インタビュー

音泉温楽主宰田中宏和氏×DJシュニスタ(3)

conversation_mianheader_012012.11.1 up

音楽温泉主宰田中宏和氏×ダイスプロジェクト(DJシュニスタ)小石

conversation_img12

#03 温泉がもつグルーヴ。

田中 温泉地って地域によって、人と温泉の関わり方とか温泉を中心としたコミュニティのあり方が全然違うんよ。視点を変えて温泉を見てみるとそこがすごく面白い。
小石 へぇー。例えばどんなところが?
田中 農業とかそこの土着の産業とかと温泉が密接してることが多くて。例えば農家のなかでも稲作が中心の地域は温泉が湯治の役割になってるの。長期滞在する中で祭り型のコミュニティができてたり。ハレの日に温泉に集まって自分達が作った食べ物持ち寄ってそこでどんちゃんやる。そういうコミュニケーション。東北の温泉地に多い。一方で九州の別府で考えると、町のそこここに公衆浴場があって、2階にはだいたい公民館がある。みんなお湯で語らって、お湯から上がると公民館で特に何もないでも話す。それが日常なの。そういう日常を中心としたコミュニケーションが残っている場所っていうのは、これからすごく魅力的な場所になっていくはずで、日本人がすごく大事にしないといけないものだと思ってる。
小石 なるほど、そういう気付きが温泉を通じて見えてきたんやね。
田中 都市にない暮らしなんよね。都市が持たない、持ち得ない機能を持ってる。都市がどれだけ欲しいと思っても手に入らない。それがすごくこれから意味を持ってくるんだろうなと思ってる。
小石 それは東京にいたからこそ気付いたことなのかもね。
田中 それはあるね。持ってきた土地のパワー×時間がお金になってる。要するに、人がいろんな土地から持っていくその土地のパワーと自分の時間を都市でエネルギーに代える。その対価としてお金が発生する。だから都市にずっといると“気”が枯れちゃうの。 時々温泉に行きたいとか、休みたいとかゆっくりしたいとか南の島に行きたいとか、そういうのは”気”を取り戻したいと体がSOSを出すんだよね。
小石 都会にいると何かと疲れやすい、みたいな。
田中 そう。でも温泉地は都市の時間と全く違う時間が流れていて。エネルギーに関しても電気じゃなくお湯が中心。時間もエネルギーも都市とは違うの。人が温泉地にエネルギーを獲得しに行くという、真逆の構造があるの。温泉地にしかないものいうのは、つまりエネルギーなんだと思ってる。

conversation_img13

小石 それは新しい視点やね。
田中 温泉地って、ちょっと目線を変えたらエネルギー生産の拠点よ。例えば大分県は日本一地熱発電のエネルギー量が高い。地熱の自家発電で館内の電気をまかなっているって旅館ホテルもあるしね。エネルギーが、大地から溢れるお湯によって獲得できる。つまり誰かがそこにエネルギーを持って来てお金を対価にしなくてもエネルギーが発生してるの。エネルギーの最先端地なわけ。
 視点を変えて、都市とは何かとかお湯とは何かとか、一歩俯瞰してみると見方が変わってくるなぁって。
conversation_img14

▲2012年綱島音泉での様子

 

小石 そういう気づきも4年もやってると出てくるよね。始めた当初とイベントで何か変化とかあった?
田中 ああ、そうねぇ。リピートしてくれる方が多いなと思います。最初は2人で来てたのが、次は6人とか8人で来てくれたり。楽しいことをみんなで共有するフェス感覚の延長で温泉でイベントを楽しむ。音泉旅行を楽しんでいるんだよね。
 人は湯の前に平等で。男も女もじいちゃんもばあちゃんも子どもも関係ない。お湯に入ったら同じチューニングされて和ができるっていうわけです。だからイベントのアーティストもお客さんも我々スタッフもその土地にいる人も同じチューニングになるわけであって、垣根がなくなるわけですよ。
小石 そうなるねー。確かに。
田中 特殊なグルーヴ感があるよね。音泉温楽は座敷の宴会場にみんな座って楽しんでもらうのがコンセプトなんで、みんな立って踊ったりしないから手をたたき出す。人は踊れなくなったら手を叩くんだっていう発見が。座敷で手を叩くっていうのはホールとかと感覚が違って。しかもちょっともみ手になるんだよな(笑)。それがすごくおもしろい。
 あと、畳の座敷だと隣の人とコミュニケーションしやすいんで、気付いたらトランプやってる人とか、もちろん寝ちゃってる人もたくさん。お子さん連れの若いファミリーも多く参加してくれたり。お連れの小学生は入場無料にしてるから、通常のフェスよりも子どものいる比率はかなり高いよ。
conversation_img15

▲座敷や足湯でリラックスするお客さん。

小石 参加するアーティストの人たちの反応はどう?
田中 アーティストも温泉旅行気分で参加してくれてる人が多いかな。
このイベントに価値があると共感してくれる人は楽しんでくれるけど、中にはそうじゃない人もいる。目線を変えられる人が新しいカルチャーを温泉に作っていかないとなと。
小石 すばらしいね。
田中 やっぱり温泉地での変化は土地の人にもアピールできるしね。渋温泉は、イベントを毎年やるもんだから、お土産屋さんも音泉温楽のためにわざわざオリジナルの温泉饅頭を作ってくれたり。そうやってその町の人が「今年も音泉温楽来てくれるねぇ」って感じで。何年かやってるとそう捉えてくれるようになったなぁ。
小石 やっぱり土地の人が共感して、一緒に盛り上がっていかんと意味がないもんね。
田中 そうね。例えば渋温泉の金具屋さんの若旦那は32歳。金具屋さんの9代目で、江戸から続いているわけ。で、イベントをやると色々取材を受けるらしいのね。よく「こんな老舗旅館で、風変わりな音楽祭をやりますね」って言われるんだって。こんな老舗で格式の高いところが何故そんなことやるんですかって。
 だけど、彼が言うには、「温泉の伝統というのは代が替わる時に常に新しく、その時代に合うように更新していくことによって伝統が保たれる」と。古いものをずっと続けていくと途中で止まってしまうって言うんですよ。その通りだろうなって思います。
小石 伝統芸能と同じようなことが言えることかもしれないね。
田中 創造するために破壊するというか。伝統をつないでいくために新しく創造する、そのために古いものを壊す。ハード面ではなくて、コンセプトとか目線を変えることで新しくしていくことが大事だって話してくれて。すごくよく考えてるなと思ったのね。
 そういう思いを持った若旦那って日本全国にけっこういたりする。嬉野温泉でやった大村屋さんの若旦那は28歳だよ。江戸期から続く、嬉野温泉のなかでも一番古い旅館のひとつ。
小石 へぇー
田中 彼の面白いところは、街が廃れていくのに対してどこかひとつをいじればいいっていうのじゃなくて、全体が盛り上がらないとその旅館に恩恵が来ないという考え方。
 「どこかひとつの旅館が頑張ったとしても街全体に還元されないし、スナック一つでも廃れていくのを見ているのではなくて、スナックを新しい概念として提示しながら、街全体で盛り上げていくことが大事なんだ」って。
小石 映画上映会とか色々やってるもんねぇ。
田中 そうそう。大村屋さんも金具屋さんも考え方を聞くと、色々と共通点がある。我々の世代が新しく発信しないといけないって思い。そういう人たちをつなげていくと、全国的なムーブメントになるんじゃないかって思ってる。
 幕末じゃないけど、改革派の若旦那がネットワーク化すると、新しい温泉文化の企画ができるというか、ひとつのアーキテクトができるというか。
小石 なるほど。そういう点が音泉温楽と合致したってことね。
conversation_img16

▲2012年4月に嬉野温泉で開催された「音泉温楽」の様子

conversation_index02


POPULARITY 人気の記事

PAGE TOP