コトバナ

暮らしがもっと豊かになる“住まい”としてのシェアハウス 〜後編〜

VOL.006 「暮らしがもっと豊かになる“住まい”としてのシェアハウス」

2015.03.12(木)

シェア住居は“スマートフォン”のようなもの

橋口さん(以下、橋口) (物件紹介を見て)住んでみたい部屋だらけです(笑) 北川さんが考える、シェア生活の一番いいところって、何ですか?

北川さん(以下、北川) たくさんあるので、ひとつは難しいんですよね。例えるなら、シェア住居は携帯電話界におけるスマートフォンみたいなもの。ガラケーしか使ったことのない人にスマホのよさは説得しにくいんですが、一度使ったら戻れない。

橋口 なるほど~。

北川 スマホにおける電話機能のような基本的な衣食住の機能は満たした上で、さらに便利な機能が加わります。例えば、一人だと借りられない大きなリビングのある空間で、毎日生活できます。コミュニティを作れることも大事な要素です。

橋口 これまでなかった住み方の選択肢がひとつ増えた、ということですね。

北川 そうです。いま、先進国ではどんどん晩婚化が進んでいますよね。日本でも、30代の男性の半数は結婚していません。ちなみに、橋口さんは独身?

橋口 30代独身男性です(笑)

北川 まさに(笑) だとすると、これまでかなりの長い時間を、単身者として過ごしてきたわけですね。日本の住宅産業は、世帯を持っている人に住まいの夢を見せていくことはやってきましたが、単身者向けには仮住まいのようなものしか与えてきませんでした。こういう人たちにとって、もっと豊かな住宅像があってもいいと、橋口さんも思いますよね?

橋口 おっしゃる通りです。

北川 例えば2年住んだ家から引っ越すとき、その家であった出来事を振り返っても、ワンルームで一人暮らしだった場合はそんなに思い出せなかったりするんですが、シェア住居だと、楽しい記憶が次々に思い出されて、後ろ髪を引かれたり。

橋口 すごくわかります! あぁ、想像するだけで涙が……(泣)


井尻で男3人のシェア生活を満喫する橋口さん。メンバーの誰かが出て行くことを想像するだけで泣けてくるほど仲がいいそうです。

北川 ははは(笑)。まあそこまで大げさでなくとも、人生のうちに同じ期間を過ごすとしたら、楽しい想い出が残る方を選びたいと思いませんか。

橋口 そうですよね。

北川 人は一人では生きていけませんが、現代人はなかなか家族を持たない。すると、仕事とは異なる人間的な繋がり、プライベートな人間関係が必要になってきます。住宅という場所でそれを支えていくのが、シェア住居です。ただし、個人同士でそれを行おうとすると、心理的な障壁の他に、快適性とか持続性といった面でなかなか難しい。そういうときに事業者が介在して、住まいとしてのソフトとハード面を整備したのが、シェア住居なのです。

妥協せず、自分にあったスタイルを探すこと

橋口 たくさんのシェア住居を見てきた北川さんがおすすめするのはどんな物件ですか?

北川 よく聞かれるんですが、人それぞれの好みとしか言えないんですよ。誰もが100%気に入る洋服が無いように、物件も100%はありません。だから、自分と相性のよい物件を妥協せずに探すことがとても大切。住宅は生理的な場所なので、合わないものをすり合わせていくのは無理だと思っておいた方が良いです。

橋口 なるほど。確かに、例えば清潔かそうでないか、などという生理的な感覚は人によってまったく違いますね。

北川 コミュニティの規模も、居心地を大きく左右します。少人数でワイワイと活発に盛り上がっているのが良いコミュニティとされがちですが、それが常に正しいとは言えません。合わないコミュニティは負担にもなります。自分にあうものを選ぶことが大切です。

橋口 コミュニケーションが密でなくても、人の気配があることで、なんとなく居心地がいい空間ってありますからね。そう考えていくと、人間関係ばかりを気にしないでよく、だいぶハードルが下がる気がします。

北川 ええ、そんなに気構える必要はありませんよ。私の感覚では、ワンルームで暮らしている人の8~9割は、そのままシェア住居にも住めるはずです。

橋口 それほど、通常の住居としての暮らしやすさが整っているということですね。

北川 はい。運営の技術は、これまで数十年かけて蓄積され、磨き上げられてきました。シェア住居は、日本的なモノづくりの努力によって、成り立っていると思います。

橋口 ほ〜面白いですね!

北川 シェア住居って、簡単ではないんですよ。仕組みとか設計とか、細やかな気遣いが行き届いていないと、いわゆる“普通の暮らし”は難しい。だから快適に暮らせるシェア住居って、本当に計算された技術が詰まっているんです。

橋口 なるほどー。

北川 これだけメリットがあるのに、住まない方が不思議なくらい。今後10年で、ますますシェア住居は増えていくでしょう。時間の有意義な過ごし方を考える上でも、ぜひ一度積極的に検討してみてほしいと思います。

橋口 私からもおすすめします! 本日はありがとうございました。



橋口さんが今担当している「井尻シェアタウン」プロジェクトの冊子。
“シェア”という切り口から空き物件の利活用方法を考えてみると、街の新たな楽しみ方が見えてくるかもしれない。
ゲストに聞きたいコト

会場からは多くの質問が飛び出しました。関心の高さが伺えます。

質問1 昔からある「下宿」と、現代のシェア住居はどう違うんですか?

北川 昔の下宿や寮などは、いかに空間を無駄なく使い、コストを下げながら多くの人を住ませられるかという発想から作っていて、必ずしも住みやすさを考慮して提供されていたわけではありません。現代のシェア住宅は、様々な面で一般の人が暮らしやすいように整えることが重要になってきています。そういう意味で、下宿とはまったく別物なのです。若者の意識が変わったのではなく、居住品質をしっかり作り込み、デメリットがなくなってきたから多くの人が住むようになったのです。運営のための細かなルールや仕組みをガラパゴス的に積み上げて、時間をかけて作り上げてきたからこそ、ようやく定着し始めているのだと思います。

質問2 北川さんは「シェアハウス」ではなく「シェア住居」とおっしゃってますが、どう使い分けているのですか?

北川 実を言うと、「シェアハウス」という言葉はできるだけ使いたくないんです。ひつじ不動産のミッションは、「普通の人のシェア生活の普及」であって、意識の高い一部の人たちに向けたものではありません。「シェア」という言葉には既に「共有、共同、連帯」といったイメージがつき過ぎて、最近は流行語にもなってしまいました。実態の曖昧な概念ではなく、あくまで住みよい家づくりが大切だという考えから、あまりにキャッチーな「シェアハウス」という言葉は避けてきました。


質問者にはなんと、北川さんからプレゼントが!
羊毛のもこもこ感がかわいい、ひつじ不動産オリジナルクッキー(非売品!)

コトバナ編集後記

「これまで一人暮らしをしてきた10年間が、もしシェア生活だったら、その時間はもっと豊かでかけがえのないものだったかもしれない」。そう言われて、何だかドキリとしました。人と過ごす時間は、一人ではとても到達できない何かをもたらしてくれること、ありますよね。住環境やプライバシーといった、住まいに求める要素をきちっと押さえて、かつシェアのメリットを追求していくのは、少子高齢化やコミュニケーションの希薄化と言われる現代にぴったりのスタイル。福岡ではまだまだ物件数は少ないですが、今後の展開に期待しましょう。(佐藤)

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