博多まちづくりミートアップ30回目のテーマは「博多×アートアーバニズム」です。大手町・丸の内・有楽町(大丸有エリア)でアーティストとともにまちづくりを行う有楽町アートアーバニズム「YAU(ヤウ)」の取り組みに関わる3名をゲストに、企業、運営、アーティストそれぞれの立場から、「アートとまちづくり」への思いを伺いました。
企業人とアーティストを掛け算しまちづくりに取り組む「アートアーバニズム」
岸本(以下、岸本):
みなさんこんばんは。本日の司会進行を務めます岸本です。
今回は、企業活動にアートを取り入れたまちづくりをテーマに設定しました。
2022年、福岡市は彩りにあふれたアートの街を目指したプロジェクト「Fukuoka Art Next」を発表しましたが、市が目指すものが何かを念頭に置きながらお話を聞ければと思います。
まず、福岡市経済観光文化局文化振興部からアートのまちづくり推進担当の南さんにプロジェクトの内容や目的をご紹介いただきます。
南さん:
「Fukuoka Art Next」は、市民がアートに触れる機会を増やし、その価値や魅力を感じて心身ともに豊かに暮らせることを目的としています。そして、スタートアップ企業支援を生かしたアーティスト活動支援により、世界に羽ばたく福岡発のアーテイストの創出も目的の一つです。
2023年にはアーティストの成長・交流拠点施設「Artist Cafe Fukuoka(アーティストカフェフクオカ)」のオープンや、建設現場の仮囲いを活用して作品を展示する「Fukuoka Wall Art Project」の発足など、身近なところでアートに触れる機会が増えているものの、どうしても行政だけではできない取り組みもあります。そこで、地元企業の皆さまにも、「Artist Cafe Fukuoka」の登録アーティストの作品を企業活動に取り入れていただくといったご協力をいただいています。
岸本:
市民がアートに触れる機会は増えている一方で、企業の立場からすると、「アートを取り入れる」とはどうすればいいのか、どう関わっていくものなのか、迷われている方が多いかと思います。そこでまず、晃子さんに企業サイドから見たアートを取り入れたまちづくりの良さを教えていただきたいです。
晃子さん(以下、晃子):
私たちは「YAU」というチームで、東京・有楽町ビルを拠点に活動をしています。大丸有と呼ばれるこのエリアに集まる就業者数は35万人ほど。住んでいる方はほとんどいないエリアで、仕事で街に通われている方たちとどう交流してまちづくりを行っていくのかを考えて活動をしています。
有楽町は大丸有エリアのなかでも、文化施設が多いエリア。1972年に登場したパブリックアートをはじめ、美術施設があるなどこれまでもアートは身近にあった街です。そんな街の開発が進む中、国際競争力の向上のためにはどんな街づくりをするべきか、有識者とともに議論したときに、これまでの枠組みを超えるようなクリエイティビティの高い人材の集積がが必要と考え、たどり着いたのが「アートアーバーニズム」でした。ただアート作品を置くだけではなく、アーティストが訪れ、活動してくれる街としてアーティストと共に進めるまちづくりです。
岸本:
「アートを街に取り入れる」という事例はよくありますよね。でも、多くは街にアートを飾るといったものです。そんな中、「アーティストと共に」というのはどういう理由があったのでしょうか。
晃子:
アーティストって、企業人にはない視点を持っています。そういった視点を取り入れて、企業が変容していったり、個人が変わっていったりすることが、多様性があり、イノベーションが生まれる街の形成につながっていくのではないかと考えたんです。
岸本:
一般のビジネスパーソンは「お金を稼ぐ」「利益を得る」っていう、企業活動としての目的を持っていますよね。でも費用対効果だ何だと、ある意味で縛られている。一方でアーティストって、そういった概念とは違う世界で活動されていますね。
晃子:
おっしゃる通り。ルーティンで仕事をこなすのではなく、アーティストの方は自らの興味・関心に基づいてすごく深いリサーチをされていたり、私たちが持っていない視点でまちづくりを見てくださったりするんです。
岸本:そういったアーティストの視点と、街で働く人たちの考えたいものを掛け算しようということですね。
企業とアーティストは対等な関係でプロジェクトを作る必要がある
純平さん(以下、純平):
先ほど「アーティストと共に」とありましたが、アーティストには特別な力があってなんでも解決してくれるというわけではありません。うまくみんなでwin-winな関係性を作らないといけないし、絶対的に頼ってもだめ。それに、どんなアーティストでも良いというわけではないんです。大切なのは、まちづくりに興味があって伴走できるようなアーティストであること。そして企業側は、アーティストから搾取するのではなく、対等な関係性でプロジェクトを作る必要があります。さらに「街で」だけじゃなくて、「街の人たち」と共に、やっていける状況を作らないといけないと考えています。
岸本:
おっしゃられるような状況を作るために、YAUではどのような取り組みからスタートされたのでしょう。
純平:
大丸有エリアには、帝国劇場をはじめ劇場系の施設はありますが、ウォールアートをはじめ現代アートを受け入れる空気は個人的には感じていませんでした。だからまずは有楽町へアーティストに来てもらうってことから試さなくてはいけなかったんです。「展示する場所があればアーティストも喜ぶでしょ」っていうわけではなくて。なんのメリットもない場所に、無理やりアーティストを連れてくるって本来はかなり強引なことです。アーティスト側から見れば有楽町で働くビジネスパーソンってよく分からないから、少し怖さもある。もちろん喋れば分かることもあるんだけど、簡単に繋げようとしても、信頼関係ができていないと難しい。だからまずはアーティストに来てもらうための移行期間を経て、街の中に展開してみることにしたんです。
岸本:
実際にチャレンジしてみていかがでしたか。
純平:
アーティストが街で何かをやる場合、ギャラリーにはないルールが多くあります。例えば商業施設を舞台にするとなると基本は夜間設営。普通、営業時間の昼間の12時に設営作業は許されません。でも、作品を展示するだけだとただのアートがある街になっちゃう。アーティストが制作している姿は魅力的で、本当はそこも見てほしいから、アーティストがいる場所をどうやって作るのかを考えていく。
告知をするにしても来てほしいのはアート好きの人じゃなくて、ビジネスパーソンの方たちです。美術好きに向けた告知ラインではビジネスパーソンは来てくれない。そういったことを含めて、街の中に、本当の意味でアーティストがいる状況をどうやって作るのか、アーティストがいられる状況を作るのかっていうのを手探り状態で探さないといけないんです。
自分たち発の企画が継続の鍵。アーティストと共に伴走する人材育成がこれからの課題
純平:
福岡にはアーティストカフェをはじめ、アーティストにとって最終的なアウトプットの場所はあるんだと思うんです。でも、まずどんなアーティストが福岡の街にいてほしいのか、そして、なぜ必要なのかっていうことを準備段階から考えないといけないんですね。一般的には、3〜5年くらいの時間をかけて展覧会を開催する流れになる。当然、1週間や1カ月ではできないので。アーティストには、綿密にインプットしてもらって、万全の状態で作品を作って欲しい。リサーチの過程で、福岡の街の人と絡んで、広がりが出てくるみたいなこともあると思うんです。展示される部分だけを見るんじゃなくて。
岸本:
純平さんは、アーティストと一緒にまちづくりをしたいと考えたとき、必要なものや大切なことは何だと考えますか。
純平:
アーティストと共に何かのプロジェクトを動かす時には、伴走するアートマネージャーやアートコーディネーターらが必要です。でも、今ここの人材が足りていない。「なるべく多くの人にアートのイベントに来てほしい」といったゴールだけが決まっていて、人材の育成がおざなりになっているんですね。これからは伴走者を育成するフェーズになってくると思います。
あとはよく「前に別のエリアでやっていた、あの企画を持ってきてよ」って言われることもあるのですが、二番煎じになってしまうとおもしろくない。「福岡発」という企画がいいんではないかなと 。まちづくりって持続していかなきゃいけないんですけど、二番煎じだと結局続かないんです。自分たち発の自信をもてる企画になることで、いろんな活動ができるようになると思います。
岸本:
とはいえ、実際に「アーティスト」と聞くと一般的にはあんまり接点がない方で、イメージしにくいと思うんですよね。そこで今回は、アーティスト代表として三野さんにご参加していただきました。三野さんは何がきっかけで、アーティストの道へ進むことになったのでしょう。
三野さん(以下、三野):
僕は写真家/舞台作家として、活動しています。福岡市西区で生まれ、19歳まで暮らしていました。僕が文化芸術と出会ったのは、高校生のとき。福岡市総合図書館内にある映像ホール・シネラがきっかけでした。それから大学で文化芸術について体系的に学んで、大学院に入ってから現代アートっていうものを知って学び始めたんです。
岸本:
ありがとうございます。
後編では、三野さんにアーティストの視点でのお話を詳しくお伺いします。