博多まちづくりミートアップ

今週末もどこかで開催中? 当たり前になった今だからこそ考えたい福岡のマルシェ事情〜ミートアップvol10レポート前編〜

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シティ情報ふくおか編集長
古後大輔 Daisuke Kogo

1975年大分県別府市生まれ。
タウン情報誌『シティ情報ふくおか』の編集長として人と人のつながりを大切にすることをモットーに、自ら現場に赴き、足でかせぐ取材を毎日敢行中

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BANKSオーナー
高木洋人 Hiroto Takaki

中央区清川の夜中まで楽しめるカフェを運営しつつ、個性的なブリトーをメインに提供するチームとともに各地のマルシェから百貨店催事など毎週末のように出店している「BANKS」のオーナー


10回目を迎えた博多まちづくりミートアップ。今回のテーマは「マルシェ」。毎週末のように開催されている大小様々な規模や種類のマルシェには、みなさんも一度は足を運ばれた経験があることと思います。そんな身近になってきたマルシェと福岡のまちについて、あらためて正面から考える機会となった当日のミートアップの様子を、2回に分けてご紹介します。


マルシェが持つ魅力とは?

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白石さん(以下、白石)みなさんこんばんは。本日モデレーターを務めさせていただく白石です。本日のテーマは「マルシェ」です。フランス語では「marche=市場(いちば)」ですね。「市場」というだけあって、一般的には野菜、パン、コーヒー、スープなどの食品をはじめ、暮らしのなかで使われるような木工品や焼き物など、ナチュラルな生活を感じられるようなものが並ぶことが多いようです。そんな「マルシェ」の定義も、近年は広くなってきています。地域の生産者がつくった農産物を持ち寄って販売する「ファーマーズ・マーケット」や、ヨーロッパ発祥の古物市として知られる「蚤の市=フリーマーケット」と呼ばれるものも、マルシェとして認知されてきています。

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白石では、マルシェの魅力とは、いったい何でしょうか。以下にまとめてみます。

(1)生産者がこだわって作った良質で安心・安全な農産品を直接購入できる
(2)生産者にとってマルシェへ参加することが、販売チャネルを増やすことになり、ネット通販などの販促にも繋がる可能性がある
(3)生産者と消費者、または生産者同士や消費者同士をつなぐ、新しい「場」になっている

以上のように、作り手にとっても、買い手にとっても、色々な意味での魅力が詰まっているのがマルシェであるというわけです。

福岡のマルシェ事例

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白石ここで、福岡のマルシェを事例に話を進めていきましょう。

〈博多朝マルシェ〉

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博多三徳」という魚屋さんが、自分たちとつながりのある作り手を店に集めて開催しているマルシェです。生産者がスタートしたマルシェの一例ですね。魚屋さんですから、魚の解体ショーなども見ることができます。
博多朝マルシェ公式ウェブサイト
https://asagohan.santoku-net.co.jp/marche/

〈博多ファーマーズマーケット〉

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博多駅前で5月~10月まで毎月3日間、約40組の九州の生産者が集まって開かれている農産物マルシェです。
博多ファーマーズマーケット公式facebook
https://www.facebook.com/hakatafm/

〈護国神社蚤の市〉

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今や福岡を代表する蚤の市です。アンティーク雑貨・家具、古本、食品から植物まで、2日間で約200店舗が出店します。圧倒的な集客力を誇っていて、今は福岡を飛び出して他県でも開催されています。
護国神社蚤の市公式HP
http://g-nominoichi.petit.cc/

福岡の老舗タウン誌40年の歴史

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『シティ情報 ふくおか』編集長・古後さん

白石ではゲストの紹介です。1人目は、『シティ情報 ふくおか』編集長、古後大輔さんです。『シティ情報 ふくおか』の誌面では毎号様々なマルシェが紹介されています。また近年はマルシェの開催もされていますね。そこに携わってこられたご経験から、福岡のマルシェ事情や印象に残ったエピソードなどをお聞きできたらと思います。よろしくお願いします。

古後さん(以下、古後)こんばんは。本日はどうぞよろしくお願いします。
出鼻をくじくようで恐縮ですが……マルシェを含むローカルイベントというもの自体、2013年あたりから一気に生まれて、2017年春頃から一気に減ってきています。

白石えっ! そうなんですか?

古後はい。『シティ情報 ふくおか』でもマルシェの情報を掲載したり、イベントそのものにも関わっていますが、「このイベント今年はやらないのかな?」というものが昨年から出てきました。お客さんや出店者側の意識の変化だと思いますが、僕らも非常に気になるところではありますので、そういったことについても話ができればなと思っています。

白石冒頭から衝撃的な展開ですが……よろしくお願いします。ではまず『シティ情報 ふくおか』について教えてください。

古後『シティ情報 ふくおか』は創刊して41年という、割と歴史のあるタウン誌です。最近は紙やウェブなど平面のメディアだけではなく、その両方の情報を立体的なメディアとして発信しようと、「まちメディア」としてマルシェなどのイベントも企画しています。

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古後紙媒体からウェブを経て、どうして「まちメディア」も手がけるようになったのか。そこにはやはり、時代の変遷が影響しています。『シティ情報 ふくおか』が創刊されたのは、1976年。雑誌媒体がポリシーを持ってたくさん誕生していった時代で、その後80〜90年代初頭のタウン誌は間違いのない表層的な情報がたくさん掲載されていることが媒媒体の価値を高めていた時代でした。当時は黒船襲来のように街で言われた『九州ウォーカー』創刊っていうものや、WEBメディアの急速な発達というものもあり、2000年を期にその時代は終わり、今は原点回帰というか、どんなポリシーを掲げて、どんな情報を掘り下げたり、組み立てていくのかということが問われています。「紙媒体ってなんなのか?」「地方のタウン誌とは?」そんなことが問われ出してから、意外にタウン誌の価値が再評価されはじめていると感じています。

挨拶は人との距離を縮めてくれる?

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古後この変遷は、違うフェーズに絶えず移り変わるというよりは、どこかの地点に「立ち返る」というか、ある一時代が「ぶり返す」という言い方のほうが正しいのかもしれないとも思います。

白石どういう意味でしょうか?

古後『シティ情報 ふくおか』の創刊は1976年。全国誌ではファッション・カルチャー雑誌『POPEYE』(マガジンハウス)が創刊された年でもあります。僕はこの頃の雑誌をよく読み返してしまうんですが、単純に絵がうまい女の子や、いいお店を知っている人間が、編集部員でもないのに参加してる。なかには速度違反のネズミ捕りマップが掲載されていたり、丸々1ページ白紙のまま、「間に合いませんでした」みたいなことが書かれてる(笑)。これは極端な例ですが、いわゆる自分の得意分野を生かして、街に何か発信したい人が集まり、好きなものをつくり、その輪が広がっていくという、今でいうところのZINEみたいなものだったんですよね。

白石なんていい時代(笑)

古後これは今僕らがSNSなんかで盛り上がる感覚に近い気がするんです。昔のように表には出てきづらくなりましたけど、今求められているのはこういう感覚だったりするわけです。つまり、テレビや新聞やラジオなんかのマスメディアでは拾いきれないような情報、あるいはSNSであっても表層的にしか捉えきれない“まちの宝物”が求められている。しかもそれは人と人のつながりにおいてだったり、よりローカルのなかに求められているんです。

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白石そういった“まちの宝物”を発掘するために意識していることはありますか?

古後「挨拶運動」ですね。

白石まるで小学生のようですが(笑)

古後例えば昨年『シティ情報くまもと』を創刊したんですね。『シティ情報 ふくおか』は40年間続いてきた歴史とネットワークがあるけど、熊本には何もないですから、挨拶を行い関係を構築していく。毎日が挨拶運動ですよ(笑)。ただ根っこの部分は一緒です。僕らはこの“まちの宝物”を“人・店・モノ”というカテゴリーにしぼって発信しています。さきほども言いましたが、それが「まちメディア」として立体的になったものが、マルシェなんです。

パン屋が集まることは、いろいろなパン屋に行けること

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マルシェをはじめるきっかけになった、パン特集

白石そもそも『シティ情報 ふくおか』がマルシェをやりはじめた経緯は何でしょうか?

古後きっかけになったのは、パン特集ですね。読者の方から「掲載されている店に行ってもパンが買えない」とクレームをいただいたんです。たしかに、店を厳選すればするほど大型店ではなく小さな個店に近づきますし、買いに行っても売り切れていたりするわけです。でもいい店は紹介したい。だったらパン屋を一堂に集めて、誌面で伝えた内容を物理的に味わえる空間を作ろうじゃないか、と。雑誌で紹介しているパン屋を一日で回ることはできませんが、店のほうが集まるのは可能ですから(笑)。もともと誌面という限られたメディアで伝えたいことを出し切るのは難しいと感じていたので、ここにたどり着いたのは必然だったと思います。

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ベイサイドプレスの「パンパンピクニック」では、出店者を募るのではなくパン屋を厳選してイベントを開催。出店費用はもらわず、イベント期間中オリジナルのパンの販売や、パン教室なども開いた

古後パン屋の方が口を揃えておっしゃるのは、パン業界は横のつながりが乏しいということ。発酵時間やつくる時間など、とにかく店にしばられている時間が長いから、店の人としか話さないんだそうです。でも面白いことに、マルシェを通してそういう隔たりが一気になくなって、つながっていくんですよ。そういう瞬間を見ていて思うのは、稼ぐためのコンテンツとかネームとかアイテムじゃなくて、「顔が見える」ことが非常に大事なんですよね。しかもただ「顔が見える」だけじゃなくて、そこには“人・店・モノ”の思いがきちんと表現されていないとダメなんだと思います。

白石マルシェが増えてきて、様々なところで開かれる今、魅力あるマルシェにするためには、自分がなぜ開催するのか、あるいは出店したいのかということを明確にしておくことが大切なんですね。

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古後おっしゃる通りです。時代の流れのなかで消えていくイベントもありますが、そういうときは初心に戻る。そもそもこのイベントは誰のためにあるのか? 何のためにあるのか? そして何につながっていくのか? もちろん集客や売り上げは絶対条件ですよ。ただそこまで見据えないと、マルシェ自体続けづらくなってくるわけです。

白石と同時に、継続もまた違う大変さがありますよね。

古後同じモチベーションを保ちながら続けるということは本当に大変です。先日も某パン屋の店長から電話がかかってきて、「古後くん、最近イベントも雑誌の特集も軽く考えてるでしょ。前に比べると熱量が足りないよ」って(笑)

白石マルシェでもなんでもそうですが、企画する側が手を抜いたらバレますよね(笑)

古後そうそう。突っ込まれたくないなあと思っているポイントにクリーンヒットしてきますから(笑)。でもこれは、まちが盛り上がるうえで必要なことですよね。だからそういうご意見はありがたく頂戴しつつ、毎回軌道修正したり、工夫を加えながら頑張って続けています。

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今年で5回目を迎える「パンパンマルシェ」は、キャナルシティ博多とのコラボイベント。ベイサイドプレスのほのぼの感と比較すると、よりエンターテインメント性が高いイベントになっている


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