コトバナ

老舗情報誌の編集長が教える、これからのタウン誌と福岡“ここだけ”の話。〜後編〜

VOL.014 「老舗情報誌の編集長が教える、これからのタウン誌と福岡“ここだけ”の話。」

2015.07.09(木)

地元の商店街は貴重な観光資源になる

和泉さん(以下、和泉) ではここから、次号の特集の内容でもある、美野島商店街の魅力を掘り下げていきたいと思います。美野島商店街は、福岡の中でも独特の熱量がありますよね。お店のおばちゃんたちの会話が楽しいし、買い物客やゲストハウスに泊まっている外国人観光客までが、やりとりを自然に楽しんでいて。まさに体温のある街という感じ。

古後さん(以下、古後) そうなんですよ。ここで、ゲストを紹介してもいいですか? 美野島商店街で、「コステル美野島」というゲストハウスを運営している貞國秀幸さんと、活版印刷工房「Oldman Press」を営む日髙真吾さんです。ユニークな活動で、美野島商店街に新しい風を吹き込んでいるお二人です。

貞國さん(以下、貞國)、日髙さん(以下、日髙) よろしくお願いします。

古後 貞國さんは、もともとミュージシャンですが、現在は不動産のリノベーションを通じて新しい価値や雇用を産んでいく仕事をしている方です。不動産を使って街でオリジナル曲を奏でる、ロックンローラーならぬ”宅建ローラー”(笑)。

和泉 いいですねぇ。どんな経緯でいまのお仕事に?

貞國 僕は北九州市若松群の生まれで、旦過市場のような、市場の中で育ったんです。地域の人と一緒に、市場に見守られながら育ちました。大学の頃に音楽活動をして、CDを出したりライブ活動をしたりしていましたが、途中で不動産業界に入りまして。

和泉 ええ。

貞國 そういう目で不動産業界を見てみると、いろいろと改善したいところがあって。衣食住の”住”は、本来もっとハッピーであるべきなのに、不動産管理の仕事は事務的なことばかりで、何一つハッピーなことなんてない。郊外に庭付き一戸建てを買うことが幸せの象徴だった時代もあったけど、実際は30年のローンを背負って、苦しそうな顔になって。そんなスタイルしかないことがおかしいし、型にはまった住まいのあり方がいまの無縁社会の原因になっている気もします。そこで、ビル一棟をまるまる村に見立てて、入居者の交流を図ろうと始めたのが、井尻のスタジオアパートメントKICHIです。

古後 ミュージシャン用の住居兼スタジオとして話題になりましたね。

貞國 おかげさまで。それで始めた次のプロジェクトが、ゲストハウス「コステル美野島」というわけです。

和泉 なぜ美野島を選びはったんでしょ?

貞國 僕は旅行が好きで、アジアやアメリカ、ヨーロッパなどいろんな国を周りましたが、行ったらその国の様子がよくわかる場所に泊まりたくなるんですよね。普通のビジネスホテルではなくて、街の息づかいが感じられる場所、例えば市場の近くとか。美野島商店街は、博多駅から歩いて15分ですし、日本らしさを感じられる福岡の観光資源だと思うんですよ。

古後 おばちゃんたちのキャラ立ちがすごいですからね。知らない人が行っても、対応力があるのでコミュニケーションできて、外国の人も楽しめる。

貞國 いまの時代の買い物は、心のやりとりが求められているので、コンビニのような箱形ビジネスには限界を感じますよね。現状は、商品の質を高めたりセレクトショップ化することで生き残っていますが、それでも美野島商店街のような専門店街にはかなわないんで。

和泉 ゲストハウスを運営することで、そのよさを伝えていきたいと。

貞國 はい。これまでの不動産管理者は、オーナーと入居者を繋ぐ、仲介役でしかなかったんです。でも管理者がホスト役を担って入居者や地域の人をゲストとして迎え入れれば、街に新しい人の動きを作れるはず。江戸時代には”家守”という職種があって、地域の人の意見を聞いて、その街に必要な人や店を誘致して、地域を活性化させていました。僕らも、そういう役割を担えるんじゃないかと思って。KICHIの時はビル一棟でしたが、商店街という特徴を生かせば、面で展開できますからね。

和泉 なるほどぉ。


世界各地から旅行者が訪れるホテルでもあり、商店街の人々や子供たちが集う場にもなっている。貞国さんは「これから美野島商店街はもっともっと面白くなりますよ」と力強く語っておられました)

貞國さんらで企画し、美野島商店街内の22店舗が参加して作った店舗紹介ポスター。それぞれの店の個性が出ていて、眺めているだけで面白い

紙の情報誌として価値あるものに

古後 日髙さんのOldman Pressも、同じ美野島商店街にあるんです。

和泉 日髙さんは、もともとどういう経緯でここを立ち上げたんでしょう?

日髙 実家が日髙印刷という印刷会社で、自分はデザイン等を勉強していたんですが、活版印刷の面白さに目覚めまして。廃業した印刷会社の活字を引き取ったり、海外のアンティークものを集めたりして、1年前に美野島に工房を出しました。いまは活版印刷機が3台の他に、箔押し機や加工機、シルクスクリーン用の機械もあります。

古後 活版印刷は最近よく聞くようになりましたが、実際にはなじみが薄いですよね。でも工房があれば相談できるし、値段の基準もわかります。それで取材させてもらいました。

和泉 普段はどんな依頼が多いんでしょう?

日髙 結婚式の招待状が多いですね。

古後 先日見せていただいた席次表も、めっちゃきれいでしたね。活版特有の、掘りが深くて陰影の出る文字で席次が書かれていて、金箔が押されて。あれは列席者の宝物になるでしょう。

和泉 作り手の方のぬくもりを感じますねぇ。

古後 7月25日に美野島商店街で企画している夏祭りでも、日髙さんのところで印刷したグッズを使おうと思っています。美野島商店街らしい手作り感、アナログ感を楽しんで、共有していきたいですね。


物腰柔らかな語り口の日高さん。廃業する活版印刷所も増える中、貴重な機械を譲り受けることもあるそう。日々腕を磨き印刷の新しい技術に挑戦する

会場には日髙さんにご用意いただいた活版印刷の道具が並ぶ。休憩時間には印刷体験も。レバーをガッチャンと倒せば、簡単に印字できる。インクの量や力加減で仕上がりも変わってくるのがアナログならではの味に。日高印刷さんでは印刷の立会いもできるそうです

和泉 こんな情報が、次号の「シティ情報Fukuoka」に満載なんですか!? これは買い逃せませんねぇ! では最後に、今後の展開について聞かせてもらえますか?

古後 デジタルではなく紙の情報誌として、そこでしかできないことをやっていきたいですね。現代は、100円のものでも価値がなければ買わないし、2,000円でもそこに価値を感じれば売れます。「シティ情報Fukuoka」は一冊390円ですので、390円なりの価値を感じてもらえる誌面を作らなければいけません。来るなと言われるぐらいしつこく通って、街と人を掘り下げて、普段は見えない水面下の魅力を、形にしていきたいと思います。

和泉 シティ情報ファンとしてもほんまに楽しみです! 今日はありがとうございました。

ゲストに聞きたかったコト

会場ではこんな質問がありました

質問1 住まいやリノベーション関連の記事が増えていると思うんですが、理由は何ですか?

古後 自分は今年40歳で、「シティ情報Fukuoka」が一番売れてた時代に学生だったんです。その世代が、いまは家庭を持ったり家を買ったりと、ライフステージが進んでいます。そんな読者が求める情報は、単なる店の紹介だけではなく、この街でどんな魅力的な暮らしをしている人がいるか、だと思います。東京での魅力的なライフスタイルはいろんな雑誌で紹介されていますが、実際にはなかなか会えない距離にいます。でも福岡の人なら、すぐに会いにいける。この距離感で、読者が求める情報を増やしていきたいと思っています。

質問2 貞國さんは、ミュージシャンとしてはどんな音楽をやっていたんですか?

貞國 ビートルズやチューリップ、YMOが好きで、自分でもいろんな音楽をやっていました。杉真理さんや、イカ天でも活躍した、たけのうちカルテットあたりが同世代です。気持ちはいまでもミュージシャン!

コトバナ編集後記

貞國さんがおっしゃった、「商店街は観光資源である」というのは新しい発見でした。確かに、外国人として日本に来たら、きっと日本人の暮らしぶりを知ったり、人と話す体験が面白いはず。ガイドブック片手に、お決まりの観光名所に飛びつかなくても、美野島商店街に行けば、想い出に残る体験ができそうです。そんな活字化しにくいワクワクを掬い上げていく「シティ情報Fukuoka」の誌面づくりにも、ますます期待したいですね。(佐藤)

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