博多まちづくりミートアップ

今週末もどこかで開催中? 当たり前になった今だからこそ考えたい福岡のマルシェ事情〜ミートアップvol10レポート後編〜

小さなカフェがマルシェにひっぱりだこの理由とは?

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白石前半では、マルシェを仕掛ける側の目線や取り組みについて『シティ情報 ふくおか』編集長の古後さんよりお話しいただきました。ここからは、イベントに出店する側として、カフェバー「BANKS」の高木洋人さんにお話を伺っていきたいと思います。まずはご自身が経営されているBANKSについて教えてください。

高木さん(以下、高木)みなさんこんばんは。BANKSの高木です。今日はよろしくお願いします。

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高木さん

高木BANKSは、清川にあるカフェです。オープンして今年で10年になります。店の看板メニューは、ブリトー。トルティーヤ生地で具材を巻いて食べるメキシコ料理です。もともとサンドイッチ屋をやっていた経緯もあり、オリジナルのサンドイッチを作ろうかと考えていたところにブリトーに出会って、そのユニークな個性に惹かれました。中の具材はなんでもOKなので中華にもイタリアンにもなるし、手で持って食べられるので、マルシェなどのイベントでもすごく人気です。

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チキンなど肉メインのブリトーをはじめ、写真のような野菜たっぷりのブリトーも最近は人気。

白石BANKSではこのブリトーを武器に、全国のマルシェに出店されていますね。一方で地元の百貨店などにも期間限定で出店されたりしています。いわゆる一般的なマルシェと百貨店ではずいぶんカラーが異なりますが、出店する側の意識の違いはありますか?

高木例えばさきほど古後さんのお話にあった「挨拶運動」ですが、マルシェでは人とのつながりをつくること自体気軽ですよね。でもこの挨拶運動を百貨店で実践してしまうと、カジュアルすぎるといこうとでクレームにつながることもあります。もちろん百貨店側も、僕らのような個店を尊重してくださいますし、ある程度振り幅があっても受け入れてくれます。

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サンドイッチ屋時代からの人脈を生かして百貨店にも出店。屋外で開催されるいわゆるラフなイベントとはまたひと味異なる空間とあって、出店側の演出にも変化をつけて

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護国神社の蚤の市での出店風景。出店準備はなんと夜中の3時から。いざ蓋を開けると、ものの2時間でブリトーが完売!高木さん曰く「襲われたようなボロボロ感でした(笑)」だそう

飲食店にとってマルシェとは?

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白石ここで高木さんに質問です。飲食店にとってマルシェってどんな位置付けですか?

高木僕らの周りでもそうですが、店舗だけで成り立っている飲食店は少なくなってきています。反面、イベントと店舗を両立している店が増えていますね。BANKSなんかも人通りが少ないエリアにありますから、たくさんの人が来てくださるマルシェのような空間で自分たちをしっかり見てもらえるのはありがたいです。

白石店舗によっても、イベントに出店する店とそうでない店とがあると思いますが、イベントには出店したいという店は多いんですか? またその場合、どうやって出店できるようになるんでしょうか?

高木「出店したいのですがどうしたらいいですか?」という相談はよくありますね。というのも、出店への“入り口”って見えにくいんです。人同士の付き合いというか、横のつながりから生まれてくることも多いですから。BANKSの場合も、出店したいと声に出して言っているわけではなくて、誘っていただくことが多いです。

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白石百貨店への売り込みなんかも可能なんですか?

古後ハードルが高いと思われがちな百貨店は、実はどこよりも地場に根付いたことをやられているから、盛り上げてくれそうな元気な店に来てもらいたい。もちろん敷居が低いというわけではないですけれど、その分きちんと選んでくださいますし、こちらの意見も真摯に聞いてくださいます。興味がある人はどんどん飛び込んでいったらいいと思います。

白石店舗にとってマルシェはそんなに特別なものじゃなくなってきている感じですか?

高木そうですね。僕にとってマルシェや蚤の市や百貨店に出店するということは、「BANKS○○店」みたいな感覚です。そこにくる方々の心を僕らなりに掴んでファンにしていくためにはどうしたらいいのか。そういうことって、出店というよりも店舗の意識に近いですよね。だから継続して出店することは大切だと思います。じわじわと良くなってくる。

マルシェって儲かるの?

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白石単刀直入に聞きます。マルシェって儲かります?

高木うーん……トータルするとそうでもないんじゃないでしょうか(笑)

会場(笑)

高木もちろん出店してドッと売れることも結構ありますけど、だからと言って儲かるかと聞かれると……。

白石そうですよね。とくに新鮮な食材は余っても使い回しができませんし、保存するにも店舗とは別に冷蔵庫が必要になったりするでしょう。運ぶためにはクーラーボックス、提供するための包材やお皿、コンロ借りたらレンタル費。さらに店舗のためにアルバイトも雇わなきゃいけない。正直すごい投資ですよね。

高木イベントの前後も大変で、準備から後片付けまで含めると果たして儲かるの? って思います。でも思うのは「マルシェは儲からなきゃいけない」という意識で出店すると、大体は続かない。

白石4〜50万稼いで「これからはイベントだ!」と思っても、次のイベントでは大コケしてやめちゃうケースも結構聞きますね(笑)

高木だから結局、どこにモチベーションを置くかということは大事ですよね。主催者の思い、お客さんや店とのコミュニケーション、そしてその場を僕らがどう楽しむか。さらに言うなら、みんなでひとつのイベントを作り上げる意識がないとダメだと思います。だって僕らは、自分たちだけではできませんから。まあ、売れなくても楽しいですよ(笑)

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いいマルシェってどんなマルシェ?

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白石高木さんから見て、いいマルシェってどんなマルシェだと思いますか? 企画する側の人間として参考にしたいので教えてください(笑)

高木やっぱり主催者と出店者のコミュニケーションがどれだけとれるかが、いいマルシェかどうかにつながっている気がします。まずは主催者がどういう思いでやろうとしているのかを知れば、僕らを呼んだ理由もわかりますしね。売り上げがよくないこともありますが、コミュニケーションが、僕らが継続して出店していける理由になっていると思います。つながりがないと、「売れたか売れなかったか」という表層的な部分だけで終わってしまって、主催者側にとってもリスキーですよ。

白石やはりここでも人と人とのつながりがポイントですね。

高木忘れられないエピソードがあるので紹介させてください。数年前にある蚤の市に出店したときの話なんですが。蚤の市当日、大雪が降ったんです。ブリトーが冷凍ブリトーになっちゃうくらいの(笑)。ここまでひどい雪になるとは、主催者も出店者も予測していなかったし、ギリギリまで様子見て、主催者も出店者のために「よし、やりましょう」と決断した。ふたを開けてみると、やはり雪がひどすぎて続けられる状態じゃなかったんです。結局中止になったんですが、そのときに運営チームが何をしたと思います? メンバーがひとりひとりリヤカーを引いて店舗を回って、謝りながら商品をむちゃくちゃ買っていくんです。リヤカーが山のようになるまで積んで。

白石それはすごいですね。

高木出店側のほうが、「仕方のないことなのでそこまでしないでください」という感じですよ(笑)。最終的には、ほとんどの店舗が返金すら断って、その資金を次回に使ってくれと。つまり結局は人付き合いなんだと思います。思いを知っているからこそ、なんとかしてあげたくなる。

白石ありがとうございます。
冒頭に、マルシェには3つの魅力があるという話をしました。1つは、買い手は生産者から直接買える良さがある。2つは、売り手は新しい販売チャンネルを増やしてPRにもなる。そして3つ目が、買い手と売り手をつなぐ場になる。この“横のつながり”というものが大きな意味をもってくることが、少しずつ見えてきたような気がします。

マルシェは特別なものじゃなくて日常に溢れるもの

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〈ミートアップの終盤には、参加者が3人ほどのグループに分かれてディスカッションを行いました。テーマは「博多のまちをマルシェで楽しくするとしたら?」。こんなマルシェがあったら面白い、自分だったらこんなマルシェをしてみたいということを、各々自由に話し合っていただきました。マルシェを通して見えてくるまちへの新たなアプローチとはどのようなものでしょうか。 そのアイデアの一部を紹介します〉

参加者1イベントを企画する側の人間としてミートアップに参加させていただきました。共感できる話が多々あり勉強になりました。
将来的な着地点としては、マルシェの特別感がより日常感の溢れるものになっていくことが望ましいのではないかと思います。博多エリアには天神にはないスペースがまだまだありますし、週末になるとそういう場所で小さいマルシェが次々に開かれるような連携性があっても面白いと思いました。小さな寺社、史跡、個店なども巻き込みながら、博多らしい楽しさが生まれていくといいなと思います。

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参加者2 当ミートアップの開催をお手伝いしている会社の者です。お二人のお話を聞いて、色々と身が引き締まる思いでした。
前の方とかぶるところもありますが、例えば海外の夜市が楽しいのは、地元の人々の日常がそこにあって、そこに交われるということが楽しさを生んでいるのだと思います。博多の人が日常的に楽しめるようなマルシェがあって、そこに観光やビジネスで来る人たちも楽しめるような仕掛けがあると面白いと思います。

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参加者3以前働いていた飲食店で割とマルシェなどへ出店させていただいていましたので、大変勉強になりました。
上のお二人と重複しますが、やはり「日常にあるマルシェ」でしょうか。駅前やまちなかももちろんいいのですが、人が住んでいる下町、商店街、公園のような場所で、もっと暮らしのなかに根付いていけるマルシェが増えていくことで、まち全体が面白くなると感じます。

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参加者4大学の事務職員の傍ら、ボランティアでイベント主催のお手伝いをしています。本日はありがとうございます。
ふらっと立ち寄ったマルシェが常連さんばかりだったり、身内同士で盛り上がっていると、いづらくなってしまうことがあります。ファンの方を大切にすることはもちろん重要なのですが、誰でも立ち寄りやすいと感じられる雰囲気づくりも大切だと思いました。

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白石ありがとうございます。まちなかで開催される特別なイベントとしてのマルシェだけではなくて、これもまちの一部なんだということを感じられるようなマルシェもまた魅力的であるというご意見が多くありました。またそれは内輪受けで終わるのではなくて外に開かれていることも、いいマルシェのひとつの条件のようです。商売とは、身内、同業者同士でしっかりと競い合いながらも、仲間として協力し合う関係も必要です。マルシェの試みはとても楽しいものだと思います。マルシェで“稼ぐ”こと、そして人を“楽しませる”ことの両方を忘れずにありたいですね。

マルシェとは、対話=コミュニケーションで人をつなぐ場である

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白石では最後に、ゲストのお二人に一言ずつ願いいたします。

古後『シティ情報 ふくおか』をつくっていると、「福岡の観光名所ってどこですか?」と聞かれることが多いんですね。僕の答えのほとんどは、まちで商売している人や店。やっぱり博多は商売のまちなんです。だからこそマルシェも似合う(笑)。これは僕の空想ですが、商売育成所のようなものがあったら面白いなあと考えています。育成所でライセンスを取得したら、晴れて“商売人”として認められるというね。そんな博多らしい商売のあり方を考えていきたいですね。
本日は参考になる話ができたかどうか分かりませんが、自分が常日頃考えていることを伝えるいい機会になりました。ありがとうございました。

高木話のなかであらためて感じたのは、毎週末のように博多のどこかでマルシェが開かれている光景って素敵だなあということ。福岡に限らずですが、ふらっと遊びに来たお客さんがまちのよさに触れられる機会ってなかなかありません。そんなときに、昼も夜も賑わっているマルシェがあると本当にいい。そこには地元の人もいて、よその人にまちのよさも教えてくれる。色々な形の対話が生まれることで、まちの活性化にもつながっていくんじゃないかと思います。福岡=マルシェのまちになったら、それはそれで面白いですよね。
本日はありがとうございました。

白石マルシェって、作り手、売り手、買い手の距離が近い。その距離が縮まって最後につながった瞬間に、インフォメーションとしての機能も生まれるし、何といってもまちが元気になる原動力になるのだと思います。そんなマルシェに欠かせないのは、人と人のつながり=コミュニケーションなのだということも感じています。本日はありがとうございました。

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(了)


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