人生を歩む上で、避けて通れない介護の問題。今は必要としていなくても、いつかは自分や大切な人が介護に向き合う日がやってくるかもしれません。
そんな時に暮らしを支えてくれる介護用品をもっと身近に感じて欲しいと、2020年4月1日、福岡市西区姪浜に介護用品のセレクトショップがオープンしました。
ショップを運営するのは、医療、介護施設からドライビングスクールまで多彩な事業を手がける株式会社サワライズさんです。
自社で運営する住宅型有料老人ホーム「テラシス桜花」に併設したショップを覗いてみると、何やらコーヒーの芳ばしい香りが。なんと、こちらにはカフェも併設されています。メニュー監修は福岡のコーヒーシーンを牽引する「REC COFFEE」さん。
一見するとカフェの利用客と介護用品のユーザー層とは関連がないようにも思えます。介護用品ショップとカフェの組み合わせが、一体どんな化学変化を起こしたのか?オープンにかけた思いやこれからの取り組みについて、メンバーの皆さんにお話をお聞きしました。
奇跡の出会いがもたらす
介護用品×カフェのコラボレーションとは
インタビューの前に、まずは今回の施設について改めてご紹介します。
店舗は、姪浜にある住宅型有料老人ホーム「テラシス桜花」の1階に位置しています。
入り口側にカフェ「Stong Cafe Powered by REC COFFEE」があり、REC COFFEEが監修するコーヒーとスイーツやサンドイッチが味わえます。カフェの奥側、仕切りの向こう側が介護用品ショップ「Care shop Terrasis」。高齢者向けのシューズや杖、車いすなどを扱っています。
キッズスペースやテラス席まで備えたこの空間は、以前営業していたカフェの契約終了で空き店舗になり、管理するサワライズ不動産部で借り手を探していました。いくつか手を挙げる企業はいたものの、なかなか条件に合った借り手が見つからず困っていた取締役の野口さん。不動産部の新規事業サポートをしていた株式会社ダイスプロジェクトの岸本さんに相談する中で、「サワライズでカフェを出店してみては?」というアイデアが生まれました。とはいえ、サワライズさんにとって飲食事業は初挑戦。岸本さんがREC COFFEEさんに相談を持ちかけたのが事の始まりでした。
カフェの話が進むのとほぼ同時にこの場所に目をつけたのが、介護用品のレンタル・販売事業の可能性を探っていたサワライズ社員の古野想さんです。なんと、野口さんに「カフェスペースの一角をショップとして貸して欲しい」と直談判したそう。そこで、カフェと介護用品ショップというユニークな構成になったという訳です。
今回ご参加いただいたメンバーはこちら。
「株式会社サワライズ」
取締役 総合企画部 部長の野口哲伯さん
カフェ店長 野中広大さん、スタッフの野﨑馨代さん
介護用品ショップ店長 古野想さん、スタッフの熊丸新さん
「REC COFFEE」
代表 北添修さん
「株式会社ダイスプロジェクト」
プロデューサー 岸本拓郎さん
聞き手はフリーライターの大内理加でお届けします。
大内 介護用品専門のショップを出すという発想はいつからあったのでしょうか?
野口哲伯さん(株式会社サワライズ)(以下、野口) 以前から検討はしていたんですよ。ただ、最初の構想ではテラシス桜花の事務所の一角にこぢんまりと出店するイメージでした。でも、もともとの発起人である古野さんが狭い場所は嫌だと。
古野想さん(株式会社サワライズ所属 テラシス桜花勤務)(以下、古野) そうなんです。介護用品って、どんな年代の人もいつかは関わるものですよね。でも、今必要としている人以外は、まだまだ身近な存在になっていない気がするんです。だから、もっとカッコよくて興味を持ってもらえるようなセレクトショップを出したいと考えていたんです。
野口 でも、僕はカフェ事業と福祉用具という組み合わせは全然結びつかなかったんですよね。カフェのお客さんにとっては、介護用品のショップがあることで逆に敷居が高くなってしまうかもしれないとか、介護施設が片手間にカフェをやっているんじゃないかというマイナスイメージを持たれる可能性も心配でしたし。
大内 なるほど。そのイメージを払拭するためにも、REC COFFEEさんと組むことが結果的には重要なポイントになったのですね。
野口 そうです。REC COFFEEさんじゃなければ、このプロジェクトは実現できなかったかもしれません。RECCOFFEEさんのブランドイメージを介護ショップに活かすことにより、シナジー効果が生まれ、強いブランドになるのではないかと思いました。
大内 ダイスプロジェクトの岸本さんは、どのような点で、REC COFFEEさんとサワライズさんを繋ごうと考えたのですか?
岸本拓郎さん(株式会社ダイスプロジェクト)(以下、岸本) サワライズさんから飲食業を始めたいというご相談を頂いて、ピンときたのがREC COFFEEさんでした。福岡での知名度、ブランド力は申し分ない会社ですし、他社とのコラボ経験もある。それに西区、早良区ではまだ出店されていないので。何より、2社とも仕事に対する真摯な姿勢が似ているなと思ったんです。これはいいパートナーになるのではと。そこで、当社からREC COFFEEさんへお声がけしたところ、トントン拍子にまとまりました。
野口 その時は、REC COFFEEさんにとって福祉施設で出店となると抵抗感を持たれるかもしれないと心配していたんです。でも、実際にお話した時に私たちの目指すところをご理解いただけたので、早い段階でこれはいけるなと感じました。
北添修さん(REC COFFEE)(以下、北添) お話をいただいた後すぐにサワライズの社長の柴田さんや取締役の野口さん、スタッフさんが、REC COFFEEへ来店くださったんです。その真面目な姿勢が嬉しくて、前向きに考えてみようかなと思いました。それに、今回のエリアでスペシャルティコーヒーを扱っているお店が少なかったので、REC COFFEEの味をたくさんの人に知ってもらう点においても可能性を感じました。
大内 介護サービス事業所での出店や、介護用品ショップとの併設となると、いつものREC COFFEEさんとは客層も変わるのではないかと思います。野口さんがおっしゃったような抵抗はありましたか?
北添 REC COFFEEは、幅広い年代の人に楽しんでもらえるような間口が広い店を目指していますので、抵抗はなかったです。あと、実は僕自身が福祉大学出身で、高齢者介護とか公衆衛生を勉強していたんです。福祉施設の「憩いの場」の在り方、入居者の方と近隣の方が共存する機会を作ることが 思想のユニバーサルデザインとして重要だと考えていたので、今回のお話は将来性が十分にあると思いました。サワライズさんが描いているイメージをすぐに共有できたんです。
最初の顔合わせの時から、すでに相性の良さがうかがえたサワライズとREC COFFEEの皆さん。オープンが決まってからは、サワライズの野口さん、野中さんがフードメニューや食器などを提案し、REC COFFEEにアドバイスをいただく形で何度も打ち合わせを重ねたそうです。空間は、今回のつなぎ役であるダイスプロジェクトが担当します。
大内 店内の木目を生かした明るい空間が心地いいですね。通路が広くて、車いすの方も移動しやすいのではないでしょうか。空間設計では介護用品ショップのお客様も想定してデザインされたんですか?
岸本 そうですね。全体的にゆとりを持たせていますし、カウンター席はイスを外せばそのまま車いすが入ります。REC COFFEEの北添さんには、高齢者の方の利用を考えるとマグカップの取っ手は広い方が良いとか、コーヒーの量は飲み切れるよう少なめにするなど、細かいところまでアドバイスを頂き、我々も勉強になりました。
大内 なるほど。さすが、福祉と飲食に携わっていた方ならではのご意見ですね。
岸本 まさに奇跡の出会いですよね!
カフェのクオリティを高めたのは、
共通する仕事への想い
大内 サワライズさんはこれまで飲食業の経験が無いとおっしゃっていましたね。現在、カフェを担当されている野中さんと野崎さんは、実際にチャレンジしてみていかがでしたか?
野中広大さん(株式会社サワライズ)(以下、野中) コーヒーはもちろんですが、サンドイッチやスイーツを自分たちの手で提供することになったので本当にできるのかなと思いました。会社もですけど、自分自身も飲食業界の経験がなかったので。
北添 私たちからアドバイスさせて頂いて、あとはREC COFFEEの店舗にも研修で来ていただきました。
野﨑馨代さん(株式会社サワライズ)(以下、野﨑) 研修の期間は2週間くらいで、最初はできるわけないと思っていました。行ってみたら、REC COFFEEさんがきちんとレシピやマニュアルを作ってクオリティをコントロールされていらしたので、私たちも安心して取り組めました。お店がオープンできたのは、REC COFFEEさんのサポートがあったおかげです。
北添 今回は、ただお店を出したいという単発的な考えではなく、介護用品のショップと一緒に長く継続させたいという話でしたので、そこを踏まえてトレーニングもしっかりやらせていただきました。
岸本 最初の試食会の時はまだまだ味が完成されていなくて、ちょっと心配していたんですよ。でも店舗の竣工引渡しした後、何度も試作して追い込みをかけていましたよね。新しく導入したサンドイッチやケーキなどは猛練習されたんじゃないでしょうか。最初の頃に比べて格段に進化していましたもん。
野﨑 本当にギリギリでした。
岸本 ご自分たちではなかなか言いづらいと思うので、僕が代わりに補足させてもらうと、REC COFFEEさんはコーヒーに対して常に向き合っていらっしゃるでしょう。サワライズさんの仕事に対する姿勢とよく似ているんです。一切妥協しないというか。
大内 根っこの部分が同じだったということですね。
岸本 そうですね。今回のカフェ事業もここまでこだわるかというくらい何度も練習されていました。初めてのカフェ事業だったにも関わらず、北添さんも「こんな短期間でここまでバリスタの腕が上がるとは思わなかった」っておっしゃっていましたし、野中さんや野﨑さんの真摯な姿勢が短期間でここまで成長した大きな要因なんじゃないかなと思います。
いつか必ず必要になる
介護用品こそカッコよく!
古野 営業先のケアマネージャーさんの間でも「REC COFFEEさんとカフェをオープンしたんですか?」ってウワサになっていましたよ。
岸本 カフェと併設してカッコよく見せることで、介護が必要な世代だけではなく、そのご家族も取り込めたらという狙いがありましたもんね。
古野 そうですね。ショップ側はカフェからトイレへ向かう時に店内が目に入るような作りにするなど見せ方も工夫しました。
大内 確かに、カラフルなデザインのシューズや歩行器が並んでいるのに驚きました。商品はどういった基準で選んでいらっしゃるんですか?
古野 実は、介護を受けていらっしゃる方というよりも、まだ入り口にいる方をメインに想定しているんです。店舗に来ていただけるということはある程度元気な方なんじゃないかと思って。ですので、歩行関連のグッズ、シューズや杖、あとは歩行器を主に扱っています。もちろん、介護を必要とされている方に対してベッドや車椅子も展示していますし、レンタルにも対応しています。
商品のデザインに関しては、意外性があるというか、今までのイメージとは違うものを置きたいなと。実際のセレクトは僕と同じチームで介護用品の営業を担当している熊丸くんが選んでくれました。彼はおしゃれなんですよ。
熊丸新さん(株式会社サワライズ)(以下、熊丸) いやいや(笑)この店舗はセレクトショップのような機能を持たせたいと思って、よく売れているものというより、少し価格が上がってもデザイン性の高いものや上質なものに注目しています。
大内 なるほど。仕入れ先も独自の方法がありそうですね。
熊丸 百貨店などで扱う高級志向の商品や通常個店向けには卸売りをやっていないメーカーのものもあります。直接メーカーに交渉して集めているんですよ。
大内 おしゃれが好きな方にとっては、シューズや杖も洋服を選ぶ感覚でコーディネートできるのが嬉しいですね。私はまだ必要ない世代ですが、見ているだけでも面白いです。
熊丸 ご家族の方やケアマネージャーさんなど、若い方にも「こんな商品があるんだね」とか「思っていたよりもおしゃれ」なんて感想を頂いています。
大内 カフェを併設したことで、フラッと立ち寄る方も増えたのではないでしょうか。「介護用品をもっと身近に」というサワライズさんの思いにもマッチしていますよね。
古野 オープンから間もないのでまだ様子をみている状況ではありますが、介護業界の方は女性も多いので、カフェに興味を持つ方も多いのではないでしょうか。今後は「おいしいコーヒー屋さんがある介護用品ショップ」を強みとして広めていきたいですね。
若い世代がトライする姿が
社内に次なる波を巻き起こす
大内 介護用品とカフェという新たなプロジェクトについて、オープン後の手応えはいかがでしたか?
野中 カフェはまだオープンして間もないのでお客様の反応はこれからですが、とても充実しています。社内でも「楽しいことやってるね」とすごく言われるんですよ。
野﨑 私は今カフェでコーヒーやフードを作っているので、周りの友達から「転職したの?」なんて聞かれます(笑)
大内 確かに、以前とはまるっきり違うお仕事ですもんね。
野口 実は、今回のプロジェクトは、会社として初めて若いスタッフだけで取り組んだものなんですよ。4人が頑張る姿に成長を感じていますし、その姿に刺激を受けて「私も挑戦してみたい!」という人も出てくるんじゃないかなと期待しています。
大内 なるほど。サワライズさんにとっては、社内の風土を変えるという意味でもチャレンジなんですね。REC COFFEEさんは、今回のプロジェクトに参加されて、気づいた点などありましたか?
北添 サワライズさんへのトレーニングをするにあたって、自社のシステムなどを見直すきっかけになりました。他社のスタッフさんを指導すると、ちょっと俯瞰が入るから、よりその人の性格が見える。野﨑さんはマルチタスクでいろんなことができるなとか。野中さんはもともと営業マンなので接客がすごく上手とか。野中さんはカフェをやるにあたって髪型まで変えていますので、並々ならぬ意気込みも感じました(笑)
大内 野中さんの前の髪型が気になりますが(笑)。REC COFFEEさんにとってもプラスになったということですね。
北添 今までのREC COFFEEを知らない客層の方々に、スペシャルティコーヒーに触れる機会を作ってくださっているので、我々の方もとても感謝しています。これからも新たに店舗を出されるなら是非ご協力させてください。
野口 私どもも同じ気持ちです♡
岸本 おつなぎした甲斐があります(笑)
(インタビューを終えて)
2020年の4月1日にオープンした「Stong Cafe Powered by REC COFFEE」と「Care shop Terrasis」。緊急事態宣言下での休業もあり、実質営業していた期間は2週間ほどだそうです。まだまだ大変なことも多い中、画面越しの皆さんに暗い影は無く、むしろ新しい試みの成果をイキイキと話してくれた明るい表情が印象的でした。営業再開後の展開がますます楽しみですね。
国籍も年代も問わず、全ての人々が自分の健康や社会の動きに向き合わなければならなくなった2020年の春。このタイミングだからこそ、コーヒーを片手にじっくりと未来について考えるいい機会かもしれません。
今の季節は、テラス席や芝生のキッズスペースがとても気持ちいいそうですよ。
□店舗情報
「Stong Cafe Powered by REC COFFEE」
「care shop Terrasis」
福岡市西区姪の浜2-28-43 テラシス桜花1F
カフェ 9:00〜18:00 土日 8:00〜17:00
ショップ 平日・土8:30〜17:30 日祝休み
※カフェではテイクアウトも実施中。10月までアルコールも対応しています。
カフェinstagram:https://www.instagram.com/stong_cafe/
テラシス桜花HP:http://terrasis-ohka.jp/
(取材/大内理加)