インタビュー

写真家竹沢うるまさんとお話しました。(2)

conversation_mianheader_012013.3.27 up

写真家竹沢うるまさんとダイスプロジェクト橋爪の公開対談

※対談で紹介されたうるまさんの写真は全てこちらのサイトからご覧いただけます。
億光年の旅人□http://billionlightyear.com/

#02 想像を超える地アフリカ

conversation_img06

橋爪 うるまさんの写真は、その場の空気感みたいなものが一瞬でふわぁっと伝わってくるような、そんな写真が多いなと思っているのですが、アフリカでのこの写真は特に印象に残りました。

conversation_img07

うるま これは成人の儀式の写真です。16頭の牛を並べてその上を走り抜けるんです。彼は儀式を取りはからうシャーマンみたいな人ですね。トランス状態になっていて、僕のことはほとんど目に入っていないんですよ。この場所に足を運ぶのがすごく大変でした。まず場所の情報が得られない。彼らの部族出身の人を近くの村で見つけて、道なき道を4〜5時間四駆で。そこから枯れた川の中を上流の方に3〜4時間行ってやっとたどり着きました。そしたら次は酋長に挨拶して、貢ぎ物をして。言葉が全く分からないから、案内してくれた人に全部任せて、僕はブッシュの中に隠れていたんですが、3時間くらいしてようやくOKが出ました。
橋爪 貢ぎ物というのは?
うるま お金です。
橋爪 なるほど。じゃあ都心部、街ともけっこう交流はあったりするんですね?
うるま いえ。彼らは貨幣経済の中で生きていないからお金は必要ないと思うんです。ただ彼らにとって「銃は力の象徴」、「お金は富の象徴」なんです。だから象徴的な意味合いで欲しがる。もうちょっと文明的な社会とつながっている民族であればお金は渡したくなかったんですけどそうではなかったので、僕には牛も銃もないし、これでお願いしますって渡しました。酋長には許可を得たんですけど、その情報が村人に行き渡ってなかったようで、神聖な儀式の中でバシバシ撮影していたら周りの人たちが怒り始めて。そのうちの1人に銃口を向けられて、これは参ったなと思いました。でも、案外そういう時は冷静なんですね。太陽の温もりとか風の音とかよくわかるんです。「ああ、人ってこんな風にして死ぬんだな」なんて思っていました。結局、一緒にここまできた部族出身のやつが急いで走ってきて、間を取り持ってくれたんで大丈夫だったんですけどね。

conversation_img08

橋爪 へぇー。いきなり濃いエピソードですねぇ(笑)。ではこちらの写真。これは学校の教室かなにかですか?

conversation_img09

うるま これはウガンダの孤児院です。ここにいる子どもたちの両親はほとんどエイズで亡くなっています。ウガンダのカクト郡はエイズ発祥の地と言われ、ものすごく伝染病が蔓延しているところなんです。ここで約1週間、ボランティアも兼ねて滞在しました。
ここで暮らす子どもたちはどんな生活を送っているのですか?
うるま 朝は6時30分に起きて、まず掃除をしてから朝ごはんの準備を始めます。火を焚いて、2〜3キロ離れた川まで水汲みに行って。そして家畜の世話をしてから授業を受けています。授業が15時30分くらいには終わって、そこからまた水汲み、家畜の世話、掃除、植えてあるバナナの世話など。それが終わったら晩ご飯の準備をはじめます。

conversation_img10

うるま この学校は、晩ご飯まで済むと寝るまでの時間は基本的に自由なんですが、彼らは勉強意欲がすごく強くて。電気が通っていないのでランタンのようなものを持って食堂に集まり、ボロボロになった教科書で一生懸命勉強しているんです。僕もそうでしたけど、日本の子どもって勉強は“したくないもの”ですよね。だけど、彼らは勉強することに対して貪欲なんです。生活のことを自分たちで全部やりながら、電気もガスもない、お金もない、両親もいないところで勉強しているんです。 旅をつづけてきて、やっぱり日本は豊かだな、とあらためて感じました。
橋爪 日本では、水も蛇口をひねれば出てくるし、学校に行けば給食が出て。冷暖房の整った学校もありしますし。日本の子どもたちはやっぱり恵まれていますよね。ちなみに、アフリカではどの国が好きですか?
うるま ニジェール、マリ、エチオピア、マダガスカルですね。マダガスカルは特に自然が気持ちよかったです。

conversation_img11

うるま ここはムルンダバの西部の海岸にある、バオバブ街道と言われている場所。本当に変な形で不思議なんですけど、すごく生命力に溢れています。バオバブは英語で「UPSIDE DOWN TREE」“さかさまの木”という意味があります。これは空に根を張っているように見えるから。大気中からエネルギーを吸って生きている感じがして、なるほどなあと思いました。根っこがどうなってるのか気になりますよねぇ。ひっくり返しても同じになってるかもしれない!
橋爪 はははは。確かに!地下に伸びてる根っこはどんな形なのか、想像が膨らみますねぇ。 この辺の移動はずっと歩きですか?
うるま 歩いたりバスに乗ったりですね。アフリカのバスは大変ですよ。ちょっとこの写真…。

conversation_img12

うるま おばちゃんたちがなぜ走っているのか想像できます?バスの座席を確保するためなんです!
実はバスに乗ったあとが大変で、一番辛かったのは4ドアのセダンのバス!日本で乗るセダンは前に通常2人、後ろに頑張って4人でしょ。あれに10人乗りますから。(乗り方をジェスチャー、ポーズで説明)前に4人、後ろに4人乗ってさらに2人入る。

conversation_img13

橋爪 それはすごいですね(笑)。だけどこれって日常の風景なんですか?
うるま そうですね。このエリアは特に、かもしれませんが。
それと、アフリカでは乗客が集まらないと出発しないバスもあるんですよ。運が悪いと朝の6時に行って、昼の2時、3時くらいまで待たないと出発しないこともある。
よく「耐えるアフリカ」っていわれますよね?例えば電車とかも何日も待たないといけないことがあるんですか?
うるま ん〜電車は3日に1回しか出なかったり、路線自体も少ないですね。バスは結構走ってますよ。 でも耐えていたら10ヶ月旅できないです。神経がだめになっちゃう。だから鈍感になること、気にしないことですね。3ヶ月くらいは僕も我慢していたんですよ。野菜も摂れないからビタミン不足でイライラしてたし、マラリア予防の薬の副作用もきついし、さんざんな精神状態の時もありましたけど、その後はなんというか、そこを抜けた瞬間、ある意味“達観”したんでしょうね。すべてのアフリカ人が愛おしくなりました(笑)。
橋爪 (笑)きっとさっきのおばちゃんの写真はその後に撮ったんでしょうね。

conversation_img14

うるま そうそう。あー、走ってるなー、楽しそうだなーみたいな(笑)。

conversation_img15

橋爪 んーこのシルエットの写真もきれいですね。
うるま そうなんです。アフリカの人たちはシルエットが半端なくきれいなんですよね。何をしていても絵になる。ただ、写真をものすごく嫌がるんです。彼らは自分たちの容姿をコンプレックスを持っていて、例えば髪の毛が縮れているのも、何でそんなにっていうくらい気にしているんですよ。女性はだいたいエクステンションもしくはカツラをかぶるので、そういうお店が結構あるんです。そんなことしなくても格好いいしきれいなのにって思うんですけど。だから、写真を撮られるのを嫌がるんです。でも仲良くなると、本当は写りたいらしくて「撮ってくれ撮ってくれ」ってなります。撮って見せるとどんどん俺も俺もってポーズ取り出すんですよ(笑)。
橋爪 はははは。この写真は何時ぐらいでどういう時なんですか?
うるま これは日が暮れる前ですね。サハラ砂漠の南部の地域で、サヘル地帯という乾燥地帯で。映像などで、干ばつでガリガリに痩せておなかがポコッとなった子どもを見たことがあると思うのですが、このエリアでもああいった干ばつがよく起こっています。すごく乾燥していて常に砂が舞っていますね。
橋爪 なるほど。写真の色味が黄色がかっているのは砂の色なんですね。
うるま そうです。影絵のようなシルエットがすごく美しいですよね。

conversation_img16

橋爪 では、もう1枚だけアフリカの写真を・・・これは何の時の写真ですか?

conversation_img147

うるま あぁ〜。いわゆる「秘境」と呼ばれている地で撮ったエチオピアの少年です。だけど、いざ“秘境”と言われるところに足を運んでみると、人が住んでいて生活があって、社会があって、色んな仕組みがそこにはあるんですよ。つまり“秘境”は相対的に見た時しか存在しない概念だと思うんです。本当の意味での“秘境”はこの地球には存在しないと思いますし、彼らが僕らを見たらこっちを秘境と思うかもしれない。世界的に見たら、いわゆる先進国といわれている国々って、実はマイノリティで、マジョリティではない。グローバルなスタンダードって何やっていわれたら、アフリカなり南米なり、いわゆる途上国と呼ばれている国の方がスタンダードなんですよね。それってやっぱり僕らももっと認識した方がいいんじゃないかってすごく感じました。

conversation_img18

橋爪 そういった国々を歩いてから、先進国と呼ばれる国へ戻って来て、何か感じられましたか?
うるま 昨日、それこそ韓国から福岡に入って夜街をブラブラしましたけど、好きなもの食べられるし、やりたいことできるし、お金あるし。あぁ豊かだなって思いましたよ。でも、ものに満たされすぎていて、“生きる”という意味がどういうことなのか忘れちゃっている部分もありますよね。これは僕の主観ですけど、僕らが日常で感じている物足りなさはそこから来ているんじゃないかと。日々を生き抜いていくという充実感が欠けているのかなって思います。僕らには選択肢がある。でも彼らには生きるという選択肢1個しかない。そのために何をするか、それだけですから。

conversation_index02

conversation_img006


POPULARITY 人気の記事

PAGE TOP