コトバナ

売れてこそ、伝統工芸 半径20kmのものづくりを伝える。 〜前編〜

VOL.013 「売れてこそ、伝統工芸 半径20kmのものづくりを伝える。」

2015.06.24(水)

ユニークで意義深い活動を通じて、これからの福岡や日本を元気にする方々を招いたトークイベント「コトバナ」。今回は、筑後のアンテナショップとして有名な「うなぎの寝床」の白水高広さんをゲストに迎えました。生産者との距離の近さを生かし、作り手と買い手を繋ぐ店舗運営のあり方は、地方からの情報発信の成功例として注目を集めています。話は店舗運営に留まらず、ウェブや新しいメディアにも及び……。わかりやすい語り口で、示唆に富んだトークとなりました。

モデレーター 三好剛平
LOVE FMで営業・企画、Web「天神サイト」、イベントなどを担当。「10zine」への運営参加のほか、フリーペーパー「シティリビング」での連載「三好剛平のbest DVD」、不定期のDJ活動など、映画・音楽・アートの分野で活動中。
ゲスト 白水高広
1985年佐賀県生まれ。「うなぎの寝床」代表。フリーデザイナーとして活動中に「焼肉のたれ」のパッケージデザインで注目を集め、厚生労働省の雇用創出プロジェクト「九州ちくご元気計画」のメンバーに抜擢。デザイン、商品開発、イベント実施などさまざまな分野で活躍する。その後筑後地方のアンテナショップ「うなぎの寝床」をオープン。「車を使って1日で行ける範囲の日用品」を仕入れ、販売するというコンセプトで、全国から注目を集めている。

“作り手”に寄り添う店

三好さん(以下、三好) こんばんは。LOVE FMで企画やイベントを担当しています、三好です。今回は、「うなぎの寝床」の白水さんをお招きしました。私自身もはかた伝統工芸館の主任を務めていることもあって、伝統工芸品の伝え方や広め方は常に考えているテーマですので、本日はとても楽しみに来ました。白水さん、どうぞよろしくお願いします。

白水さん(以下、白水) よろしくお願いします。福岡県の南の端にある八女市で、うなぎの寝床という店と会社を運営しています。店舗は、八女福島と呼ばれる、白壁土蔵の町並みが並ぶ一角にあります。

三好 立ち上げのきっかけは何だったんですか?

白水 もともと僕は、「九州ちくご元気計画」に3年間関わっていました。このプロジェクトは筑後地方に雇用を生むことが目的で、僕は課題を抽出して専門家と繋ぐ仲介役で。料理家のゴトウタカコさんと一緒に、筑後の農家さんたちの野菜を直売できるシステムを作ったり、線香花火の製造所とデザイナーさん、地域の町工場とスーツ屋さんに組んでもらったりして、70件近くのプロジェクトを行いました。


今年の3月末で事業終了した九州ちくご元気計画2。今回も、筑後の豊かさを生かした商品が数多く誕生

三好 あの試みから、魅力的な商品がたくさん生まれていますよね。

白水 ええ。福岡や東京で販路開拓も行い、ある程度の成果を残せたと思います。ところが、プロジェクトを終えて八女に戻ってみると、地元のいいものが買える場所がどこにもないんですよ! それで、ショールームと情報発信できる場所が必要と思い、作り手と使い手を繋ぐアンテナショップとして立ち上げました。

三好 なるほど。なかったから自分たちで作ろうとしたわけですね。

白水 都市部にあるお店は、使い手に寄り添った店づくりをしているところが多いと思うんです。販売が中心なので、作り手には会ったことがなかったり、修理の方法がわからなかったり。僕らの場合は、作り手がたくさんいるところに店を構えたので、商品に安心感がありますし、それを買い手に繋いでいって、長く大事に使ってもらえるようにしたいと思ってます。

三好 地方ならではの店づくりですね。でも、人が少ない立地の難しさもあるんじゃないですか?

白水 ええ、うちの店も平日にはほとんど人通りがありません。店舗はあくまで拠点と考えて、商品開発や卸、通販、イベントなどを通じて、店にフィードバックしていってます。

人に紐づく商品

三好 取り組みの中で、特に話題になっているのが「もんぺ博覧会」ですよね。どんなイベントなんですか?

白水 もんぺ博覧会は、久留米絣のもんぺを全国に紹介するイベントで、今年で5回目となりました。

三好 そもそも、なぜ”もんぺ”なんですか?

白水 久留米絣という久留米の織物がありまして。手織りで藍染めをしている織元が約10軒、機械織りの織元は約20軒あって、伝統工芸と産業の間ぐらいのものです。いまは婦人服と呉服を主に作っていて、物産館に行った時にもんぺを見つけて。試しに買ってみたら、着心地は良いし色柄もたくさんあって、風合いの追求も進んでます。もんぺは”うしろ美人”と言われて、前は前掛けで隠れるので、後ろにいい布を使ったりと、文化的背景も面白いんです。そんな魅力を知ってもらいたくて、展覧会を始めました。

三好 なるほど。まずご自身で試して良いと思ったから始められた、というのが面白いですね。

白水 これからは、そういう時代だと思うんです。誰が、どう感じて発信するか。誰の意志で作られた物なのか。そういうことが大事であって。世の中の流行がこうだから、それに合わせて作る、ではもう売れませんよね。

三好 勉強になりますねぇ。自分の感覚を信じていいということですね。自分の情動に正直に、それを追求していけば、そこから何かが始まるかもしれない、と。

白水 うちの組織の面白いところは、人に依存する部分が大きいことです。商品担当の春口が辞めると言ったら、うちの店も終わるでしょうし。

三好 それぐらい依存しているってことですか。

白水 その人たちだからできることを、やりたいんですよね。人に紐づくのが新しい時代の商品だと思うし、それが魅力になると思っています。


もんぺ博覧会の考え方をまとめたスライド。白水さんらの思いが取り組みから伝わって来るのは、企画やアイディアをこうして丁寧に資料化し具現化するというちょっとした手間を惜しまない点にあるのかもしれない

課題を改善しながら拡大

三好 会場にはどれぐらいのもんぺが並ぶんですか?

白水 1,500~2,000着ぐらいですね。最近は、もんぺ型紙もよく売れます。自分で作りたいという人が全国にいて、年間2,000部ぐらい売れます。これは情報商材なんで、利益率も高いです。

三好 どんどん規模が拡大していますね。

白水 ええ。1年目は5日間で250万を売り上げて、商品が不足しました。2年目は商品を豊富に揃えて500万、3年目は細身の現代版もんぺを開発して900万、4年目は渋谷のロフトで開催したり、テレビで紹介されたりして、1,600万の売上になりました。

三好 見事なPDCAサイクルですねぇ! あ、PDCAって、「Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Act(改善)」の略ですよ。

白水 そうですね。最初は展示だけの博覧会で、売るつもりはなかったんですけどね。でもやってみたら売れたので、織元さんも工芸館も、商売の欲がどんどん出てきて(笑)。欲に忠実に進めていって、いまの形になりました(笑)。


もんぺをさらりと着こなす白水さん。「柄物の服は苦手なので、無地が好みですね」。さらさらとして着心地よく、これからのシーズンにぴったりです

うなぎの寝床の運営メンバーは、代表の白水さん、店長兼バイヤーの春口丞悟さん、服飾デザイナーの新開江里子さんと、それぞれ専門領域が分かれた少数精鋭組織。今春からは5名体制になった

私の一冊

深澤 直人「デザインの輪郭」

大学生の頃、建築家を目指して真面目に勉強しながら、デザインにも興味を持ち始めた時に読んだ本です。アフォーダンスと呼ばれる、環境からの人間心理への働きかけが、デザインとともに解説されていて、これを読んで一気に考え方が広がりました。純粋に建物を建てる建築はもういいや、と思ったきっかけの本です。

岸本 章 「古レールの駅デザイン図鑑」

使われなくなった古レールが、駅のホームの構造物に再利用されている様子を写真で収めたマニアックな本です。環境デザインマニアックという面白いサイトがあって、そこで紹介されていました。何の意味も為さない本を眺めているのが好きですね。

あとは、漫画が好きで、週刊ジャンプと週刊マガジン、月刊マガジンは欠かさず読んでいます。こち亀(こちら葛飾区亀有公園前派出所)が特に好きですね。きっちり取材してあるし、現代のトレンドもわかります。

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