博多まちづくりミートアップ

博多はもっと楽しくなれる! 飲食店から見たこれからの博多の魅力作り〜ミートアップvol13レポート後編〜

「バッドロケーション」を「グッドロケーション」にする

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白石ここからは、お三方にマイクを持っていただいて、クロストークの場に移りたいと思います。

橋爪佐藤さんにご質問です。出店される前はかなり、まちを歩いたり飲んだりしたと聞いていますが、ガーブリーブスさんの場所を選んだ理由は何ですか?

佐藤まず、博多駅という巨大なターミナルから歩けるということも大きかったですが、それ以上のモチベーションは、このビルのスケールですね。なんと言っても、テラスに日本庭園があって、松が生え、鯉がいましたから(笑)

ファビオそうでしたね(笑)

佐藤横には駐車場があって、そこも店舗の一部にできたらかなり表情が出るだろうと直感的に思いました。日本庭園があったテラスは、絶対に気持ちのいい空間になる、と。ミケーレの不振もあってストラグルしていた時期でもありましたから、やはりここで我々のオリジナリティを、ある程度のスケール感の中で表現する必要があると感じていました。

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日本庭園があった空間は、大人の雰囲気が漂う

橋爪とはいえ、このあたりはオフィス街の印象が強かったと思うんです。そんな場所にどのような可能性を感じられたのでしょうか? 佐藤社長は「バッドロケーション」というキーワードを使われていますが、そのあたりにも触れてお聞きできればと思います。

佐藤駅ビルって家賃が高いでしょう。でも10分も離れるとずいぶん安くなる。その10分って、そんなに苦痛かな?と思うんです。駅にいて、喉が乾いて何か飲みたいと思ったら、とりあえずスターバックスかタリーズに入る。でも、わざわざ行きたいと思う店が歩いて10分のところにあっても、それはいとわない。その10分を「バッド」と考えるか「ノー・バッド」もしくは「グッド」と考えるか。魅力的な店がなければ、10分歩くことは「バッド」でしかないんです。だったら作ればいいじゃないかというのが、我々の考え方です。

橋爪なるほど。

白石今だから言えることでもありますが、このあたりはオフィス街で日曜日になると人通りが少ない。そこに出店されたのを見て、よくここにこれだけの規模の店を出店したなあと思いました。

佐藤博多の人からすると、こんな場所で200坪のカフェをやるなんて狂気の沙汰だと思います。そこには、地元に住んでいる人が見えていることと、住んでいるからこそ見えてないものがある。

白石実際は、人通りも少しずつ増えてきているというお話も聞きましたが、いかがですか?

ファビオそうですね、ここ2年間くらいで、歩いている人の数は増えてきたと感じています。特に子連れの若い方々。この店は、1階のトイレにオムツ交換台が設置されているし、パンが食べ放題だったり、今の時期はこたつを出していたりする。そういう要素が、子どもが一緒でも過ごしやすいと思っていただける機会が増えたのかなと思います。

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寒い時期になるとこたつで鍋を楽しむこともできるガーブリーブスの店内

お金で買えないもの=歴史、を残すリノベーション

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白石ガーブリーブスさんもそうですが、これまでの店舗でも、使い切れていなかったところを使えるようにして、新しい形で提供するというやり方をされてきていますね。

佐藤時間ってお金で買えないですよね。僕はその、時間や歴史的なものを消さずに残しながら店を作りたいと思うてるんですね。そして今、お金で買えないものにしか価値がなくなってきているじゃないですか。
大阪の天王寺に「モノクローム」という僕らの店があるんですけど、ここはもともと駅ビルに隣接した駐車場だったんですね。でもほとんど使われていなかった。僕はね、まず入口の階段を見た瞬間に衝撃が走ったんですよ。駐輪場専用の階段なので30メートルくらいあって、スロープの傾斜に合わせてあるから階段の踏み込みが一般的なものよりも浅い。ここには「バッドロケーション」か「グッドロケーション」かという2つの見方があると思います。30メートルの階段、しかも浅い段を上るのが面倒だと感じるのか? 僕は、この階段は絶対に面白くなると思ったんですね。

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佐藤氏が、見た瞬間に魅了されたという改装前の階段(左)と、改装後の階段

佐藤そして階段を上ると広々とした駐輪場があるんです。幅45メートルもあるフェンスの目の前にはドーンと8本の線路が走っていて、まあ圧巻なんですよ。ワクワクしながら階段上ったら、それですよ。8年間の月日が紡いで来た駐車場のストーリーは、買うことはできません。それは敢えて残しつつ、店を作りました。

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改装前の店内は、8年間使用されてこなかったという駐車場だった

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改装後の店内。壁に取り付けられた駐車場の番号札など、場所の持つ歴史は極力残し、新たな空間として生まれ変わった店舗。ウィンドウの外を電車が走り抜ける光景もまた情緒がある

佐藤博多のまちも、昨日今日できたものではないんです。とてつもない歴史と文化の中に繁栄や衰退があって、今がある。その感覚を大切にしながら、空間の持っている時間軸や歴史的背景、そこで交わされた痕跡を消さずに店を作っていきたいんです。これはまた、まち協さんが今手がけられているまちづくりとも何か関連しているんじゃないかと思います。だからこそ、うちの店も交われた。こんなまとめ方でどうですか(笑)

橋爪素晴らしい(笑)

バルニバービ、次の狙い目は海の近く!?

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橋爪今後、福岡で気になる場所などありますか?

佐藤大阪は中之島や道頓堀。京都は鴨川。神奈川は湘南。僕ね、水辺が好きなんです(笑)。福岡に、ラーメンで有名な漁港あるじゃないですか。

橋爪長浜ですか?

佐藤そうそう、あのあたりもいいですね。あとは密かに糸島もいいなと思ってます。言っちゃったから密かじゃなくなったけど(笑)

橋爪糸島はやっぱり海沿いですか?

佐藤絶対海沿いです。海が見渡せるでもいいですね。今すでに盛り上がって来ている地域もあると思いますし、そういうところで新しい文化が生まれ出すと面白いだろうなあと。

橋爪実は僕も糸島に通っていて、仕掛けたいなと思っているんで、ぜひ一緒に何かできたら。

佐藤ぜひ!と言っても、やるのはこの人(本多)ですけどね(笑)。彼は神奈川出身ですけど、転勤で博多に来て、博多でハニーを見つけて結婚して、とうとう博多の人になりました。地元の人間として、色々と意見を言ってもらいましょう。

ファビオ方向性の話になると、ワクワクしますね。そこに同じ志を持った仲間がいるのであれば、縁をつくっていきたいし、可能性はまだまだこれから広がっていくと思います。

佐藤僕より大人な意見言いますね(笑)

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切り札の一歩前を考える

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橋爪今、道路や公園の活用というものが、まちづくりの中で非常に注目されてきています。我々も、一企業だけではアプローチしにくいことにエリアマネージメント団体として特に積極的に取り組もうと思っているのですが、バルニバービさんも様々な場所で公共空間の取り組みをされていると思います。そのあたりはどうでしょうか?

佐藤大濠公園の話に戻りますが、公園内にあるロイヤルガーデンカフェとスターバックスコーヒーには嫉妬しますね。あんなに恵まれている環境って、全国でもそうそうないですから。その上で意見を言いますと、僕の中では、まち興しにスターバックスさんだけは使っちゃいけないと言うてるんです。究極のスペシャリティを持たれている会社でしょう。切り札を切ってしまったら、あとは何も使えなくなる。

橋爪賛成です。

佐藤だから自分たちができることは何かを常に考える必要がありますよね。
例えば2019年2月に、茨城県のJR土浦駅ビルにカフェをオープンする予定なんですが、ここがちょっと面白い。もともとこの場所は東京に一番近い茨城県のセンターだったのが、つくばエクスプレスができてからすっ飛ばされちゃって、ずっと右肩下がり。リニューアルするたびに一時期だけ収益が上がるんだけど、すぐにまた下がる、の繰り返しだったんですね。それで結果的にたどり着きはったのが「駅は稼ぐための場所じゃなくてもいい」ということです。

橋爪そこに行き着きましたか。

佐藤土浦自体、全長180㎞のサイクリングコース「つくば霞ケ浦りんりんロード」のスタート地点だということを生かして、駅ビルは、レンタサイクルやサイクルカフェなどが入った、日本最大級の体験型サイクリングリゾートとしてオープンする予定です。我々はその450坪の駅ビルに、ワンフロア丸々子どもたちが無料で勉強できるスペースや、子どもの料理教室ができるクッキングスタジオを出すことになっています。なぜなら子どもは地域の未来ですから、まちを元気にしようと思ったら、子どものために投資しなくてどうするんだと思いますね。

参加者の声

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白石ではここで、会場の方からご質問などあれば聞いてみたいと思います。

参加者1橋爪さんにお尋ねです、今駅前でやられているまち協さんのプロジェクトは、予算はどこから持ってこられているのですか?

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橋爪まち協には約170社の会員の企業がいらっしゃいますので、その企業さんが納めてくださっている会費を使っています。大きなプロジェクトの場合は、個別に会員さんに協賛を募るケースもあります。

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参加者2佐藤社長にお聞きします。飲食店業界として、インバウンドという観点からご意見があればお聞かせください。

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佐藤我々外食産業会社としては、インバウンド対策に関しては非常に遅れていると思います。英語が話せるスタッフも非常に少ないですし、プロモーションの面から見ても遅れています。ひとつ言い訳があるとしたら、観光客相手の商売って、ときに雑になってしまう危険性がある。極端に言えば、一度きりなので、仮に喜んでもらえなくても、来てもらいさえすればいいわけです。そうではなく、「この店に来て良かったね」と喜んでもらうことが僕らの最終目標。そういう意味では、外国の方であってもそのスタンスで取り組んで、お迎えできるような店にしていこうと、いつも言うてます。

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橋爪博多のまちがもう少しこうなったら面白いのになあというご意見があれば教えてください。

ファビオ最初に福岡に来た時に、上司から「友達100人作れ」と言われたのですが、なかなか難しかった。率直な意見ですが、地元のネットワークが強すぎて、よそ者の僕はなかなか入っていきづらいものもあった。ただ、一度入ってしまえば本当にそのつながりの強さに助けられることはあるんですね。だからこそ、いろんな事業者の方が入ってきやすいまちであってほしい。食文化のレベルは日本一なので。

白石なるほど。よく、福岡には地元好きな人が多いと言いますが、もしかしたらその分、外の人が入りづらくなっている現状があるかもしれませんね。

佐藤そうか? 僕は最初から受け入れてもらったぞ。お前(本多)の顔がうさんくさかったんちゃうか(笑)?

ファビオそれが80%です(笑)

佐藤僕は逆でね、博多の人間がどんどん東京に出たらいいのにと思うてます。コンテンツとしては十分に闘えるから。あとは、そろそろ次のエリアにも目を向けていくといいんじゃないかと思いますね。天神はちょっと過密になり過ぎますよね。

橋爪ありがとうございます。

白石最後に、10年ぶりの博多で佐藤社長を案内してくださったまち協の浜田さん、一言お願いします。

浜田さん初めて佐藤社長にお会いしたときに博多のまちを連れ回してしまいました。今日お話を聞いて、楽しんで頂けたなら本当に嬉しいです。その後博多駅の近くにガーブリーブスさんがオープンしたりと、博多エリアを盛り上げようと思っている者としてもすごく嬉しく思っております。これからも色々と一緒に取り組んでいけたらと思います。今日はどうもありがとうございました。

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福岡地所の浜田さん

民間だからこそ作り出せる“公共性”

白石ありがとうございます。では最後に、お三方に一言ずつお願いいたします。

橋爪「まちづくり」というと、どうしても自治体に依存するケースが多いのですが、ひとりひとりの事業者が自分事として文化を生み出していくことが今後重要になってくると思います。博多駅エリアには魅力的な事業者さんがまだまだいらっしゃいますので、その方々とともに、民間だからこそ作り出せる“公共性”というものを念頭に地域を興していけたらと思います。 また本日は佐藤社長のお話から、飲食店でありながら歴史を重んじつつ長い目でまちを育てる視線を再認識いたしました。今度も色々とご一緒できるといいなと思っています。よろしくお願いします。

ファビオこのエリアにガーブリーブスがオープンして1年半が経ちますが、最初は仕入先も決まっていなかったので、農家や漁港を回るところから始まりました。今振り返ると、本当に様々な人たちの支えで歳を重ねていっていることを実感しています。 また「飲食店=食べる」なのですが「+エンターテインメント」が重要だと思っています。今後も突拍子もないことを要求されると思いますが、ぜひみなさんにも楽しんでいただけたら幸いです。

佐藤身内っぽくなってしまいますが、本多がこのまちに根ざして、家庭を築き、仲間ができていくということが、僕は本当に嬉しく思っております。これからの本多を宜しくお願いします。

白石みなさん、ありがとうございました。

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(了)


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