日々のてまひまの日々

福祉施設のモノ 買いたいですか?

「日々のてまひま」の目的のひとつは、「福祉施設の作る商品」を一人でも多くの人に届けること。そもそも、この「福祉施設の商品」って、みなさん買われたことありますか?実は、購入経験者って思ったよりも少ないようなのです。私たちと福祉施設の商品の間にある障害とは?一般生活者が、障害者や福祉施設でつくられる商品に対しどのように感じ関わっているのか…その現状を探ってみました。

2人に1人は、障害者のことを気にかけている

(コトノネ調査室より)

【表A】Q.障害者のことを身近に感じて考えたことがありますか?

障害者のはたらきを応援する季刊誌『コトノネ』調査室によると、一般生活者1500人のうち57.8%の人が「障害者のことを身近に感じて、考えたことがある」と回答【表A】。過半数が障害者に対して何らかの意識を向けていることが分かりました。この人たちを「関心層」、残り42.2%の人たちを「無関心層」の2つのタイプに分けて、障害者の作る商品への関わり方をみていきます。

関心はあるけど、買ったことはない?

【表B】Q.障害者施設の商品購入経験は?

「関心層」「無関心層」それぞれのタイプ別に、福祉施設でつくられた商品の購入経験を探ってみました。無関心層は16.3%と予想通りの低い数字でしたが、意外にも関心層でさえ45%しか購入経験者がいないという結果に。障害者のことを気にかけているにも関わらず、なぜ過半数もの人が商品を購入したことがないのでしょう?

買いたくても、買えない!

【表C】障害者の商品やサービスをどこで購入しましたか?

商品の購入場所で一番多いのが「障害者福祉施設」。次いで「市・区役所などの公共施設」と、私たちが普段あまり利用しない場所が大半を占めていました。日常的に利用している「スーパーマーケット」での購入はたったの12.1%。「買いたい」と思っても「どこで買ったらいいのかわからない」のが現実のようです。

私たちと「福祉施設の商品」の間にある障害---その1 購入する場所が限られている!

欲しくて買っているわけじゃない?

【表D】障害者のつくる商品を買った理由は?※複数回答

購入者は、どのような気持ちで商品を購入しているのでしょう?【表D】によると、関心層・無関心層ともに、「支援のため」という理由が半数近く。「品質がよい」から購入している人は2~3割でした。「品質の良さ」ではなく「障害者のつくった商品」というのが購入のきっかけのようです。

【表E】障害者のつくる商品に求めることは?※複数回答

関心層のほとんどが「役立ち度が知りたい」「商品が作られるストーリーが知りたい」と、商品よりも貢献度や製造過程へ興味を示しているのに対し、無関心層の半数近くは「品質で勝負すべき」と商品自体の価値を求めています。商品レベルを上げ、「品質の良さ」を伝えていくことが、これからの商品開発のカギになりそうです。

私たちと「福祉施設の商品」の間にある障害---その2 商品自体の魅力が伝わらない

私たちと「福祉施設の商品」の間にある障害をなくすためには、
商品の質を高め、買いたい時に買える体制づくり
をすることが最も重要なようです。

【アンケート概要】

コトノネ調査室」より引用

「コトノネ」は、障害者のはたらきを応援する季刊誌。2012 年1 月に創刊、2 月・5月・8 月・11 月の、年に4 回の発行を予定しています。

株式会社はたらくよろこびデザイン室がアンケートを実施
■調査方法:Web調査
■調査対象:15歳以上・男女個人
■回収サンプル数:1,500サンプル(エリアおよび性・年代別に均等割り付を実施)
■調査実施時期:2012年6月2日~6月7日

買いたくなるノート を模索した日々

シンプルな中にも『ほのぼのHaKaTa』の丁寧なものづくりがぎっしり詰まった「HONOBOのーと」。トリコロールカラーの3冊を並べると楽しげですね。

『日々のてまひま』がこの春に手掛けたプロジェクトが、博多区にある福祉施設『ほのぼのHaKaTa』が製造するノートの商品開発。実はこのノート、質はすごくいいのですが原価が8割もかかっていて利益がほとんどないのが悩みのタネ。そこで、デザイン提案だけでなく原材料を見直すことで原価を抑え、「私たちが買いたくなる」「施設が売り続けられる」ノートを完成させたのです。 今回は『日々のてまひま』のデザインを手掛ける先崎デザイナーと、『ほのぼのHaKaTa』の山崎さんにHONOBOのーと開発時のお話を伺いました。

日々のてまひまのデザイナー先崎さん(左) ほのぼのHaKaTaの山崎さん(右)

目標は、卸ができる原価

アナバナ ノートの商品開発は原材料の見直しからはじまったと伺いましたが…

山崎さん そうなんです。実は種類によっては売価の8割が原価になっているノートがあって…。製本作業の幅を広げようとノートの製作をはじめたのですが、作り方は分かるものの、紙の選び方やデザインなどのノウハウについては全くの素人。赤字覚悟の原価を下げたいけどどうしたらいいのやら…。と、手探りで作業している状態でした。

先崎さん 原価の高さにまずビックリしましたね。デザインうんぬんよりも原価を落とすことが先決。作った分がちゃんと利益になって還元されるしくみに変えなければ!と、紙の種類を見直すところからはじめました。小売店に卸ができるように、原価を6割までに抑え利益を出す。そして、表紙にイラストを入れたり企業のノベリティに使ったりと、いろいろな展開ができる“ベースとなる”ノートづくりに取り掛かりました。

従来のHONOBOのーと。表紙の厚紙や製本テープなど小売店にて購入していたため、1冊あたりのコストが高くついていました。

表紙や中面の紙を大量に仕入れて印刷、ロットを増やすことで価格をおさえることに成功。

市場ウケと施設らしさとの葛藤

アナバナ どのようなコンセプトでデザインを進めたのですか?

先崎さん 「ほのぼのHaKaTaさんらしさ」ですかね。

山崎さん そうそう、そこが一番難しかったんです! 「ベーシックなノートを作りましょう」ということでいろいろな提案をいただいたのですが、なんだかどれもしっくりこなくて。デザインがシンプルになればなるほど「このノートだったら他所が作ってもいいんじゃない?」と思うようになってきたんです。万人受けするデザインを追求するほどに、ほのぼのHaKaTaらしさが遠くなってしまう感じがして。

先崎さん 今回の最大のミッションは「売れる商品」をつくること。誰からも受け入れられやすいノートを作ろうとすると、どうしてもステーショナリーっぽいシンプルなものになってしまいます。「売れる商品デザイン」に「ほのぼのHaKaTaらしさ」をだす、さじ加減が結構難しくて悩みどころでしたね。結果、ほのぼのHaKaTaらしさがありつつ、質もぐんと上がりました。

HONOBOのーとは、施設に併設のショップ「雑貨屋Honobono」で購入可能。

施設が独り立ちできる 商品開発を

山崎さん 「ノートをデザインしてもらって終わり」ではなく、表紙の厚さや種類、中面の紙の選び方までしっかりと教えていただきました。制作のノウハウを知れたことが一番の収穫でしたね。今回のノートをベースにして、「オリジナル商品」の受注へとどんどん展開していけたらと思います。

製本作業を担当する太田さんは、器用で仕事をちゃきちゃき正確にこなすと評判。製本メンバー2人で、1日250~300冊の製本を手掛けることもあるそうです。紙質が変わって「裁断がすごくしやすくなった」と大絶賛されていました。

profile

デザイナー 先崎 哲進
1978年佐賀県生まれ。九州芸術工科大学卒業。テツシンデザインオフィス主宰として、主にグラフィックデザイン、ブランディング、商品開発、空間アートワーク等の分野で活躍中。「点で存在している福祉施設を繋げてデザインすることで、新しい価値観を提案していきたい」と、株式会社ふくしごと取締役として謙虚に活動中。

ほのぼのHaKaTa

福岡市博多区にある、主に精神障害を持つメンバーを中心とした就労支援施設。「自分たちが使いたい、贈りたいモノづくり」をモットーに、文具や雑貨などを製作しています。中でも100%植物油を使用したマルセイユ石鹸は、4週間もの時間をかけてじっくりと熟成させてつくられる自慢の逸品。施設併設のショップ「雑貨屋Honobono」で手に入れることができます。

5月の日々のてまひまの日々は…?!

「日々のてまひま」の商品開発から見えてきた私たちの中にある 障害とは???を、お届けします。

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