やました農園土づくり奮闘記

『今年は、いちご作りません!』

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『今年は、いちご作りません!』

ここ数日、ずっと気になっていた天気予報。「クモリトキドキアメ」。「アメトキドキクモリ」…。100%すっきりと〝晴れ〟の日がなくて、山下さんご夫婦とお会いする日も、結局早朝から雨がちらほらと。そうなんです。雨天の場合、状況によっては農家のみなさんは農作業ができない(つまり、作業中の撮影ができない)。連載企画・初日の取材なのに残念だけれども、これから1年近くのお付き合いになるのだからこんな日があっていいのかもしれない。部屋のなかで愛猫と戯れながらまったりとお話を伺う〝晴耕雨読〟のはじまり、はじまり。

微生物、勉強中です!

「急遽、家での取材になったんで、大慌てで片付けました〜!」と出迎えてくださった山下さんご夫妻。玄関に足を踏み入れた瞬間から、さっそく土作りの取り組みが見えてきました。籾殻が入った透明なトレーが並び、横には混ぜ合わせた素材と分量が書かれたメモがずらり。どうやら、土作りに必要な素材の研究をしているようです。

「土に混ぜる籾殻がどうやったら早く柔らかくなるかを実験しているんだよ。殻が柔らかくなると微生物が食べやすくなって、良い土作りに欠かせない発酵が進むからね」とマナブさん。きました、きました。さっそくおふたりが目指す〝良い土作り〟に欠かせないワードがちらほらと。『微生物』に『発酵』…。そもそも、土作りから始めようと思ったきっかけをこんなふうに話されていたのです。「うちの場合、農薬を使わないで一番キツかったのはムシの害。真冬でもハウスにはムシがいて、温かい季節になると目を塞ぎたくなるほど!あれこれ手を尽くしても効果はほとんど出ませんでした。途方に暮れていた時、微生物の力で育てた元気野菜作りを広めている『大地といのちの会』の吉田俊道さんの話を聞いて驚きました。「健全な土には健康な野菜が育つ。健康な野菜には、ムシは寄ってこない」って言うんです。ガビーンですよ!」とマナミさん。微生物によって植物に有益な成分が生み出されていると植物は元気に育つ。そして、植物が元気だとなぜかムシが来ない。今まで〝おいしい野菜は、ムシも好き〟だと思っていたのに、どうしてだろう―?そんな衝撃的な事実を目の当たりにしたマナミさんは、それまで以上にぐっと土作りに意識が向き、とにかく、見聞きした情報をマナブさんに伝えます。

「〝健全ないちごを育てるには健全な土!〟とか〝大事なのは微生物だ!〟…とか、うちのカミさんは、盛り上がって言うわけですよ。では、健全な土を作るってどんな方法があるんだろうと僕は頭を悩ませていました」と去年の様子を振り返るマナブさん。目指すのは微生物が元気に暮らせる土。だけど、そのための方法が定まらない。そうこうしているうちに夏が終わり、いよいよいちごを植える季節に。とにかく植えるか、いや、このまま植えても今までの二の舞になってしまう…。9月の終わり、もう後がない時期になり、二人は決心したそうです。「今年は、植えずに土作りを学ぼう」と。収穫ができないとお金にもならない、けれども、目指す農業に近づくための第一歩。「決して、かっこいいものではないんです。他に選択肢はなかったんで」と〝旗ふり役〟のマナミさん。「お前はいつも簡単に言うなぁ!調べるのはいつもこっちやけどー!(笑)」と突っ込みを入れる〝実行部隊〟のマナブさん。こんなふうに、やました農園の仕事は進んでいくのです。

地層をノコギリで切る!?

「この前の作業をビデオに撮ったから見る?土作りの第一段階として、まず地面を掘るんだよ。掘るというより、切るに近いかな。地層をゴリゴリ切っていく感じ」とマナブさん。「本来、土作りは何年もかかるもの。微生物が少しずつ土の下の方まで耕してくれて、ふかふかの土を作ってくれる。だけど、実際はそんなに時間はかけられない。ちょっと乱暴だけど、土に溝を掘って水はけを良くし、微生物にとって居心地の良い環境を作るんだ」。これは、農薬も肥料も使わない炭素循環農法で栽培している方々に教わったやり方なのだとか。パソコンの画面には、トレンチャーという溝掘りができる農機具を使って、土壌の深部から掘り起こすマナブさんの姿。動画を見せていただくと「ガガガガ…!」と激しい音が聞こえてきます。まるで、ノコギリで地面を切断しているようです。

トレンチャーで硬盤層を割る マナミさん撮影

見せていただいた作業の一部

(A)今回使っているのは、溝を掘るトレンチャーという機械。宮崎の知り合いが貸してくださったそう。愛称『ガリクソン君』。
(B)地層60〜80cm程度を掘り終えたところ。機械のパワーと地面のパワーがぶつかり、結構な力仕事になるそうです。
(C)断面の様子。「ここは特に粘土質で硬かった。バリバリ筋肉痛〜」とマナブさん。

〝菌ちゃん〟に快適に暮らしてもらおう!

午後になるとお天道様はすっかりご機嫌。「そうそう、この前から仕込んでいる籾殻の肥料の温度が今朝には55℃まで上がったんだよ!これは発酵が順調に進んでいる証拠。〝菌ちゃん〟がしっかり働いてくれているよ!見に行こう!」と肥料作りが予定通りに成功して、子どものようにはしゃぐマナブさん。畑に足を運ぶと肥料として仕込んだ籾殻が一面に広がり、上を歩くとふっかふか。手で穴を掘ると湯気が立ち上り、糠床のような酸味のきいた香りが漂います。素人ながらにも「いい肥料ができている!」と期待を膨らませた瞬間。おふたりが理想とする土作りは、まだ始まったばかり。続きは、また次回のお話で。

取材・撮影・文/ミキナオコ

【予告】3月のイチゴ(15)の日は…?!やました農園の〝カミさん〟・山下マナミの『農家の裏バナ(仮)』をアップ予定!

「今年は、いちごを売らないでどうやって生活するの?」。「マナブさんって、どんな人?」。「土作り、実は順調なの?どうなの?」…。といった、やました農園の裏事情を山下マナミさんがさくっと紹介します!奇数月の連載として、いよいよスタート!


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