コトバナ

街と暮らしを変えて行くWebと日常のつなげかた 〜前編〜

VOL.004 街と暮らしを変えて行くWebと日常のつなげかた

2015.02.04(水)

地域を魅力的にする人、あたらしいライフスタイルを実践している人をゲストに迎え、参加者とともに考えるトークイベント「コトバナ」。第4回目のテーマは、「街と暮らしを変えていくWebと日常のつなげかた」。福岡の情報サイト「AFRO FUKUOKA」にて街の情報を編集、発信している後藤麻与さんと、Webエンジニアの枠を超えて、場作りに絡んだクリエイティブを実践する下村晋一さんをゲストに迎え、Webと街とのつながりについて伺いました。モデレーターはデザインの仕事と並行して、ひとりWebマガジン「taromagazine」、情報サイト「prefab」などを運営する三迫太郎さんです。仕事仲間でもある3人の軽快なトークに、会場は笑いの絶えないあっという間の2時間でした。

三迫太郎
1980年北九州市生まれ。アート・デザイン・暮らしに関わるデザインの仕事と平行して、ひとりWebマガジン「taromagazine」、情報ポータル「CENTRAL_」「Prefab」の運営など、街と人を繋ぐメディアのあり方についても試行錯誤中。
後藤麻与
雑誌編集、広告キャンペーン制作、Web制作などのプランニングから編集・ライティングまで行う。また、ファッションビジネス専門誌 繊研新聞や美術雑誌 美術手帖など全国紙の九州版編集にも携わっている。
下村晋一
印刷会社、広告デザイン会社に勤務後、5ive名義でWebエンジニアとして独立。シェアオフィス「LONDO™」を企画・設立し共同運営する傍ら、メンバーとして企画やディレクションから制作・開発に携わる。現在育児に奮闘中。

広告から街が伝わる

三迫さん(以下、三迫) 最初に、今回なぜこの3人で、Webと街や暮らしについて話すことになったのかなんですが。3人が繋がるきっかけになったのはネクサス薬院というマンションのWebサイトの制作のお仕事ですね。
※ネクサス薬院HPは現在公開終了しています。

下村さん(以下、下村) 僕はWebを実装する部分を担当していて、三迫さんはデザイン担当で入っていただきましたね。

三迫 いわゆるマンション広告は、どうしてもゴージャスな方向に行きがちなので、何か新しい表現はできないか、というのがお客様からの要望でした。

下村 マンション広告って、光のタワーがシュワーっと上がってるようなチラシとか多いんですけど(笑)、そうじゃないものが作りたいよねって。物件そのものだけじゃなく、薬院という場所を絡めて街の良さを出しつつ、このマンションに住むってこんな感じなんだよ、と映像でも見せらるものを作ることにしました。

三迫 実際どういうお店で撮影しようか、という段階になった時に、AFRO FUKUOKAで色々なお店とのネットワークを持っている後藤さんにコーディネイトや進行をお願いしてWebサイトができました。

後藤さん(以下、後藤) そうですね。薬院という街のイメージが伝わるようなお店や、実際に街で暮らしている人も出演することで、マンションに住むことへのイメージが広がるようなものをと考えました。

三迫 今回、何かWeb関係で面白そうなことをしている人はいない? というお話をいただいた時、ぱっと頭に浮かんだのが、それぞれの実感から街の情報を発信しているこのお二人でした。

情報は未完成でもいい

三迫 下村さんはLONDOという、多業種の方が集まるシェアオフィスを立ち上げられていますが、Webのエンジニアという肩書きもありながら、インテリアのコーディネイトに関わったりもされていますね。

下村 そうですね。名刺の肩書には“Webエンジニア”っなんですけれども、Webサイトの制作以外の仕事も増えてきています。シェアオフィスでは他の業種の人達とチームになって仕事をしています。隣の業界の仕事にもちょっと首をつっこんでみるということを去年ぐらいからチャレンジしているんです。

UR賃貸 / ここちいい住まいのつくりかた

三迫 これは護国神社の蚤の市の様子ですね。

下村 BUZZHOOKさんとやったURさんの仕事です。

後藤 これはAFROの連続でやっている企画で、下村さんには編集管理、企画にも携わっていただいてます。

下村 大名にある団地の一室を若い方向けに良い感じにしてほしい、というオーダーでした。だけど壁を剥がしたらダメだし、床も剥いだらダメ。基本、内装に手を付けられない、じゃあどうするんだ? と。そうなるともう家具やインテリアをメインにやるということになります。僕達はインテリアのプロではないので、天神の街を駆けずり回りましたよ。制作費を握りしめながら家具屋さんで悩み、ひたすら購入するという仕事でした。

三迫 実際に物を買っている様子や、部屋が出来上るまでの過程をWeb上で公開しているのがいいですよね。

下村 モデルルームって理想的な仕上がりをみてもらって、「どう? すごいでしょう」っていう世界なんです。でも素人が仕立てるインテリアだから、悩みながら家具を選んでる様子もSNSにばんばん上げていって、な~んか家具探ししてるんだな、ぐらいのところから公開していきました。出来上がる前にちょっとだけ話題を作れたらって思って。

後藤 家具を楽しそうに選んで行く様子とか制作過程もそのまま情報として発信しましたね。

三迫 その楽しい雰囲気なんかも宣伝の要素になっているんですよね。

後藤 はい、そういう実感はすごくありました。

三迫 下村さん自身もご自宅をリノベーションされた経験がありますよね。

下村 はい。3年前に古いマンションを買ってリノベーションしました。それが凄く楽しくてこんな面白い仕事もあるんだな、と感じたんです。それまでは、お客の立場だったわけですが、物足りないと感じる部分も出てきます。もっとガツガツ提案して欲しいなと感じていた部分を自分で補えたら、と素人ながらに考えながらやっています。リノベーションで得た知識と経験が“モノづくり”でもじわじわ活きているという感じですね。

三迫 なるほど。そうした経験を経て、こちらのお店も下村さんが内装とWebサイトの制作を手がけたんですね。

SOMEWARE

下村 はい、そうなんです。薬院の六角にあるSOMEWAREという雑貨屋さんです。LONDOメンバーで内装とWebを作らせてもらいました。

三迫 下村さんが関わられるお店のお仕事って、全部TwitterやInstagramで制作過程を出されていますよね。

下村 過程をアップしていくことで、薬院六角にお店が出来るんだな、という期待感が生まれるメリットがあります。snsを開くたびにあそこに何かお店ができるらしい、という具合に広がって行って、でオープンしましたっていうのを後追いで告知するんです。すると「そういえばあそこにお店が出来たんだ」ってより強く意識してもらえます。お店が出来上がって新規オープンですって告知するよりも効果的だなと感じているので、積極的に出すようにしていますね。

三迫 最近は皆、その下村方式に慣れてきていて、下村さんがまた何か始めようとしている、って居酒屋などで話の種になっています(笑)

下村 あははは

三迫 僕や後藤さんがやっているWebメディアって、どうしても出来上がったものを紹介する事の方が多いんですが、下村さんのように過程まで紹介するやり方は今までの広告のあり方とは違いますよね。街が変化する過程がWebメディアを通してさりげなく伝わる、SNSなどを通じた新しい方法論だと感じます。

“得意”を活かす編集

三迫 後藤さんはAFROFUKUOKAを運営しているBUZZHOOKさんに所属されていますよね。

後藤 はい。BUZZHOOKというWebを中心とした制作会社にいます。その前が紙を中心とした制作会社におりまして、紙の使い方を学んで、そこから今はAFRO FUKUOKAという自社媒体でWebと紙、両方の編集、ライターをしています。私は元々スタイリスト志望で、ファッションの専門学校に通いました。だから一般的な編集の方とは流れが違うかもしれません。

三迫 どのようなお仕事が多いのでしょうか?

後藤 自社の媒体以外では繊研新聞の福岡版や美術手帖九州版、福岡パルコさんの館内誌なども手掛けています。ファッションやカルチャーという、元々好きだからこそ得意になった分野が仕事に活かせていると思います。

三迫 AFROはフリーペーパーも発行していますよね。

後藤 はい。AFRO FUKUOKAは7年前にWebサイトから始まった媒体ですが、フリーペーパ〜という形でオンラインとオフライン版を発行しています。


オフラインとして発行しているフリーペーパー。気に入ったページがあれば手元に保管しておける“保存版”の感覚もWebとはひと味違うメディアの楽しみ方ではないでしょうか。

三迫 オフライン版を出すことで何か変化がありましたか?

後藤 そうですね、福岡は少し前まで紙媒体が主流の土地柄だったんですが、その名残なのか紙媒体をやっているというだけで、メディアとして「いいね」と言ってくださることが多くなりました。フリーペーパーを出してからはAFROに載ってましたよね、と声をかけられることも増えたような気がしています。そういう面でもオフライン版をやってよかったと思っています。

下村 AFROさんの記事って、個性全面押しの体当たり的な記事と、取材編集してしっかり読ませるのと、二種類のスピード感を使い分けてるのかな、という印象なんですがどうですか?

後藤 AFRO FUKUOKAの特徴はファッションやカルチャーと、ジャンルごとに担当スタッフを当てているので、得意分野を持ったスタッフがそれぞれのこだわりで編集しています。そういった意味で二極化しているのかな、と思いますね。

三迫 この記事は後藤さんが担当してるんですか?

※vol.59 遠山正道[株式会社スマイルズ代表]

後藤 はい、そうです。

三迫 ポータルサイトの記事だと思って読み進めていくと、どこまでも続いていきますね(笑)

後藤 そうなんですよ。私削れないタイプなんです(笑)。

三迫 いやいや、これはある意味、趣味の領域じゃないと出来ないくらいの取材をしていますよ。

下村 熱量が画面から伝わってきますよね。スクロールバーがバロメーターと言いますか(笑)

会場 (爆笑)

三迫 さっき話していた、スタッフがはっちゃけたコンテンツはありますか?

後藤 韓国ですね。週末に済州島にいこうよって単企画なんですけど、写真や動画メインで文章少なめなコンテンツです。もうここぞとばかりにザ、女子旅と言う感じですよね。

下村 こんな風に編集方針を統一してないというのを会社としても認めてるところが、ポータルサイトの魅力に繋がっていますよね。

後藤 制作と編集のように、内と外で作業は違うんですけど、内で仕事するスタッフも何かしら街に出て、情報を持ち帰ってくる、編集業務のスタッフだけが関わるんじゃなくコンテンツ制作のスタッフも外に出て、一緒に情報を作ることを心がけていますね。

三迫 そんな風に培ってきた“今の街”を肌感覚で掴んでいることがAFROさんの仕事にも活きている気がします。

私の一冊

後藤さん

(マストな一冊) 竹井正和「今日の反比例」

リトルモア創業者でありFOIL代表の竹井さんの生い立ちを綴った一冊。元々編集業務とは関係ないところから出版に関わっている部分が自分と重なり、これが一番私の理想像だという一冊です。

「記憶に残るブック&マガジン -時代を編集する9人のインタビュー集」

編集者達のインタビュー集。 本としての切り口もおもしろく、編集者の意図やコンセプトがわかる一冊です。

久家靖秀 写真集「Atelier」

現代作家達のアトリエを収めた写真集。切り取り方が良いから言葉が無いのに作家が何を大事にしているかが伝わる一冊。写真の勉強にもなります。

下村さん

(マストな一冊) 藤子不二雄A「まんが道」

最後の一冊に悩んでいたら、まんが好きの嫁からこれを持ってきなさい!と手渡されました。クリエイティブ関連の職種の人は読ないとダメだそうです(笑)。純粋にモノ作りの全てが詰まってる作品。あまり賛同されないけどシェアオフィスとときわ荘が重なり、初心を忘れないための一冊です。

ユーフラテス「こんがらがっち どっちにすすむ?の本」

こんがらがっちはイルカとモグラが合体して出来ているこんがらがった生き物。好きな道を指で選んで、進む方向でお話が出来、何回でも楽しめる絵本です。子ども達と一緒になって、どっち?こっち?と楽しんでいます。単純だけど何回でも遊べる、こういう仕組みが好きで仕事でも活かせないかと考えてしまいます。

慶応義塾大学佐藤雅彦研究室・佐藤 雅彦・中村 至男「任意の点P」

本に付随したレンズを通してイラストを見ると立体に見える仕組み。視点を変えるだけで不思議体験ができます。

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