インタビュー

「ナリワイをつくる」。伊藤さんと山内さんとお話しました。(1)

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伊藤さんと山内さんと「ナリワイをつくる」についてお話します。

暮らしの中から仕事を見出し、それを少しずつ生業に変えていく。生活の延長線に“仕事”を置くことで、無理なく暮らしも健康も充実させるという「ナリワイ」。
仕事のストレスを解消させるために、稼いだお金を費やすことは、本当にあたり前?働き方の目線を少し変えると、もっと暮らしが豊かになるかもしれない。今回の対談ではそんなヒントをいただきます。

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#01 ナリワイの成り立ち

伊藤さんは、本の出版を機に各地を巡業中。今回、九州博多にも立ち寄られました。対談のお相手は「NPO法人ドネルモ」代表の山内さん。さまざまなプロジェクトやイベントを通じて、既存の価値観や仕組みを新たな目線で捉え直すための活動をされています。今回は「公開対談」という形で開催しました!

まずは自己紹介

伊藤 僕は基本的に自営業のような感じで、一つの事業をガシッとやるようなものではなく、あまり元手をかけずに思い立ったら自作して始める、という仕事を5~6個くらいやってなんとか生きているという小規模自営業者です。
 小さい仕事をつくるのってけっこう大変そうだと思いながら、5年前からやってみたんですが、これが結構楽しくて。失敗したこと、楽しかったこと等色々を本にまとめたものが今年の7月に出ました。自費出版でもないんですが、放置してもあまり売れないだろうから自分で売ろうと思って、日本全国回ってます。まずは西からということで福岡にやって参りました。
山内 福岡でNPO法人ドネルモという団体の代表をしています。「ナリワイ」という考え方にはすごく共感していて、個人的にも、自分たちの求めるサービスを作っていきたいなと思ってきました。そこで、そのためのサポートや仕組みづくりに関わるプロジェクトにドネルモでは携わっています。
 今日はドネルモの活動の話も交えつつ、伊藤さんの活動や「ナリワイ」についての話ができたら、と思っています。
伊藤 生きていると、こんなものにお金を使ってしまったということが多々あると思うのですが、僕は基本的に、生活の中で無駄だと思うものをどうにか減らせないかと考えています。無駄を減らすと、まず自分の生活費が下がるわけですよね。 例えば30万円削ることができれば、30万円の仕事を作ったのと同じ効果があるわけです。
 いきなりお金を稼ごうとするのではなくて、自分の生活を変えようとする方がよっぽど手っ取り早いし、やる気も起きる、ということでそれを実践しているわけなんです。その30万円を減らすということが意外といいワザだったら、ついでにそれを他人にも適応できるような形にすれば、仕事になるやないか、ということを思いついて、そういう作戦で生きております。

モンゴルツアー

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伊藤 学生の頃、モンゴルにめちゃくちゃ行きたくて。調べたら旅行会社が紹介するモンゴルツアーというものが全然楽しそうじゃなかったんですよ。
気ままに遊牧民みたいに雄大な草原の中で寝っ転がるとかしたいのに、スケジュールが管理されているんです。朝8時に起床とか、乗馬2時間とか決まっていて、行く前にすべてが失われているようなツアーが多くて。だから、思い切ってツアーの企画を立てたんです。観光名所を回る普通の観光ツアーではダメだと思って、現地の遊牧民に弟子入りするようなツアーにしたわけです。予定はなく、しかもわざとトラブルが起きそうな雰囲気にしてある。それが意外におもしろくて、6年目も続いている私の仕事なんです。
山内 6年も飽きずにやってらっしゃるんですね!
伊藤 ちなみに、遊牧民になる条件は、相撲が強いこと、羊を解体できる、馬に乗れる、あとはゲルが立てられるということ。これが揃ったらモンゴル人と結婚できるっていわれました。まだその予定はないですけど。(笑)
通常なら「お客様」なので、お客様にお尻が痛いなどということがあってはいけないので乗馬2時間だけになっちゃうんですけど、それではせっかく遊牧民になれるチャンスを逃してしまいます。僕のツアーはそれをやりきるためのツアーになっていて、当然しんどいです。死ぬほど馬に乗るんです。お尻が痛いとかいっても全く受け付けないので。(笑)
山内 (笑)そのツアーをしかも年に2回も!

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伊藤 そうです。7月と9月だけしかやってないんです。普通の考え方だと、ここで「モンゴルツアーで起業しよう」と思ってしまうんですが、それをやると毎月モンゴルに行かなきゃいけなくなるから、僕自身が飽きるわけなんです。毎月モンゴルか…、もうええわとなってしまう。だから、7月と9月しかやらないということに決めて、毎年新鮮な気持ちでこのツアーを開催することができてます。専業ではなく、理想を追求してもつぶれない体制を組んでいるので続けられるんです。今の世の中の問題って、提供する側が頑張りすぎてしんどくなってるんじゃないかなって思うんですよね。専業にすると毎月やらないといけないということで、苦労する。そうやって見ていくと、世の中には結構歪んでいる仕事があるということに気がつくわけですね。

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熊野暮らし方デザインスクール

伊藤 これは和歌山県の熊野川町という山奥で、廃校を借りてやっているパン屋さんです。小麦を自分で育てながら、廃校を自分で管理・運営していらっしゃいます。泊まることもできるし農業もできて、パン屋もやっています。土窯でパンが焼けるんですよ。
 ここで「田舎でパン屋を開くにはどうしたらいいか」を特訓する学校をやっていまして、私は1人事務局長をやっているんです。
山内 へぇー。これはどういう経緯で始めたんですか?
伊藤 はい。一般的な専門学校って、自分がそれで身を立てて生きていこうとしたときに、必要な情報が実は学べなかったりすることが多いんですよ。
 例えば、僕の友人で毎年学費を100万円払って、3年間帽子のデザイン学校に通った子がいたんですけど、30人ほどいた生徒のうち、帽子のデザインに関わる仕事に就いた人の割合ってどれくらいだと思います?
山内 5人もいないんじゃないですか?

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伊藤 そうなんです。3人しかいなかったんです。結局友人は帽子を含めた雑貨の倉庫管理の仕事をしていました。それだったら倉庫の専門学校に行った方が良かったという話になってしまう。
山内 確かにそうですね。ドネルモの活動でも、デザイン系に携わる若年層の就労を考える「オルケスタ」というプロジェクトをやっています。福岡って、デザインを専門にしている大学や専門学校がめちゃくちゃ多い。その一方で、30歳を超えてデザインを仕事として続けられる人はそれほど多くない。デザイン会社で働いても、忙しい反面、収入はそんなに上がらないのが現実。やむなくフリーになったとしても、そのためのノウハウやスキルが培われていないから、結局辞めざるを得ないという状況がある。だから、ドネルモの「オルケスタ」では、学生さんにクライアントと関わりながら制作する機会を、ドネルモが受けた仕事の中で提供したり、今まさにデザインに関わっているプロの方に、スキル面だけでなく、実際必要なノウハウや、“お金の話”なんかもしてもらったりしてます。
伊藤 それはいいですね。学校では現場に出ていない方が先生をやっていることが多いから、どうやってフリーでも制作活動が続けられるかとか、就職につながるか?ということを具体的に教えることができないと思うんです。 それとやっぱり30人を1人で教えるというのはなかなか難しい。
山内 専門化というより分業化が、産業だけでなく就労や教育でも問題になってきていますね。
伊藤 そうですね。だから私はその歪みがどうやったら良い方向に向かうかを考えていまして。学校という仕組みから、いらないものを考えました。まず、校舎はいらないだろうと。それから大人数というのもやめた方がいい。先生をずっと雇うのもやめたいし事務員もいらん。それなら実際にやってるところで教わったらええやないか、ということなんです

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伊藤 このパン屋の学校では、小麦の作り方から、土窯の土をただで手に入れる方法とか、田舎での人付き合いの秘訣とか、本当に必要なこと全部教えてくれるんです。だから参加した人は、こうやればすぐできるんだな、ということがすぐ分かるという仕組みになっています。
 教える人間が、学校というある種の仮想空間ではなく、リアルに実践していらっしゃるからたまにしか開校できない上に、1回5人くらいにしか教えられないんですが、毎回非常に濃い内容になっています。受講費は1週間12~15万円なんですけど、宿と3食付いているんですよ。安い!
山内 どんな風に受講生を受け入れているんですか?
伊藤 これも専業でやると事務局長の給料が高くてつぶれてしまうので、申し込みがあったらメールとかで面談をして、この人なら大丈夫と思ったら入学許可を出しています。
 これまで30人くらいの方が受講したんですが、3~4割の方が田舎暮らしを実行してらっしゃいます。パン屋を始めたのは3~4軒かな。これはなかなか効果があるな、というのを実感しておる次第です。

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