博多まちづくりミートアップ

インバウンド観光視点で再発見する博多の魅力〜ミートアップvol7レポート後編〜

日本語教師から観光案内所の女将の道へ

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白石次に、実際の場を通して外国人に向けての情報発信の着地点として取り組んでおられる七條さんにお話を聞いていきたいと思います。

七條さん(以下、七條)みなさんこんばんは。SUiTO FUKUOKAの七條です。帆足さんのマクロな話から、私のミクロな話に移らせていただきます(笑)。
SUiTO FUKUOKAは、福岡市の今泉にある観光案内所で、私はそこの女将をしています。「好いとう、福岡」というその名の通り、「福岡を好きになってもらおう」という思いで命名しました。インバウンドという言葉も今ではずいぶんと普及していますが、3年ほど前までは「?」が付くような言葉だったと思います。そんな世界になぜ私が足を踏み入れたのかという経緯を少しお話します。
私はもともと、国内外で日本語教師を10年近くやっておりましたが、徐々に教師という仕事しかできない自分に疑問を抱きはじめていました。もちろん海外との接点は持ち続けたいけれども、教師という仕事から離れてみたい。そう思い立って、いろんな仕事をつまみ食いしたんですね。経験の中ではっきりしたのは、自分は「旅」と「食べること」と「人」が大好きなんだということ。この「旅×食×コミュニケーション」の3本を柱にしてできる仕事は何かと考えた結果が、“女将”だったわけです。そんな私の「女将になりたい」という願いを二つ返事で引き受けてくださったのが、今の社長です。一軒の民家に連れてきてもらって「ここを観光案内所にするから、一緒に何ができるか考えよう」と言ってくださった。それがSUiTO FUKUOKAのはじまりです。

迷ってしまうような場所にある観光案内所にリピーターが増える理由

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七條SUiTO FUKUOKAに一度来ていただいた方はわかると思うのですが、通常の観光案内所と違い大通りに面しているわけでもなく、駅からも徒歩5分はかかるし、観光案内所に来るまでに迷ってしまうような場所にあります。そんな場所でどうやって観光案内所をするのか。人を呼び込むために、ほかにない要素を入れようということで4つのコンテンツを取り入れた場所となりました。

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(1)観光案内

通常の観光案内業務をしています。バイリンガルのスタッフが常駐しています。

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(2)茶席風Café&Bar

懐石料理を出しています。お食事処は、ランチ1000円(税別)から。コの字型のカウンターがあって、ちょっと高級な屋台みたいな雰囲気です。ぜひ機会があればきてください。夜は料理長が腕を振るう和食の懐石料理のフルコース食べられます。
観光案内所で懐石料理を出すところは、日本全国を探してもおそらくここだけです。

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(3)和文化体験

着付け、利き酒、握りずし体験など、外国人に人気のあるものからオリジナル性の高いものまで、ほぼ毎日のペースで体験プログラムを開催しています。

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(4)レンタルスペース

セミナールームや和室など、地元の方にも海外の方にも、会議やミーティングの際にご利用いただいています。

七條一般的な観光案内所は、自分が知りたいことだけ知ったらすぐに帰ってしまいますよね。でもSUiTO FUKUOKAの場合は、一度来たら1時間ほどいてくださいます。つまり滞在時間が長い「体験」や「飲食」などを利用してもらっている。滞在時間が長いということは、リピーターになりやすいんです。SUiTO FUKUOKAがスタートしてからまだ2年あまりですが、すでにたくさんのリピーターの方々に来ていただいています。そしてリピーターのいいところは、リピートするときに何人も引き連れて来てくださる。これは一番重要だと思います。
ちなみにSUiTO FUKUOKAの運営元は株式会社イースト。普段は商業施設と様々な取引をさせていただいています。実は民間企業が観光案内所を運営するということはかなり珍しいんです。というのも観光案内所というものは通常は儲かりませんので、行政主導が多い。しかしなぜかうちの社長は、ここにビジネスチャンスがあると思ったようです(笑)

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この日の会場「キャナルツーリストラウンジ」も、株式会社イーストが運営するインバウンドスペースのひとつ。このほか日本政府観光局直轄の観光案内所「JNTO TIC」(東京)や、シェアキッチン「KISHIN KITCHEN KYOTO」(京都)など、場所や使い方も様々

英語よりも「自分たちに何ができるか」を知ることが大切

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七條SUiTO FUKUOKAのコンセプトイメージは、訪日外国人とローカルがつながるインターナショナルな公民館です。実際に、地元のOLさんがランチを食べに来られる一方で、在日の学生さんや観光客の人が来ます。私自身、福岡に住み始めて7年目になりますが、福岡の人って本当にオープンで人がいいです。地元の人と触れ合わなければこの土地の良さはわからないと思っています。でも観光客が地元の人と触れ合えるような場所って実はあんまりなくて、後々振り返ってもその土地のことってわからないものです。そこで、SUiTO FUKUOKAではツーリストとローカルのあいだに「体験」というものを置くことで、旅行客が地元の人がつながれるようにしています。
この「体験」が、私たちが一番メディアに取り上げていただいているところでしょうか。理由は、福岡には観光用の体験プログラムが少ないということもあるのですが、SUiTO FUKUOKAでは毎日何かしらのプログラムがあるからだと思います。

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旅行者向けに作った和文化体験の案内パンフレット(英語版)

白石体験プログラムの特徴はどんなところにありますか?

七條例えばうちには料理長がいますので、お寿司作り体験や利き酒体験など、食に関わるプログラムはすべて料理長が講師をしています。でも料理長は英語が片言しか話せません。私も最初は「お客様に通じているのかな?」と思っていたのですが、みないつも大笑いしているし、体験の後は料理長のファンになっている人ばかりです。ちなみに私も英語はそんなに得意ではないんですよ。

白石通常のインバウンドのコンテンツづくりというと、日本文化に造詣が深くて英語もぺらぺらじゃないと先生が務まらないというイメージがありますけれど(笑)

七條実際にそういうイメージを持たれがちなのですが、そうでもありません。今はインターネット上にも山のように翻訳サイトがあるし、案外どうにかなる。逆に翻訳会社に頼んだりすることで高い費用もかかるし、最初に自分たちで高いハードルを設定してしまうとその後の運営にも影響してきます。講師も、プロじゃなくていいんです。折り紙や書道なら、ちょっと勉強したら日本人なら誰でも教えられるでしょう。

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一番人気は、着付け体験(3,000円(税別)〜)。コース内容は、着付け、近隣の神社での撮影を基本に、プラスαのオプショナルが選べる。ほか、利き酒体験なども人気

七條あと案外人気なのが「利き明太」。費用は2000円かかります。ランチと考えるとちょっとお高いですが、利き明太の体験もできてランチもできると捉えるととってもお得に感じていただけているようです。ご飯とお味噌汁はおかわり自由で、最後に「玉子焼きに入っていた明太子はどれでしょう」というクイズに当たればお土産もついてきます。もちろん明太子の歴史など、文化背景をまとめたテキストをお渡しもしています。
今後は、インバウンド事業をはじめようとしている企業さん、関心を持っている事業者さんの窓口になっていきたいと考えています。そのためには、受け入れる側の語学に対するハードルをまず下げる。語学ができるかということよりも、自分たちができることは何だろうかということを考えていただきたいんです。逆にSUiTO FUKUOKAは建物が小さいのでできることが限られますから、うちができないようなことを事業者さんに一生懸命やっていただいて、私たちはインバウンドの窓口代行に力を入れていきたいと思っています。

白石ありがとうございました。

インバウンド都市・福岡? その課題とは?

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ではここから「博多のまちづくり」という視点を交えながら、お二人それぞれに質問です。博多の魅力を伝えて、観光客にもっと来ていただくために課題があるとすれば何でしょうか。

帆足まず、地元の人が博多のことをあんまり知らないですよね。外国人が福岡に来て「福岡タワー、太宰府、屋台、有名な飲食店にも行ったよ」と言うと「じゃあもう行くところがないですね」って福岡の人がつい言っちゃう。そこが問題だと思うんです。地元の人が「ここもあるよ、この人は面白いよ」と伝えない限りはまちの良さが広がらない。「住んで良し」ってよく言いますけど、「住まないとわからない」ではダメなんです。

白石それはありますね。福岡の人って福岡が大好きみたいなデータがあるわりには、確かに福岡のこと知らない。例えば、実は博多はうどん、饅頭、お茶の発祥の地であるという説もあるくらいですし、寺社の数も京都や奈良に次ぐと言われています。しかしそういった魅力がどこまで地元の人に知られているかというと、案外そうでもありません。

七條インバウンドの課題という点で付け加えさせていただくと、観光ガイドブックの見せ方。使われている観光スポットの写真には、ほとんど人が写っていないんです。お寺だったらお寺だけ、商業施設は商業施設だけ。きれいな絵葉書のようで良いのですが、海外の人たちからしたら自分たちが言って楽しめるというリアリティに欠けていると思います。あるいは、福岡に来たら絶対にこのスポットで写真が撮りたいと思えるような場所をきちんと伝えられていないですよね。

白石なるほど、外国人の受け入れやすい情報発信の仕方も学ぶ必要ありですね。ありがとうございます。続いて 、参加者の方々も交えて、福岡のインバウンドについてディスカッションをしていきます。

福岡のインバウンドをさらにアツくするための会場からのアイデアとは?

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〈ミートアップの後半には、参加者が4〜5人ほどのグループに分かれてのディスカッションを行いました。お題は「2020年、東京オリンピックの年に来訪予定の外国人の数は実に4000万人。それに向けて、福岡でこんな場所があったらいいなあと思えるコンテンツとは?」です。
次々に飛び出したユニークかつ戦略的なアイデアの一部を以下に紹介します〉

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  • ・和菓子づくり体験、握り寿司の体験
  • ・博多町家めぐりツアーの実施
  • ・博多うどんの魅力を伝えるための「うどん博」
  • ・博多がうどん発祥の地であるという魅力を伝える「だしツアー」
  • ・着付け体験後に那珂川の川下
  • ・夜市やカジノなど、夜間の楽しみを増やす
  • ・天神—博多間の“歩く歩道”
  • ・博多港から博多駅までのゴンドラ
  • ・ボート場をつかった釣り堀と、釣った魚をその場で食べられるコの字巨大カウンター
  • ・博多弁キャンペーン(提携している飲食店などで博多弁を使うと受けられる特典制度)

最後に

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白石本日はインバウンドに携わる帆足さんと七條さんをお招きして、大変示唆に富んだお話を聞くことができました。最後に、参加者のみなさんから出たアイデアに対するご意見と、ミートアップを終えるにあたってのひとことをお願いします。

七條みなさんのアイデアを全部実現できたら、すごい量の外国人観光客が来てくださるのだろうなあと思って聞いていました(笑)。そのなかでも私が一番うなずいてしまったのは、福岡にはナイトスポットが少ないというご意見。夜に限らずエンタテインメント自体が少ないですよね。新しいスポットをつくるのもアイデアの一つですし、この地にすでにあるものをエンタテインメント化させるのもひとつの考え方だと感じています。例えばSUiTO FUKUOKAで実施している利き明太体験も、ただ卵焼きに入った明太子を当てるというクイズを入れただけでエンタテインメントになっています。すでにあるお寺でも食べ物でもいい。「見せ方」を変えていく努力も必要だなと感じています。
最後に、SUiTO FUKUOKAという“場”でインバウンドを盛り上げることが私の仕事ですが、これからはもっともっとたくさんの人たちと一緒に福岡のまちを盛り上げていけたらと思います。本日はとても楽しい時間をありがとうございました。

帆足みなさんからのアイデアには、2つの方向性がありました。ひとつはゴンドラやカジノなど、お金はかかるけれども本腰入れてやっていきたいこと。もうひとつは、ツアーなどの体験プログラムの多様化。後者に関しては、最初から成功はまずありえません。何度も回数を重ねるなかで反省や課題が見えてきて、面白いものが生まれる。私の経験を踏まえると、10回ほどやるとストーリー性が見えてきて、20回ほど実施してようやくプログラム自体がまとまる。継続していくということは非常に大切です。
アイデアを出すのは常に必要なことですが、それを実践していくこともまた重要なので、実際にやってみたいという方を私たちは積極的に取り込んでいきたい。ぜひ宜しくお願いします。本日はありがとうございました。

白石本日はありがとうございました。

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