Rethink FUKUOKA PROJECT レポートvol.053
アナバナではReTHINK FUKUOKA PROJECTの取材と発信をお手伝いしています。
世は空前のサウナブーム。日本サウナ総研の調査によると、週に1回以上サウナに入る“ヘビーサウナー”は、推計358万人とも言われ、かつてはおじさんたちの聖域だったサウナも、年齢問わず高い注目を集めています。
そんなブームの火付け役の一人が、今回の「Rethink Fukuoka Project」のゲスト、タナカカツキさん。マンガ家として「バカドリル(天久聖一氏との共著)」「オッス! トン子ちゃん」など数々の名作を世に送り出し、近年はフィギュア「コップのフチ子」でも大ブームを巻き起こしました。そんなタナカさん、数年前からサウナにハマり、日本サウナ・スパ協会に認定されたサウナ大使として、普及活動にも尽力しています。
「働き方改革ばかりが騒がれ、休み方については真剣に考えてこなかった」と問題定義するタナカさんによる、究極のリラックス法とは? 究極の“サウナ状態”を指す言葉「ととのう」とは?
自身も無類のサウナ好きという、株式会社TABI LABO代表の久志尚太郎さんを聞き手に、7月16日に天神RETHINK CAFEにて行われたイベント「現代のウルトラヘブン!サウナはもうカルチャーだぁああああああ」の様子をレポートします。
カルチャーとは、
ここから違う場所へと意識を飛ばすもの
久志 まず自己紹介からお願いしたいんですが、そもそもタナカさんってマンガ家ですよね? いつからサウナ大使になったんでしょうか?
タナカ それが僕もよくわからないんです。例えば、「ふるさと親善大使」ってあるけど、あれってなりたくてなれるものではないですよね? サウナ大使も同じで、ある日、いきなり日本サウナスパ協会の方に任命されたんです。
久志 (笑)。僕がサウナに興味を持ったきっかけは、周りの人たちが騒ぎ出したからなんです。インディーズのバンドを追いかけたり、レイブパーティーに行ったりするような、自分が心底愛しているものを語るのと同じテンションで、「サウナがヤバい」「あそこのサウナでととのった」と言い始めて。これはヤバいな、カルチャーとして認識されてるんだなと感じて。
タナカ 僕らの時代は、漫画やテレビの深夜番組、ラジオがカルチャーでした。特に漫画が好きで、部屋にいながら脳内で宇宙にまでブッ飛んでたわけです。ある時は野球選手になり、ある時は料理人になり、ある時は本気で恋愛して。(漫画「タッチ」の)浅倉南が好きすぎて、このままでは自己をコントロールできなくなってしまうと思って、連載途中で読むのをやめましたからね。出てくるのがタッちゃんとカッちゃんで、僕もかっちゃんでしょ? 読んでると気が狂いそうになってしまって(笑)
久志 ははは!
タナカ 音楽とかもそうなんです。従兄弟に蒸気機関車の音が好きなお兄ちゃんがおって、その音が入ってるレコードを僕に聞かせるんですよ。「この機関車が坂道を登っている時の、蒸気の音がヤバいんだ」とか言って。部屋の中から、空想で旅をしちゃってるんです。
久志 わかります。
タナカ これを仮に、カルチャーと呼んでみましょうというのが僕の提案です。いまここから、違う場所へと意識が飛ばされ、世界が広がってゆく豊かな体験がカルチャー。だとしたら、サウナも同じように、カルチャーなんじゃないかと。
サウナには覚醒作用がある?
キマった感覚に襲われたサウナ初体験
久志 大使とサウナとの出会いは?
タナカ 僕は、おおかた部屋にいて、篭って漫画を描いてるんですけど、部屋にずうっといたら、当然蝕まれてきますよね? 心は仕事に夢中になってるけど、身体は蝕まれていて、だんだんおかしなことになっていくんです。消しゴムでゴシゴシ消してたら、全身つったり。
久志 (笑)
タナカ それで、たまたま近くにジムができたので、「これは何かの啓示や、行けいうことや」と思って、行ってみました。昔は、「身体動かすのにわざわざ金払うなんて意味わからん」「ジム行くようになったら人生終わり」って思ってたんですけど。
久志 (笑)
タナカ そこにサウナがあったんで、試しに入ってみたんですよ。それまでは「サウナはおっさんの終着地」だと思ってて、敬遠してたんですけどね。
久志 人生の墓場だと。
タナカ そうそう。だって、プルンプルンした裸のおっさんが、ぎっしり並んで汗ばんでるんですよ! わざわざ近づかないでしょ! でも、そのジムは出来たてで、木のいい香りがして。あまり人もいなかったので、入ってみたんですけど、暑いのは苦手なんで、さっと出ました。そしたら、横に水風呂があって。
久志 サウナ室の隣には、水風呂がありますね。
タナカ ちょっと入ってみたんです。最初は、冷たくて「もう死ぬ」って思いました。それで、すぐに出て休んで。すると体が冷えてくるんで、またサウナ室に入る。しばらくこれを行ったりきたりして。
久志 ええ。
タナカ するとある時点から、だんだん変な感覚が襲ってきましてね。覚醒剤をキメてる感覚と言うか。もちろんやったことないですけどね、覚醒剤は。でも「そっくり」って思いまして。多幸感があって、ドキドキしてくるんです。「ああ怖い怖い」って思って、その時はすぐに帰りました。
久志 それから?
タナカ やっぱり気になりだすでしょ? なんだったんだろう、あれは。どうもおかしなことが身体の中で起こっているぞと。それで、サウナの入り方をちゃんと調べてみたんです。
千利休はサウナーだった!
仏教経由のサ道
久志 実際に、身体の中で何が起こっているんですか?
タナカ サウナで身体を温めてから、水風呂で冷やす。これを温冷交代浴と言うんです。サウナに入っている時は血管が開き、全身に血が巡る。そして水風呂に入ると、血管がキュッと縮みます。この収縮運動でポンプのように血液が押し出され、血の巡りが良くなり、酸素が脳に行き届く。意識は覚醒しながら、心は鎮静している。この状態が最高に気持ち良いわけです! これを我々サウナーは、「ととのう」と表現しています。
久志 僕も、家で熱いシャワーを浴びてから、氷を張った水風呂に入るのはよくやってますね。何回か繰り返して、裸でベランダに出て涼むと、最高なんですよ。
タナカ でしょ? 調べていくと分かるんですが、本来の「風呂」という言葉って、こういう身体の状態のことを指す言葉だったようなんです。今だと、風呂といえばお湯に浸かる行為を指してますけど、昔は「湯屋」と言った。「千と千尋の神隠し」に出てきたのも、「湯屋」だったでしょ? すると、風呂とは何なのか?
久志 何なんでしょう?
タナカ 風呂って、「風」と「呂」って書きますよね。「呂」というのは、囲われた空間のことです。山の中に崖があり、えぐれている部分が洞窟のような空間になっている。そこで、熱した石に川の水をかける。すると、蒸気がわーっと広がって、蒸気浴ができる。どうやらこれが、日本のお風呂の始まりのようなんです。
久志 なるほど。
タナカ これは、聖徳太子の時代に日本に入ってきました。実は法隆寺には、すでにサウナの原型があったんですよ。サウナではなく「温室」と呼ばれてたんですが。インドから入ってきた仏教の中で、修行として蒸気浴が行われていたらしくて。調べても不明な点が多いんですが、今度文献にまとめる予定で。
久志 ヤバいなぁ。
タナカ それで、今のサウナの形ができあがるのが、安土桃山時代。千利休っているでしょ? あの人、日本で最初のサウナーですから。
久志 マジですか?
タナカ 利休の映画の中でも、蒸し風呂のシーンがありますからね。それに茶道ってもの自体が、めっちゃサウナに似てるんですよ。茶室とサウナ室ってそっくりでしょ? 本来はサウナ室も木の箱ですから。その中でお茶をたてて、気持ちを鎮めて、心の調律をするわけですよね。美意識が研ぎ澄まされて、器を褒めたり、花を活けたりするようになるわけです。
久志 なるほど、それで「サ道」につながるわけですね。
サウナは休み方のベストな方法!
「ととのう」ことで高いパフォーマンスを発揮できる
久志 大使が実践している、サウナの楽しみ方を教えてください。
タナカ サウナの効果を身体で感じるのは、全工程が終わってからなんです。ついつい、サウナから上がったらビールを飲んだり、携帯をいじったり、友と語らったりしてしまうでしょ? でもそれはやめて、自分の身体の変化をよく観察してみてください。サウナ上がりのビールがうまいといいますけど、ビール自体は変わりませんから! あなたの身体が変化して、ビールをうまく感じる状態になったわけです。だからまずは、その変化をよく観察してほしいなと。
久志 サウナの良さって、体感しないとなかなかわからないですよね。
タナカ じゃあ、もう少しわかりやすく、リシンク的な解釈で話してみましょうか。
久志 お願いします(笑)。
タナカ これまで僕らって、新しい刺激を求めてばかりで、休み方のテクニックは随分と磨いてこなかったんじゃないかと思うんです。遊びにしろ仕事にしろ、どんどん刺激を入れて、刺激がなくなったらまた補填するように別の刺激を入れて。でも、それでは疲れてしまうんですよね。結局はパフォーマンスが落ちていく。パフォーマンスを上げるためには、適切な休み方を知る必要があるんです。
久志 なるほど。
タナカ 例えば、世界でもっとも高いパフォーマンスを上げて働いている、シリコンバレーあたりの IT系企業って、最近は禅やマインドフルネスを取り入れてますよね? それって、やっていることはサウナと一緒なんじゃないかなと。
久志 確かにそうですね。
タナカ 服も肩書きも、すべてを置いて、生まれたまんまの姿でサウナに入る。そして「ととのう」ことで、パフォーマンスを発揮できるんです。今僕は、サウナより効果的に「ととのう」方法を見つけようとしてるんですが、まだ見つかりませんね。今のところ、サウナがベスト。もし見つけられれば、サウナから卒業していいと思ってるんですけどね。
いかがでしたか? 単にサウナと侮るなかれ、正しく利用すれば、禅や瞑想にも似た、特別な感覚が自分を包み込む……そんな奥深いサウナの世界を、サウナ大使が巧みに語ってくれました。この後会場では、サウナ施設「ウェルビー福岡店」の無料体験チケットも配られ、来場者も大満足。会場には来られなかった皆さんも、このレポートやタナカカツキさんの漫画「サ道」を参考に、これからの時代の効果的な休み方=サウナを再考してみるのも、いいかもしれませんね。
ReTHINK FUKUOKA PROJECTについて
コミュニケーションや働き方、ライフスタイルに大きな変化をもたらしている福岡。新しい産業やコミュニティ、文化が生まれるイノベーティブでエネルギッシュな街となっています。
そのチカラの根底には、この街に魅力を感じて、自らが発信源となっている企業や人がいます。
ReTHINK FUKUOKA PROJECTは、「ReTHINK FUKUOKA」をテーマに、まったく異なるジャンルで活躍する企業や人々が集い、有機的につながることで新しいこと・ものを生み出すプロジェクトです。