博多まちづくりミートアップ

博多×着物 暮らしがもっとわくわくする! 博多と着物の楽しみ方〜ミートアップvol12レポート後編〜

博多織はカジュアル!?

白石実際に織元側から見て、田中さんの着物を楽しもうというお話はどう思われますか?

鴛海博多織といえば献上帯とか言いますが、実は博多織が発展してきた背景には、カジュアルであったことが大きいんですよ。

白石そうなんですか!

鴛海さきほど西陣織との違いの話をしましたが、一番の違いはフォーマルかカジュアルかでしょうね。博多織はカジュアルなものでしたから、昔の人は好きな帯を年に何十回も締めていたんじゃないかと思います。それでも丈夫だから、代々受け継いでいけた。田中さんが言ってくれたように、自分で自由にコーディネートして楽しむということは、実は博多織の基本にあると思います。

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白石僕も実は着物ユーザーなんですが、男性の場合って胸元が崩れやすいんですよね。以前織元の方から教えていただいたのが、冬場はタートルネックのセーターを下に着るという着方。暖かいし、多少崩れても気にならないんです。そんなふうにカジュアルに着物を楽しむということは、着物の入り口としてもいいですよね。

田中そうなんです。女性の場合はアイテム数も多いから、全アイテムをちゃんとしたもので揃えようとすると、金額的にも跳ね上がっちゃいます。洋服のアイテムで代用できるものはどんどん使ってもいいし、下着も、タンクトップとかステテコでもいいんです。着物が着たいと思って呉服屋さんに行くと、着物用の下着まで一式勧められますけど、こういうことを地道に言っていかないといけないなと思っています。

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着物って実はラク!?

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白石実際に着物を着て楽しめることについてどうお考えですか?

鴛海色々な場所に着物を着て行って楽しむのももちろんいいけど、行き着くところはやっぱり食べ物でしょう(笑)。でも着物を着たまま飲食するのが心配だという人ってものすごく多いんですよ。これは逆に質問になってしまって申し訳ないんですが、そのあたりで田中さんにアドバイスいただきたいですね。

田中汚しちゃいけないと思うと、絶対に汚しちゃいますよ(笑)。でも大丈夫。今は自宅でメンテナンスできる素材の着物が増えてきているんです。例えばポリエステル、綿、麻。そういう素材のものから始めるのもおすすめです。慣れてきたら、いい着物を着てコース料理を食べに行くのもいいかもしれません。

白石着物を着てまちを歩くという楽しみ方についてはどうでしょう?

田中もちろん観光名所とかはばっちり着物が合いますよね。着物を着て行っちゃいけませんという場所はないので、自分が行きたいと思った場所に、どんどん着物で行ってほしいと思います。周りの人が「こういうところに着物で来てもいいんだ」と思えば、他の人も着物で来やすくなる。だからあえて線引きはしたくないですね。

白石とっかかりとして、花火大会なんかももいいかもしれない。

田中そうですね。しかも花火大会であれば正統な着かたじゃなくてもいい。もちろん伝統文化としての一面も必要だけど、着物ってファッションなんです。襟合わせだけ間違えなければ、ほかが多少間違っていても大丈夫。そう言うと、みなさん「肩の荷が下りた」と言ってくださいます。
逆に結婚式みたいに、“式”が付いていると、着る着物はフォーマルになりますね。フォーマルになるとカジュアルシーンと違って、色々な制約が発生しちゃう。逆に言うと、ちゃんと着ておけば大丈夫だということなので、こんな時はレンタルするのもひとつの手段だと思います。

白石男性でも気軽に着物を楽しむことに関してどう思われますか?

鴛海ここはものすごく整ってきています。例えば、アウトドアで着物。さきほど田中さんがおっしゃいましたが、汚れても自分で洗濯ができるような素材のものも出てきています。帯の締め方を忘れちゃってる人、知らない人にとっても、ファッションとして手軽に楽しめるようにベルトと融合したような帯も今開発されています。

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白石男性にとっても次々に新しいものが出てきていますね。着物は長く着れるし、男性の場合は着付けが楽な部分もあると思います。もう少し身近なものになるといいですね。ちなみに結婚式に着物を着て行くと、新郎新婦のおばあちゃんたちからモテますよ(笑)。

田中それに何といっても、着物って楽なんですよ。「ちゃんとした感」が出るし、着ているだけで褒められるでしょう(笑)。まずレンタルでもいいので、着物を着てみてほしいと思います。

博多織、着物の課題は?

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白石今、若い人たちが着物を楽しむ動きも出てきていると思います。どのように関心を寄せて楽しんでいると思われますか? そこに課題があるとすればどのようなものでしょうか?

鴛海博多織の作り手でいうと、若い人たちはこだわりが強い。特に私のように代々博多織に長年携わってきた立場の人たちにはない熱い情熱がありますね。ただ熱いゆえに完璧を求めてしまう。それこそクオリティは素晴らしいものがあるんです。従来の帯にとらわれずに、もう少し柔軟になっていくとさらに素晴らしいと思いますね。買い手の方々に関しては、着物初心者、インバウンド向けにユーズド、リサイクル着物の取り扱いを始めましたが、着物をよく着られる方のお買い求めが7割と、まだまだ差がありますね。

田中福岡って伝統工芸に触れる機会が結構多いと思うんです。例えば小石原焼なんかは、ちょっと洒落たデザインのものが洒落た雑貨屋さんに並んでいますよね。こういう見せ方が必要だと思うんです。日常的に使うものにはみなさん敏感ですが、博多織になると身構えてしまう。もう少し日常の生活の中に受け入れられるようなアイテムからスタートできたらいいんじゃないでしょうか。
また鴛海さんもおっしゃったように、博多織の「献上柄」って、まちなかに結構あるんです。ただ柄は見たことがあっても、それが何なのかということまでは知らないと思います。そういったところを上手に結びつけていけるといいんじゃないかと思いますね。

鴛海おっしゃる通りで、博多織メーカーは、問屋さんとその先の小売店しか見てこなかった。ものづくりの基本はあっても、博多献上文様をみなさんに知ってもらうということを、ずっとやってこなかったんですね。十数年前から博多織の品評会を発祥の地である承天禅寺さんでやらせていただくことになり、ようやく、ユーザーの方、博多織を知らない人に見てもらうことが徐々に増えてきてはいます。だけどまだまだ知られていないのが現状ですね。

白石ありがとうございました。

着物の収納は大雑把でもいい?
〜会場からの声〜

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〈ミートアップの終盤には、参加者がグループに分かれて交流を行いました。着物ユーザーの方も、普段なかなか着物を着る機会のない方も、着物に対する気持ちに変化はあったのでしょうか? また着物をさらに楽しむためには、どのような課題があるのでしょうか? その一部をご紹介します。〉

参加者1普段から田中先生のブログを拝見し、着物って自由に楽しんでいいんだなと感じておりましたが、今日実際にお話を聞いて、改めて寸足らずの着物でも気軽に着てもいいんだと思えました。着物に関心のある方は、着る機会があれば着たいという方が多い。ぜひみなさんで着物を着てお出かけできるような機会があればと思います。

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参加者2私たちのグループでもやはり、着物は着たことがあるけれど、あまり頻繁には着ないというのが多数でした。ではそれはなぜなのかというと、着た後の収納の仕方がよくわからなかったりするんですね。昔の家だったら着物用の箪笥や衣紋掛けが普通にあったので、きちんと干したりできていたんじゃないか。でも今の住居じゃなかなか難しいという話も出ました。

田中収納のことについては、ちゃんとした着物はもちろん桐箪笥に入れておいたほうがいいのですが、ポリエステル、綿、麻など気軽にメンテナンスできるものは、プラケースでも正直大丈夫です。ハンガーも洋服用でいいし、ドアの上にひっかけるフックで吊るしてもいい。引っ掛ける高さがない場合は、裾が床に付いても構わない。意外と雑でも大丈夫なんです(笑)。着物だからどうこうしなくてはいけないという風に考えないほうがいいかもしれませんね。

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参加者2もう一点、教育という観点からお話しさせてください。私はインドネシアの学校で日本語講師のサポートをしていたのですが、インドネシアの学校って曜日によって制服が変わるんです。ブラウスとスカートの日が月水金、火木土はバティックと呼ばれる伝統的な衣装を着て来ると決められている。制服にもバティック柄が使われていて、半強制的に小さい頃から伝統衣装が身近にあるんです。授業の中でも伝統舞踊を踊ったり、伝統楽器を演奏したりと、小さな頃から親しむ機会があります。大人になってもすんなり継続していくためには、小さい頃からの教育も大切だと感じています。

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参加者3成人式や卒業式くらいしか着物を着たことがなく、ファッションという視点から着物を見たことがありませんでしたので、目からウロコの数々でした。ファッション目線だと若い人たちにも馴染みやすく、着てみようと思える。レンタルの話もありましたが、そもそもレンタルできる場所自体があまりないのは残念です。着物そのものに触れられる場所がもっと増えていくといいんじゃないでしょうか。

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白石ありがとうございます。まずはどう気軽に楽しめるかというところにつなげていくことや、どう博多織・着物の魅力を知ってもらうかということが大切だとわかりました。また教育面、文化的な素地もないと、伝統的なものへの興味が湧きにくいということはその通りですね。

より着物を身近に感じられるように

白石では最後に、ゲストのお二人に一言ずつお願いします。

鴛海インドネシアのお話がありましたが、やはり教育って大事だと思います。私も小中高でお話しさせていただくことがありますが、行くだけではなく、実際に触れてもらうことが大切。それは着物だけじゃなくて、伝統文化そのものも同様です。それが、今後豊かな国を作っていくことにつながるんじゃないかと思います。あとは、着物って最初は着ても気まずいとか、恥ずかしいという気持ちがあると思いますが、だんだんとなくなっていくものなんですね。田中さんが地道に着物ファンの方を増やしていっているように、ひとつひとつ積み重ねていくこともまた大切だと思いました。本日はどうもありがとうございました。

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田中私自身、着物を中心とした仕事をしていますので、周りはみんな着物のことが気になる人ばかりなんです。ですので本日は、収納のご質問などもいただけて、実はすごく新鮮でした。着物に馴染みがない方だからこそ、疑問に感じていることがたくさんあると思います。素材のこと、収納のこと、着かたについて。聞ける場所や相談できる場所がもっと身近にあればいいなあと思いました。本日はこのような機会をいただいて本当にありがとうございました。

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白石お二人ともありがとうございました。

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(了)


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