ち上げようと地元の仲間に呼びかけ、2012年に株式会社ドリームファーマーズを設立。「農家のチカラで農村イノベーション」をキーワードに、加工品の開発に取り組んでいる。
とはいえ、3人にとって干しぶどうづくりはゼロからの経験。加工技術を学ぶため、日本有数のぶどう産地である長野県などに足を運ぶ一方、衛生管理面や事業経営の仕組みなど新たな壁にもぶつかりながら、自分たちのビジネスモデルを確立した。
取り組みの根底にあるのは、「食べる人だけではなく、農家も元気にしたい」という想い。ぶどう農家として誰よりも、作り手の苦労や生産物に込める愛情を知っているからこそ、生産者のこだわりをきちんと理解してくれる販路の開拓も、ドリームファーマーズが担う大きな役割だ。
干しぶどう、クラフトビール、バー… そして次は?
ドリームファーマーズは、四方を連山に囲まれた盆地のまち、大分県宇佐市安心院町にある。寒暖差を生み出すその地形や気候がぶどうの栽培に適していることから、昭和40年からぶどうの産地育成が行われてきた。近年では「農家民泊」で知られるグリーンツーリズムの里としても注目を集めている。とはいえ安心院もまた全国の例に漏れず、後継者不足や高齢化における労働力低下など、決して楽観視できない農家の現状もある。
そのような中にありながらも、ドリームファーマーズの3人は「新しいことをどんどんやりたい」と、無邪気な笑顔を隠さない。一昨年からは1.3ヘクタールの農地でぶどうの自社栽培もはじめた。その品種の数、実に13種類。「次は米の栽培もはじめたいし、ビール作ってみたいですね」と工房長の園田直彦さんが言うと、副社長の安部元昭さんも「バー開いちゃいます? このあたりに落ち着ける店があったらいいと思うんですよ」と即座に反応。続いてリーダーの宮田さんが「いいねえ、やろうか。米作ったら甘酒もできる」と、夢のような話が次々にふくらみ、あっという間に現実味を帯びてくる。
農業を中心に楽しいと思ったことをとことん追いかける彼らは、まさに「夢を追いかける現代の農夫」そのもの。この姿こそが“新しい農業のありかた”なのかもしれない。