博多まちづくりミートアップ

空地や通りを活用して賑わいを生む仕掛けとは?〜ミートアップvol14レポート前編〜

村上 弥 Hiroshi Murakami

クオリティー・オブ・ローカルライフ・ジャパン
村上 弥 Hiroshi Murakami

東京・銀座の京割烹料理店で、料理人としてのスタートをきる。その後、イタリア料理などを学んだ後、都内企業にて料理長に就任。全国の直営店舗の管理、新業態開発、メニュー開発、外部プロデュースなどに携わる。2018年7月に株式会社クオリティ・オブ・ローカルライフ・ジャパンに入社し、旬の素材や生産者との関わりの場となるフードトラックビレッジにて活動中。


14回目となる博多まちづくりミートアップは「フードトラック」にスポットを当てての開催です。車内にキッチンを兼ね備え、できたての個性豊かな料理を提供する移動販売のフードトラックがオフィス街のビルの合間に出現しオフィスワーカーたちのランチを救う、東京の都心ではそんな風景が増え、話題を呼んでいます。博多エリアにも、昨年秋、空き地にフードトラックが集結する「フードトラックビレッジ」ができました。フードトラックが常設する施設は、なんと九州初上陸。昼はランチ、夜はビアガーデン、週末はマルシェと、曜日や時間ごとに異なるスタイル、異なる店舗が楽しめる空間は、これまでの店舗型営業とはまた違った魅力が詰まっています。これから先のまちづくりにおいて、空き地とフードトラックの可能性について探ります。


フードトラックって何?

img01

ノースショアだけじゃない⭐︎ワイキキのフードトラックが今アツい!4スポット10店舗以上ご紹介!

白石さん(以下、白石)みなさんこんばんは。本日モデレーターを務めさせていただく株式会社ダイスプロジェクトの白石です。14回目となる今回の博多まちづくりミートアップは、「空き地や通りを活用した賑わいづくり」というテーマを掲げての開催となります。昨年11月に博多駅前の空き地では、本格的な調理設備を備えたフードトラックと呼ばれるキッチンカーが集まる「フードトラックビレッジ(以下FTV)」という空間が生まれて話題を集めています。運営するのは(株)クオリティ・オブ・ローカルライフ・ジャパンさん。今日はFTVの代表責任者である村上さんをお招きしています。
村上さんのご紹介の前に、まずはフードトラックとは何なのかということについて、簡単にご説明したいと思います。

img02

モデレーターの白石さん

白石フードトラックとはその名の通り、飲食を中心に移動販売するトラックのことです。集客するのに、高い家賃や広告宣伝費が必要なくなってきている時代において、今非常に注目されてきています。1,000万円以上の初期費用をかけ、家賃を毎月払わないといけない固定店舗の飲食店に比べると、フードトラックは300万円ほどの初期費用で済み、毎月のランニングコストも安い。海外でも「ローリスク」「レスリスク」とも言われています。

img03

フードトラック産業の経済規模を表したもの。左の図を見ると、2017年に約870億円だったフードトラック産業は、2019年には1000億円を超えているのがわかる
出典:https://offthegrid.com/mobilefood/

白石このフードトラックと呼ばれる移動販売、実は長い歴史を持っています。その始まりは戦後、リヤカーで食品を販売することから始まりました。50年代に入ると、豆腐やポン菓子を売る自動車が住宅地などで普及し始めるようになります。その後、屋台のように食事を提供する移動販売車が現れ、オフィス街でのお弁当の販売や、行楽地でのイベント出店など様々な形態を経て、現在のフードトラック業界が形成されました。普及の背景には、SNS・インターネット検索の普及が挙げられます。ちょっと入り込んだ路地裏の店でも、SNSを通して口コミで広がっていける時代には、飲食店の立地というものが、以前ほど重要じゃなくなってきているんですね。

img04

サンフランシスコで2010年にスタートしたフードトラックのイベント「OFF THE GRID」。国籍もジャンルもさまざまな食べ物を販売するフードトラック群が市内の公共駐車場や公園に集結する
出典:サンフランシスコの移動式屋台村?Off the Gridへ行こう

白石東京都で営業許可を取得した調理可能な移動販売車の数を見てみますと、2004年では500台以下だったのが、2014年には2892台と、急増しています。ちなみに福岡はどうか? 保健所に問い合わせてみたところ、2013年は442台。2017年には449台。つまり4年間でたったの7台しか増えていませんでした。福岡はワーカーに対しての飲食店件数が非常に多く充実しているので、ニーズがそこまでないのかもしれません。
前置きが長くなりましたが、さっそく村上さんにお話を伺っていきたいと思います。宜しくおねがいいたします。

都市部のランチ難民を救う!?
東京では珍しくないキッチンカー

img05

出典:なぜ急増?ビジネス街ランチ難民の救世主「フードトラック」—私たちはコンビニ飯に飽きている

村上さん(以下、村上)みなさん、こんばんは。株式会社クオリティ・オブ・ローカルライフ・ジャパンの村上です。宜しくお願いします。

img06

本日のゲスト、村上さん

村上フードトラックは、都内では本当に増えてきていて、ここ1年で3,000〜4,000台のトラックが営業できる場所を待っているような状況です。それに対して地方の場合は、やる場所がそもそもない。あってもイベントがメインになってしまっていて、デイリーユースとしての機能にはまだまだ遠いかなというのが実感です。

白石フードトラックが普及するためには、オフィスワーカーのニーズが日常的にあることが前提と言えそうですね。

村上都内だと、駅から徒歩15〜20分歩くくらいのところにオフィスビルがあるのが一般的です。そうなると、1時間の昼休憩に、飲食店が集中している駅周辺まで歩いて行って食べて戻ってくるのは、時間もかかるし効率も悪い。そういう理由でランチ難民が多いんですね。ましてやオフィスビルの20階とかになると、エレベーター乗るのですら時間かかりますから、中にはビルから駅までのリムジンバスを出している会社もあるほどです。そんな状況で、ビルの真下でお弁当販売しているというのは、ワーカーさんにとってすごく助かるし、そういう意味で都市部でのニーズはあると思います。

白石移動販売のコミュニティも増えてきているようですね。福岡ですと、NPO法人「ネオスタイル福岡」。東京では「ネオ屋台村」などがあるようです。こういった取り組み自体にはどうお考えですか?

村上ネオ屋台村は、特殊だったキッチンカーを普段使いにする見せ方も上手ですが、やっぱり場所を見つけるのがうまいですね。

白石場所を見つけるというのは?

村上そのエリア、その立地、そのターゲットにうまくマッチングさせて、しかも月〜金デイリーでお弁当の内容も変えますから、日替わりランチみたいになって選ぶ選択肢も広がります。例えば、丸の内など女性のOLさんが多いところでは、ジャンクじゃなくサラダなどのヘルシーなメニューを扱った車を用意したりとかですね。登録している車に「今日はここに行ってください」というスケジュールの管理もします。

白石フードトラックと空きスペースのマッチングをする「TRUNCH」も、全国的にも注目を集めていますね。

村上2016年に始まったサービスで、提携フードトラックは400台を超え、首都圏の85カ所で展開されています。東京都が81カ所で断トツに多くて、神奈川と埼玉が2カ所ずつ。出店料としては売り上げの15%、5%のスペース収入となっています。

白石ありがとうございます。

都市生活者と地方の生産者をつなぐ「フードトラックビレッジ」とは?

img07

フードトラックビレッジ

白石村上さんが所属されている(株)クオリティ・オブ・ローカルライフ・ジャパンさんが、昨年の11月、博多駅から5分ほどの場所に「フードトラックビレッジ」をオープンされました。村上さんは、ここの代表責任者となるわけですが、この場所について簡単にご説明いただけますか?

村上ビルとビルの間の空き地に、フードトラックが集結する屋台村をオープンしました。1.5tトラックがギリギリ入るくらいの狭いスペースにフードトラックが3〜4台並んで、敷地内にはテントを建て、椅子やテーブルも設置されています。平日ランチは11:00〜14:00、夜は17:00〜23:00までオープンしていてお酒も出しています。週末には野菜や加工品のマルシェも開催しています。僕も普段はキッチンに立って、食事を調理・提供しています。

白石コンセプトについて教えてください。

村上都市生活者が、旬の素材や生産者との対話を通じて“自然の恵み”や“季節”を体感できる屋外型のフードビレッジということで、誰でもこの施設で好きなものを販売してもいいよ、というわけではありません。僕たちのキッチンカー「ジプシーキッチン」は、生産者と直接やりとりして、彼らの想いやこだわりをじかに聞いて、選んだものを使います。直近では、長崎県平戸市からの魚や野菜を仕入れています。もちろん一緒に出していただいているキッチンカーの方々も、このコンセプトに共感していただいている方にご参加いただいています。

img08

FTVの中から入り口に向けての風景。間口が細く、奥行きのある空間に、キッチンカーが3〜4台並ぶ。目の前には飲食スペースも

img09

毎週水曜のディナータイムでは、地元のDJをゲストに迎えて音楽を楽しめる空間を演出

「都市から地方へ」が当たり前になりつつある時代

img10

白石FTVを運営している(株)クオリティ・オブ・ローカルライフ・ジャパンさんについて教えてください。

村上端的に言いますと、各地方都市が様々な課題を抱える一方で高い潜在価値や大きな可能性を持っています。それぞれが持つ価値や可能性を最大限に引き出し、地域に合った魅力的なライフスタイルを創造し提案することで、都市から地方への人口逆流を推進すべく活動している会社です。その拠点のひとつが高知の土佐(クオリティ・オブ・ローカルライフ・土佐)、もうひとつが長崎の平戸(クオリティ・オブ・ローカルライフ・平戸)にあって、福岡市内にあるクオリティ・オブ・ローカルライフ・ジャパンが、本社的な機能として各地方のサポートをしています。

白石なぜFTVを始めることになったのですか?

村上僕自身15年ほどシェフをやっていました。サラリーマンとして会社に雇用され、ひとつの現場を管理するということも任されていましたが、飲食業界ってどうして拘束時間が長いし、若手は所得も低いし、人材が不足だとなかなか休みも取りにくい。でもそこから脱したい、もっと自分の時間を有意義にとか、飲食でも違うかたちの働き方があるんじゃないかということは、みなさん思ってらっしゃると思います。事実、大都市じゃなくて地方都市に移り住んで、家族や子どもの環境に注力したいという方は増えてきています。東京に住んでいる人に「将来的に地方に移住したいか?」という調査では、8割の人が地方に住みたいという結果が出ているほどです。

img11

村上ではどうして実行しないのかというと、自分が今やっている類似業種がないとか、今と同じ収入の仕事がないとかが理由に挙がってきます。そこで目をつけたのが、キッチンカーですね。自分で独立すると1,000万円という規模の初期投資も必要でリスクもありますが、キッチンカーは投資費用が低い分手が出しやすいんです。僕もまずは、東京でキッチンカーのトライアル経営をやってみようと計画していたのですが、博多での話が持ち上がり、博多でキッチンカーの経営を行うことになりました。

白石実際に村上さん自身、シェフであると同時に、多店舗展開されている飲食店の会社員として、働いてこられました。その中で、今おっしゃったような暮らし方のシフトという思いが芽生えて、今の会社に移られたというわけですね。実際にやってみていかがですか?

村上時間的な問題はずいぶん変化したと思います。将来的な話になりますが、例えば、朝起きたら漁師さんや農家さんなど生産者の方に会い、彼らのおすすめの食材を仕入れ、そこからオフィスワーカーが充実している場所に出店しに行きます。月〜金の11:00〜14:00頃までランチの営業をしたら、そのあとは翌日の仕込みを行います。仕込みは16:00頃に終わりますので、17:00くらいには家族や子どもとたわむれる時間が生まれて、家族で夜ごはんを囲む時間もできます。そうすると早寝・早起きができますから、今言ったようなサイクルが作りやすいのではないかと感じています。

白石実際にキッチンカーを経営するにあたって必要なことはなんだと思いますか?

村上生産の場があり、出店できる場があれば、キッチンカーは本当に実践しやすいです。あとは、SNSやネットの普及が助けになる一方、その分どんなこだわりを持ってやっているのかという“店の強み”が必要だと感じています。

白石村上さんのジプシーキッチンの“強み”とはなんでしょうか?

村上卸業者さんから仕入れた食材ではなくて、自分が生産現場を見て、食べて、選んでいるということは、大きいと思います。例えば土佐や平戸に実際に足を運んだ上で「こんな生産者さんから直接仕入れた食材を使って調理しているんだ」と胸を張れます。

白石ありがとうございます。

img12

POPULARITY 人気の記事

PAGE TOP