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愛すべき“変”な街と人が行き交う港のような場所でありたい 門司港のゲストハウスPORTO菊池勇太さんのアイデアの源とは?

今回は、福岡県の一番北側、山口県との県境にある門司港からお届けしました。

門司港といえば、レトロな街並みに焼きカレー、バナナの叩き売りなど、観光やデートスポットとしても人気のエリアです。でも、ゲストの菊池勇太さんによると、門司港は“変な人”が行き交う“変な街”なんですって!

地元出身の菊池さんご自身もゲストハウスPORTOを営むかたわらで、「門司港レモネード」や「キタキューチュー」などの門司港フードを考案したり、映画「門司港ららばい」を製作したり、ユニークな地元おこしを続けています。もしかして、菊池さんも“変な人”なんでしょうか?

ゲストの菊池さんを囲むアナバナ編集部の都甲、佐藤。シェアスペースの和室は入った瞬間から和んでしまう空気感でおしゃべりが進みました!

ゲストの菊池さんを囲むアナバナ編集部の都甲、佐藤。シェアスペースの和室は入った瞬間から和んでしまう空気感でおしゃべりが進みました!

人も街もパワフルで個性的、そして温かい門司港にあふれる“変”から街おこしのアイデアを発掘する菊池さんにお話を伺いました。

地元を飛び出して見つけたのは
門司港への愛情と新たな可能性

2ファサード

門司港ゲストハウスPORTOの外観(PORTOウェブサイトより)

本日のスタジオは、門司港にあるゲストハウスPORTO。70年前に建てられた遊郭建築の旅館を改装した建物は、どこを撮っても味わいのある佇まいが魅力です。その一室のお座敷でちゃぶ台を囲んでお話を伺いました。メンバーはアナバナ編集部の都甲と佐藤、そしてゲストの菊池さんの3人です。

アナバナ 都甲(以下、都甲)
菊池さんは門司港の出身で、一度地元を離れたのち、2018年に戻ってきてPORTOをスタートされたんですよね。そのあたりのお話を教えていただけますか?

ゲストハウスPORTO菊池勇太さん(以下、菊池)
僕は22歳までずっと門司港で学生時代を過ごして、その後に東京、福岡市に住んで2年前に門司港に戻ってきました。余談ですが、7人兄弟の6男なんですよ。

都甲
7人兄弟で全員男性なんですか!?

菊池
生まれた瞬間から先輩が5人いるんですよ。ほぼパシリでしたけど、それが唯一の個性です。

都甲
それはインパクトありますね。
アナバナでは、昨年の8月の『かぼすバー』でご協力いただいてからのお付き合いですね。菊池さんのお話を聞くと、いろんな方とつながってらっしゃるし、故郷である門司港を盛り上げる活動をされている。しかも映画とかレモネードとか発想がユニーク。なんでそこまでできちゃうの!?って驚いたんですよ。菊池さんから見た門司港ってどんな魅力があるんですか?

菊池
そうですね、昔は日本有数の港町で「神戸と門司港、横浜の順で日本が栄えたんだ」ってプライドをみんな持っているんです。自分の街が最高という、イタリアの港町みたいな気質の人が多くて。横浜の人って神奈川じゃなくて横浜出身って名乗るじゃないですか。神戸の人も兵庫出身とは言わないし。門司港も同じで、福岡とか北九州ではなく、門司港出身を押し通すくらい門司港好きなんですね。

都甲
やっぱり菊池さんも門司港大好きなんですか?

菊池
いや、僕はそれほどでもなくて、門司港愛が強い人とちょっと距離を感じていたんですよ。「狭い村だなぁ、いつかここから外に出よう」とずっと思っていました。都会に行けば、もっと自分は高く飛べるような気がする、みたいな。

アナバナ
そうなのか。それで、外から見た門司港はどうでしたか?

菊池
東京とか福岡市は街中に同じような人ばかりいるなと感じました。それに対して、門司港はみんなすごい変なんですよね。自分の食いぶちは自分で稼ぐ個人商店が多くて、サラリーマンがあまりいないので、各々の世界観や哲学で生きているんです。

都甲
なるほど。どうして地元に戻ろうと思ったんですか?

菊池
面白いことをスタートするなら環境的にいいんじゃないかと思ったんですよね。世の中を変えるのは門司港みたいに個性的な地域の方が注目されるのではと。あと、この建物がたまたま空いたのも大きいです。オーナーが建物を残すために購入して、どう使うか相談されたんですよ。それでリノベーションして宿にしませんかと。

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門司港ゲストハウスPORTOの内観(PORTOウェブサイトより)

都甲
築70年でとても貴重な建物の活用は、地域にとっても喜ばしいですよね。

菊池
そうなんです。以前、「関門海峡花火大会」の手伝いをしていたんですけど、地域の大人達が有志で、全員ボランティアでやってるわけですよ。相当大変な思いをしながら一年かけて準備しているんです。そうやって街のため、子どものために文化を守る背中を見ていたので、いつか僕も町の風景とか、人の思い出に残るようなものを紡げるような人になりたいと思っていたんです。
だから、このゲストハウスも自分がやるべきことなのかなと。ちょうどサラリーマンを辞めたタイミングだったので、金はないけどやるか!と計画しました。

都甲
思いきった決断ですね!

菊池
実はその前に阿蘇で会社を立ち上げていて、貯金が1円もないという状態だったんですね。まず内装工事でお金がかかるので、金融機関に融資の相談に行って。融資は受けられたけれど、銀行の担当者も税理士さんもびっくりしていました。本当に所持金ゼロの人なんて初めてだって(笑)

都甲
よく融資が通りましたね(笑)改装でこだわったポイントはありますか?

菊池
建物の風合いを損なわないことですね。必要以上に変えたくないので、構造には触れないって決めたんです。家具も新しいものを入れると合わないので、イギリスのアンティーク家具とか元々の建物になじむようなものを揃えました。世代の垣根を越えられるように、対象とする年代は決めずに雰囲気がいいもの、感覚でデザインした感じですね。

都甲
訪れるお客さんはどんな方が多いんですか?

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(PORTOウェブサイトより)

菊池
家族連れから大学生、おばあちゃんが一人で来ることもよくあります。一人旅で。旅館ぽい雰囲気で個室だし、素泊まりの宿という感覚で泊まっているのかな
。地域の方もたくさんいらっしゃいます。ご飯を食べに行く先々で知り合いの人も増えていきますし、ポルトのスタッフと話すためにふらっと来ていただける。うちのスタッフは、おばあちゃんとこでお菓子とお茶をもらうくらい馴染んでます。門司港出身じゃないんですけど、僕よりも地元の人と親しくなってて。そういう光景見ると会社作って良かったなと思います。

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地元人に負けないほど熱い門司港愛でのおもてなしもPORTOの名物(PORTOウェブサイトより)

都甲
最初から地域に溶け込もうという狙いがあったのですか?

菊池
PORTOは意味の通り、港を意識しているんですよ。港町はどんな船でも拒否する事ができないんです。門司港も港町ですから、宿を作るなら自分たちも来る人を拒まない、どんな人でも来たら休めるような場所にしようと決めたんです。

都甲
誰でも受け入れるという姿勢は門司港の地域性に通じているんですね。

菊池
そうですね。昔から港町や宿場町ってそういう雰囲気ですよね。だから、門司港のアイデンティティはそこにあるような気がするんですよ。うちも門司港人の端くれだから、この場所で気持ちのままお店をやったり、事業やったりというのに意味があるんだろうなって。経済や競争は都会にまかせて、そこから外れた価値観で生きていける場所を作りたいと思っています。

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レモネードの材料となる完全無農薬のレモン(PORTOウェブサイトより)

都甲
菊池さんはゲストハウス以外にも門司港名物をいろいろ作ってますよね?

菊池
そうですね。こちらも来た船を受け入れているような感じで、いろんなところから相談されたものを商品化しています。レモネード専門店「sicilia」は、行政から地域おこしのお話を受けたものですし。

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レモネード専門店sicilia 完全無農薬のレモンで作るレモネードが看板商品。キュートなキッチンカーもすっかり地元で有名に(PORTO Facebookより)

都甲
最近はレモンの植樹もされているそうですね。

菊池
そうなんです。ずっと関門海峡にレモンを植えたいと思っていたんですよ。すごく単純なのですが、関門海峡を眺める理由が欲しかったんです。夕陽も波もきれいなのに、意外に関門海峡で佇むことはないでしょう? 海峡沿いにレモンが実って、その手前に橋と海が見えるっていいよなと。それにレモンは海産物とも相性がいいし、12月から3月の観光オフシーズンに収穫できるから労働調整にもなる。

都甲
それは素敵なアイデアですね!
あと、チューチューアイスも人気ですよね。

菊池
アイスクリーム店「チューチューアイスファクトリー」を作ったのも、僕らの活動をすごく気に入ってくれた人がいて、その人が門司港に持っている不動産物件を使って何かやってくれって話から始まったんですよ。その後に相談したアイスクリーム屋さんが“キタチューチュー”って名前のチューチューアイスを作りたいと言ったので、それ面白い!って。そういう感じで仕事がつながっていってます。人の輪がどんどん広がって、分野が違えばまた新しい仲間が増えていきますし。最近は門司港で菊池と言えば大体の人が知っているという状態になってきたかなという感じです。

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チューチューアイスファクトリー まち歩きをしながら食べられるパッケージも斬新です(PORTO Facebookより)

都甲
そこから名物だけじゃなくて、とうとう映画まで作っちゃったと。

菊池
北九州って映画の街なんですけど、「コミッション」が日本でいち早くできた場所でもあるんですよ。門司港も当然多くの場所がロケ地になっているんですけど、実は地元発の作品はないんです。

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映画「門司港ららばい」(PORTOウェブサイトより)

菊池
この映画は、僕と同じ時期に門司港に戻ってきたカメラマンの金さんっていう方と一緒に作りました。その方は、東京で有名企業のCMを撮影するトップカメラマンだったんですけど、東京の仕事がだんだん疲れてきたのとお母さんの介護もあって門司港に戻ってきたそうです。僕も広告業界の仕事をしていたので、金さんに映画産業の話をいろいろ聞いていたんですね。そうしたら、最近クリエイティブが面白くないよねって。広告費をもらってモノを作るんじゃなくて、自分たちで作ってみたいという話が出てきて。その一方で、僕の同級生の和成君って俳優がいるんですけど、彼とも門司港で何かしようぜって話していたんです。そんな縁が重なって、じゃあ映画を撮ろうかと。僕がストーリーを書いて二人に見せたらめっちゃ盛り上がって、そこから制作費は地元の人たちに協力してもらって、ロケではフィルムコミッションの方が加わってくれて。あれよあれよと話が進みました。去年の4月ぐらいに映画作ろうという話になって、8月には撮ってたからすごいスピードですよね。いろんなことを手がけてきたけど、一番早く形になった仕事です。僕は金さんと和成くん以外のスタッフは初対面のまま進めました。

都甲
この間の試写会、観にいきました。映画には地元のお母さんとかも出演されていて、それがすごくいい味を出してて、あったかい気持ちになれたんですよ。

菊池
それは嬉しいですね。実は、映画のストーリーは僕の友達がモチーフなんです。10年来の同級生の女の子がいて、その子は転勤族で地元というものが無かったんだけど、門司港にはハマってたんです。でも、大人になって東京で再会したらやさぐれてたんですよ。居酒屋でやけ酒を飲んじゃったりして。そんな人も門司港なら受け入れてくれるよ、という気持ちを言語化できないから映像化することにしたんです。

都甲
いいお話ですね。

菊池
撮影中に予算が雪だるま式に膨らんで、いまだに借金があるんですけどね(笑)まあ、いいことしたなと思ってます。出演してくれたおばあちゃんは「これが遺作やけん」って言ってくれました。

都甲
あはは。今後、この映画「門司港ららばい」はどこかで上映されるんですか?

菊池
試写会を終えて、今はもうちょっと映画を仕上げてるんですけど、来年の1月以降に上映できるように動いています。福岡の単館映画館やインディーズの映画を配信するサイトで話を詰めている段階です。是非よろしくお願いします。

都甲
菊池さんは本当にいろんな活動をされていますが、PORTOが立ち上がってから今まで、どんな感じでしたか?

菊池
2年間あれこれもがきながら、なんとなく僕がやりたかったことが形になりつつあるなと。いわゆる広告代理店の力じゃなくて、地域から面白いサービスとか人の心が揺れ動くような、そういうクリエイティブを発信したいと思っていたんです。地元のおじちゃんやおばちゃんにとっては、広告代理店とかクリエイティブエージェンシーとか言ったって、何それ?でしょう。
でも、デザインにしても映画にしても、人が作るものって感動させる何かがあるじゃないですか。そういうことができる会社にしたいんですよ。

菊池
このPORTOも企画の一環だと思っているんです。文化的な物件を活用しながら、地域の人たちにも、それ以外の人にも、僕らの考えを発信する。ようやく認知されてきたかなという状況ですね。

都甲
2年でここまで来るってすごいですよね。

菊池
いえいえ、めちゃめちゃ借金もしましたし、たくさんの人に支えてもらったからできたんです。全然違う地域の人からも応援をいただいてるし、本当にみなさんのおかげって感じですよね。自分一人の力ではここまで来れなかったと思います。

都甲
借金も人脈も雪だるま式に増えつつ、いい形で世の中に還元されているんですね。

菊池
苦労も借金も別の何かに変わっていると言うか、 形を変えて人の心を動かしているなら何でも無いですよ。今後もそういうことをずっとやっていくんじゃないですかね。PORTOのスタッフには今年は真面目に経営するって言ってたのに、もう新規の事業をしたいなって思ってますから。来年あたりにもう一本映画を作ろうかなとか、出版もしようかなと思ってて。これがバレると怒られそうですけどね(笑)

佐藤
“PORTOらしさ”のクリエイティブって言うか、みんなで一緒に作っている空気感が他とは違うなといつも思います。そこが面白いですよね。
関わったみんなが楽しんでるっていうのが、一つ一つの作品ににじみ出ている気がします。

菊池
それは本当に嬉しいですね。いつかお金になってくれればなお嬉しい(笑)。
金銭的ではなくて、精神的に豊かな気持ちで続けさせてもらってますね。
お金ではない何か。門司港だと500円でお腹いっぱいになれますからね。

都甲・佐藤
最高の場所だ!

菊池
スタッフ全員、脂肪という名の豊かさがたまってます(笑)

都甲
そんな菊池さんにメッセージ来てますよ。
「ボルトのご近所おばちゃん」さんから、
「ずっと応援していきますよ。海峡レモンの実はいつ頃できますか?」ですって。

菊池
どなたからのメッセージかは想像がつきます。いつも差し入れありがとうございます!
関門海峡に植樹した「海峡レモン」が商品化できるのは、3年か4年後ですね。毎年3〜5月にかけて木を植えて増やしているんですよ。ダンサーしながら農家してる“のっぽさん”と一緒にやってます。

都甲
ダンサー兼農家、またまたキャラが濃いですね。

菊池
そうなんです。「海峡レモン祭り」っていうイベントを毎年門司港でやりたいなと思っているんですが、のっぽさんはダンサーなので「海峡レモン音頭」とか作ってもらおうかと。

都甲
それも気になりますね。
続いては、「海外のお客様が見込めない今、どんなターゲットのお客様を想定されていますか?」という質問です。

菊池
全然考えてないです。でも、旅の楽しみ方も変えたいと思って、住所が門司港に近ければ近いほどお得に泊まれる割引制度「海里割(かいりわり)」を続けてます。僕は近場に泊まるのが好きなんですよ。夜は昼間と違う風景が見えるし、門司港に泊まるなんて北九州市内の方でもなかなか味わえない体験でしょう。

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時代を先取りした「海里割」サービス

都甲
今話題のマイクロツーリズムですね。

菊池
僕はずっと前から近場の宿の楽しみを提案してたんですけど、全然取材が来ないんです。よそでは「ご近所割」って名前でネットニュースに取り上げられてるのに…。ネーミングを門司港に寄せすぎましたかね。

都甲
時代が菊池さんに追いついたみたいですね(笑)
それでは、今後やりたいことを教えてください。

菊池
実は、PORTOは現在絶賛改装中で、セレクトショップを作っているんです。地元の作家さんの作品やポルトらしいセレクトの書籍などを販売します。この中継をしている大広間もイベントスペースになる予定ですし、映画の上映会も企画しています。地域に複合的な文化施設がなかったので、そういう役割もできればいいですね。11月以降もぜひ遊びに来てくださいね。

都甲
ますます楽しみですね。

菊池
こうやってお話しすると、自分でも門司港大好きなんだなと改めて感じました。
ありがとうございました。


皆さん、お気づきになられたでしょうか?
菊池さんが“変”と表現した裏側には、門司港の人々への愛情と感謝が込められていたことを。おかしくも優しい地元への目線は、お話を聞いている私たちの胸にも、まるで港の灯台に火を灯すように温かな感動を与えてくれました。
でも、門司港だけじゃありませんよ。自分が住んでいる場所に対しても、菊池さんのように外から眺めてみたり、改めてじっくり観察してみると、“変”な人やものに出会えるかもしれません。久しぶりに自分の街をゆっくり歩いてみたくなるような、そんな気持ちになる時間でした。

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最後は、PORTOのPポーズで!この後、三人で門司港の夜をたっぷり満喫しました。

ゲストハウスPORTO
福岡県北九州市門司区東門司 1-10-6
TEL:093-342-9938
Mail:info@moji-porto.com
https://www.moji-porto.com

(取材:編集部、文:ライター/大内りか)


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