RethinkFUKUOKAProject

あなたと観るから、映画はもっと楽しめる 三匹の侍が掲げる「popcorn」で映画の未来を変える!

Rethink FUKUOKA PROJECT レポートvol.051

アナバナではReTHINK FUKUOKA PROJECTの取材と発信をお手伝いしています。

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福岡から文化を考える大好評企画「カルチャークラス」の3回目。自らも映画のコラム連載を持ち、福岡のシネマイベントに欠かせない存在となっている三好さんが迎えた相棒は、マイクロシアター・プラットフォーム「popcorn」を開発した大高健志氏。そして、福岡未上陸の映画作品を上映するイベント上映会「博多南シネマ」をはじめ、様々な映画的活動を仕掛ける森重裕喬氏。

誰もが、どこでも映画を上映出来る「popcorn」という全く新しい仕掛けを中心に、福岡の上映事情やライブとしての楽しみ方など、映画に関する愛をぎっしり詰め込んだ映画狂たちのトークをお届けします。

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福岡の映画事情はどうも厳しいらしい…。
映画と福岡を愛する男達の奮闘をひもとく

三好 皆さん、こんばんは! 三好が進めて参ります「カルチャークラス」。第三弾は「映画を我等に」実は私、仕事ではアジア映画の商談会企画や映画の連載を手がけるほか、とにかくアメコミ映画が好きで「ファンタスティック☆ポップコーンボーイズ」というユニットを結成してまして。アメコミの新作が封切られるたびに10人くらいで映画館に行ってウハウハ言いながら幸せな時間を過ごすという活動に勤しんでおります。そんな映画漬けの私と語り合ってくださるゲストは「popcorn」という新たな映画上映スタイルを提案するプラットフォームを開発・運営されている大高さん、そして福岡で様々な映画活動を展開される森重さんです。

まずは、大高さんの紹介から…、あれ? 紹介用のスライドが出ない…。
なんと、突然の機器トラブルで大高さんの紹介用データが消えてしまったみたいです!
とはいえ、数多くのイベントをこなしてきたお三方はこの手のアクシデントには慣れっこな様子。そしてお客さんにとっては、本日のトークで触れる“ライブ感”の布石にもなる出来事なのですが、それはまた後の話…。

気を取り直して、森重さんのご紹介から始めます。

森重 僕は「Cinema tocoro」という団体で、映画の上映や宣伝の活動をしています。福岡で上映したい映画などありましたらぜひこちらへ!

(スクリーンに森重氏の携帯番号が大写しになる)

三好 個人情報を何とも思っていない出し方ですね(笑)

森重 映画が普及すればどうなろうといいんです! 「Cinema tocoro」ですが、今の3人で活動を始める前にも、移転前の九州大学のキャンパスの空き部屋を活用するという名目で個人的に映画を流していたんですね。九大お抱えの家具職人さんが作った家具なんかを並べて、映画と食のイベントとして月一回のペースでクローズドに上映をやっていました。

そのうち映画イベントに携わる中で、「東京では上映しているのに、福岡では上映していない映画があまりにも多い。福岡の映画事情はどうも厳しいらしい」という事に気付かされたんです。そこで、そのことを教えてくれたライターの小柳帝さんの名前をいただいて、「MIKADO」という団体を立ち上げました。これが名を変えたのが今の「シネマトコロ」です。一番最初は、薬院のイベントスペースで、俳優としても活躍する若手監督・森岡 龍の「ニュータウンの青春」を上映しました。

活版印刷の工場で「世界一美しい本を作る男」を上映したこともありますね。実際に印刷の機械が目の前にあってインクの匂いがする中で、映画をより身近に感じてもらったり、活版印刷でチケットまで作ってね。あとはTSUTAYAでフランス映画を流しながらサントラを紹介する「ミュージックインシネマ」という企画のように、上映会ばかりじゃなくて、トークイベントなんかもやったりしています。大分では、現地の職人さんと組んで、竹編みのトンネルを作って上映会をしたんですよ。暗くするのと雨対策とで防水の壁紙を細かくちぎって貼り付けたりして。

そんな感じで上映をする場所の雰囲気にもできるだけこだわりたいと思っているんです。福岡だと、清川リトル商店街での上映会の時は、ガレージみたいなガラーンとした部屋を上映会場にしちゃう。スクリーン替わりの壁を作るところから始めたんですよ。

こういった活動の中で「爆音映画祭」を企画されていた樋口さんや福岡の爆音映画祭を運営している木下さんといった映画人との出会いも僕らの活動を加速させる大きな要因になりましたね。

で、これ、昨日です。「清川ロータリープレイス」というスペースで「popcorn」を使って上映しました。ホント偶然なんですけどね。

三好 おお〜!! ちなみに何の映画をかけられたんですか?

森重 「大巨獣ガッパ」という映画です。日活が唯一撮った怪獣映画を見ながら飲んで食べるという上映会で、最初はツッコミだらけだったんですが、段々、ガッパの哀愁につられて会場が静かになっていくという…。

三好 ガッパの力学にしっかり引き込まれているわけですね(笑)

森重 こんな風にいろんな上映の形を試しながら映画館への橋渡しをしているのが現状で、近いうちに福岡の街のど真ん中に映画館を作るのが目標です。映画を見る形は色々つくれるので、皆さんも是非やってみてほしい。福岡の映画館で鑑賞できる作品って本当に少ないんですね。それをできるだけ増やしていきながら、映画を日常の一コマ的にふらっと見に行けたらなと思って活動しています。

三好 なるほど、ありがとうございます! そろそろPCも回復したようですね。それでは満を辞して大高さんお願いします。

森重 こんなこともあるもんですね。映画関係のイベントってトラブルがすごく多くて、どんだけ準備しても何かしら起こるんですよ。

大高 ちなみに「popcorn」で上映会を行った時はトラブルとか起きました?

森重 いえいえ! ものすごく順調でしたよ!

大高 「popcorn」は、興行場でない場所でも上映を気軽に実現する為に、上映回数などを管理する必要があるのでストリーミングで上映するんですね。だからネット環境がしっかりしていないと途中で止まっちゃうこともある。こちらとしてはどうしようもないけど、通信環境の問題もあるし、会社のPCでセキュリティソフトが働いちゃうと再生できない場合があって、改善が大変だったんです。僕らも毎回ドキドキしているんです。

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ライブ性に着目した「popcorn」で
映画に新たな命を吹き込みたい!

大高 「popcorn」は今年の4月にオープンしたばかりで、全国各地で上映会が開催されています。そもそもは、皆さんに「もし自分の街にシアターを作るなら…」というメッセージを持ってもらいたいとスタートしました。

どういう事かと言いますと、映画を消費者として利用するのではなく、自分が映画を上映する側になるという経験をみんなで共有できたらなと思ったんです。例えば、近所のコーヒー屋さんや民家など空いたスペースでこんな映画をかけようと考えてもらう。映画の伝道師になって頂く経験を広めたいと思っています。

そこで考えなきゃいけないのは、「どこに、どんな映画を、どんな風に上映するか」。このディスカッションを含めて、みんなで考えていきたいなと思います。

一般的な映画館、特にシネコンなんかでは、上映内容も環境も画一化されている。その安心感がある一方で、実はそこにはないワクワクが他にあるかも知れない。言ってしまえば、「映画が持つライブ性」とはなんぞやという事ですよね。

音楽がわかりやすい例ですけど、デジタル化されることによって楽曲を購入すること自体には関心が薄れてしまっている。では、どこでお金をもらって、次の作品を作り続けるか。やっぱりデジタル化していないものに対して価値が生まれるんです。それが楽曲を生で体感できるライブなんですよ。

でも映画となると、とても難しいところですよね。映画にとってのライブ性について、これからみんなで価値を作っていく必要がある段階なのかな。この場所だからこんな映画を見ようとか、ご飯を食べながら見ようとか、森重さんのイベントのようにだんだん静かになっていく現場をみんなで体感するとかね。まさにその場で上演される演劇と違い、映画はすでにデータ化されたものではあるので、ライブ性を生み出すというのは難しい所もあると思うのですが、それを「popcorn」を通じてみんなで発明して行けたらと思ってます。

三好 地方に目を向けられたのは?

大高 「popcorn」は、「日本仕事百貨」という求人サイトを運営しているナカムラケンタとの共同経営なんです。彼はリノベーションスクールとか地方活性化に携わる人間で、映画にもともと縁があるタイプでは無いのですが、ある時、「今、地方では映画がアツいらしいよ」って話していたんですよ。「え、それ逆じゃない?」と思って聞いていたら、どうやら映画館ではなく、リノベーションで誕生したスポットでの話だったんです。地方の古民家とかを再生したカッコいいスポットがどんどんできて、しかもそこに人が集まっている。そういった場所で映画を上映したいという熱意がすごく高まっていると。

三好 なるほど!

大高 東京以外で劇場公開してもなかなかお客さんが入らなくてという話を相談される事も多く、それはとても問題だなと意識していたテーマでもありました。もちろんMotionGalleryで関わった作品にはリクープして欲しいという作品単位での問題意識もありますが、更に言うと、東京以外で映画館で映画を見るという体験が減っていってしまうと、どんどん映画人口も減っていってしまうと。でも地方だからといって映画自体に興味がない人ばかりではないはず。この現状を変えていく仕組みって面白いんじゃないかと発起しました。まさに、地方で、且つ、シネフィル(映画通を意味する)ではない人を対象にするという、これまで映画がアプローチしてこなかった所を開拓していく仕組みを確立できれば、結果的には映画人口を広げ、映画を楽しむ人がもっと増えて、そして映画館で映画を見る人が増えていくと思っています。

三好 そこは超大事なバランスですね。

大高 私が創立し、これまで運営してきた「MotionGallery」というクラウドファンディングサイトでは、映画、アート、演劇、出版といったクリエイティブなプロジェクトを主軸に地方の活性化、まちづくりに携わってきて、今7年目に入りました。そこでの実感が今回立ち上げた「popcorn」に繋がっています。ちなみに「バンコクナイツ」って知っています?

三好 あ、チラホラいらっしゃいますね。いい場だなあ。

大高 山梨から世界に飛び出す「サウダージ」というすごい映画がありまして、「バンコクナイツ」はそのスタッフが作った続編なんです。「MotionGallery」のクラウドファンディングで約1000万円が集まって作られたのですが、全編タイで撮っていて、カメラを向けただけで殺されるかもしれないような危険な場所でもマフィアと交渉して撮影を敢行している。しかも、その為に3年くらいバンコクに潜入しているんですね。そんな映画に掛けた時間とリサーチが、作品をとても強固なものにしていると思うのですが、その様な作家主義的な制作スタイルには、どうしても通常の日本の商業ルートだと資金が集まりにくい。

しかしやはり映画制作する上ではお金はとても掛かるので、何とかして捻出する必要があるのですが、その結果として制作者が赤字にならなければまずは問題ないと思っているんですね。何故かというと、次の映画の制作にチャレンジが出来る状態を意味するので。

でも、実際は赤字になるから続かない事が多い。実際に自分の経験としても東京藝術大学で映画制作を勉強していた時に、卒業後の事を考えたのですが、10年くらいバイトして資金を貯めて映画を撮っても、それが次に続かないとなると…。すごく考えさせられました。一方、フランスなんかは芸術家に対する助成金が手厚いから、作り手にはチャンスが用意されている。日本とはスタートラインから違うんです。その差を目の当たりにした事で、赤字にならないで作り続けられる状況を僕ら世代が作っていかなくてはならないと思い「MotionGallery」を立ち上げました。「MotionGallery」のクラウドファンディングで制作し易い環境を用意したつもりなんですけど、まだまだ赤字を防ぐところまでは難しくて。そこで、今度は資金調達からではなくて、上映機会を増やす方向からアプローチしたいと「popcorn」を作ったんです。

三好 素晴らしい!

大高 「初週で人が入らなくては行けない」という”大きな映画”の論理だけが全てでなくて、上映する機会が増えていくことで少しずつ広がっていく映画の形もあると思うんですよ。特に作家性の強い映画を見た感想を消化するのも、それがSNSで広がるのも時間がかかる。でも上映回数が増えればそういった映画にも勝ち目ができるのかなと。

実は、日本のスクリーン数って微増しているそうなんです。それに反して映画館数が減少している。作品も、シネコンの影響でビックバゲットの映画がどんどんできているけど、作家性の高い映画の上映館数は激減しています。しかも新しい作品が次々にやってくるので上映期間はどんどん短くなる。

映画人口が減っているから上映館が減ったのか、多様な作品に触れる機会が減ったから映画人口が減ったのか、卵が先か鶏が先かというところですね。この状況を防ぐのが今の課題です。

三好 本当におっしゃる通りで、全国的にスクリーン数は増えているんだけど、かけられる映画は独占されているというか、ハリウッドや日本の大手の映画配給会社が握っていて、なかなか小さな映画はかかりづらい。地方なんかは本当に顕著で、例えば福岡にあるミニシアター「KBCシネマ」では、近年はものすごい量の映画がかかるけど、上映回数は1回ずつだとか極端に少なくならざるを得ない。こういう状況の根底に先ほど大高さんがおっしゃった問題があるわけなんです。ここをどうにかせないかんと、大高さんは手を打ったんですね。

大高 まだ「popcorn」は始まって2ヶ月なので、ドヤッって感じではないのですが(笑)。「古きことは新しい可能性」というところで、今、「Do it theater」というチームが運営するドライブインシアターがとても盛り上がっているのですが、その根底にあるのは「映画のライブ性を取り戻そう」という動きなんですって。昔は日本でもドライブインシアターがあったんですけど、不良の溜まり場になるとかネガティブなイメージがあって無くなってしまったんですね。それで、クリエイティブな装飾をしてフェスみたいな感じで期間限定開催したところ、「MotionGallery」でのクラウドファンディングも盛り上がってお金も集まったし、何より会場では映画のパワーを感じました。5年前ぐらいの旧作をやっていたのですが、客席にはおしゃれアート女子の隣にリーゼントの兄ちゃんが並ぶというカオスな状況で…。

三好 それ最高じゃないですか!

大高 こういうカオス感は、まだ映画のパワーを感じるし、そこにもしかしたら新しい価値があるんじゃないかと思います。ライブというのか、フェス感というか、こういう価値はすごく大事。映画に限らず、こういったオリジナルな体験やサプライズがあるものはみんな喜んでSNSにもアップするし。今の映画市場にいない人たちをこういうやり方で開拓していくことが必要じゃないかなと思います。

三好 すごいですね。映画を媒介にある種の共有体験が生まれていたワケですね。いい話ですな。

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大高 もう一つ、これは相方のナカムラが言っている話ですが、「ハロウィンが流行っているのはなぜか」に通じる問題があります。なんで大勢の人が渋谷のスクランブル交差点にコスプレして集まっているのか。たぶん、これが「ライブ性」そして「DIY」という事だと思うんですよ。情報化社会の元、情報が増殖していけばいく程、マスが融解し、コミュニティはどんどん小さく分散化してきていますよね。

昔はテレビや新聞で大々的に取り上げれば多くの人が来るし、この年代はこれが好きというのがハッキリしていました。今は女性30代、だからこれが好きみたいな短絡的な話ではなくなっていて、年齢や性別に関わらず、どういう所にフックがあるか自分も他人も分かっていない。グラデーションでどんどん小さく細分化していると思う。

未来学者のアルビン・トフラーが言っていたんですけど、情報化社会で細分化を突き詰めると、結局欲しいものは自分で作るようになるそうです。オリジナルの果ては、自分がオリジナルじゃないと気が済まなくなってくる。このオリジナルを作っていくというのが「popcorn」の上映会にもつながっていくのかなと。それによって映画に新たな盛り上がりが生まれてくる気がします。

シネフィル的に言うと、僕が高校の時、映画が一番盛り上がっているなと思ったのが、渋谷の「シネマライズ」という映画館に、普段は映画を見ないようなファッショナブルな女子が大勢で「ジョゼと虎と魚たち」を見に行ってたんですね。そういうシネフィルじゃない層をもう一度掘り起こさないといけないと。映画っていいよね、おしゃれだよね、っていう方向にもアジャストしていくことができればと考えています。もちろん空虚なブームにならない様に、内実も重要ですが。

三好 作品の中身というよりも、作品が提供する体験とか共感とか、そういう所に乗っかってくるお客さんを作っていくと。

大高 そこから作品に対して興味を持つ仕掛けを作っていけるといいですよね。

三好 体験と作品がセットになるというね。大高さんがおっしゃっていた中で、とても便利だなあと思った言葉なんですけど、「プロシューマー」って…。

大高 アルビン・トフラーが言っていたのですが、生産者でもあり、消費者でもある人々。

三好 そうそう、意識の高い「プロ消費者」みたいな。

大高 結局「popcorn」でやろうとしていることは、映画館ではない場所で上映するという機会を広げる事で、上映者と観客が垣根を超えて、お客さんも含めてみんなで楽しむ映画体験を定期的に作っていこうという試みなんです。

三好 カフェやバーみたいな所の空き時間で上映会ができれば、やってみたいという人も多いんじゃないかな。

大高 もう一つ、上映期間について。オリジナルな体験とともに映画を楽しむ事が出来れば、新作でも旧作でもそんなに関係ないと思うんですね。新作はかけないのかという問い合わせがありますが、そもそもそれは前提にしていない。むしろ古い作品をいかに楽しむか。実際、映画館ではもうやっていない旧作でもずっと上演し続けられる。

あとは映画館ではできない上映体験をみんなで発明していければ、「こんな映画をこんな風に見ると面白いかも」ってどんどん広がっていく可能性がある。作品を上映期間という鮮度みたいなものから解放することができる。この中で異常なロングランが生まれることもあったりね。そして、上映回数を増やしていく事で、広い意味での”映画人”が育っていくと考えています。

三好 おっしゃる通りですね。

大高 実際の反響ですが、ローンチ前に日本全国400もの会場から上映の問い合わせが来ていました。今年中には現時点で250箇所での上映が予定されています。それぞれの県のカルチャーセンターというか、文化的なエヴァンジェリストみたいな人たちが早速手を挙げてくれています。

三好 先ほどナカムラさんがおっしゃっていたように、地方での上映の動きが高まっているんですね。

大高 そうなんです。しかも、こちらの想定以上の勢いで。

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好きな作品を、好きな場所で、好きな人と…
映画を日常にする「popcorn」で未来はどう変わるか。

大高 もう少し「popcorn」でインターネットの力を使って上映するメリットについてお話しします。まず、上映する人にとっての話なんですけど、これまで定員が100名に満たない会場で開くと実質的には赤字になる。何故ならば映画を上映するに当り発生する権利料は固定額だったので。それはやる前から確定していたことだったので、ホール上映というか、公民館などで頑張って人を集めて上映するというのが前提だったんですね。でもこれからの社会の変化に合わせて、50人しか収容できないような会場でも、上映会ができるような環境が必要だと思っています。

先ほども言ったように、コミュニティってどんどん細分化しているので100人を集めるのはなかなかハードルが高いし、一回やれば半年くらいはできなくなっちゃう。でも10名ぐらいでも上映できて赤字も出ないとすると、じゃあ1回ぐらいやってみようかなって気軽に挑戦できる。例えば、行きつけのバーで毎週水曜に上映会を開くとします。あくまでその場所に行くことが目的になっているから、そこで上映される作品はなんでもいいんですよ。いつも行っているバーで映画をやっているから見てみるか。そこから映画の食わず嫌いが治るかもしれない。

僕らが考えているのは、小さなバーやカフェなど、街のあちこちで上映会が開催される。ひいては映画でまちをジャックするみたいなことなんです。

三好 なるほど。素晴らしい!

大高 今まで興味を持っていなかったジャンルの映画に出会うことで、新しい驚きというか、豊かな体験に巡り合うかもしれない。自分は超つまらないと思っていたのに隣に座っている人が絶賛していたら、ちょっと気になるし、そこで会話も生まれる。基本的に今までと全く違う行動が起きる。

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大高 もうすこし詳しく説明しますと、上映する時に映画タイトルの権利料がかかっていたんです。作品によって違いますが、ざっくりいうと10万円くらい。

三好 皆さん、これマジでこのくらいかかるんですよ。1回上映するだけですよ。なのに、このくらいかかる。

大高 作品によっては権利元が分からない場合もあります。人数が集まらない場合は大赤字だし、定期的に開催なんて無理な話じゃないですか。そこで「popcorn」では、権利料を一人当たりの金額に設定できるようにしました。1回上映で10万ではなく、1人来たら1000円、2人来たら2000円みたいな。それに合わせてチケット代を設定しておけば赤字にならないでしょ。

そもそも、なぜ権利料の問題が発生したかといえば、今までは上映用に権利元からDVDを送ってくるので、それを再生していたんです。それだと1回だけ上映する契約なのに何回上映されても分からない。そのリスクヘッジのための権利料という側面もあったかと思います。

「popcorn」では、上映内容をストリーミングで管理をしているので、絶対1回だけしか上映できないんですよ。来ている人数もインターネット決済だからすぐ分かるし、権利者へウェブ上で報告もしている。その仕組みも含めて「popcorn」で、権利側のご了承をいただいているんです。

三好 いや〜、自主上映会を1回でも企画したことがある人だったら、これがどれだけ頭を使った「発明」か、わかるはずです。僕もイベントでやったりするけど、必ず権利料の問題にぶち当たる。「権利料から逆算して何人呼ばなきゃいけない、プロモーションめっちゃ大変やん! チラシどんだけ刷らないかんと」って。
それに頑張っても頑張っても儲けは薄い! これは本当に画期的なシステムなんですよ。大高さんエラい!!

大高 (笑)。まあ、これは制作者や権利者の方々のご理解がとても偉いと思っています。今は「popcorn」でこの映画を上映したいと思えば、すぐできる。権利元を調べたり、交渉したりする必要はないんです。イベントページにまずシアターとして上映会場を登録、上映したい映画を選んで、チケット代を設定する。そうすればすぐ上映会が開催できる。観客もウェブ上でチケットを買って、当日会場に行けばいい。すごく簡単なんですね。もうひとつ言うと、権利者側もDVDを送って、返却してもらうという手間が省けるんです。一度登録してもらえば、あとは報告を待つだけ。自主上映に関するコストや手間はだいぶん減らせました。

三好 確かに、権利者側も無許可で上映されるよりは俄然いいはずですよね。

大高 そう思います。次は、映画を通じて人と人の関わりを作っていこうという試みについて。谷中にあるアートスペースの例ですが、古民家を生かしたスペースで、広くはないので壁を使って2スクリーンで上映しているんです。

三好 すごい! インスタレーションみたい!

大高 でしょ! こういう、マイナス点を逆手にとって新しい体験を生み出すというか、この企画自体が話題になるし、コミュニケーションにも繋がるかなと。この「A Film About Coffee」という映画も「popcorn」でかなり見られている作品。例えばコーヒーを飲みながら上映とか、今までの映画館では届かなかった層に向けて導入できる。

映画って、家でボーッと見るのとみんなで集まって見るのは楽しさが違うじゃないですか。森重さんの「ガッパ」のようにね。

森重 「ガッパ」は上映会で完全に息を吹き返しましたもんね。みんな帰り道にテーマソング歌っていたはず。

三好 自宅で「ガッパ」を見ても、その熱量は生まれないですよね。

大高 そうですね。その作品を知っているかどうかじゃなくて、みんなで見るという体験を共有したかどうか。

三好 みんなで「このガッパやばくない?」ってツッコミを入れるのが、特別な体験になるんですね。

大高 そう、映画を見るのが何回目でも関係無いんです。一緒に見る人が違うだけでも印象が変わるじゃないですか。まさに、「A Film About Coffee(※)」じゃないですけど、「popcorn」としては「映画のサードプレイス」になれればなと。あと最近の上映環境としては、Netflixやアマゾンなんかのネットで見られる映画も多いですよね。でも映画の体験ってパブリックな場で見る、ある種の緊張感というか、「2時間見なきゃいかんぞ」という、逃げ道のなさがあるでしょ。傑作映画にたまにある傾向ですが、1時間50分めちゃくちゃつまらないんだけどそれが布石だったりして、最後の10分がめちゃめちゃ面白い映画なんて、ネットで見たら絶対途中で切っちゃう。その集中力が続かないので、ドラマはいいけど長尺の映画は適していないんじゃないかと思います。実際僕も利用していますが、映画じゃなくてテラスハウスばっかり見てますし(笑)。そういう、オンデマンドでいつでも見られる環境だと、近すぎて見ない。ちょっと足を運んで、しかもみんなと見るという環境になれば、集中するという。そこが映画の特徴かな。

三好 ポジティブな意味でのストレスの共有なんですね。

大高 そうなんですよ。その体験をどんどん発明していくために、「MotionGallery」でクラウドファンディングを行い資金を集めて清川白河に「popcorn」を体験できる上映場所であり開発場所を作る様な取り組みも始めています!

三好 「popcorn劇場」みたいな!

大高 そうそう! 9月から始動する予定です。今後も「popcorn」をどんどん動かそうとしています。将来的には、映画だけじゃなくて、音楽やコンテンポラリーダンス、演劇の上映も考えていますし、これからより発展させたいと思っているので、皆さんぜひ宜しくお願いします!

三好 ありがとうございます! 大高さんて、どうしてこういうことをやろうと思われたんですか?

大高 それはね、秘密です(笑)。

三好 ええ〜!! そこ言わないんですか! もともとは映画制作を目指していらしたと聞いたのですが…。

大高 最初は映画を作りたくて藝大に行ったんです。実際制作に関わって分かったのですが、制作や上映のためにお金を集めるには、作品の話題性ばかりが先立ってしまう。実質との歪みが生まれてしまうわけですよ。じゃあ、お金を集める時にどうすればいいのかと悩んでいた時に、フランスの映画大学院の生徒の話を聞いたんです。フランソワ・オゾンとかを輩出したヨーロッパでも重要な映画拠点なんですけど、そことの交換プログラムで仲良くなって話を聞くと、かなり作家主義が根付いている。でも、幾らフランスでもこれでリクープ出来るのかを聞いた所、フランスは助成金が手厚くて、3本くらい撮れる目処がついているとの事でした。よく「あの監督の20年ぶりの新作」っていう触れ込みがあるでしょ。20年間どうやって生活してたんだって言いたくなるけど、そういうことなんですね。フランスでは芸術がヒエラルキーのトップで、芸術家へのリスペクトがすごい。

日本でも助成金制度を確立させることはとても重要ですし、一方で日本では難しいかもしれないという気がする。なので助成金のような仕組みを国や税金ではなくて、民間から確立しなければならない。そこで重要なのは投資や寄付ではないという事。投資の瞬間に「それ儲かるの」という話になっちゃうんですよ。自分の趣味は置いといて、回収できる映画を選んでしまう。

だから、「応援」と「購入」を意味するクラウドファンディングでみんなでお金を投じることで一緒にものを作るシステムができれば、すごく面白い作品ができるんじゃないかと。そこで2011年にMotionGalleryを立ち上げました。
本当に好きな監督を応援して、一緒にその作品にコミットするという。

三好 なるほど。ご自身が作り手として超シビアな現実を目の当たりにされたからこそのお話ですよね。非常に合理的な解決の糸口になるアイデアを考えていらっしゃるなと思いました。

実はあらゆるビジネスは実はこうなっているんじゃないかという三好仮説があるんですよ。
まず、新しいビジネスやサービス、良い商品を「開発」あるいは「仕入れ」る。続いて、そのサービス・商品を知らしめる、「販促/宣伝」をしていかなければならないわけです。プロモーションとか広告とか、いろんな手法で浸透させていく。そして最後に、商品を届ける流通の「インフラ・販路を設計」しなければならない。これが私が11年かけて気付いた事です。賢い人なら1年くらいで気づく事ですけど(笑)。でも、これあらゆる事で適用可能で、映画もそう。そして大高さんの作った「Motion Gallery」と「Popcorn」の発明はそれをカバーするものになっていることに気づくわけです。クラウドファンディング「MotionGallery」を利用して資金を集めながら映画が撮れる状況を作りつつ、宣伝もする。そして完成した作品は、「popcorn」でその映画を観客へ届ける。この流れ、とても合理的だと思うんですよ。どうですか、大高先生!

大高 おっしゃる通り!

三好 やったぜ! 私の事をお話しすると、福岡でも27年続く「アジアフォーカス福岡国際映画祭」という国際映画祭があるんですが、2年前から映画の商談会も開催されているんです。皆さんがご存知のカンヌやベネチアの映画祭でも、国際映画祭と名前がつくものは、実は商談会が後ろ支えしているんですが、私の担当するその「ネオシネマップ福岡」なる商談会でも、私たちが映画制作者の方達と日本の配給会社の方と引き合わせて、日本でもその映画が見られるような状況を作ろうと頑張っているんです。でも、やっていてつくづく思うのは、大高さんが話されたような劇場の状況です。ハリウッドやメジャー配給の作品が強い中、アジア映画をわざわざ買って劇場興行にかけるとなると、費用がかかる割に大規模にも上映できないから、投資したお金の回収について非常にシビアな判断が下されて、結果なかなか買ってもらえないという状況になるわけです。でも、いい映画はたくさんあるんです。

そんな問題を打破するには、映画を流通させる事が超重要だなと思うんです。
実際、今の映画の興行は劇場さんが一番強く見えるのは、どれだけスクリーンを押さえてどれだけ上映を回すかを、設計できる立場だからです。が、一方でそうじゃない、オルタナティブな映画興行のスタイルもあり得るんじゃないか、と思っていた矢先に、森重くんや大高さんと出会えたので、これは…ぜひ何かご一緒したいもんですね!

大高さんはこの先「MotionGallery」「popcorn」を含めて、どんなゴールを目指していらっしゃるんですか?

大高 難しい質問ですね…。うーん「popcorn」で言えば、映画人口を増やすって事ですかね。

森重 「popcorn」のゴールって、大高さんが作るものではないんじゃ…。

大高 そう!!まさに、その通り!

三好 めっちゃいい事言った!

森重 昨日たまたま「popcorn」を使って上映会をやって気が付いたんですけど、ネット環境さえあればカフェでも山奥でもどこでも上映できる。今、僕は那珂川町で若手監督が作った福岡未公開の作品を上映するという企画をやっているんですが、「popcorn」を使うとすごくやりやすくなりそうだし、劇場未公開作品が多い地方だと生きるシステムなんじゃないかと。そこで課題になってくるのは、映画を見ている人と作る人の境界線をどうやって無くすか。観客として見ているだけの間は、「popcorn」なんて誰も使わない。作る側もただ便利なだけで終わっちゃう。映画が好きで友達呼べるよって人が気軽に上映会を開く、そこに行った人が自分で開催してみる、そんな環境ができてくるともっと変わるかなと。まあ、そこから先はもう僕らの仕事ではないわけですよ。

三好 森重くんがいうところの、いい意味で映画との割り切った関係。熱意はあるけど、「映画様」みたいに特別にしちゃわないで、もっと身近で心地よい関係を結んでいく。

森重 映画が非日常な人もいるし、僕らみたいな食事と同じくらい日常な人もいるわけですよ。ニーズも多様化しているし、映画環境も色々あっていい。そこで活用できるプラットフォームとしては、「popcorn」は素晴らしいものだと思います。

大高 ありがとうございます!通常映画料金って1800円くらいじゃないですか。でも「popcorn」のイベントでは1人3000円でも人が来る。もちろん、ドリンクとかトークショーなんかの体験がセットに付いて来るわけですが。単に安い方に走らずに、そこそこ出しても参加したいという上映スタイルが「popcorn」だと可能です。それでちょっと面白い話なんですけど、「popcorn」をやってもらっている渋谷の宇田川町に「カフェ豆彦」っていうカフェがあって、そこのオーナーさんが結構変わっていて映画を作るんですよ。でも、映画館でかける映画じゃないなって自分のカフェだけで上映しているんです。

その人に聞いたのですが、カフェで上映会を開いた時に、すごく古い映画だからと900円にしていたら参加者は1人だけ。後日、同じ映画にちょっとした料理とワインをつけて3500円にしたら、なんとチケットが完売したそうです。

その時にオーナーさんが言っていたのが「カフェに映画を見に来る人って、映画を見ている人じゃない」って事。映画ファンならそもそも映画館で見ているはずで、そうすると1800円の半額だから行ってみよう! なんて人はいないんじゃないか。来た人は演劇が好きな人とか、ワインを飲みながら映画をみるというイベント感を楽しみにしている。演劇の舞台を見にいくより安いと思って来るらしいんです。

価格設定も1800円より安くするのではなくて、いろんな体験を踏まえて3000円とか、そんな形で上映会が開かれると映画への密度というのが高まるのかな。僕もこれからはそういう試みでもやっていきたいですね。

それから、今後イベントの付加価値で人を集めるというのは飽和状態になるのかなと思っています。企画アイデアも以前見たような内容になって来るし、そうなるとただのイベントとして消化するだけになっていく。でも、「popcorn」だと、違う可能性があるんです。よく知られているヒット作品だと「この映画面白いかな」という思考で来るけど、「popcorn」で上映されるタイトルは、一般的にメジャーではないものが多い。そうすると、映画の内容よりも、現場を体験したいかどうかが重要な条件になる。

森重 そうですね。おっしゃる通り、「あの人が上映するから」という面白さがあります。

大高 そうすると、淀長さん(※)みたいな映画人が地方に必要とされている気がします。あと、皆がサプライズみたいな上映会も考えられますよね。実は、和歌山の面白い本屋さんで以前「スーパーローカルヒーロー」という映画を上映することになったんです。本屋のオーナーさんは、和歌山=ローカルだし、ヒーローってタイトルに付いているからきっとローカルを盛り上げるまちづくりに関する映画であろうと上映したら、ものすごく真面目な反原発映画だった。お客さんも上映している人もみんな驚いてました。上映後にオーナーさんが「僕が一番驚きました」って言ったら大ウケ(笑)。誰もが知らないという闇鍋のような状況自体がきっかけになっちゃっているのもイベントとして面白いかなと。

森重 「博多南シネマ」もまさにそれです。地方では映画館で上映されていない作品が見たいなんてモノ好きはそうそういないんですよ。都心だともっと人は入るでしょうけど。でも、あえて開催してみると、タイミングが合えばと見るという人が結構いるんですよ。

三好 映画好きからすると、その感覚は不思議ですよね。映画の内容ではなくて、見に行ける時間で決めるっていうのが。

大高 映画を好きになればなるほど、そういう気持ちが分からなくなるので、気を付けなければならないですよね。それこそ、シネフィルの人って「あの監督の新作がついに」みたいな映画ってわざわざスケジュール開けるじゃないですか。でも一般的な人はそんなシネフィル界隈の人の感想が広まって来たタイミングでそんなにいうならじゃあ行こうって思う事がおおいみたいなんですが、そのタイミングではもう上映期間が終わっていたりする。本当にもったいないですよね。

森重 だから「popcorn」を使って、リバイバルが自由にできるようにする。1ヶ月後にもう一週間やるとかね。

三好 海外だと同じ映画をずっとかけている映画館もあるんですって。「popcorn」なら、それが可能かもしれない。

森重 この取り組みって今の枠組みを破壊するだけではないんですよ。映画って家で見るとそうでもないけど、外に出掛けて見ると意外とクセになるもの。そうなると映画館にとっても有益なんですよね。そうやって少しずつ映画を取り巻く世界が変化しているというのをうまく証明したいですね。

三好 映画習慣を育てていこうという試みも重要ですよね。

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ライブならではのアクシデントから始まった本日のカルチャークラス。
日本の映画文化を本気で考える3人の奮闘が会場の皆さんの胸にも熱い炎が灯したのか、閉幕後も熱い質疑応答が繰り広げられ、まるで一本の映画のようでした。この結末をハッピーエンドにするかどうかは、あなた次第。

気軽に上映できて、少人数からでも利用できる「popcorn」は、普段からあまり映画を見ない人にとっても新たな楽しみの扉を開いてくれるはず。あなたにしかできない映画体験、生み出してみませんか?

 

ReTHINK FUKUOKA PROJECTについて
コミュニケーションや働き方、ライフスタイルに大きな変化をもたらしている福岡。新しい産業やコミュニティ、文化が生まれるイノベーティブでエネルギッシュな街となっています。
そのチカラの根底には、この街に魅力を感じて、自らが発信源となっている企業や人がいます。
ReTHINK FUKUOKA PROJECTは、「ReTHINK FUKUOKA」をテーマに、まったく異なるジャンルで活躍する企業や人々が集い、有機的につながることで新しいこと・ものを生み出すプロジェクトです。


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