インタビュー

“移動するマルシェ”で沿線の魅力を発信する 観光列車のあらたな挑戦

福岡県内での新型ウィルス感染者数が落ち着き、少しずつ街に活気が戻りつつある6月25日、西鉄の観光列車「THE RAIL KITCHEN CHIKUGO(ザ レールキッチン チクゴ)」であらたな取り組みが始まりました。緊急事態宣言解除後、初めてのイベント「THE RAIL KITCHEN CHIKUGO Marche(マルシェ)」です。 

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THE RAIL KITCHEN CHIKUGOの企画を担当する小宮さん(右)とスタッフの古賀さん(左) ※撮影時のみマスクを外していただきました

●「THE RAIL KITCHEN CHIKUGO」とは?
西鉄福岡天神駅〜大牟田駅を走る 西鉄初の食事ができる観光列車。車内にキッチンを搭載し、沿線の旬の食材を景色と共に、ブランチ、ランチ、ディナーの3つのコースで楽しめます。
https://www.railkitchen.jp

 

アットホームな列車マルシェで
イベントの喜びを再確認

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西鉄天神大牟田線筑紫駅のマルシェの様子。列車停車中の対面側のホームでは、通常運行の電車が発着していて、通勤や通学中の乗客から注目を集めていました

今回のマルシェ会場は、THE RAIL KITCHEN CHIKUGOの車内と駅のホームでした。イベントは、太宰府駅、筑紫駅、花畑駅、大牟田駅の4駅を移動し、各駅で約2時間停車している間にお買い物を楽しんでいただくシステム。事前に配布される整理券をもらえば、無料で入場できます。

車内を無料開放するのは、観光列車としては初めての試みです。このチャレンジには、どのような思いが込められているのでしょうか?
この日、二番目の停車駅となる筑紫駅で、企画運営を担当した西鉄 ホテル・レジャー事業本部の小宮智華さんにお話をお聞きしました。

 

―今回のマルシェはどのようなきっかけで開催が決まったのですか?

小宮智華さん(以下、小宮) THE RAIL KITCHEN CHIKUGOは、緊急事態宣言を受けて約3ヶ月間運行を休止していました。5月末に運行を再開したのですが、問い合わせは結構あるのに、予約にはなかなか結びついていない。もしかしたらお客様はまだ外出に足踏みされていらっしゃるのかなと思ったんです。だから、安心して気軽に出かけることができて、沿線の魅力に触れる楽しい機会があればと企画しました。

―たしかに、マルシェだと気負わず参加してみようかという気持ちになりますね。
太宰府駅、筑紫駅、花畑駅、大牟田駅の4駅にされたのは、何か理由があるんでしょうか?

小宮  今回は、コロナ対策の一貫で1つの会場にお客様が集中することを避ける必要があったんです。なので西鉄天神大牟田線を4つのブロックに区切って、ダイヤとにらめっこしながら、それぞれ1駅を選んでいます。

―なるほど。準備はいつ頃から進められたんですか?

小宮 観光列車の運行再開後なので、約一ヶ月前です。

―それはハイスピードですね!

小宮 やるなら早いほうがいいと思ったんです。お客様にも、出店者の方々にも、安心してイベントに参加できるんだと感じてもらいたくて。

―今回はどのようなテーマで出品者をセレクトされていますか?

小宮 観光列車のターゲットである女性に手に取っていただけるようなパンやスイーツ、カフェ系を中心にしました。エリアを偏らせたくなかったので、各地域のつながりを通じてセレクトをしたんです。例えば、通常運行の時の食材を仕入れている「道の駅うきは」さんへご相談に行ったり、久留米駅に設置している「くるめスイーツ&パンマップ」の掲載先に繋いでもらったり。スタッフ7名それぞれが動いて、告知や店舗とのやりとりを進めました。

―今回のマルシェ限定スイーツや旬のフルーツなどもあって、目移りしました!お客様の反応はいかがでしたか?

小宮 平日ですし、雨も降っているのでどうなるかと思いましたが、太宰府駅もここ筑紫駅でも予想以上の人数のお客様にお越しいただきました。
小さなお子様連れのご家族、友人同士、出店店舗さんのファンの方、いろんな年代の方が集まってくださったようです。

―たくさんのお客様は嬉しい反面、感染対策には気を使いますよね。
特に工夫されたことはありますか?

小宮 密にならないように人数制限をした上で、車内への入場も10人以下になるように調整しました。車内は狭いので、順路を一方通行にするなど動線にも気をつけて。正直、感染のリスクにはビクビクしていましたけど、お客様同士で譲り合っていただいたり、こちらの誘導に沿って移動していただいたりしていたので、今のところはスムーズに進んでいるようです。感染対策がマナーとして浸透していることを感じています。

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八女の「中村園 はるのき」のブース。八女茶とハーブティーをブレンドした「プレミアムハーブティー」など、通常運行の観光列車内でも人気のお茶を販売。

―お客様も久しぶりのイベントをすごく楽しんでいらっしゃるようでしたね。

小宮 このイベントのスタート地点の太宰府駅では、「月イチでマルシェをやってもらいたい」「出かける機会を待っていた」というお声もいただきました。
参加の整理券を受け取るために、1時間前から並ばれていた方もいらっしゃいました。皆さん、イベントを心待ちにしていらっしゃることを感じました。

―イベント会場では、お客様とスタッフさんとの和気あいあいとした雰囲気が印象的でした。

小宮 そうそう。今回のマルシェは観光列車のスタッフや各駅員のみなさんも積極的に参加を申し出て、誘導や設営に動いてくれたんですよね。もちろん、ソーシャルディスタンスはきちんと確保していますが、こうやってお客様と対面するのもスタッフにとって久しぶりなんです。

―お客様をもてなす側にとっても、とても励みになりますよね。今回、西鉄が率先してマルシェを開催することで、イベントの実施を迷っている方の背中を押すことになるのではないでしょうか。

小宮 そうですね。イベントを主催する人にも、参加される人にも、「安心して楽しめますよ」というメッセージになればと思っています。

―それは心強いですね。それに、観光列車としても今回のマルシェはあらたなモデルケースになるのではないかと思います。
今年1月には、久留米市の「城島酒蔵びらき」とタイアップしたイベント運行もされていましたね。その際も西鉄のご担当の方が「今後は地域の方々と一緒に列車を活用していきたい」とおっしゃっていました。今回のマルシェはまさにその思いを実現されていますね。“イベント会場としての観光列車”という可能性が形になったのが今回の場なのではないでしょうか。

小宮 実は、運行中止になる前にもカフェ企画の話が進んでいたんです。運行1周年記念のイベントとして、大牟田駅停車中に列車内でカフェを楽しんでもらおうというものです。企画は新型コロナの影響で中断してしまったのですが、そこからマルシェのアイデアが生まれました。

―なるほど。西鉄として様々なイベントを企画されていたんですね。
これからも今回のようなイベントを続けられるのでしょうか?

小宮 今後も開催したいですね。一ヶ所に店舗を集めて大々的に開催しなくても、列車なら移動しながら数カ所で販売できることができます。入場者を分散できるので、密を避ける対策にもなる。感染対策が求められる現状と相性が良いのかなと思います。
例えば、朝に筑後方面で採れたものを福岡(天神)駅で販売したり、天神の有名店のスイーツを大牟田方面に持ってきたり、今後も考えていきたいです。

―利用者にとってはまたあらたな楽しみ方が増えそうですね。
最後に、これから観光列車を利用したいと考えていらっしゃる人へメッセージをお願いします。

小宮 今回はマルシェという形で列車の魅力をご紹介できたかと思います。普段の運行では温かいお食事と共に、スタッフがおもてなし致します。ぜひご乗車ください。「天神・太宰府ブランチの旅」も再運行していますよ。

 

「観光列車に初めて乗りました!」
特別感を味わえる空間もお土産に

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小宮さんにお話をうかがった後、お客様の入場が落ち着いたタイミングで車内を見学しました。普段は客席として使われている大川家具のテーブルがマルシェ台になったり、調理が行われるキッチンカウンターはドリンクスタンドになったりと、インテリアの雰囲気が一変。3両編成の列車に、久留米や柳川、小郡、八女、うきは市から8店舗のブースが並んでいました。

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車内のキッチンには久留米市「BROOKLYN SHOKUDO」のドリンク&スイーツスタンドが登場。

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「道の駅うきは」では、この時期に争奪戦になる桃やぶどうが目玉商品。レストランで提供している甘酒やクラフトビールも好評だとか。

うきは市の「道の駅うきは」のブースでお話をお聞きしたところ、出店者にとっても特別な1日になったようです。

「例年だとこの時期は月に5件ほどのイベントに出店していたんですよ。でも、今年は3月から全く無し。コロナ後はこちらが初めてです。こうやって直接お客様にお届けできるのは、やっぱり気持ちが明るくなりますね」

他にも、八女茶をブレンドしたハーブティーや素材の甘みを生かしたドライフルーツ、西鉄とJA全農で運営している「にしてつ農園」の野菜など、多彩なジャンルの商品が出店していました。

戦利品を手に満足そうなお客様からは「観光列車に乗れたのが嬉しい」「小さな子どもに列車の中を見せることができてよかった」という感想も。
お買い物だけではなく、観光列車の雰囲気を味わっていただけたのも大きな収穫となったようです。

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筑紫駅でお買い物を終えたお客様が下車した後、電車は次の花畑駅へ出発します。車内に残るのは、小宮さんをはじめとする運営スタッフと店舗の皆さん。電車の外から駅員とホームにいたお客様が元気よく手を振って見送ります。

マスク越しでもわかるほどの笑顔があちこちに咲き、皆さんが久しぶりのイベントを心から楽しんでいることが伝わってきました。

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(編集後記)

今回のマルシェを振り返ってみると、十分な感染対策のおかげか、会場をじっくり巡ることができ、スタッフとのコミュニケーションもゆったりと楽しんでいるようでした。最後までホームで手を振りあうお客様とスタッフの喜びを噛みしめるような表情に、思わずこちらの胸も熱くなる場面も。

列車という特別な空間の中での体験は、より心に響く思い出となるのではないでしょうか。

困難な状況下の中で、工夫を凝らしながら開催に至った今回のチャレンジは、イベントの主催者にも、ゲストにとっても多くの可能性を示してくれたようです。

 

(写真:アナバナ編集部 文:大内理加)


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