つながりを大事にする店づくり。BLUE BOTTLE COFFEE出店の基準とは
岸本:
今年2月、天神にBLUE BOTTLE COFFEEが出店するというのはとても話題になりました。福岡に出店された経緯はどのようなものだったのでしょうか。
黒川さん(以下、黒川):
BLUE BOTTLE COFFEEは、空間やつながりをすごく大事にしたいと考えています。さっき、お二人のお話を聞いたあとなので後出しみたいになりますが(笑)、「おいしい」っていう単なる味だけではない店づくりを、すごく大事にしているんです。
だからこそ、福岡に出店を考えた際、コーヒー文化が根付いているという点は大きな魅力でした。 また、BLUE BOTTLE COFFEE一号店があるオークランドと福岡が姉妹都市っていう点につながりを感じたこともあります。
福岡天神カフェを出店する以前に、まずは「ブルーボトルコーヒートラック」で出店することで、まちの皆さんに僕たちのことを知ってもらうと同時に、僕たちもまちを知っていくみたいなところを大事にしながら関わっていきました。すると、コーヒー文化の厚さを感じるというか、やっぱコーヒーを好きな方が非常に多くいらっしゃるっていうことを肌ですごく感じましたし、福岡に出店したい思いは高まりましたね。その後、警固神社さんとご縁があって福岡天神カフェをオープンすることができました。
福岡天神カフェは、神社の落ち着いた雰囲気とまちを繋いでいく。そんなコミュニティを大事にすることがテーマです。九州初出店ということもあって、BLUE BOTTLE COFFEEらしさを九州でどこまで出していけるだろうかと試行錯誤しているところです。
岸本:
東京でも、福岡のコーヒーシーンに注目が集まっているという話はご存知だったのでしょうか。
黒川:
そうですね。僕は以前、スターバックスコーヒーで働いていたのですが、当時の先輩が福岡出身で、話を聞いたことがありました。2018年には、お店巡りをするために個人的に福岡に旅行に来たこともあります。僕自身、今回の福岡天神カフェのオープンをきっかけに、福岡でコーヒーに関わる方々から、いろんなことを吸収したいと考えています。
岸本:
BLUE BOTTLE COFFEEは、各地から引く手数多じゃないかと思うんです。そんな中、福岡出店の決め手は何だったのでしょうか。
黒川:
ありがたいことに、いろんな地域からお声がけを頂くことは多くあります。でも、僕たちとしては、どこでもいいから出店するというわけではありません。コミュニティや人とのつながりを大事に、出店場所を検討したいと考えているんです。僕たちが大切にしている思いやタイミングが交わったときに、初めて「一緒にやりましょう」となる。福岡は、本当に長いことチャレンジしたいと考えていたエリアでしたが、今年の2月にようやくご縁をいただき出店となりました。
「福岡がコーヒーのまちとして認知してもらえた」。これからは共に新しい文化を
岸本:
須永さん、後藤さんのお二人は、BLUE BOTTLE COFFEEの福岡出店をどう感じられましたか。
須永:
私、BLUE BOTTLE COFFEEが大好きで、創業者のジェームスさんも大好き。2013年、サンフランシスコのBLUE BOTTLE COFFEEでお会いして、私の焼いた豆をお渡ししたこともあるくらい憧れのお店なんです。東京に1号店ができたときは「熱気を作ったな」と感じる一方で、福岡に進出して来られたら怖い存在だなとも思っていました。でも、実際に福岡出店が決まった時、当時のBLUE BOTTLE COFFEEの社長さまがわざわざ店を訪ねてくれたんです。そんなこと、普通ないですよね。福岡のコーヒー文化をリスペクトしてくれているのが伝わりましたし、「これから一緒に新しい文化を作りましょう」っていうメッセージも感じました。
後藤:
COF-FUKの活動が始まったばかりのころ、「福岡をシアトル、コペンハーゲンに次ぐ、コーヒーのまちにする」っていうテーマを打ち出したんですよ。まだコーヒー屋でもなかったけれど、「自分たちが素敵なコーヒー屋を作って、福岡全体をコーヒーのまちにする」っていうのがCOF-FUKのテーマであり大きな目標でした。だから、BLUE BOTTLE COFFEEが福岡に出店すると聞いて、やっと福岡がコーヒーのまちとして認知してもらえたんだって思えたんです。BLUE BOTTLE COFFEEは、コーヒーと全然関係がないところに店を出すって絶対にしないから。須永さんが出した大きな方程式をつなぐことができて、とても嬉しかった反面、COF-FUKは役割を終えたとちょっと淋しい気持ちもありました。
岸本:
BLUE BOTTLE COFFEEがどこに店を出すのかって、多分コーヒー好き界隈はもちろん、 飲食店を誘致するような仕事をしている人たちからしても、注目していたと思うんですよね。それが福岡だったっていうところは、COF-FUKが意思をもってコーヒー文化が根付くまちを作ってきたからだと思うんです。
黒川:
そうですね、間違いなくCOF-FUKの取り組みのおかげ。コーヒー文化が根付いていなければ出店はしていなかったです。コーヒー好きの方たちに、僕らのおいしいコーヒーを届けたいっていう思いを大事にしているので、コーヒーに関心のある方がいらっしゃることはとても大切なこと。COF-FUKがそんな環境を作り上げてくださっているっていうのは、出店を決めたベースとして大きいです。
岸本:
BLUE BOTTLE COFFEEとして、福岡のお店をこうしていきたいといったビジョンはあるのですか。
黒川:
九州初出店ということもあり、コミュニティづくりを大事にしていきたいです。とはいえ、できることって、まだ少ないなと思っていて。徐々に何か形にしていきたいですね。福岡で感じたことは、すごく距離が近いということ。それが魅力の1つだと考えているので、BLUE BOTTLE COFFEEっていうブランドだけじゃなくて、お客さまとつながり、コミュニティに根付いていることが発信できるようなお店にしていきたいです。
楽しみながら、磨き、シェアして、魅力あるコーヒーのまちにしたい
岸本:
後藤さんは役割を終えたとおっしゃいましたけど、ある種、1つの成果みたいなものですよね。皆さんが世界トップレベルになり、対外的にも「福岡は面白いよ」っていわれ、BLUE BOTTLE COFFEEが福岡を選んだみたいな、目に見える成果を出すことができた。一つのステージに到達した今、今後の取り組みで何かお考えのことはありますか。
須永:
私は「終わった」とは全然思ってないので、個人的にはもっと自分のコーヒーを世界のグローバルスタンダードなものにして、さらに輝けるようなお店にしていきたいです。あとCOF-FUKとしては始まってから20年を迎える2027年に、メンバーみんなで集まってイベントみたいなことができたらいいですね。それぞれが歩みを止めることもなく、活躍の幅が広がってきているので、これからも、多分どんどん広がっていくと思います。
切磋琢磨しながら、福岡のまちをさらに魅力あるコーヒーのまちにしたいっていうのがこれからのビジョン。もしかすると、このDNAを志ある若者が引き継いでくれるかもしれないし、そうじゃないかもしれない。どちらにしても、 とにかく私たちは楽しみながら磨いていく、シェアしていく。そうやって進化を続けていけたらいいと思います。
ゲストプロフィール
MANLY COFFEE オーナー
須永 紀子さん
スターバックスのコーヒーアンバサダーになった後、2008年MANLY COFFEEを開業。その前年に同じく開業を目指す若手コーヒーパーソン達に出会いCOF-FUK(コファック)を設立、福岡をコーヒーの街に!とお互いに切磋琢磨しあう。エアロプレスの世界大会に挑戦後、日本のエアロプレスチャンピオンシップを主催。
豆香洞コーヒー オーナー
後藤 直紀さん
横浜生まれ、福岡育ち。会社員として働きながら、コーヒーの焙煎を独学で学ぶ。独立開業を目指し東京の老舗「バッハコーヒー」で田口護氏に師事し、コーヒーマンとしての心構えを学ぶ。
2008年に大野城市白木原に「豆香洞コーヒー」をオープン、2013年に焙煎士の世界大会「World Coffee Roasting Championship」で優勝。
ブルーボトルコーヒー 福岡天神カフェ 店長
黒川 連さん
千葉県出身。高校卒業後、調理師専門学校へ進学。調理師学校に通いながらスターバックスコーヒーにてアルバイトを始めコーヒーの世界へ。卒業後はフランス料理店L’EMBELLIR Naoto Kishimotoにて料理を学んだ後、コーヒーの世界が忘れられず転職を決意し、2017年Blue bottle Coffeeへ入社。