RethinkFUKUOKAProject

涼やかに、軽やかに、日本酒をたしなむ 酒蔵の遊び心を感じる”夏酒“のススメ

Rethink FUKUOKA PROJECT レポートvol.052

アナバナではReTHINK FUKUOKA PROJECTの取材と発信をお手伝いしています。

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日に日に暑さが増す夏の夜は、冷えたビールで一杯…いえいえ、そこはスッキリ喉ごしの良い日本酒「夏酒」でオツに過ごすのが粋ってもんです。

誰よりもお酒が好きと自負する「とどろき酒店」の轟木渡さんが「お酒」をテーマにお送りするプロジェクトのラストを飾るのは、ズバリ 「夏酒」。
日本酒=寒い時期に飲むもの、というイメージをお持ちの方も多いようですが、ここ最近では夏酒の需要も高まっているとか。さまざまな蔵でチャレンジ精神溢れる銘柄が生まれているようですよ。

今日は、轟木さんの盟友として、「三井の寿」の井上宰継(ただつぐ)さん、「庭のうぐいす」の古賀剛さんという、福岡きっての実力派をお招きして、夏酒をいただきながらお話をお聞きします。

夏の熱気に負けないアツい日本酒ファンがひしめく会場。皆さん、和らぎ水を片手に今か今かと待ち受ける中で、まずは司会役の轟木さんが登壇。
今宵の一献はどんな驚きを見せてくれるのでしょうか。

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酒蔵にとって夏酒は実験の場でもある。
比べてみると面白い世界なんですよ。

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轟木 今回のテーマは「夏酒」。一昔前は「夏にお酒なんて…」というイメージでしたが。ここ最近はすっかり定着しているんですよ。今日はうちで企画している夏酒「CO2(シーオーツー)」を軸に、一緒に開発した仲間の「三井の寿」の井上宰継さんと、「庭のうぐいす」の古賀剛さんとお話をしたいと思います。

井上 初めまして!僕は蔵元なんですけども、お酒も造っています。杜氏になって15年。自信を持って酒造りに臨んでおりますので、今日はほとんどが自慢話になるかもしれません(笑)宜しくお願いします。

轟木 あはは!続いては『庭のうぐいす』の古賀さんです。

古賀 こんばんは!久留米市北野町にある「庭のうぐいす」の古賀です。私は20年前に営業職として入社したのですが、営業力があまりにも足りなくてですね、造り手の方に回されました。それから12年、杜氏としてお酒を造っております。今日のテーマでもある夏酒という言葉、本当に盛り上がりだしたのはここ3年くらいだと思います。まだ定義なんて無くて、各社がオススメを出している状況です。今日は飲み比べながら、その違いを楽しんでもらえればと思います。

轟木 ここで、まずはじめにお酒の四季についてお話しします。いろんなお酒がありますが、日本の四季を感じるならやはり日本酒が一番。冬から春先の仕込みの時期は新酒の「搾りたて」です。若いお酒なので少し苦味が残っているのですが、それが春の食材ととても相性がいいんです。その後は「夏酒」ですが、先ほど言われたように定義はありません。強いて言えば、夏に飲んで美味しいものですね。夏を過ぎて涼しくなってきた頃には「秋の冷やおろし」「秋あがり」。食材の味も濃くなって来る秋には、お酒も味がのったものが出て来るわけです。冬に入ると、鍋に合う「燗酒」ですね。昔は春の搾りたてが終わるとグッと市場が冷え込んで、冬にまた売れるというのが日本酒の一年のサイクルだったんですけど、ここ3年くらいで夏酒が一般的になってきました。杜氏さんにとって、夏酒はどんなお酒なんですか?

古賀 やはり「酸味が効いている」のがポイントだと思います。夏酒って、5月から6月にかけて始まるのですが、梅雨の蒸し暑い時にねっとりした旨味のある日本酒はあまり飲みたくないというのが本音です。逆にシャンパンや白ワインのように酸味があるものやシュワシュワのものはサッパリとしますよね。ですから、甘みがあるものよりは酸味があるお酒を提供したい。僕らとしては、ビールとシャンパンには負けたくないと思っています。

轟木 お酒を取り巻く環境が変わったというか、飲み手である僕らの価値観が変わってきているんですよね。昔は、酸味が強いお酒はよくないお酒であるというイメージがあったんです。でも、ワインや洋食が日常的になった現在は、酸味のあるお酒も受け入れられるようになった。しかも夏酒は夏に終わってしまえる。今までになかったジャンルなんです。だからこそ、酒蔵にとっては実験の場でもある。なかなか面白い世界なんですよ。

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蔵元と酒屋の友情が育んだ
スパークリング日本酒で乾杯!

轟木 さあ、お酒を片手にあんまり引っ張るのも辛いので、そろそろ乾杯を!

ちなみに、日本酒通の人はご存知かもしれませんが、お酒を飲む時は「ゆっくり飲む」「お酒と同じ量のお水を飲む」。すると、長くたくさん飲めて次の日も爽やかなんですよ。では乾杯!

会場一同 カンパ〜イ!!

場のあちこちでチン!という涼しげなグラスの音が響きます。

 

◎第一の杯 三井の寿「CO2」
http://shop.todoroki-saketen.com/?pid=105803587

井上 この「CO2」というお酒は、シャンパンと同じく瓶内発酵なんですよ。ブドウ糖を酵母が食べてアルコールを出すことで、お酒ができます。今日は一週間後の販売開始を見越してやや甘めに仕込んでいます。一週間後の販売開始を見越してまだ発酵が進むという想定なので、今日の時点ではまだ糖が残っていてやや甘めに感じるかもしれませんね。

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轟木 「CO2」誕生のきっかけですが、「三井の寿」「庭のうぐいす」「東洋美人」「土佐しらぎく」の四つの蔵の造り手と僕がしょっちゅう飲んでたんです。その時に、皆で何かお酒を造ろうという話になって、じゃあお酒の種類が少ない夏に出そうかと企画が進みました。その時すでに微発泡のお酒造りに取り組んでいた「土佐しらぎく」」に技術を教わって、それぞれで開発したのが「CO2」です。飲みの席でしたから、「土佐しらぎく」も軽く「いいよ」って言ってくれて(笑)誕生して今年で7年目になります。微発泡で強いガスではないんですが、瓶の中で発酵しているので、底にちょっと「にごり」があるんですね。「にごり」は抗酸化作用、つまりガスを閉じ込める作用がある上、味わいも増すんです。発売日は、キリもいいので毎年7/7。「とどろき酒店」の店頭やWebで販売もしているので、気になる方はぜひのぞいてみてくださいね。

ここで、「CO2」を開発してくれた蔵のひとつである「三井の寿」の魔術師・井上さんにマイクをお渡しします。 

井上 以前は「酵母の魔術師」と呼ばれておりました。諦めの悪い男、こと「三井の寿」の井上です。漫画「スラムダンク」の登場人物の「三井寿」はうちの蔵の名前から付けられたんですよ。しかも、近くには「流川」という地名もあるし、私も作者の井上雄彦さんと同じ「井上」。まあ、うちの鉄板ネタなんですけど、おかげで海外に行った時もツカミはバッチリですね。

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井上 さて、今日は夏酒ということで、この後に出すうちのお酒「CICALA(チカーラ)」の話を。8年前に出したお酒なのですが、その頃は日本酒が全く売れなかった時代。構想していた時に、昔うちの親父がブルーの和紙に普通酒を入れて、「夏の冷用酒」として売り出したら結構売れたと言っていたんですよ。中身は通年で販売しているものと一緒なのに。その話を思い出して「夏酒」を出そうと思いました。ラベルには、セミの絵だけ。実はこれもタイミングが良くて、以前はラベルにお酒の種類を絶対書かなければいけなかったのに、法律が変わって瓶の底以外の1箇所に書けばOKになった。それで、あえてラベルの表にはセミの絵だけで情報を出さず、ワインっぽいラベルにしたんです。白ワインのお客さんを取っちゃおうと思って。使用しているのは、福岡で開発された「福岡夢酵母」。爽やかな酸味を出すリンゴ酸と良い香りを出すカプロン酸、高いアルコール性を兼ね揃えたものなんですね。

そこで、お待ちかねの「CICALA」が登場!
フォトジェニックなラベルはもちろん、瓶を手にした井上さんごと、たくさんのカメラが狙います。

井上 僕はフリー素材ですから、いくらでもどうぞ(笑)

 

◎第二の杯 三井の寿「CICALA」
http://shop.todoroki-saketen.com/?pid=105803577

井上 皆さん、どうですか?美味しいでしょ?そう言うと皆さん「美味しい」って言ってくれますから。酸味は口をリフレッシュさせる効果があるので、今まで日本酒が不得意としていた味の濃い料理や油モノにも合うんですよ。

僕のお酒は「酸味」をすごく考えて造っているんです。実は日本酒って、アミノ酸類が一番多い食品でして、スポーツドリンクなんかよりもたくさん入っているんですよ。飲んで体が温かくなるでしょ。脂肪が燃焼しているんですよ。

これ、僕の持ち時間何分ですか?まだ大丈夫?それなら僕のお酒が美味しい理由をどんどん説明しますね。杜氏として15年働いていますが、今年の福岡県新酒発表会では金賞を受賞しました。これで10度目の金賞です。福岡県70蔵のうち、金賞はそのうちの2蔵だけ。実はその2蔵は「三井の寿」と「庭のうぐいす」なんですよ。だから、今日のお酒は間違いない!はい拍手!ちなみに、7月からは「CICALA」のにごりが出るので、こちらもぜひ試してみてくださいね!

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井上 お酒ってほぼほぼ水なのですが、うちはすごい軟水で、ドイツ硬度で言うと30ないくらい。エビアンなどよりももっと滑らか。生活用水にも使っていますが、この水に慣れると他の地域の水に触っただけでも「硬いな」と感じます。

この軟水のおかげで優しいお酒が出来上がるんじゃないかなと思っています。

轟木 仕込み水から違うんですね。そして自慢話が多い(笑)

井上 では、もう一つだけ。実は今年、世界最大級の1700種類以上の日本酒が出ている「酒コンペティション」と言う会議があったんですが、その中でも3位でした。来年は1位を目指して酒造りを目指したいですね。いや、3位も十分すごいんですよ!

会場一同 爆笑

 

門外不出から、情報共有へ
今と昔の酒造りはここが違う!

井上 僕の酒造りのモットーは「酒造りは科学とセンスと情熱だ」なんですが、昔の杜氏さんは想像と経験で作っていたんです。こうすればこうなるとは分かっていても、なぜこうなるかは分からない人が多かった。製法を知られないために役所に提出する書類にも嘘を書く人がいたくらい。でも、僕たち世代になると横のつながりがすごく強くなって、日本全国の蔵に連絡を取って情報交換するようになった。僕は杜氏としては15年ですが、何十年分のノウハウを得ることができたんです。今では20代でもすごく美味しいお酒を造る若者もいて、いいものがバンバン出て来ています。

轟木 僕も昔は東京に行って「これ美味しい」と思ったお酒の蔵に問い合わせをしていたんですけど、今は杜氏さんから紹介されることがほとんどですもんね。「いい酒造っているから、会ってみてくれる?」って。僕も東京や仙台の酒屋さんに造り手を紹介することが多いです。

それでは次は「庭のうぐいす」の古賀さんにバトンタッチしましょう。古賀さんは僕が酒業界に入って一番最初にできた友達なんです。最初は営業をされていたので、まさかお酒を造ることになるとは。

 

◎第三の杯 庭のうぐいす「CO2」
http://shop.todoroki-saketen.com/?pid=105805141

古賀 僕もいろいろなお酒の会に出席して来ましたが、(井上さんの話の間)1時間以上もお酒が飲めなかったのは初めてです(笑)。今飲んでいただいているCO2ですが、うちはちょっと泡を強めにしてドライな風味にしています。ほかの3蔵と比べた時、インパクトを残したくて。

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古賀 昔の酒造りの話が出ていましたが、うちの場合はたまたま前の杜氏が高齢で引退することになって、その時に営業をしていた私に白羽の矢が立ったんです。それまで私は土日に洗い物を手伝う程度だったんですが、そこからはひたすら勉強。私の先輩なんて麹を触っただけでその温度が分かるのですが、私はまだそこまでの経験が無い。だから、全てを測って分析するんです。私の先生いわく、酒造りは二つの「はかる」が大事。量を「測る」、そして温度を「計る」です。全ての工程で全部重さと温度を測るんですね。木造の蔵の中にはまるで研究室のように高額な機械が並んでいる。そうしないと今の新しい酒造りはできないんです。

 

◎第四の杯 庭のうぐいす「いなびかり」
http://shop.todoroki-saketen.com/?pid=120010663

古賀 酒造りって、お米の水分をどう調整するかがポイントなんです。簡単に言うと、水をたくさん吸わせるほど味が多くなる。水を吸わせないと綺麗な味になります。この「いなびかり」は水をあまり吸わせず甘味を残すという製法をとっています。うちの夏酒の第二弾なんですが、キンキンに冷やすのであれば多少甘味がのってもいいかなとあえて甘く柔らかくしています。隠し味に酸味が爽やかなリンゴ酸が働いているので、甘味と酸味のバランスよく飲みやすいんです。それにメニューの中で一個だけ甘いものがあればインパクトあるでしょう。

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お二人の楽しい掛け合いを聞きながら、自信作を味わった皆さん。夏酒にどんどん興味が湧いたようで、あちこちから質問の手が上がりました。

トークも杯も進む中で、最後にとどろき酒店セレクトの夏酒もお目見え。

轟木 最後は「夏酒って幅広いな」と思っていただきたくために、タイプの違う2本を用意しました。

 

◎第五の杯 東鶴「純米うすにごり」
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轟木 一つは、佐賀の「東鶴」が造っているにごりの夏酒です。ジューシーなうすにごりですけど、爽やかにまとまっていて飲みやすいのが夏向きです。

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◎第六の杯 九重雑賀「COOL DOWN」
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轟木 今度は逆に度数低めでサクサク飲める和歌山のお酒です。水のように飲めるので名前の通り、クールダウンできますね。

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本日登場したのは、「三井の寿」と「庭のうぐいす」のそれぞれ2種類+とどろき酒屋セレクトの2種の計6種。飲み比べてみると、どれも従来の日本酒のイメージのウラをかいた個性豊かな味わいで、日本酒党の手練れ達にも新鮮な驚きを与えてくれたよう。いつの間にやら、井上さんや古賀さんもお客さんに混じって、最後まで大いに盛り上がっていました。

刺激的に弾けたい炎天下、涼を求める夏の夕暮れ、しっとりと楽しむ夏の夜と、夏の過ごし方は人それぞれ。そして、その数だけ美味しくてユニークな日本酒があるんです。

さあ、あなたならどんな夏を飲みたいですか?

 

ReTHINK FUKUOKA PROJECTについて
コミュニケーションや働き方、ライフスタイルに大きな変化をもたらしている福岡。新しい産業やコミュニティ、文化が生まれるイノベーティブでエネルギッシュな街となっています。
そのチカラの根底には、この街に魅力を感じて、自らが発信源となっている企業や人がいます。
ReTHINK FUKUOKA PROJECTは、「ReTHINK FUKUOKA」をテーマに、まったく異なるジャンルで活躍する企業や人々が集い、有機的につながることで新しいこと・ものを生み出すプロジェクトです。

 


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