コトバナ

コーヒーから考えるこれからのライフスタイル〜前編〜

コトバナ VOL.003 テーマ「コーヒーから考えるこれからのライフスタイル」

2015.01.23(金)

地域を魅力的にする人、あたらしいライフスタイルを実践している人をゲストに迎え、参加者とともに考えるトークイベント「コトバナ」。第3回目のテーマは、「コーヒーから考えるこれからのライフスタイル」です。近年、日本でも注目を集めているサードウェーブコーヒー。今回は「ONIBUS COFFEE」「ABOUT LIFE COFFEE BREWERS」の代表として、東京のサードウェーブコーヒーシーンをリードし、solid & liquidでもコーヒー豆を提供しているバリスタの坂尾篤史さんをお迎えしました。目の前の一杯のコーヒーを大切にすることから、身の丈に合ったライフスタイルを提案する坂尾さんのお話は、これからの時代の生産や消費のあり方を考えるきっかけにもなり、コーヒー好きならずとも注目のトークショーとなりました。

山内泰
「自分たちの求めるものを自分たちでつくる」文化的な社会を目指して、コミュニティデザインや文化事業に取り組むNPO法人ドネルモの代表理事。
坂尾篤史
バリスタ。1983年生まれ。留学先のオーストラリアでカフェの魅力を知り、帰国後2年半の修行を経て、2012年に独立。奥沢に「ONIBUS COFFEE」、2014年5月には渋谷道玄坂に「ABOUT LIFE COFFEE BREWERS」をオープンし、コーヒーを通じた新しいライフスタイルの提案を東京から発信している。

大工からバリスタへ

山内さん(以下山内) 今日はよろしくお願いします。まずは、坂尾さんとコーヒーとの出会いから聞かせてもらえますか。

坂尾さん(以下坂尾) よろしくお願いします。初めに自己紹介をしますと、僕は千葉県の銚子市に生まれて、高校を卒業してから建築の専門学校にいき、大工の仕事をしていました。

山内 え? 意外ですね!

坂尾 父が大工だったので。毎日ニッカボッカを穿いて、建設現場に行ってました。自分がコーヒーに携わるなんて、当時は思ってもいませんでしたよ。

山内 何かきっかけがあったんですか?

坂尾 もともと僕は職人気質で、ひとつのものをとことん突き詰めたかったんです。ところが、今の時代の大工はノミやカンナを使わないので、「もう一流の大工は育たない時代」と言われていて。大きな失望感を抱えてました。

山内 出鼻を挫かれてしまった、と。

坂尾 そうなんです。ちょうどその頃、地元でキャンプをしている時に、オーストラリア人のバックパッカーと知り合いました。「日本は狭い国だから、ヒッチハイクで縦断できるだろう?」なんて言われて、スケールが大きいなあと感動して(笑)。

山内 はは、確かに。

坂尾 それで、もっと世界を見に行こうと思い立ち、オーストラリアに語学留学しました。そこで、コーヒーと出会うんです。

山内 オーストラリアはコーヒーが盛んなんですか?

坂尾 カフェは多く、バリスタの意識も高いです。バリスタは自給25ドルの高給取りで、朝7時から午後2時までの間に、約1,000人ものお客さんにコーヒーを出し、店を回しています。それも粗雑なものではなく、丁寧に淹れたとてもおいしいコーヒーです。ルームメイトだったドイツ人が、毎日学校の前にカフェに寄ってコーヒーをテイクアウトしていて、そんな風に飲む側の生活にも根付いている感じが、またカッコよく見えて。

山内 それで、バリスタになろうと決意したんですか。

坂尾 すぐにではなく、その後しばらくバックパッカーとしてアジアを旅して周っていました。バックパッカーの旅は、自分を制限するものが何もないので、すべてを自分で判断して行動しないと、何も進まないんですよね。その時に、いろいろと将来のことを考え始めて。

山内 なるほど。

坂尾 それで、日本に戻って、バリスタの世界チャンピオンであるポール・バセットがプロデュースしているカフェで修行しました。まるでシェフが食材と向き合うように、丁寧に一杯のコーヒーを淹れていく様に職人魂をくすぐられ、必死で勉強しましたね。

ご自身の体験を踏まえて、わかりやすくお話しいただいた

ボランティア体験に後押しされて

山内 独立のきっかけは?

坂尾 2年半勤めた頃に、東日本大震災が起こって、ボランティアに行って。そこで、被災者の方に「モノはいつかなくなってしまう。だから、後悔のない人生を送ってほしい」と真剣なまなざしで言われたのがすごく印象に残り、自分も行動しなければと思って、店を出すことを決意しました。

山内 ボランティア体験が大きかったんですね。

坂尾 そうです。津波ですべてが流されてからの3ヶ月間は、まるで人類の進化を凝縮してみているようなスピードで復興が進んでいきました。ボランティア団体を組織していたのも僕より若い人たちで、そのスピード感に僕も触発されて。2011年の5月にボランティアに行き、夏には会社を辞め、翌年1月には奥沢に「ONIBUS COFFEE」をオープンしました。

山内 それは早い! でもなんで奥沢だったんですか?

坂尾 当時、東京にはまだちゃんとしたエスプレッソを出すお店がありませんでした。味に対しての自信はあったので、東京で一番おいしいならどこでやっても自然に人は来るだろうと思って、人通りも少ない場所でしたが、奥沢を選んで。

山内 うまくいきましたか?

坂尾 最初の10ヶ月は、全然人が来ませんでしたね(笑)。それで、お店以外で自分の活動を広めていこうと、ワークショップの開催や、自由大学でコーヒーの授業をしたりして、少しずつ展開していったんです。

山内 昨年には2店舗目を出したんですよね。

坂尾 そうです。どうやってコーヒーを広めていくかにこだわり、東京でも有数の繁華街であり通勤客も多い渋谷の道玄坂に、思いを共有できる人たちと共同出資してオープンさせました。

山内 なるほど。後半は、コーヒーを広めていく活動の先にある、ライフスタイルの話を伺いましょう。

坂尾さんのコーヒーに対する真摯な姿勢と味は高く評価され、さまざまな媒体にこぞって紹介されている

サードウェーブコーヒーって?

コーヒーの世界では、まず60年代に缶コーヒーや真空パックのコーヒーが出回り、大量生産・大量消費のモデルを作った。これがファーストウェーブだが、味よりも経済効率が優先されたものだった。そこに、深煎りのエスプレッソを使ったラテなどでブームを巻き起こしたのが、セカンドウェーブ。シアトル発の動きで、日本には96年に銀座にスターバックス一号店ができてから、またたくまに広まった。そして近年注目され始めた、産地や精製、焙煎、抽出まですべてにこだわったスペシャリティコーヒーのことを、サードウェーブコーヒーと呼ぶ。  サードウェーブコーヒーは、豆が本来持つ香りや味の違いを、ワインのように楽しむコーヒー。「From seed to cup」といわれ、産地だけでなく農園、生産者まで、すべての過程に透明性がある。豆の風味を楽しむために焙煎方法は浅煎りで、酸味のあるすっきりした味わいのものが多く、冷めてもおいしく飲めるのが特徴。

私の一冊

沢木耕太郎『深夜特急』
佐久間裕美子『ヒップな生活革命』

『深夜特急』は、これを読んだ人は誰もがアジアへ旅に出てしまう、バックパッカーのバイブルですね。もちろん僕もその一人です。『ヒップな生活革命』は、サードウェーブカルチャーやライフスタイル革命など、僕らが押し進めていきたいことについて、アメリカ在住の著者がわかりやすく解説した本です。

コトバナのトークイベント情報はこちら

POPULARITY 人気の記事

PAGE TOP