博多まちづくりミートアップ

インバウンド観光視点で再発見する博多の魅力〜ミートアップvol7レポート前編〜

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インアウト株式会社 取締役副社長 帆足千恵 Chie Hoashi
1966年福岡市生まれ。法務省保護観察官を経て、「シティ情報ふくおか」のプランニング秀巧社、リクルート九州じゃらん、西日本リビング新聞社で編集者を務める。2001年リクルートで、台湾・香港向けガイドブックを発刊したのを皮切りにインバウンドに携わる。「福岡・九州と世界をつなぐ」をモットーに、情報発信や受け入れ環境整備の事業を推進している。

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SUiTO FUKUOKA 七條芙美 Fumi Shichijyo
「訪日外国人とローカルを繋ぐインターナショナル公民館」SUiTO FUKUOKAの女将を務める。全く新しい観光案内所のモデルづくりを立ち上げから担当。過去には日本語教師として国内・海外で30か国以上の多種多様な人材育成に携わった経験を持つ。モットーは「多様なものの掛け合わせによる価値創造」。


2017年11月8日、台風で一度は延期となった博多まちづくりミートアップの7回目が無事開催を迎えました。この日のテーマは「インバウンド観光視点で再発見する博多の魅力」。編集者としてインバウンド事業に携わってきた帆足千恵さんと、福岡市の一風変わった観光案内所「SUiTO FUKUOKA」の女将・七條芙美さんのお二人をお迎えし、主にインバウンドの視点から見た現在とこれからの福岡についてお話いただきました。


最近よく耳にする「インバウンド」って?

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白石さん(以下、白石)みなさんこんばんは。本日モデレーターを務める、ダイスプロジェクトの白石です。本日は「インバウンド」という切り口でお二人のゲストを迎えています。よろしくお願いします。
まず最初に、最近よく耳にされているインバウンドとは何かというとを確認すると、外国人旅行客が自分たちの国に旅行に来ること、あるいは自分たちの国に誘致することなどを指した言葉です。近年ではずいぶんと普及してきました。
今日はインバウンドを仕事にしながらも、それぞれ異なる視点で活動をされているゲストの方をお招きしています。まずは、インバウンドの情報発信や環境整備の事業に携わる帆足千恵さんです。自己紹介を兼ねた彼女の活動内容をお話しいただきます。

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この日のモデレータ、白石さん

公務員から一転、編集者へ

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帆足さん(以下、帆足)みなさん、こんばんは。今日はよろしくお願いします。
まず私がどうしてインバウンドの世界に足を踏み入れることになったのか、その経緯からお話しします。
実は大学卒業後に就いた仕事は公務員でした。法務省の保護観察官という、犯罪を犯した人の更生を手助けする仕事です。人間の“闇”を含めて色々な側面を見させていただき、仕事の内容も非常に興味深いものでしたが、公務員という仕事が肌に合わず1年半で退職しました。
その頃はまだインターネットなどなくて、情報収集はほとんど紙媒体です。私自身、情報誌からイベントなどの情報を仕入れつつ、情報発信する側にも大変関心を持っていました。行き着いたのは出版社。『シティ情報ふくおか』という、ふくおかでは40年ほど続いているタウン情報誌を編集している会社に入りました。今でも「お仕事は何ですか?」と聞かれると「編集者です」と答えています。

海外への取材を通して見えてきたこと

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帆足『シティ情報ふくおか』は地域の情報誌ですから、ショッピング、グルメ、スポーツ、アート、旅など、いろいろな分野の記事が詰まっています。多分野の編集に関わるなかで、海外に触れる機会も徐々に増えていきました。というのも、80年代後半当時は旅行がブームで、OLさんが年に2回くらい休みを使って海外に旅行に行っている時代でもあったので、付録の旅行情報誌を作っていました。とくにタイやマレーシアなど東南アジアを中心に、4年間で50都市ほど取材で訪れました。
取材を通して気づいたことは、大きな観光都市であろうが小さくてローカルなまちであろうが、どこかに必ず魅力があって、どこもすばらしい場所なんだということです。そしてその魅力に気づいてもらうためには、情報の発信の仕方と見せ方が非常に重要だということでした。
しかしそんな気づきで自分の足元を照らしてみると「あれ?」と。海外からたくさんの人に福岡に来てはいただいるものの、有名な観光地を短期間に駆け足で見て回るだけで、リピーターになってもらえてない。観光地は何度も来てくれる“ファン”を作らないと育ちません。つまり「またこの街に来たい」と思ってもらえるような“魅力”が発信できていないと思ったんですね。この頃ちょうど別の会社で台湾・香港向けにガイドブックを出す企画が上がっていましたから、福岡のまちの魅力を海外に発信することに意義を感じていた私はプロデュース側で参加させてもらいました。それ以降ずっとインバウンドに関わっています。

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2005年、帆足氏が韓国人パートナーと立ち上げた、韓国人向けの宿泊・観光サイト「九州路」。今では月間約3500人の韓国人観光客を、九州含め日本に送り込んでいる

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2009年には(公財)福岡観光コンベンションビューロより体験プログラムやまち歩きツアーのプラットフォーム「福たび」(福岡市公式シティガイド「よかなび」に情報を掲載)を創設

観光客の気持ちが分からなければリピーターをつくれない

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帆足実は私、こんなに編集者を長くやっているにもかかわらず、恥ずかしながら車の免許を持っていないんです。ガイドブックの取材にいくときにはバスや鉄道を使っていたのですが、それによって「車がないとこんなに苦労するんだ!」と二次交通の重要さを身をもって実感できた。こうした経験を踏まえて言えることは、情報発信をする側にはターゲットの視線が何よりも必要だということです。例えば中国人や韓国人の人たちが何を求めているのかということは、彼らに聞かないとわからない。グルメひとつとっても、どんな雰囲気の飲食店が好きかということは、その国ごとに違います。欧米の人にヒアリングをしても全然違う。福岡には在日の外国人や海外留学生も多いですから、そういう彼らと一緒に活動することは十分に可能です。そういうことも目的のひとつに設定して、2014年にインアウト株式会社を創設しました。インバウンドを成功させていくためには、彼らの気持ちになってみるところからはじまると思います。

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2012年、韓国・台湾の個人旅行者向けに、ニーズのあるグルメをフリーペーパーにして発行。セブンイレブンでも配布した

観光客の気持ちを知るためにはヒアリングも重要ですが、インアウトではモニターツアーなどを通してマーケティングリサーチも行なっています。外国人がどんな風に思ってここに遊びに来ているのか、まずはそこから調べないといけない。例えば九州の有名な5つの島を数日かけて回るモニターツアーを実施して、その結果をデータとしてまとめてコンテンツを提案したりもしています。
リサーチには交通量調査などもあるのですが、川端商店街の通行量調査の結果、1割くらいの外国人が通行していることがわかりました。

白石僕も調査の結果を見せていただきました。ちょっと失礼な言い方になってしまいますが、お店によっては「いったいどんな人がお客さんとして来るんだろう…」とハードルが高そうなお店でも、実はお客さんの6割はインバウンドの方だったりする。そういう外国人の旅行者の方たちが老舗や伝統的なお店の営業を支えているんだということがわかるんですよね。

帆足そうなんです。仏壇屋さんでも外国人がお線香を買ったり、和紙や文具の店で日本人が買わないような絵葉書やクリアファイルなどを買ったりします。

まちの魅力を「知らずに来る」のではなく、「知って来て」もらう

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帆足リサーチの結果を踏まえて、こちら側はコンテンツを企画します。例えば外国人のブロガーさんもよく書いてくれていますが、福岡のまちのサイズ感って旅行客にとってちょうど良いんです。博多・天神間って、東京でいうと表参道くらいでしょう。地元ではなかなか歩くという人もいませんが、歩こうと思えば歩ける距離ですし、100円バスもあるので行き来がしやすい。この両エリアに、チープなものから高級なものまで全て揃っているというのが、福岡の魅力です。
とはいえ、個々の商業施設が自分たちのことだけをアピールするよりも、まち全体として「福岡ってこんなに面白いところだよ」というアプローチにしたほうが断然伝わりやすいんです。ということで、天神・博多エリアを中心とした商業施設さんにご協力いただき、外国人来訪客が多い旧正月などの期間を中心に施設での割引や特典を設ける「福岡ウェルカムキャンペーン」を、2013年から実施しています。

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白石今年の10月で9回目だそうですが、課題や変化はありますか?

帆足全体的な課題として、キャンペーン自体がなかなか知られていないのが実情です。告知自体はできていても、それに気づいて自発的に来てくれる人ってそんなにいない。皆さんも考えてみてください。もし自分が外国に行った時に、日本語で大きく書かれているポスターが貼ってあったら見ますか? 実は案外見ずに通り過ぎちゃう。それよりも、現場=店が「こういうキャンペーンをやっているのでいかがですか?」とお客さんに勧めて、はじめて「こんなものがあったのか」とか「使ってみようかな」と思えることが多い。
体験した人がブログに書いてくれたりすることで情報が広がることもありますので、九州に訪れた人にブログに書いてもらって、九州の魅力を伝えていこという事業もやっています。でもなかなか伝わらないのが実際のところ。つまり「知って、来る」というのはとっても大変なことなんですね。逆に「知って、来た」ら、消費にもつながるし、より深く楽しんでもらえる。そこにどうつなげていけるかということは、インバウンド全体の問題点だと思います。

白石ありがとうございました。

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