博多まちづくりミートアップ

有楽町アーバニズムYAUと考える、企業活動にアートを取り入れたまちづくり 〜ミートアップvol.30レポート後編〜

アートとビジネスはどうつながっていくのか。共に新しいステージを目指すには

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岸本:
三野さんはこれまで、アーティストとしてどのようにまちづくりに参加されてきたのでしょうか。

三野:
昨年の9月から12月にかけて青森県の十和田市現代美術館spaceと街なかで展覧会を開いていただきました。十和田市は人口6万人くらいの街なのですが、十和田市現代美術館の年間来場者数は15万人ほど。人口の3倍弱の人が見に来るんですね。美術館という箱物が先行しているので、街にお住まいの方に話を聞くと「よくわからないアートが来た」っておっしゃる方が多かった。

でも、美術館やアートが観光資源になって経済効果につながっているから「アートのことはよく分からないけれど、ビジネス的なところで興味がある」っていう状態。“よく分からなさ”みたいなものがありながらも、市民と美術館が付き合い続けている。そんな十和田市で美術館をサテライトに、街中にも複数の会場を設けて戯曲をもとにしたインスタレーションを展示しました。戯曲の内容は近隣にある在日米軍基地と、あるホテルを舞台に僕が書き下ろしたもので、それぞれの会場を巡ることで、1本の戯曲を見ることができる仕掛けです。

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三野新『外が静かになるまで』(十和田市現代美術館space他)記録写真(Photo by Arata Mino)

岸本:
札幌市では、札幌市まちづくり協議会とYAUがタッグを組んで作品を展開されていましたね。

三野:
札幌市中心地にある北海道ビルヂングの建て替えに伴って、仮囲いができたんです。その仮囲いやビル・商業施設のオープンスペースを活用した「SAPPORO PARALLEL MUSEUM 2024」に参加しました。

僕は、劇作家の山本卓卓(やまもとすぐる)さんが書いた戯曲をもとにインスタレーションを制作して、地上の工事現場の仮囲いと地下のオープンスペースを使って展示したんです。仮囲いは30mほどの長さで、地下のオープンスペースも同じくらい。制作チームで話し合って2つで全部合わせて60mほどもある長さを活かすために、文字を追って物語を読んでいくことで展開する作品にしました。パッと目に入る一つひとつはとても小さいし、それだけ断片的に見てもよく分からない。でも街を歩いて展示を追いながら物語を読んでいくことで、その土地にまつわるフィクションの内容がわかるようになる作品です。

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山本卓卓&三野新『ここにたち、ここにたつ』(Sapporo Parallel Museum 2024)記録写真(Photo by TOKYO PHOTOGRAPHIC RESEARCH)

岸本:
三野さんはアーティストの立場として、YAUが取り組むまちづくりや企業活動へはどんな思いで参加されているのですか。

三野:
YAUへは、もともと純平さんや運営にかかわられているアーティストの方たちから誘われて、「この場所から一緒に作品を作っていこうよ」というコミュニティへ参加する意識 で関わる ことにしました。

個人的には、期待感がすごくありましたね。ビジネス街の中でアーティストが活動の場所を持つことってなかなかないんです。僕は、現実の中にアートがどう入り込むのかっていうところにすごく興味があって。公的な場所で作品や人がどう出会っていくのだろうって考えて制作することが多いので、アートがつくられる場所とは正反対のビジネス街でどうアートが関わっていくのかっていうのは興味がありましたね。

岸本:
企業人から見て、アートを取り入れることで感じる企業としてのメリットや期待している可能性、面白みっていうものはどういったものだと思いますか。

晃子:
正直、現在進行形で進んでいるプロジェクトで「メリットがあります」とはいえないです。そもそも、「こんなメリットがあります」というのをわかりやすくYAUが謳い始めるとアーティストは離れてしまいます。共存しあって、一緒に新しいところに行こうという……繊細な綱渡りのようなことを続けているんです。見返りを求めない芸術文化支援ではなく、アーティストとの協業を通して何かを得たいと真剣に考えています。

一方で、企業側に立ったとき、その質問の意図は良くわかりますが、現時点ではその実績や事例づくりに試行錯誤しながら取り組んでいる、という曖昧な答えになってしまいます。私自身の話をすれば「すごく楽しい」ということ。アーティストと一緒に仕事をすることは、思ってもみない発見の連続で、だから、活動自体が生き生きしていて、前に進んでいるんだと感じます。

目指すのは大量消費ではなく、循環。無理なく続けられる仕組みを模索中

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参加者:
僕はアーティストのマネージメントを担当しています。例えば展覧会を開いてアート作品を販売するとなると数字的な部分がわかりやすいから、予算を取りやすいと思うんです。でも、「まちづくり」となったときに、どんな指標や数値を設定して予算化すればいいのでしょうか。企業側、アーティスト側、一般の方……誰もが納得するような予算設定はとても難しいと感じます。

晃子:
正直、私たちが今取り組んでいるのは実証実験を行うという段階なので、いわゆるKPI的なものは設計中です。ただ、この活動には東京都の文化構想と共有し合える部分があったので、都から予算をいただいて運営したり、補助金を利用したりしながらなんとか回しています。

純平:
お金の話もですが、システムを作るときの限界がありますよね。例えば、100社の企業と一緒に何かやると言っても、そもそもアーティストが足りません。だから、毎年数社と適度な規模のプロジェクトを一緒にやり続けるような状態を作ることも目指しています。

長いことパートナーでいることも一つの価値かもしれません。でも、そうなると新しい出会いがなかったりするので、絶妙なラインで、常に新しい企業がYAUを求め続けるような循環が生まれるようにしたいんです。大量消費しちゃうと終わっちゃうから。常に循環し続ける状態を作るということは大事だなと思っています。

岸本:
お金だったり、時間だったりっていうのが無理なく続いていくのを見極めなきゃいけないのかもしれないですね。

三野:
アートとビジネスをアーティスト側から考えた時も、やっぱりまだアートってどういうふうな形でビジネスドリヴンで価値づけできるのかみたいなのは、分からずにやっている部分があるんです。そういう風にやりがらないアーティストも多いし。ただ、お互いのwin-winによってなんとかそこら辺を曖昧にして成り立っているだけで、中途半端に手を出すとお互いまずいことに陥りやすくなるんじゃないかなと思います。例えば、アートへの一番ライトで真っ当 な関わり方って、企業がお金を出して何も言わないこと。お金を出して作品を買ったり、展示会を開く支援をしたりする。これは日本企業が昔から行っている歴史性もあるわけです。でも中途半端にアーティスト自体に手を出して口出ししようとすると、結構危ないというか、面倒くさいことになってくるので(笑)。なぜ、わざわざアーティスト自体にフォーカスするのかを決めることは大事だなと思います。

アートとビジネスを“つなぐ人”を育てることで、より良い関係性が生まれる

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岸本:
純平さんは、企業側の期待とそのアーティストっていう、ある意味で平行線を繋いでいくっていう1番大変なお役目だったんじゃないかなと思うんですけど、そこから感じられるまちづくりへの可能性ってどんなことだとお考えですか。

純平:
さっき三野さんからあったように、「下手をやったら怪我をする」。でも、だからこそどうやって生き残るか、やめなければアーティストはどんどん作品ができて、自然と評価は上がってくる。続けられる仕組みを作りたいですね。

岸本:
YAUでは、これから何年くらい続けたいという目標はありますか?

晃子:
アートと企業をつなぐような人材を育てていけるようなエコシステムを作り、アート×ビジネスを推進する街の機能となるような、ある種の組織を構想してスタートしている。なくなる前提では考えていないんです。そのために何が必要なのか。どれくらいの規模感・機能を持っていけばいいのかを検証しながら考えています。

三野:
アートコーディネーター、キュレーターのようなお金を出す人とアーティストをつなぐ役割の方がいるとアーティスト自身も安心感がある。それによって良い作品が生まれて、良い影響が出てくるっていうのがあるんです。YAUはそういった“つなぐ人”をすごく意識して、環境づくりを行っていて、アーティストと企業をつなぐ方たちをもっと増やしていこうって考える部分が面白いところだと思います。福岡も、アートとビジネスをつなげる“間の方たち”の重要性っていうものがより多くなってほしいと思います。

僕が福岡に暮らしていた頃、文化芸術に触れられる場は少なかったように思えます。でも今、こういった形で文化芸術に関わろうとしている方が増えているっていうのはすごく嬉しかったです。文化っていうもの、芸術っていうものに関わる・意識するだけで、街のイメージや豊かさは変わってくると思うのでこれからもどんどんやっていってほしいし、僕たちも何かで関われたらと思います。

岸本:
ありがとうございました。ゲストのお三方は、今も走り続けている真っ只中で、まだ結論を出せない状況だと思います。どこかのタイミングで、プロジェクトを振り返ってのお話を聞くことができたら、と思ってます。その時を楽しみにしたいと思います。

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はかた駅前通りで実施したにぎわい創出の実証実験イベント「ハカタストリートバル」では、歩道上に設置した家具ユニットにArtist Cafe Fukuoka登録アーティストの作品を取り入れ、身近にアートに触れる仕掛けを行いました

ゲストプロフィール

三菱地所株式会社 エリアマネジメント企画部・NPO法人 大丸有エリアマネジメント協会
森 晃子さん
旅雑誌『NEUTRAL』(現『TRANSIT』)編集部を経て、美術出版社にて雑誌『美術手帖』や現代美術関連の書籍・作品集を手がける。2021年三菱地所入社。「有楽町アートアーバニズムYAU」をはじめ、大手町・丸の内・有楽町エリアにおけるアート×エリアマネジメントのプロジェクトを担当。

建築家 森 純平さん
東京藝術大学建築科大学院修了。2013年千葉県松戸を拠点にアーティスト・イン・レジデンス「PARADISE AIR」を設立。主な活動に遠野オフキャンパス 、「八戸市美術館(共同設計:西澤徹夫、浅子佳英)」。たいけん美じゅつ場VIVA基本設計/ディレクター(2019-)、有楽町アートアーバニズムYAU(2021-) など。

写真家・舞台作家 三野 新さん
福岡県生まれ。周縁化された場所やものに残る記憶や風景を繋ぎ、それらの中間項を見つけ前景化させることをテーマに研究と実践を行う。写真・映像を元にフィクションを作り、メディアを通して領域横断的に活動する。近年の主な展覧会に『外が静かになるまで』(十和田市現代美術館 space他)など。

 


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