コトバナ

コーヒーから考えるこれからのライフスタイル 〜後編〜

コトバナ VOL.003 テーマ「コーヒーから考えるこれからのライフスタイル」

2015.01.26(月)

過去の当たり前をもう一度見直す

山内さん(以下山内) 坂尾さんは、単においしいコーヒーを提供するというだけでなく、コーヒーを通してこれからの生活やライフスタイル自体を変えていこうと提唱されてますね。坂尾さんの考える、新しいライフスタイルとはどんなものなのでしょうか。

坂尾さん(以下坂尾) 大企業やメディアにパッケージされ、あてがわれた生活ではなく、豊かさとは何かを考えさせてくれるものを生活に取り入れる、ということでしょうか。例えば、安全で新鮮な食材を食べること、大量生産ではなく作り手の顔が見えるものを買うこと、環境に配慮すること、DIY精神を持って自分たちでできるものは自分たちでやってみること、ノマドワーカーのように自由なスタイルで仕事をし、登山やトレイルランニングやヨガなど身体にいいことも積極的に取り入れること。そういう、自分たちの身近なものから作り上げる、身の丈にあったライフスタイルということです。

山内 なるほど。何かを変えていこうという時に、意識だけで変えていくのは難しいことですが、「楽しい」「おいしい」といった、人間の快楽に結びついたものなら、広めていきやすいですよね。

坂尾 コーヒーでも野菜でもいいので、何かを入り口にして自分たちの生活を担っているものを細かく見ていくこと。過去の当たり前をもう一度見直し、自分の目で見て感じて判断することが大切だと思います。

感度の高さが人を呼ぶ

山内 坂尾さんに限らず、東京で新しいライフスタイルを模索している人たちが、それぞれの街で活動されている様子は、雑誌などを通じても伝わってきます。直接交流のある方もいらっしゃるんですか?

坂尾 もちろん、お互いの店にもよく行き来していますし、仕事を頼みあうこともあります。友達同士で、上手にお金を回していければいいなと。

山内 「ネットワーク里山」という感じでしょうか。面白いですね。そういう人たちとは、どんなきっかけで出会うのですか?

坂尾 フリマで出会うとか、友達と鍋をした時に自然と出会ったりと、気づいたら繋がっているという場合が多いですね。出店した時には繋がりを作るために異業種交流会などにもよく行っていましたが、そういう出会いは結局ぜんぜん続きません(笑)。

山内 感度の高いコーヒーが、同じように感度の高い人を引き寄せていく、ということですね。

坂尾 コーヒーの味に敏感になれば、パンもコンビニではなくおいしいパンが食べたくなりますから。

山内 そこでいう「おいしいもの」「良いもの」の基準は何でしょう?

坂尾 本質的であること、でしょうか。コーヒーでいえば、焙煎で焦がしていけば苦みが増しますが、それは素材そのものの味というよりも、人為的な味のつけ方です。僕らはあくまで、豆の本質をなるべくそのままコーヒーに出して、味わいの違いを楽しんでもらおう、と思っています。

坂尾さんがこの日のイベント用に特別に用意しくれたのは、エチオピア南部のアリチャ村のコーヒー。上品な香りが会場を満たした

良いものを味わう時間や文化を広めたい

山内 福岡のコーヒーシーンについてはどんな印象をお持ちですか?

坂尾 レベルはとても高いと思いますが、ライフスタイルカルチャーとして捉えられているのかというと、少し違う印象ですね。オーストラリアではサードウェーブコーヒーの台頭によってスターバックスが撤退することになりましたし、NYでもセカンドウェーブ系の店舗は徐々に減っています。でも福岡は、意識の高いサードウェーブコーヒーとセカンドウェーブ系チェーン店が、すごく近い距離で共存している。それは不思議に思います。

山内 興味深いですね。東京は違うんですか?

坂尾 東京はどこの街でもチェーン店が多くて、手作りのおいしいパンを食べようと思ったら、電車に乗って買いに行かなきゃいけないんですよ。震災の後に、自分たちの不安定な生活に危機感を持った人がそれを建て直そうと動き出しているのが東京の現状ですが、福岡にはそういう危機感は感じないですね。食べ物はどこで食べてもおいしいし、東京に比べれば生活に不便が少ないんだと思います。

山内 福岡に住んでいると見えてこない視点ですが、確かにそうなのかもしれません。

坂尾 僕らはまだまだ、コーヒーの本当の良さを伝え切れていないと感じていますから、まずは東京でそれをきちんと広めて、良いものを大切に味わう時間や文化を、仲間と一緒に作り出していけたらと思います。

山内 本日はどうもありがとうございました。

新しいライフスタイルを提唱する、坂尾さんの仲間たち

ゲストに聞きたかったコト

興味深い質問が、多数飛び出しました

私はNYと福岡で生活しています。NYでは、ブルーボトルコーヒーが流行っていますが、本来サードウェーブコーヒーは、チェーン展開にはそぐわないのではないかと思います。丁寧な一杯を提供し続けることと、広く大きく展開していくことは、本質的な矛盾を感じます。坂尾さんのご意見を聞かせてください。
坂尾 ブルーボトルコーヒーは、15年にわたって継続してサードウェーブコーヒーを広め、もはやサブカルチャーとして確立されつつあります。3月には東京にも出店します。シリコンバレーから投資を受けて大規模に展開し、クラフトマンシップというよりはセカンドウェーブに近い展開にこれからなっていくでしょう。それは、コーヒー界の未来という点では興味深いですが、僕らの活動は、まだまだメインを叩き潰すインディペンデント精神でやっていることで、まだカルチャーになっていないものを、自分たちの手でカルチャーにしていけるということが面白いと思っています。
新しい人と関係を作り、仲良くなっていくために、自分をどんなふうに表現していますか?
坂尾 好きなことを、なるべくはっきりと伝えるようにしています。多少大げさでも、自分が東京のコーヒーカルチャーを作っている、ぐらいのことを話します。感度の高い人は、だいたいスペシャリティコーヒーの存在は知っていますが、詳しくは知らないので情報を欲しがっている場合が多い。その時に丁寧に説明してあげると、僕自身のことも印象に残るようです。
シーンを作るために、具体的にどんなふうに活動していくのでしょうか?
坂尾 コーヒーを広めたいと考えた時に、まずはフォロワーをつけようと思いました。当時は、おいしいコーヒーだけ作っていればいいという人はいましたが、自分で旗を振ってそのよさを広めようとしている人は少なくて。飲食系の人は、ワークショップやセミナーにも行かない人が多い気がします。ですが、僕はなるべく自分とは職種の違うところに顔を出し、ワークショップの主催者たちと仲良くなっていきました。個人的にはトークやワークショップは苦手なんですが、苦手なことを積極的にやっていこうと思ってましたし、今もそうしています。

コトバナ編集後記

トークショー前に2日間ほど福岡に滞在し、コーヒーのレベルの高さやビオワイン店の多さなど、食の豊かさに驚いたという坂尾さん。しかし、豊かさも当たり前になれば、人はなかなか気づきにくいものです。3.11後の東京で危機感を持ちながら、なんとか作り出そうとしている生活の豊かさを、福岡は恵まれた環境によってある程度達成できているのだとしたら、その先に何を描いていくのか。これからの時代のライフスタイルを考える上で、福岡の街は重要な役割を担っているのかもしれません。(佐藤)

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