2025年、天神の新たなランドマークとして誕生した「ONE FUKUOKA BLDG.(ワンビル)」。商業・オフィス・ホテル・文化が交わる“創造交差点”をコンセプトに掲げ、福岡の中心に新たな交流の場を生み出しました。
第33回「博多まちづくりミートアップ」でゲストに迎えたのは、その開発を担当した西日本鉄道株式会社 ONE FUKUOKA BLDG.部 課長の永井伸さん。プロジェクト誕生の背景から、“多様性と偶発性”を生み出す仕掛けづくりまで、まちづくりの視点で語っていただきました。
天神の歴史に学ぶ、開発の出発点
永井さんが、ONE FUKUOKA BLDG.の開発に携わったのは約10年。コンセプトづくりからテナントとの調整、本社移転先探し、設計や基本計画など、ほぼすべての工程を経験されたそうです。もともと「どんなビルにするか」を考える際に着目したのは、”天神”というまちの歴史でした。
永井:
平安時代に菅原道真公が博多に上陸したことに始まり、のちに水鏡天満宮が建てられ、福岡城の守り神となったことから、この地は「天神のまち」と呼ばれるようになりました。明治時代には堀を埋めて博覧会が開かれ、路面電車の整備で人が集まる“交通の要衝”となり、1924年には現在の西鉄天神大牟田線が開業。1930年代には西鉄天神(福岡)駅が現在の場所へ、岩田屋も呉服町から天神へそれぞれ移転して、商業の中心地として発展していったんです。
戦後、1950〜60年代にはオフィスビルが次々に建設され、中長距離バスも同時期に充実しました。福ビルの開業を機に天神の再開発が進む際には、福岡銀行・郵便局・さらに当時あった天神町市場ら地元経済界が話し合い、それぞれが所在地を入れ替えて再建設することで天神交差点ににぎわいをつくっていったのです。
その後、1970〜90年代にかけては天神コアやビブレの開業などで商業集積が進み、一方で2000年代に入ると老朽化やモラル低下、渋滞などの課題も増加。そこで地元企業や住民が主体となり、「自分たちのまちは自分たちで良くする」というエリアマネジメントが始動しました。福岡天神エリアの企業、団体、住民、行政など多様な活動主体で構成する「We Love 天神協議会」や天神明治通り地区の老朽建物の機能更新とともにまちづくりを推進する官民連携の地権者組織「天神明治通りまちづくり協議会」らを通じて、天神の将来像を描く活動が始まった――そんな流れの延長線上に、「ONE FUKUOKA BLDG.(以降、ワンビル)」の構想が生まれたのです。
行政と連携し、民間発で整えた再開発の土台
天神エリアでは、地元主導のまちづくりが進む中で、行政と連携しながら“再開発を進めるための仕組み”も整えられました。地区計画・地区整備計画づくりの土台となる「グランドデザイン」策定なども民間発で行い、これらの流れの中で2010年代にスタートしたのが、今も続く「天神ビッグバン」。建物の容積率や高さ制限の緩和によって都心再生が動き出し、数多くの大型プロジェクトが進行するようになります。
永井:
そんな時期に、西鉄として「これからの天神をどうしたいか」を考えたのが、ワンビルの出発点でした。議論されたのは「天神にもっと新しい価値を生み出せないか」ということ。当時、天神発の企業や文化が少なく、天神に本社を置く上場企業も数えるほどだったんです。カルチャーの発信力や新しい事業を生み出すといった、独自の創造が少ないという課題がありました。
そこで、“天神を新たな価値を生み出す新しいまちへ”生まれ変わらせていくことを目指すことにしたのです。福岡は当時から「住みたいまちランキング」で上位に入り、アジアの玄関口としてのポテンシャルも高い。そんな土壌を生かして「創造の交差点」をつくろうと考えました。
コンセプトのキーワードは「創造交差点」。多様な人や文化、働き方が混ざり合うことで新しい発想が生まれる——そんな場所を目指しました。
「まちの歴史から発想するデベロッパー」は珍しいかもしれませんが、西鉄にとっては自然なこと。地域と共に歩む企業だからこそ、まちの成長が自社の成長にもつながるという信念があります。地域が元気でなければ交通もビルも衰退してしまう。その想いがDNAとして受け継がれているのです。
創造交差点を具体化する4つの柱
ワンビル開業の10年前には決まっていたという「創造交差点」。このコンセプトを具体化する4つの柱が「ワークプレイス」「商業」「ホテル」「文化プログラム」です。仕事と暮らしや遊びがシームレスにつながる環境をつくり、天神から新しい文化とビジネスが生まれる拠点を目指したといいます。
永井:
まずワークプレイスは、本社機能やR&D、外資・ユニコーン企業も呼べる高スペックを前提に、ラウンジ・食堂・ジム・会議室・カンファレンスまでそろえて、“働く”を支援。ハードだけでなく、若手ワーカー交流会や入居企業卓球大会、毎週木曜にはスタートアップに関するトークセッションで誰もが参加できる「Thursday Gathering」を開催するなど、ソフト施策も充実しています。さらにCIC(ケンブリッジ・イノベーション・センター)を誘致し、行政・大学・ベンチャーキャピタル・スタートアップが同居。多様なプレイヤーが混ざることで新しい事業の芽を増やす狙いです。
2つ目の商業では「感度はしっかり高く、敷居は低く」していこうと、ローカルの名店から世界の超一流ブランドまで、バリエーションに富んだ約130店が出店しています。天神に新しい価値観を持ち込むという意味では、アートセンター「スパイラル」、2026年春にオープンする「MoMA Design Store」も九州初出店となります。
一方で多様な客層を呼び込むという点では、かつて福ビルにあり復活を望む声が多かった「コンチネンタルカフェ ロイヤル」の後継店「THE CONTINENTAL ROYAL&Goh」や、手頃に楽しめるいわゆる”せんべろ”の飲食店などをそろえました。このほか、オフィスの価値を高めるために手頃で栄養バランスの良いメニューが並ぶ「天神福食堂」をはじめ、「蔦屋書店」などで、ワーカーの痒いところにしっかり手が届くテナントも入っています。
3つ目のホテルは、福岡以外から文化の担い手と呼べるような方々を呼び込める「地元と旅人が交わるまちに根付いた場」を作っていきたいと考えています。チェックインフロアではレストランを営業。チェックインをする際に、隣を見ると地元の方や旅人が食事をしながらにぎやかに過ごす姿が見えます。客室は中庭と外部テラスに開き、まちの気配を取り込む設え。滞在者がローカルの活気を体感し、外を見れば博多湾の景色で“福岡らしさ”を実感できる仕掛けです。
4つ目の「文化を生み出すプログラム」としては、館内アートの常設、販売、カルチャーイベント、ダンスや音楽の企画、若手クリエイターの登竜門となるコンペ開催など「日常的に文化に遭遇し、関与できる」仕組みを取り入れています。次世代を担う福岡のクリエイターを育てる場所としたいです。
用途を超えて人が交わる、まちづくりとしての空間デザイン
商業・オフィス・ホテル・文化が一体となる「創造交差点」をどう形にするか。
ワンビルが目指したのは、用途ごとに分断せず、人や活動がゆるやかに交わる“まちのリビング”のような空間づくりでした。
永井:
私たちは、商業施設、オフィス、ホテル、文化を“シームレス”につなげたいと考えました。本来、複合施設において定石である「用途別に入口を分ける」ことをあえて外し、各用途をつないでグラデーションを作っていきたい。そこで設けたのが、商業フロアとオフィス・ホテルフロアをつなぐ6・7階の「スカイロビー」です。
スカイロビーはワーカー、来街者、旅行者らの動線が交差する“まちのリビング”。同フロアの「REC COFFEE」でドリンクを注文すれば、自由に過ごせる空間があり、多様な方々を呼び込むエンジンのような場所です。ここでは、「Thursday Gathering」や休日のカフェ利用など偶発的な交わりが常態化することを目指しています。創造交差点の副題「MEETS DIFFERENT IDEAS」の通り、知らない考え方に出会える環境を用意し、その連鎖で天神全体の磁力と体験価値を増幅させる——それがワンビルの設計思想です。
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