博多まちづくりミートアップ

音楽産業都市=福岡 音楽を通じた“福岡”らしいまちづくり〜ミートアップvol9レポート後編〜

福岡とアジアをつなぐ音楽イベント「Fukuoka Asian picks」

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白石前半では、9月になると福岡のまちじゅうで盛り上がる音楽イベントについて、総合プロデューサーを務める深町健二郎さんにお話を伺いました。ここからは、「Fukuoka Asian picks」について、イベントの企画制作を担当する松本一晃さんにお話を伺っていきたいと思います。松本さん、よろしくお願いします。

松本さん(以下、松本)はじめまして、株式会社エフ・ジェイ エンターテインメントワークスの松本です。福岡ミュージックマンスには5つのイベントがありますが、そのなかでも一番規模の小さいものが「Fukuoka Asian picks」です。僕はこのイベントの企画から制作までを担当しています。

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松本さん

白石「Fukuoka Asian picks」開催の経緯を教えてください。

松本キャナルシティ博多の噴水前にあるサンプラザステージをご存知の方も多いかと思います。もともと弊社は、キャナルシティ博多開業当時からこのステージで、地元アーティストが発表する場を設けてきました。そのなかで、単なる発表の場で終わってしまうのではなく福岡の音楽産業の活性化につながるようなイベントにしていこうという動きが徐々に生まれ、地元の音楽関連企業と連携して立ち上がったのが、「FUKUOKA MUSIC FACTORY」というプロジェクトです。これが、「Fukuoka Asian picks」の母体となっています。

新しい可能性を発掘して世界へ

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2017年の新人発掘オーディションでグランプリを獲得した福岡のアーティスト「Attractions」

白石「FUKUOKA ASIAN PICKS」の趣旨について教えてください。

松本コンセプトは、東アジア市場の開拓も視野に入れて、様々な角度からアジアの音楽を楽しもう、それをゆくゆくは、福岡の音楽産業の活性化につなげていこうというものです。

白石具体的にはどのようなことをされていますか?

松本まずはアーティストがいないと何もはじまりませんから、地元の新人の発掘に力を入れています。オーディションを通過して、最終的にサンプラザステージでのライブパフォーマンスでグランプリを勝ち獲ったら、これまではメジャーデビューまでサポートしてきました。

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松本「これまでは」というのも、時代の変化もありCDも売れなくなって配信やストリーミングも伸び悩んでいるなかで、業界自体がライブビジネスにシフトしている現状があります。一方アーティストにとってはCDを作ったり配信したりする制作インフラがずいぶん整ってきて、ある程度自分たちで音楽を発信できるようになってきたでしょう。

白石つまりそこを支援する必要性がなくなってきていると。

松本そうです。加えて、これまでの「福岡から東京」という図式を目指すことが必ずしも成功に結びつかなくなってきています。そこで我々は、東京を飛び越えて「福岡から海外」に舵を切ることにしました。現在は、グランプリを獲ったら国内でのメジャーデビューをサポートするのではなく、テキサスで開催されている世界最大の音楽コンベンション「サウス・バイ・サウス・ウエスト」(以下、SXSW)への出演をサポートしています。

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毎年3月にアメリカ・テキサス州で行われる、音楽祭・映画祭・インタラクティブフェスティバルなどを組み合わせた大規模イベント「SXSW」

白石「SXSW」に日本代表として出演するわけですから、いくら新人とはいえ大きなチャンスですよね。

深町もちろんそうです。福岡で活躍しているアーティストというのは、ともすれば“井の中の蛙”ですし、J-POPという独特のガラパゴス的状況のなかでミリオンを狙うよりも、マーケットを拡大していくという選択のほうが賢い場合もある。それにアーティストにとっても自分たちをアピールするだけではなく、気付きもあれば出会いもある。なかなか面白いケミストリーだと思います。

松本それに「SXSW」は、音楽コンテンツでまちづくりに成功している事例でもありますので、僕らも見習うべきところがありますね。

深町テキサスという言わば大都市とは呼べない地方都市で、あえて世界中からアーティストを集めることで産業化に成功しているわけですからね。

白石「FUKUOKA ASIAN PICKS」が「福岡ミュージックマンス」のなかでもかなり毛色が違うことがわかってきました。

松本僕らとしては、お客さんを集めて盛り上げるイベントをこれ以上増やすよりも、福岡のまちや人を生かしたことをやっていきたいという思いはありますね。

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アジアの核となるような制作現場が福岡に!?

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白石ではここから、音楽産業都市としての福岡の話に移っていきたいと思います。そもそも福岡は、ミュージシャンを多く輩出してきたまちでもありますよね。

深町歴史を遡ると、70年代はライブ喫茶を象徴に、井上陽水さん、海援隊、チューリップ、長渕剛さんらが福岡から東京に進出していった時代でもありました。80年代になると、めんたいロック、ロッカーズ、シーナ&ロケッツなど、福岡の独特な音楽シーンを担う人たちが現れました。90年代になるとナンバーガール、椎名林檎、MISIAなど、時代ごとに新しいアーティストが絶え間なく生まれてきた。ということは、その土壌があるということなんですよね。

松本色々なアーティストを輩出してきていることは素晴らしいと思うのですが、その反面、過去の遺産化した部分も否めないと思うんです。最近のアーティストのプロフィールにもやたらと「福岡出身」と書いてあるけれど、それって一緒に切磋琢磨して文化を育くんできたという意味での「福岡発」じゃなくて、たまたま福岡出身者だっただけだったりします。

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深町何が足りないのかということを逆算してみると、制作機能なんですよね。夢を抱いてステージの上で活躍したいという人たちは出てきても、彼らを支える側が圧倒的に足りていなかった。

白石アウトプットするイベントも大切ですが、そこを下支えする制作機能も必要だと。

深町そうです。スタジオ、エンジニア、プロデューサー的な視点を持つ人たちも含めた“裏方”がいないと、仮に原石がいたとしても埋もれてしまいます。ここを突破できれば、本当の意味での「福岡発」アーティストが生まれてくるでしょうね。

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白石具体的にどのような可能性があると思いますか?

深町例えばJUDY AND MARYのTAKUYAくんが、福岡にアジアの核となるような制作現場を作りたいと言っています。日本だけをマーケットとして考えると福岡は現実的じゃないですが、アジアを舞台にした時、成田経由で東京のスタジオに入ってレコーディングするよりは、福岡のほうが断然近くて便利だったりするわけです。単純に空港も近くて飯もうまいですしね。もし本当にTAKUYAくんの言うような制作現場ができたら、それは東京に負けないくらいのスタジオになるでしょうし、そこには専門家も集まってくるはずです。制作のベースがようやく福岡にできるという流れがきていると思います。

エンターテインメントミュージアム構想とは?

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白石ここまで、「福岡ミュージックマンス」を切り口に、福岡のまちづくりについて話を進めてきました。ここで今後の課題についてのお話を聞いてみたいと思います。もちろん様々な条件があるとは思いますし、妄想でも構いませんお二人のご意見をお聞かせください。

深町今は、音楽業界自体がなかなか大変な状況です。そのなかでアーティストたちは原点回帰やフェスというかたちでライブビジネスにシフトしてきている。しかしフェスそのものも、全国的には乱立の一途にありますし、このままでは福岡も立ち行かなくなると思います。「福岡ミュージックマンス」自体は福岡らしい動きになりつつあるとは思いますが、同時に次のフェーズに差し掛かっていると思います。

松本「FUKUOKA ASIAN PICKS」でも、せっかくアジアとの交流のきっかけになっているにもかかわらず、インバウンドをうまく取り込めていないことが気になっています。博多はもともと文化交流拠点だったと言われていますが、今はインバウンドを「消費する対象」としてしか見ていない。僕はそこに少しでも、海を渡ってきた人として、文化として、受け入れることのできる受け皿をつくっていく必要があると思います。消費する側とされる側という二項対立ではなく、お互いがコミュニケーションをとりながら関係性を築いていけるような。そうすることで、福岡がもっと面白いまちとして発展していけるんじゃないかと思いますね。

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深町音楽産業都市という意味でも、もちろん9月に訪れた人に対してはアピールできているでしょう。でも9月以外は“何もない”が普通になっちゃってる。だから僕は“常設の施設”を構想中なんです。例えば、エンターテインメントミュージアムのようなものです。そこに行けば、福岡の生きのいいアーティストにも会えるし、福岡の伝統文化にも触れられる。過去の遺産が陳列されているのではなく、過去・現在・未来が象徴的につながっているようなものがあって、エンターテインメントや音楽というフィルターを通して福岡を楽しめる。

白石確かに恒常的にあるということは大事だと思います。期間限定ではなく、いつ訪れてもまちに音楽が溢れていて、エンターテインメントに触れられるというのは、目指すべきまちの在り方かもしれません。

市民の側が寛容になること

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〈ミートアップの終盤には、参加者が4〜5人ほどのグループに分かれてディスカッションを行いました。テーマは「2020年、東京オリンピックの年に来訪予定の外国人の数は実に4000万人。そのとき、音楽産業都市としての福岡のまちが持つ新たな可能性とは?」。想像から理想、空想に至るまで、こんなまちだったら面白い、こんな課題があるのではなど、音楽を通して見えてくる様々なまちへのアプローチのあり方について話し合っていただきました。ユーモア溢れるアイデアや、大変示唆に富んだご意見の一部を紹介します〉

小宮さんcocono.festの実行委員長をしている小宮と申します。僕たちのグループでは、2つほど題点が挙がりました。ひとつは、深町さんがおっしゃるように、福岡には音楽を象徴するような場所がないということ。例えば、移動式で音楽を楽しめるスペースなど、そこに行けば福岡の音楽に触れられるような場所を増やしていくことが必要なのではないか。もうひとつは、地域の側が文化の醸成に寛大な態度を持つべきだということ。つまり市民が何かをはじめようとしたときに敵になりやすいのもまた市民なんですよね。

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深町この「寛容性」は、本当にそう。「福岡ミュージックマンス」のイベントもほとんど野外だから、常にクレームですよ(笑)。主催者側もせっかく良いものを作ろうと思ってやっているのに、文句ばっかり言われるとモチベーションがなくなってくるんですよ。受け入れ環境も心を広く持つというのは非常に重要ですよね。

まちづくりは「健康第一」?

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斎藤さん(以下、斎藤)株式会社エフ・ジェイ エンターテインメントワークスの斎藤です。僕たちのグループでは、音楽を抜きにして、まずまちがもっといいまちになるためにはどうしたらいいのか、ということについて話し合いました。で端折りますと、みんなが健康であるべきだという結論に達しました。

会場 (笑)

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斎藤そもそも健康でないと気持ちも寛大になれませんから。福岡の若い子に「頑張れよ」と言っておきながら、いざアクション起こすと「お前はわかっとらん!」となる大人も多いじゃないですか。若い人たちを惜しみなく応援するためには、「俺も元気だしお前も元気」という環境を整えなければいけない。人が元気になれば、まちも元気になる。まちが元気になると、エンターテインメントに関心を持つ人も増えると思います。つまり「音楽でどうやってまちを元気にするのか」を考えるよりも、まずまちが先に整うことによって、そこに音楽が近づいてくるんじゃないかと。とにかく「健康第一」です(笑)。

ふるさと納税ならぬ、ミュージック納税?

田中さんエイベックスの田中と申します。昨年東京から転勤で福岡に来たばかりですので、よそから来た目線と、実際に来て感じたことを話したいと思います。まず「福岡ミュージックマンス」には非常に感動しました。正直、東京にいたときは全然知りませんでした。ただ深町さんもおっしゃっていましたが、9月だけなのがとてももったいない。イベントを定期的にやるということは非常に重要ですから、季節ごとあるいは毎月何かしらのイベントがあってもいいくらいだと思いました。
また冒頭にもあった「音楽産業振興基金」の存在も知りませんでした。これは結構使えるんじゃないでしょうか。一例にふるさと納税がありますが、例えば好きな“音楽”にお金を落とす代わりに、自分のところに何かしらが還元されるという仕組みがあれば、もっと人々が音楽に関心を持ち、お金を使いたくなる流れが生まれるかもしれません。人も情報もお金も、いい意味で集まるといいですよね。

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深町確かに基金は気になります。「福岡ミュージクマンス」も、企業のサイドビジネスとして成り立っているわけですから、十分に資金を確保するのが難しい。ここに公的資金のサポートがあれば、人材育成や制作機能の整備にも生かせると思います。

音楽を通して人々がつながり合うことで、生き生きとしたまちに

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白石最後に、音楽を通した福岡らしいまちづくりということで、本日の感想と今後に向けてのメッセージをお二人より頂きたいと思います。

松本音楽業界はビジネス的にも厳しい時代に突入しています。そんななかで思うのは、音楽として、エンターテインメントとして、ひいてはパフォーミングアーツとして、どんな新しい文化を福岡という一都市から発信していけるか。そのためには、福岡がもっと夢を描けるようなまちになるといいなと思います。「sxsw」も、もともと地元のインディーズのプロモーターが数人集まって、地域に根ざした質のいいアーティストを売っていきたいとスタートした。はじまりは小さなきっかけに過ぎなくても、大きな夢を描ける環境があればきちんと広がっていけるのだということを感じさせてくれます。福岡のまちも、そういう点でも力を入れていきたいと思っています。本日は貴重なお時間ありがとうございました。

深町みなさんからのご意見も含めて私が感じたことは、福岡からなぜこれほどの人材が出続けているのか、ということで、これには答えがないんです。ただ、ひとつ僕なりに思うのは、福岡って“のぼせもん”のまちなんですよ。博多祇園山笠見たらわかりますけど、一文にもならないようなことを大人たちは働く時間も割いて真剣にやっている(笑)。松本さんの話にもありましたが、夢を描けるかどうかということは大きいですよ。ましてや子どもが大きな夢を描けるかどうかは、生き生きとした大人が近くにいるかどうかにかかっている。残念ながら東京は今後、いよいよ息が詰まったようなまちになっていくでしょう。そのとき福岡は“のぼせんもん”が常に回遊して、彼らを見て育つ子どもたちがいるまちになっていってほしいと思います。
もうひとつ、福岡ってまちのサイズがコンパクトだから、業界うんぬん関係なく老若男女みなが繋がれる。その時に音楽はたしかに分かりやすいツールになりうるけれども、音楽でなくたっていいんです。「福岡ミュージックマンス」のイベントも、最初にはじめたのは音楽業界人じゃないものも多いです。みんなでつながって楽しみたいという思いを持った人たちが、音楽というツールに乗っかっただけなんですよね。そういう意味では、音楽が好きな人も、よく分からないと思っている人も、日本人も外国人も、LGBTも、健常者も障がい者も、ひとつにまとめることが可能なのが、福岡であると思います。それって本当にすごいことですよ。そんなポテンシャルを、僕はこのまちに感じています。

白石ありがとうございました。

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(了)


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