穴バーレポート ACTIVITY

美味しさのカギは干満の差を読む技術にあり! 有明海と大川漁協の漁師が育む一番摘みの海苔とは?

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5月に開店した穴バーは、日本の食卓の名脇役でもある「海苔」が主役実は、日本国内で生産されている海苔の半分が有明海で採れたものなんですって!知ってました?ワタクシ、福岡県民でありながら今回の穴バー取材で初めて知りました。初っ端から衝撃です。
そんな有明海苔ですが、有明海は
広いので福岡、佐賀、長崎、熊本の4県にまたがって栽培されています。その中で、一番摘みの海苔に注目して独自に商品化を進めているのが、今回のゲストである福岡の「大川漁業協同組合研究会」の皆さんです 

えっ? そもそも、海苔ってどうやってできるのですって?
そうなんです!
 こんなに身近な海苔ですが、産地によって生産方法も違えば、違うんですって。意外に知らない海苔の“ブラックボックス”、その秘密を家具の街大川で調査してきました。 

1500年かけて全国の食卓の人気者に!
そのヒミツは三大旨味成分と豊富な栄養素にあり
 

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大川で生産者の方にお話をお聞きしたところ海苔自体は奈良時代から食べられていたそうなんです。最初は高級食材として珍重されていましたが、江戸時代には庶民の間で海苔巻きが大流行。なんと徳川家康大好物だったという話も伝えられているんですよ日本人にとってすっかり親しみのある食材となった海苔は、昭和になると本格的な養殖方式が確立され、今や九州、瀬戸内海、宮城県、千葉県、伊勢湾と全国各地で生産広がっているのだと教えてもらいました。

日本国民をトリコにしたその美味しさの秘訣って何なのでしょう?大川の漁師さん曰く、その秘密はなんといっても旨味成分にあるんだとか。実は、昆布に含まれるグルタミン酸、鰹節に含まれるイノシン酸、干し椎茸に含まれるグアニル酸の“三大旨味成分”を全て併せ持っているんですって。大川の漁師さんは、海苔をお湯に溶かして出汁代わりに飲んでいるそうですよ
それだけではありません
調べてみると、ビタミン群にカルシウム、鉄分、葉酸、食物繊維など栄養もたっぷり!呑兵衛にとって嬉しいことに、アルコールを分解する時に必要なタンパク質や肝臓の働きを高めるタウリンも配合されています海苔2枚(1枚はタテ21×ヨコ19cmを食べると、なんと毎日の必要量が摂取できる言われています。

海苔生産の聖地・有明海で立ち上がった
大川漁業協同組合の一年を追って…
 

旨味ギュギュッと濃縮された美味しい海苔ができるには、干満の差が激しい遠浅の海淡水と海水が混ざり合う場所が適しているそうです。この条件を満たす有明海では、福岡をはじめ佐賀や熊本、長崎の4県で養殖が行われています。その一角にある大川地区1950年に大川漁業協同組合が発足。1963年には組合で海苔の研究会が立ち上がり、海苔の養殖とともにさまざまな活動が進められています。 

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取材の時に、大川漁業協同組合研究会の古賀さんから有明海の海苔養殖場写真を見せていただきました。海面から何本もの支柱が伸びています。これは、遠浅の海に立てた支柱に網を張り、その網に付けた牡蠣殻に胞子を着床させて育てる「支柱式」という栽培方法で、主に有明海や千葉県の一部で採用されているそうです
れに対して、瀬戸内海などでは重石を付けた網を海底に沈めて栽培する「浮き流し式」という栽培が一般的だとか。支柱式の海苔は、海面近くで育ち口溶けが良くパリッとした食感、浮き流し式は厚みのあるしっかりとした海苔に仕上がるなど、味にもはっきりとした差が出ていと古賀さんは言います
「支柱式」
有明海は潮の満ち引きにより日光を十分に取り入れることができるため、味わい豊かな海苔ができるそう大川地区はその中でも筑後川の河口に面した場所に漁場があり、山からミネラル豊富な水が絶えず流れるため、より品質の良い海苔に育つ大川漁業協同組合研究会の皆さん太鼓判を押しています
確かに、その場で
焼き海苔をいただいてみると、薄くて歯切れの良い食感がクセになります。なのに磯の味わい濃厚。思わず「ああ!ゴハンが欲しい!」というセリフが…。漁師さんも「でしょ?」と満足そう。

さらに、海苔漁について聞いてみると、どうやら味わいのカギ漁師の皆さんの細やかな管理と工夫の数々にあるようです 

ここで、海苔ができるまでの一年の動きを追ってみましょう。

●海苔ができるまで
5月〜
8
夏の間に、海苔の胞子を牡蠣殻で培養。
最初は黒い斑点だった胞子は澄みきった海水の
でのびのびと育ち、次第に牡蠣殻が真っ黒に染まります。牡蠣殻を使うのは、このあたりで牡蠣の養殖が盛んに行われていた頃の名残だそうです。
海苔の成長に適した温度は大体
25℃前後。日中の温度差が激しい夏もこまめに温度を測り、管理する必要があるため目が離せません。

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支柱の立て込み。

海苔網を張るための支柱を海に立てます。漁場一区画につき、網は
10枚、支柱は66本。船から海底に向けて支柱を思い切り差し込むので、これだけの数をこなすのはなかなか重労働。しかも、この網を張りこむ高さにより日光を浴びる時間が変わり、それによって成長スピードや病気の予防、味を左右する大きな要因になるというから、漁師さんの腕の見せ所でもあります。

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写真:アリアケスイサンInstagramより

 

 

10月
牡蠣殻で大事に育てた海苔
いよいよ海に。設置した海苔網に牡蠣殻を入れた袋をくくりつけます。この作業は家族総出で行われ大事な作業その後、牡蠣殻の胞子が網に定着するのを待ちます。

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種付けから約1ヶ月経つと海苔網の一部を残して引き上げます。
引き上げられた海苔は網のままマイナス25℃で冷凍保存。海に残された海苔網が収穫された後に再び海に戻されます。つまり、シーズン中に2回収穫されるで生産されており、より寒い時期を越す二期目の方が味が深まるのだとか。食べ比べてみると面白いかもしれませんね。 

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写真提供:ふくおか食べる通信

11月〜4月上旬
本格的な冬の訪れを感じる季節になったら、海苔も摘みごろ。船に摘み取り機械を乗せて、網の下を潜るように移動しながら摘み取ります。不安定な船底での作業はなかなか難しいもの。摘み取りは一つの網でも
3、4回行われるので、まさに体力勝負なんですって 

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摘み取られた生海苔は、細かく裁断されて水で洗い、専用の機械で和紙のように漉きます。その後、脱水から板海苔の形に乾燥するまで漁師さんが行います。漁協へ出荷され、県の検査を受けて等級が決まるそうです。さあ、今季のお味はいかがでしょうか…。(写真提供:ふくおか食べる通信)

4月上旬
海苔を収穫した後も気を抜いている暇はありません。一年ごとに担当する区画が変わるため、支柱を引き抜いて漁場を掃除したり、網を補修したりと次への準備が待っています。

大川漁業協同組合研究部では、有明海苔の
PRイベントや独自のブランド「初摘海」の販売などシーズンオフにも活動は盛りだくさん。

回は生産者の枠を超えて、「美味しい有明海苔を多くの人に味わってほしい」と商品開発や広報にもいそしむ大川漁業協同組合研究部の皆さんの活動をお届けします。乞うご期待! 

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(取材・文:ライター・大内りか、写真:末次優太)

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