(株)山下工芸
放置竹林を活用して、毎日使えるお箸を作る
天然素材特有の柔らかな風合いを持ちながら、どこか凛とした佇まい。料理家やフードスタイリストのファンも多い、天然素材メーカー・山下工芸の品々だ。竹細工で知られる大分県別府市を拠点に、東京や中国、イギリスにも展示スペースを持ち、約7,500点に及ぶ商品を企画販売している。主力商品は、竹のお箸。山下工芸が約10年前から積極的に取り組んでいる「間伐材・放置竹林グリーンプロジェクト」から生まれた一品だ。
放置竹林はいま、全国で社会問題になっている。竹は生育が早いため、人の手が入らなくなった里山では竹林の管理が間に合わず、生態系破壊や土砂災害の原因になる。特に温暖・湿潤で繁殖の早い九州では、喫緊の課題だ。そこに目を付けた山下謙一郎社長が、竹を素材としたテーブルウェアを発案し、地元の職人と試行錯誤しながら作り上げていった。
「継続できる事業の中で社会的課題を解決していくことが、本来の社会貢献だと思うとります」と山下社長。語り口はやさしいが、奥から強い意志を覗かせる。
1本1本の箸の両を職人さんが丁寧に研ぎ出しているので、左右どちらの面を合わせてもお箸がぴたりと揃う。確かな品質が料亭などでも重宝され、ピーク時には年間約13万膳を出荷。2015年は約10万膳の出荷だったが、それは人気が落ちたのではなく、商品の耐久性が向上して、買い替えの需要が下がったから。
このお箸、天然素材といっても、割り箸のように使い捨てではない。ガラス化コーティング加工(TSC加工)を施し、撥水性や耐久性を高めているのだ。素材の風合いや香りを残し、処理時の環境負荷を少なくしながら、衛生的に使用できる。自社の利益に反しても、長く使える良いものを作りたい、そんな山下工芸のものづくりの姿勢がかいま見える。
いつでも視野は世界規模
もともと山下工芸は茶道具や花篭を扱う会社だった。二代目となった若き現社長は、90年代半ばに訪れた日本食ブームをチャンスと見た。商品企画をお箸や器へと広げていく。
「今の時代は、伝統を守り続けるだけでは、守りきれません。今のライフスタイルに合った商品を、こちらから提案せんといかんのですよ」。
1998年から2004年まで、山下謙一郎社長はドイツを中心としたヨーロッパでの販路拡大に励み、海外との貿易を学ぶ。結果は大赤字だったが、転んでもタダでは起きない山下社長、この失敗を生かせとばかりに、2005年には中国に進出。現地の竹製品工場を買収し、杭州にオフィスを開設して、中国とのビジネスラインを確立した。現在は、素材の調達から製造販売までを日本で行うものから、中国から輸入するもの、さらに中国国内で売るガラスや陶器、厨房器具といった商品まで、求められる場所に応じた多用な商品展開を行っている。
「メイド・イン・ジャパンや地元産にこだわるのも素晴らしいですが、私たちはもっとアジア全体として市場を捉えています。求められるものを作り、嘘偽りなくお客様に伝えることが大事」と山下社長。
国内の製造品も海外から輸入した品も、出荷の前には厳しい検品が待っている。お箸ひとつとっても、長さの差異、乾燥による反り、異物の付着、塗装のムラなど、チェック項目は多岐にわたる。品質管理に厳しいことで有名な、全国展開のブランド「無印良品」のOEM生産も行っていたというから、その品質は折り紙付きだ。
キーワードは「環境」と「社会貢献」
検品作業を委託しているのは、別府市の社会福祉法人「太陽の家」。すでに10年のパートナーシップになるという。山下工芸の商品づくりは、障害者の就業支援にも役立っている。山下工芸の社会貢献は、いつも具体的でわかりやすい。
自身も商品のファンだというWEB担当の尾ノ上芙美さんは、「毎日の生活に取り入れられる日用品を通じて、社会や環境の問題を考えていけたら、いいですよね」と語る。
2012年に間伐材・放置竹林グリーンプロジェクトの商品である竹箸5種類がエコマークを取得し、2015年には、間伐材・放置竹林グリーンプロジェクトの一連の活動が、エコマークアワード2015で評価され銅賞を受賞した。尾ノ上さんはこれからさらに、ユーザーに一番近い目線で、生活雑貨などのラインナップを拡大していくと語ってくれた。
一方、山下社長のスケールはどこまでも大きい。今日は中国、明日はヨーロッパと世界を飛び回って、次の時代のニーズを見定めている。現在は、北九州大学と連携し、竹の炭を有効活用した商品を試験中だとか。成功しても決して守りに入らず、大胆な展開で社会に貢献する山下工芸。その存在感は、今後ますます大きくなっていくに違いない。