コトバナ

売れてこそ、伝統工芸 半径20kmのものづくりを伝える。〜後編〜

VOL.013 「売れてこそ、伝統工芸 半径20kmのものづくりを伝える。」

2015.06.25(木)

趣味の自己実現ではなく、持続できる経営

三好さん(以下、三好) 今日のお客さんは、自分でお店を始めようと考えている人も多いと思います。せっかくの機会なので、年商や利益率などの運営の話も、ズバリお聞きしていいですか?

白水さん(以下、白水) もちろんいいですよ。お金の話は、結構不透明ですから気になりますよね。

三好 最初はすごく小さな規模でスタートしたんですよね?

白水 ええ。無借金で、自己資金200万円から始めました。家賃は7万、壁を塗った修繕費に50万、什器はコンクリートや合板で作って、だいたい13万。商品代が100万円ぐらいでした。利益は仕入れに回して。

三好 小売の収入だけで回っていったんですか?

白水 1年目はダメでしたね。個人でデザインの仕事もしました。2年目からは店単体で回るようになって。ふたりで立ち上げたんですが、ふたりが喰えるぶんの売上は上がっていました。

三好 具体的な年商で言いますと?

白水 1年目で1,000万、2年目で3,000万、3年目で5,500万でした。利益率は、自社商品の比率が上がってきたこともあって、現在50%ぐらいです。

三好 順調な成長ですね!

白水 周りの意見はあまり聞かず(笑)、数字を見ながらきちっと計算して、事業計画を組み立てていきましたからね。

三好 ここが、普通の雑貨屋さんレベルとは違うところでしょうね。

白水 人通りが少ない町の小さな雑貨屋なんかは、実質ほとんど成り立ってないでしょう。

三好 夫婦のうちどちらかが別で働いて、資金面をサポートしているとかでしょうか。

白水 もちろん、趣味の自己実現としてはいいと思いますけど、経営して利益を出していこうと思うなら、現実的な数字をすり合せていかないとだめですね。ただ、たとえば絣を年間で1,000反買うとしても、大きな織元にとっては1ヶ月半分の仕事にしかならないので、まだまだ規模は小さいんですが。


的確で無駄のない語り口の白水さん。事業の骨格や、それを支える数字が常に明確な経営スタイルは、大学時代に建築を勉強していたことと関係があるのかも!?

物の売買の先にあるコミュニケーション

三好 売上を上げる秘訣はどんな点だと思います?

白水 売上はコミュニケーションの量なので、コミュニケーションを増やすことですね。

三好 なるほど。その一貫として、情報発信やメディア展開を積極的に行っているわけですね。くぅー計算されてるなぁ。

白水 最初から、ブログでの情報発信は意識的にやっていました。だいたい1日1回はアップしてます。打ち合わせの備忘録にもなって便利ですよ。これをみてもらえばだいたいの流れは説明ができるんですよ。

三好 これ自分で撮ってるんですよね? 写真も素敵。

白水  Instagramで撮ったものをスクリーンショットしているだけなんで(笑)。ぜんぜん手間はかかってないんですよ。

三好 ちょっと事前に聞いた話によると、新しいメディアについても計画中なんですよね?

白水 ああ、そうですね。まだぜんぜん形にはなっていないんですが、新しいスタッフと、企画を立てているところで。五感に訴える内容を、日本語と英語でちゃんとアウトプットするウェブメディアの立ち上げを準備しています。

三好 なるほどー。どういうきっかけがあったんですか?

白水 いま「うなぎの寝床」は店舗という形態で物を扱っていますが、もともとは物の売り買いをしたかったわけじゃないんですよね。本当に伝えたいのは地方の文化や技術や人で。店を作ればそれも伝えられると思ってましたが、やっぱり物の売り買いに終始してしまいます。けれど、実際に現場に行けば、僕が店でオススメするのとは、圧倒的に情報量が違って、魅力を直に伝えられるんです。だから、現場に行くことを誘導する仕組みが必要だと思って。

三好 物の先にあるストーリーや体験を届ける、と。

白水 そうそう。物自体は店舗でも通販でも、どこでも買えるので。売るのは都会に任せて、僕らはこっちに住んでいる強みを活かして、体験を提供していきたいなと。

三好 今考えてらっしゃるメディアも、そのためのツールなんですね。

白水 そうです。食べる、買う、泊まる、体験するといった人間的な欲求を入り口にして、一次情報にアクセスできるようなメディアを作りたいと思っています。

三好 大事な取り組みですね。僕もはかた伝統工芸館の主任を務めていてよく考えますが、伝統工芸がなぜいいとされているのかを理解するには、実感を伴った体験が必要なんですよね。それがあるから、高額なものでも納得できるし。

白水 僕は、伝統工芸と呼ばれない努力をしたほうがいいと思っていて。例えばトヨタは、何百年続いても伝統工芸とは言われない。トヨタは、車を作る前には絣の織機を作っていました。その時々の、社会のインフラを作っていたから需要が増えて、産業として残っていったんです。

三好 なるほど。今あるものを守るのではなく、本質的なものを自己更新し続けていく、と。


白水さんの話に、熱心にメモを取る姿が多く見られた今回の来場者

自分が社会で担える役割は何か

三好 次の展開はどんなことを考えていますか?

白水 いまの仕事と全然関係ないんですが、実は本屋をやりたいんですよね。

三好 ほほー! 本屋を? 結構本は読まれるんですか?

白水 そうですね。読みますね。マガジンとかも読みますし(笑)

三好 あらあら、そっちもいきますか(笑)

白水 本屋を考えているのは、大学から集めてきている蔵書が2,500冊くらいあって、それを有効活用したいなと。

三好 フットワークが軽いですねぇ。

白水 今の仕事は、自分を客観的に見て、社会で担える役割は何かを考えてやっているので、ある意味、思い入れは少ないんですよね。

三好 えぇ~そうなんですか!?

白水 本は、もっと個人的に好きなもので。

三好 僕はその、どこまでも客観的な姿勢に感服しますよ。

白水 こだわりを持てば持つほど、うまくいかない時期もあったんですよ。デザインをする時も、こねくり回したものより、5分ぐらいでさっと作ったものの方が受け入れられることもあるし。

三好 なるほど。自分の趣味嗜好といった余計なバイアスをかけずに、本質は何か、なぜ守り、なぜ残すのかを考えて取り組んでいるんですね。

白水 そうです。そういう態度が結果にも繋がると思います。

三好 お聞きしていて思うのは、白水さんは当たり前のことをきちんと計画して、前に進めていける方なんですよね。商品づくりや店づくりって、ともすればそれ自体が目的になってしまって、そこで満足して終わってしまうケースもよく見ますが、白水さんは目標を実現する手段として店舗や商品開発を考えている。何をするための活動なのかが、常に明確なんだと思います。本日は、どうもありがとうございました。

白水さんの、即席経営相談会

物腰は柔らかながら、経営者としてはすでに風格漂う白水さんへ、会場の皆さんが自由に質問! 皆さんが抱えている課題に、的確にお応えいただきました。

Aさん この前テレビで見たんですが、学校で使っていたチョークが、いまは作る人も使う人も減っているそうです。チョークを作る機械は、外国人が買い占めているらしくて。日本の物を日本人が使わず、海外の方がそのよさに気づいている場合が多いことに危惧しているんですが。

白水 僕は、海外に技術が流れていくのは、経済の流れを見れば仕方ないと思っているほうで。日本も戦後、世界の工場として働いてきたことで技術力を蓄えたんだから、いまインドや東南アジアに流れるのは普通のことです。でも、個人的に残したいと思うものは、日本で作り続けられるようにしていきたい。例えば久留米のムーンスターは、量販店向けの製品は中国で作り、より高いクオリティが必要なものは日本で作っています。そういう戦略が大切だと思います。日本人が日本のものを使っていないというのは、商品の見せ方や店など、伝える側の問題でもあると思いますし。そこも少しずつ意識的になってきたので、今後は良い方向に向かうと思います。

Bさん 友人が畳の職人なのですが、い草の原料も、職人も減ってきていて、そこでできることは何かを考えています。周りの人から知ってもらうためのアイデアはありますか?

白水 い草は、年商100億ぐらいをあげている会社もあるので、業界全体が衰退していると考えるのはまだ早いと思いますよ。現代にあわせて形態を変えていく必要はあると思いますが。まずは、「どう使っていいかわからん」を解決することでしょう。もんぺの場合も、本質的には用途を提案し直しただけですから。

Cさん 自分はいま大学生で、柳川のおはなのプロジェクトを手伝っています。柳川駅の駅前にテナントショップを出すんですが、おはなからの要望は、どうやったら若者が来るようになるか。白水さんだったらどうしますか?

白水 自分が行きたい店を作る、に尽きるでしょう。やりたいことをやって、失敗したらいい(笑)。教授が怒られればいいんだから。

Cさん どう進めていけばいいんでしょう?

白水 まずはターゲット層になりきってみましょう。女性誌を読むとか、おばあちゃんになりきるとか。今回は自分と同じ若者がターゲットだから、やりやすいでしょ?

Cさん 通勤時にしか人が通っていなくて困ってるんですが……。

白水 いや、うちなんてもっと人少ないですから。通りすがりの人を拾うのか、そこにわざわざ来てもらうのかは、設計次第。発信すれば、人は来ますよ。

Dさん 仕事で辛いと感じたことはありますか?

白水 辛いと思うことは、ないですね。高校時代のサッカー部の辛い経験に比べれば、社会人になってからは全然辛くないです。

Dさん 気に入らない人とは付き合わない方ですか?

白水 いや、仕事になるなら付き合いますよ(笑)。自分の主観よりも、お互い利益になるならやります。もちろん好き嫌いもありますけど、嫌いな人は来ないような情報発信をしているつもりです。

Dさん 同じ地域にライバルはいますか?

白水 それぞれ独立しているので、干渉はしないですね。僕らの取り組みは、真似されてもいいと思ってます。発注が増えるのは、地域にとってはいいことですから。単純な物の売り買いだけだと、真似されたら危機ですが、うちはもう少し広い”体験”を提供していくつもりですから、真似はしにくいと思いますね。

もんぺ博覧会 in 福岡

5月に東京、6月に八女で開催されたもんぺ博覧会が、7月に福岡にやってきます。
やわらかな着心地、豊かな色彩、モダンな形を、ぜひその目でお確かめください!

もんぺ博覧会福岡展
7月2日(木)~7月11日(日)
松楠居 〒810-0041 福岡市中央区大名2-1-16
時間:11:00~19:00(最終日18:00まで)
tel:092-738-7155

□ 詳しくはウェブサイトへ
http://unagino-nedoko.net/monpe2015/

コトバナ編集後記

「世の中のトレンドを掴むために何をしてますか」と問われ、「ジュンク堂を地下から最上階まで全部廻り、本を見る」とおっしゃっていた白水さん。こだわりの蔵書をたくさん持つ趣味人の一面もありながら、自分だけの趣味嗜好に溺れずに、冷静に必要なものをキャッチできる客観性が、白水さんの大きな魅力だと思います。知的な刺激に満ちた、いい時間となりました。

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