コトバナ

“好き”から始まる住民主体型まちづくり マイパブリックを実現するには編

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前編 に引き続き後編をお届けします)

「私たちがやっているのは“応援”なんです」
自分らしさに向き合う私設な“公”とは

山内 先ほど、田中さんがおっしゃった中で素敵だなと思ったのは、「補助線をデザインする」と言う言葉ですね。「喫茶ランドリー」について、もう少し突っ込んでお聞きしたいです。

田中 そうですね。例えば、地球上の46億人が共通して持つ感情や思想もあれば、家族友人でさえ違う感覚を持つこともある。私設公民館は、その共有点にも相違点にも敏感に作っていくべきだと考えているんです。どんな人に対しても、セーフティーネットになるから。だから、いろんな方に私設公民館を出して欲しいと思っています。
「喫茶ランドリー」も私の好みのデザインではなくて、ちょっと実家みたいで、笑ってしまうくらいのものを自分なりに追求したつもりです。立派なホールではやれないけど、ここならハードルが低いと思ってもらえるように。

山内 共感しかないです。クリエイティブって人を圧倒するから、時に受け手は委縮しちゃうんですよね。あんまり素敵な場所になっちゃうと自分が何かやろうという気持ちがどんどんなくなる。

田中 そうそう、観客になっちゃう。 

山内 でも、「マイパブリック」って、これくらいなら自分もできるかもと言うのが根っこですよね。「喫茶ランドリー」だと、その辺の雰囲気作りも工夫されているんですか?

田中 私の仮説では、雰囲気作りには、そこにいるスタッフがすごく大事。自由で多様で許容を大切にするなら、まずスタッフにそうして欲しい。元気に「いらっしゃいませ」もいいし、元気に振舞うのが苦手な人がおしとやかに「こんにちは」っていうのも最高!
基本的に、スタッフには何のスキルも求めていないんですが、ただ自分が良かれと思っていることを一生懸命やってくれる子は素晴らしい。明るくコミュニケーション能力が高い人って言ってしまえばそれまでなんですけど、そんな公募に自ら手をあげて応募してくるやつなんて雇いたくないんですよ。

会場 一同爆笑

田中 いや、実際は欲しいんですよ。でも、そういう条件で自ら手をあげる図々しいやつは嫌なんですよ。そういう人はほっといても良くて、「ランドリーの雰囲気が好きだな」とか、「そう言えば、私こんなことやりたいと思っていたな」、「ここで働くのいいかも」とか、ちょっと調子づいてくれることが一番嬉しいです。

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山内 いいですねー。今、いろんなヒントがあったと思うんです。もてなす側で考えると、マニュアル作るとか、サービスの質とかについて考えがちじゃないですか。
でも、そうじゃないんですよね。スタッフが自分なりのやり方で心地よくいられる状況があれば、訪れた人がその雰囲気に触れる。人が本来持っている「何かやりたいっていう気持ち」が自然に出てくるんですね。

田中 そういうことです。私たちがしているのは応援だけ。こういうことしたいなあ、じゃあ許可します、じゃなくて、じゃあ一緒にやろうよってね。

 

ナカとソトの人材が集う
糸島ならではの強み

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山内 ありがとうございます。僕はね、福島さんの「いと会」も同じ考えなんじゃないかなと思っているんですよ。でも、飲み会でやりましょうって言ってやらないこともいっぱいあるじゃないですか(笑)

田中 あるある!

山内 そういうのを形にしていくプロセスもすごく大事だと思うんですね。先程のお話では、割と楽観的に「つながればうまくいくでしょ」みたいに言っていましたが、工夫や難しさはあったんでしょうか?

福島 う〜ん。そうですね。自然発生的なんですよね。気の合う人がいて、夢を語れる。ユニークな人の集まりなので、自然にそれぞれができることをやっている気がする。

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山内 じゃあプロジェクトマネージャーみたいな人はいなくて、みんなができることをやっているという

福島 ある程度中心的に進めることができる人がいて、みんなでフォローしている感じです。特に体系的に考えているわけではないですね。

田中 私も聞いていいですか?福島さんの活動に一貫しているのが、デザインがプロってことだと思うんですよ。「みんなの」のロゴとか、「いとシネマ」のポスターとか。やっぱりプロの方がいらっしゃるんですか?

福島 そうですね。デザイン会社を運営しているメンバーがいます。もう一人もCGのプロでプロジェクションマッピングとかCMとかを手掛けているのでデザイン強いですね。

田中 すごいスキルを持った方が集まっていらっしゃるんですね。

福島 糸島はいろんな方が移住されたこともあって、いろんな技術を持った人が集まっているんですよね。その人たちがつながるきっかけがあれば、いろんなイベントが自然と進んでいくような。そんな背景があるんです。

山内 福島さん達はあえてプランを考えない、そんなところも素敵だなと思います。未来をどうするかということよりは、今面白いかどうかを考えていくっていう。“おもしろファースト”って、本当に考えていないんですか? 

福島 考えてないです!というよりも、考えることができないというのが正しいのかな。まちづくりのプロでもないし、別に計画通りにやってもうまくいかないこともあるし、本当にそれが必要なのかもわからない。
僕らのやり方としては、今できるからという方が正しいのかもしれないですね。
時々取材を受けるんですけど、僕はここぞとばかりにそんな話をします(笑)

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山内 あはは(笑)そういえば、福島さんや田中さんの話をお聞きしていると、「人をコントロールしない」というところも共通していますよね。「応援する」ともおっしゃっていましたけど。

田中 その人らしさって多様じゃないですか。だからそのままでいいんです。スタッフにはコンディションのいい時も悪い時もひっくるめて愛しているんだぞって言ってます。うちの店で元気がないとか気にするなと。人間がやっているんだからそんなの当たり前なんだ。個人だと波があるけれども、みんなと丁寧に対話ができるとか、今日はコレなくてごめんねとか言える。いつも同じサービスを提供することなんて、他の店にいきゃいくらでもやってるんだから。

山内 言われた方はすごく嬉しいですよね。それ。 

 

答えがないのがおもしろい!
まずは好きから始めよう

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休憩タイムには、参加者同士で話し込む場面も…。「なんかやってみたい」欲がかき立てられているのかもしれません

ここで休憩をはさんで、深掘りタイムへ。
私設公民館のようなコミュニティスペースを運営している男性からの収益に関する疑問、田中さんの著書に感銘を受けた男性からの感想、「みんなの」の利用を考えている女性からのクエスチョンなど、続々と手が挙がりました。
盛り上がりすぎて、時間は押しも押し。
山内さんから、どうしても聞いておきたい“アノ話”の話題に。

山内 最後の締めの話を、特に田中さんにはネギシさんの話の続きなどをしていただきたいのですが。

田中 よかったら聞いてください。
ネギシさんは、灰皿を囲んで毎日とても満足そうだったんですが、ある日行政指導を受けて灰皿が撤去されたんです。これが第一話。
その後、通りがかった時、門柱の影にこっそりと吸い殻入りのバケツが置いてあった。ああ、ネギシさん懲りてねーなと(笑)。灰皿はもはや生きがいになっていたわけですね。これが第二話。
それでも灰皿が撤去された後から、ネギシさんはみるみるやせていきました。
そのまま2年が経ち、再び訪ねてみるとネギシさんは亡くなっていたんです。
まだ灰皿があった頃は、近所を歩き回っていろいろな所に顔を出していたのに、撤去された後は出歩かなくなったんですよね。すべて行政のせいというわけではないけど、人から生きがいを奪うとこんなにも影響があるんだなと。まざまざと見せつけられました。
最後は悲しい話になってしまいましたが、覚えておいて欲しいのは、ネギシさんが懲りなかったこと。撤去後に灰皿を見つけた時は最高だと思いました。

山内 じんわりくる話だなあ。ありがとうございます。
では、福島さん。最後に一言お願いします

福島 僕は「みんなの」に来てくださいしかないですね。正直、収益的には全然回っていないですけど、毎日来てくれる人もいるんです。さっきの話じゃないですけど、「今朝、雷山(10kmほど離れた山)まで散歩してきたの」なんて話してくれる、背筋がシャキッと伸びているすごく元気な地元の89歳のおばあちゃんとか。移住者ですごいスキルを持っている方とか。そんな人に出会うといろんなものが続々と生まれるような気配がしていて、ヤバいと言いつつやってよかったなあって。

山内 福島さんの語り口調から本当にヤバいと思っていないことがすごい分かります。

会場 一同爆笑

山内 きっと、そんなことはなんとかなると思っているんですよね。やばいから継続辞めようとかディフェンシブな議論じゃない。いろんな人に出会って、想像もしない未来が来るかもってワクワクや楽しさを日々実感されているから。
5年後のことなんて考えなくてもいいんですよ。

田中 好きなことを実践する時点で、もう失敗じゃないんですよね。たとえ辞めざるを得ない事態になったとしても、それまでの収穫もあるし、そんな事態に立ち会えるってことも経験値になる。私ね、よく「失敗したことはないんですか?」って聞かれることがありますけど、「一回も無いです」って答えてます。他の人から失敗だと言われても、私にしたら経験値のストックにしかならない。
昔ね、大山倍達という空手家がいて、弟子に「先生が一番強かったのは何歳の時ですか?」って聞かれたんですって。そしたら「まだだ。私が一番強いのは死の直前だから」って答えたという都市伝説があるんです。
私はそれを真実だと思っていまして、嫌なこともいいことも、まだこれからだなと思うようにしています。

山内 いいですね〜。今って、公園なのにいろんな遊びが禁止されていて、結局何もしちゃいけないみたいな硬直化した“公”がありますよね。これも行政の中の人がそんな考えなんじゃなくて、クレームが山ほど集まった結果なんですよ。だから社会の皆でそんな状況を作ってしまったと言える。
そんな中で、自分を軸として、どうマイパブリックを作っていくのか。お二人の実践されてきたことからいろいろなヒントをもらえました。
今日はありがとうございました。

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コトバナ編集後記

田中さんと福島さんのこれまでの実績は、画期的なアイデアと実践力で高い評価を受けているものばかり。けれども、その根幹にあるのは、おそらく誰でもが持っている“好き”という気持ちです。
うまくいかなかった話も交えながら、自分なりの言い方で楽しく語ってくださったお二人は、「喫茶ランドリー」や「みんなの」と同じく、我々を後押してくれるような大らかさを感じました。
あなたも好きなものやコトを街の中に描き出せば、そこから新しいまちづくりにつながるはず。この気持ちをぶつけてみない手はありません。

さあ、まずは街に出て、あなたの“パブリック”を探してみてはいかがでしょう。

 

 (記事:アナバナ編集部 大内理加、撮影:末次優太)


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