糸島のちょうど真ん中に位置する前原。その前原駅からちょっと歩いた住宅街に学生が運営するシェアハウス「いとや~まちの縁側プロジェクト」があります。
「糸島空き家再生プロジェクト」により元薬局兼住宅だった空き家が学生の手でリノベーションされ、地域住民の憩いの場に再生されているのです。
そんなシェアハウス「いとや」で開催された「栗まんじゅう手作りワークショップ」にお邪魔してきました。
前原商店街名物、栗まんじゅう。ふわふわ生地としっとり甘めのこし餡がやさしい、栗の形をしたおまんじゅうです。
実はこちらの栗まんじゅう、復刻版なのです。
元々、明治時代から続く老舗和菓子「末松菓子店」が、歳末大売り出しの時期に5日間だけ販売していたのが栗まんじゅうの始まり。末松菓子店は普段、お寺にお供えする落雁などを作っているようないわゆる老舗の和菓子屋さんでした。当時は和菓子屋が油を使って饅頭を焼くというのは考えられなかったそうです。
しかし、年末の大安売りの時期だけは、この栗まんじゅうを店先で販売し、大にぎわいだったとか。
他に色々な焼き型があったといわれていますが、戦時中の金属回収で金型は回収されてしまいます。
かろうじて難を逃れたのがこの栗の形をした焼き型だけ。これだけは店主が残しておいたようで、店を畳んだ後も娘さん達に栗まんじゅうの道具だけは捨てないようにと言っていたそうです。
そんな栗まんじゅうにまつわる歴史をおいしく楽しく学べる場をとの思いから企画したのが「いとや」の住人のみなさんです。
まずはあんこを丸めるところからスタート。
「欲張って大きく丸めたらはみ出してしまうけんね。丸めた後は真ん中をちょっとへこませてね」などなど、コツを教わりながら、皆でせっせと丸めます。話に花を咲かせながらの楽しい手作業ですが、実際の作業はこれの何倍もの餡を丸めるのだそうです。不慣れな復活当初はあんこ隊なるものが結成され、様々な方達が丸める作業の手伝いにきてくれていたそう。
和子さんは子どもの頃、年の瀬の買い物客でにぎわう商店街の様子をよく覚えていると言います。
和菓子屋さんには行列が常に出来、焼きあがったそばから売れていく栗饅頭。
手際良く焼かれていく様子がおもしろくてじっと見ていた幼少期の和子さん。
そのおかげか、栗饅頭作り始めた時にも「なんかこげんなことしよったね~、って色々思い出してからね~」と、コツを掴むのにさほど苦労はなかったと言います。
時は経ち、映画館が2館もあったほどの活気あふれる前原商店街がいつしかシャッター通りと呼ばれるようになり、末松菓子店もマンション建設で姿を消します。
それから約20年後、商店街の寄り合いで「商店街を活気づけるような名物を作りたい!」という声が上がります。
「昔、栗まんじゅうってあったやろ」「道具はどこかに残っとらんとかね?」という話になります。
なんとその場にいた和子さんは、ひょんなことから栗饅頭の道具一式を末松菓子店の娘さんから譲り受けていたのです。
色々なタイミングの重なりで、唐津街道前原宿場通り応援隊により栗まんじゅうが復刻されることに。しかし道具一式はあれど肝心のレシピが残っておらず、商店街の皆さんの記憶と舌をたよりに、ああでもないこうでもないと試作を繰り返します。
糸島に3件ある饅頭屋さんの餡をすべて試し選び抜かれた餡子。ふわふわ生地はケーキ屋さんに発注するなどなど、試行錯誤の末にようやく復刻した栗まんじゅうを口にした人々が、懐かしい! これこれ! と大変喜んでくれ、今では寒い時期になるといつから焼き始めると?と栗まんじゅうの登場を皆さん楽しみにしているそうです。
そんな復刻の興味深いお話をうかがいながら、ワークショップはすすみます。
下ごしらえができたらいよいよおまんじゅうを焼く工程に。
栗の形はおそらく「勝栗」とかけて縁起を担いだんじゃないかと大串さん。
焼型にしっかり油を塗り、充分温めてから生地を流し入れます。
ここの作業を丁寧にやらないときれいな栗の形に焼けないのだそうです。
生地を流し入れたばかりの焼型を他の型をひっくり返し、手前に寄せながら火にかけます。
もたもたしていると型が冷えてしまい、焼きあがりにムラができてしまうそう。
ちょっと焼き過ぎたものもありますが、栗まんじゅうが完成しました!
この小さなおまんじゅう一つを、作るところから体験する事で地元の歴史、おいしさの秘密、人とのつながりを感じ、また一段と愛おしくなりました。
両手いっぱいで満面の笑み。
寒さも吹き飛ぶほどのアツアツのおいしさです。
唐津街道前原宿場通り応援隊と前原商店街の皆さんが一丸となり復刻させた栗まんじゅう。「栗まんじゅうを通して様々な人達と出会い、繋がった」と和子さん。大串さんともども、これからも出来る限り栗まんじゅうを作り続けたいとおっしゃいます。
ちょうど栗まんじゅうを焼いている時に通りかかった小学生達。いとやの常連さんでしょうか。福井君とお友達のようにおしゃべりしています。
今回のようなワークショップをはじめ、地元に根差したイベントを多数開催している「いとや」。
地域住人はもちろん、誰でも参加しやすいように集う場、学びの場、情報発信の場という3つの場を柱に、あえて広くゆるくイベントを行っているそう。
近隣の子ども達の学習を九大生がサポートする「寺子屋」、父親世代と交流する「おやじの会」、参加者と糸島の食材を料理し食卓を囲む「共食」などなど学生の柔軟な発想と行動力で周囲を巻き込んだイベントをほぼ毎週末開催しているそうです。
「まちの縁側」というコンセプトで学生が地域社会と関わり、お互いどう変化していくのかを実践している福井君。そんな福井君の活動は、シェアハウスを単に住人同士が住まいをシェアするだけではないものにしています。
地域住民と分かち合うことで、緩やかで新しい地域コミュニティを形成しているように見えました。今では消防団や隣組、校区の運動会から文化祭など、地区の活動にも積極的に足を運んでいます。
ワークショップも終わり、大串さん達を見送る時、今度手伝いに行きます! と元気に手を振る頼もしい福井君。栗まんじゅうと今後のいとやの活動も気になります。
(とよだあやこ)
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■栗まんじゅう販売時期
12月の金、土、糸島市前原商店街
1~2月の同商店街の軽トラ市(毎月第4日曜日
10:00-13:00)にて販売。
■いとや~まちの縁側プロジェクト
http://www.itoya.org/