ミライオン代表の山﨑基康さんに会いました
見過ごされつつある地域の文化を、ワークショップ等を通じて紹介する活動をしている山﨑基康さん。
現在のプロジェクトの中心は博多湾北部にある陸続きの島「志賀島」。
一方で、福岡市の中心部にあり、近隣の小学校と合併のため廃校が決定している「大名小学校」の活用方法を市民と一緒に模索する「KEYS FOR KEY」プロジェクトにも奔走する日々を送る。
ふたつのプロジェクトへの一貫した想いと、その原点についてたずねた。
自然から生まれた豊かな表現が、日本人の文化をつくってきたと思うんです。
潮の水位がもっとも低くなる新月の日。ようやく水面から顔を出した岩々に生い茂るフノリ(布海苔)の漁を手伝っていると聞きつけて、志賀島へ足を運んだ。
港まで迎えに来てくれたのは、福岡市に住むミライオンの山﨑基康さん。ミライオンは、3人ほどのメンバーによって運営されている小さな任意団体だ。日本人が自然のなかで営んできた暮らしの文化を自分たちの手で再発見し、現代の人々にも伝えたいとの思いを原点に、日々取り組んでいる。 志賀島にスポットを当てたその活動は、海近くに住む日々の生活から生まれた技術や知恵を学ぶものや、紙コップや水などの身近な素材を使って電気エネルギーを作る試みなど、ユニークなものばかり。
ミライオンとして活動を始めたのは3年前。それまで、アジアを一人旅したり、国際NGOとして海外での生活を経験してきた山﨑さん。日本以外の土地を訪れる中で、人々の暮らしと文化のつながりに興味を持ち始めたという。
その時の面白いエピソードを教えてくれた。ある国に滞在中、日本のアニメから日本語を学んだ中国人の話だ。
「滞在中に、突然日本語で『オラの名前は○○だ!』と自己紹介をしてくれた中国人に出会いました。どうしてそんな言葉遣いなのか?と尋ねると、ドラゴンボールの孫悟空のマネをしているというんです(笑)日本で親しまれているアニメの話が、まさかこんな場所で出てくるとは!と驚きました。
旅では、田舎のほうに行けば行くほど、政治や経済、メディアの話題とは関係なく、文化がものすごい力を持っていることを実感したんです
こうした経験が、「日本の文化とは何か」をあらためて考えるきっかけとなった。
「日本語って、自然を描写する言葉がたくさんあるでしょう。”雨”を表現するだけでも、『ザーザー』『シトシト』『パラパラ』、もっとある。その細かいニュアンスは、農作業や海の仕事をなりわいとしてきた、日本人と自然との密接なかかわりの中から生まれたと考えています。常に隣あわせだった自然から生まれた豊かな表現が、日本人の文化をつくってきたんじゃないかと思うんです。だから日本の文化は”自然”と切っても切り離せない」
文化を知るための活動の場として、出身地の福岡市東区にある志賀島を選んだ。志賀島は本土と陸続きの珍しい地形の島だ。玄界灘や博多湾に面し、漁業が盛んな町としても知られている。
山﨑さんは、島の文化を知るために何度も志賀島に渡り、地域の人たちと触れあう場を積極的に設けている。
海を相手する漁師も、ただ漁に出ることだけが仕事ではない。魚網や釣り具などの漁具も自分たちの手でつくる。海を相手にした日々の営みも、文化のひとつなのだということをあらためて実感したという。
そうした文化を伝えるために「漁師の手仕事」を通したワークショップも現在企画中とのこと。
「漁師さんが使う網をみんなでつくるワークショップを考えているんです。網を浜辺に並べて人がハンモックみたいに寝そべっている姿を想像してみてください。”人間干物”みたいでしょ」と楽しそうに笑う。
“公共心”が文化をつくると思うんです
小さな地域に息づく文化を伝えるミライオン。その根っこには「自分たちの文化や地域を自分たちのもとへ取り戻したい」という思いがある。
「京都で最初に”打ち水”をはじめたのは町人だと言われています。江戸にある何百もの橋を自腹で架けたのも、町人だった。僕は、この”公共心”が文化をつくると思うんです。だけど旅から帰ってきて感じたのは、この国の人々にとって”パブリック”とは行政や企業から与えられるものにすぎず、その結果として失ってしまった文化があるんじゃないかという危機感でした」
そのパブリックの心を、再び自分たちの手に。個々にあるパブリックを持ち寄り大きなパブリックを作る。そうして生まれたのが、ミライオンの「re-public」というコンセプトだ。
republicを直訳すると「共和制」。さらにさかのぼると、その語源は「公共のもの」という意味にたどり着く。
私たちの多くは、「公共の場」や「パブリック」と聞くと、どうしても疎遠に思えてしまう行政や役所のことを思い浮かべてしまう。けれど、公共の場とは本来、その土地に暮らし、顔と顔を合わせながら関係を作り上げていく人たちのもの。そこに気づいた瞬間、いつも歩いている街や、公園や、路地までもがより身近なものに感じる。そしてその場所が、たくさんの想像力を掻き立ててくれるようで嬉しくなる。
もう一度その土地に暮らす人たちがパブリックを作り上げていくこと、それがミライオンのre-public(再びパブリックを!)なのではないだろうか。
小さな地域文化圏をつくりたい
re-publicはその言葉通り、公共の場へと広がりつつある。
福岡市の中心部に残る市内最古の大名小学校。山﨑さんは一年後に迫る廃校を前に、その後の校舎の保存と活用を目指すプロジェクトも行っている。
「学校は未来を作る」というコンセプトのもと、建物の所有権としての「カギ=key」と、「キーパーソンとしての市民=key」のふたつをかけ合わせて、「KEYS FOR KEY」と名づけた。
廃校後は、取り壊されるのかも、保存されるのかも未定の小学校。このプロジェクトでは、その行方を市民と一緒に考え、集まった活用案は市に提案する予定だ。”市民”と”行政”の橋渡しとしての役割も目指している。
とはいえ人の出入りが多い福岡。単に「大名小を一緒に活用しましょう」と呼びかけても、そう簡単には響かないという。
「だったら地域に対する意識も一緒につくろうと、僕たちからあえて廃校後の活用案は出さず、市民の人たちからのアイデアを募っています」と話す。
ウェブサイト上では、すでにいくつもの案が寄せられている。子どものためのアートセンターや音楽のイベントスペースをはじめ、ゲストハウス、無料映画館、寺子屋など、大名小学校に対する人々の”パブリックへの想い”はさまざまだ。
プロジェクトには「家にある不要なカギを届ける」という、ちょっと変わった参加方法もある。
「かつて自分たちの大切なものを守るために使っていたカギを、大名小を残すための意志として持ち寄る。その結果、小学校が市民の誰もが活用できる場所になったら素晴らしいと思ったんです」
あえて堅苦しいやり方は避け、署名も集めない。山﨑さんにとって、プロジェクトに参加する意思表示として届けられたカギは、その名のとおり、大名小学校の未来を左右する”カギ”となる。
さらに集まったカギは、プロジェクト終了後にアート作品として生まれ変わる予定だとか。いつも若者で賑わい、個性的なファッションや飲食の店舗が並ぶ、なんともこのエリアらしい。
「このプロジェクトは小学校の活用が目的なだけではなく、小学校をとおしたまちづくりなんです」 かつて自分たちの学び舎としてあった学校が、その役割を終えたあとも新しい文化を生み出す場として生まれ変わる。そんな明るい未来を、自分たちでつくっていけるかもしれないの
さまざまな取り組みをとおして集まった意見は、福岡市に市民案として政策提言をする予定だ。
小さな地域の文化を住民とともに発見し発信するミライオンと、福岡市民全体を巻き込みながら展開されるKEYS FOR KEY。その姿かたちこそ違えど、「パブリックを再び自分たちの手に」という想いが込められている。
自分たちが住む地域の行く末をほかの誰かに委ねることは、楽なことでもある。けれどその土地に住む人々が、自分たちの住む場所をもっと愛せるように知恵を出し合ったら。
山﨑さんは言う。「仲間とワクワクする、あの感じがたまらない」のだと。そうして彼は、今日も新しい文化を求めて日々奔走中だ。
(取材/文 堀尾真理 、写真/大田)
Profile
- 山﨑基康(やまさき もとやす)
福岡出身、福岡在住。建築設計事務所にて学校や病院など公共建築の設計に携わる。アジア放浪、国際NGO活動を経て、地域文化圏をつくるためミライオンを設立。2012年春、福岡市最古の大名小学校が2014年に廃校になることを知り、廃校後の校舎保存と活用を市に提言するためKEYS FOR KEYを立ち上げる。
KEYS FOR KEY□http://keysforkey.net/