RethinkFUKUOKAProject

焼酎発祥の地から、新たな楽しみ方を提案 蔵元から広がる、焼酎の“サードウェーブ”

Rethink FUKUOKA PROJECT レポートvol.047

アナバナではReTHINK FUKUOKA PROJECTの取材と発信をお手伝いしています。

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「ReTHINK FUKUOKA PROJECT」が主催するイベント群の中でも、特にユニークで参加者の満足度も高い試みとして好評だった「ReTHINKお酒Project」。金曜の宵の口、とどろき酒店の轟木渡さんをコーディネーターに、九州内からお酒の造り手をお招きし、オススメのお酒と料理をいただきながらトークに耳を傾けるイベントです。福岡の日本酒をテーマにした前回に引き続き、4月21日(金)には早くも2回目を開催。テーマは「焼酎×日本酒」。壱岐にある重家(おもや)酒造の横山太三さんと、鹿児島県いちき串木野市にある大和桜酒造の若松徹幹さんがゲストです。

伝統を現代に引き継ぐお酒の造り手たちの熱い思いを間近に聞きながら、アテと一緒にそのお酒を心ゆくまで堪能する……。会場のRethink Cafeがお気に入りの居酒屋の常連席に変わった、イベントの様子をお伝えします。

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伝統ある二つの酒蔵から
まずはオススメを一杯

轟木 まずは私から自己紹介をしますね。とどろき酒店の轟木です。とどろき酒店は雑餉隈に本店があり、中央区薬院にも角打ちバーの「とどろき酒店薬院stand!」を昨年3月にオープンさせました。店舗以外にも、満月の夜にワインを飲む「満月ワインバー」、いい音楽といいお酒を楽しむクラブイベント「SAKE A GOGO」、お酒の造り手をゲストに呼ぶパーティー「サケサケガーデン」など、さまざまなイベントを開催しています。皆さんもぜひ、チェックしてみてください。では、ゲストのお二人も、自己紹介をお願いできますか。

若松 はい。鹿児島から来ました、大和桜酒造の若松徹幹です。大和桜酒造は、鹿児島のウエストコーストと勝手に呼んでいる(笑)いちき串木野市にあり、ペリーが来航した嘉永年間の頃に創業して、僕は五代目になります。焼酎を甕(かめ)で発酵させる、甕壷仕込みという伝統的な造り方を続けているんですが、僕自身はストイックに伝統を守るだけじゃなく、焼酎に親しみを持てる提案をいつも考えていて。「よか晩」(鹿児島弁で「いい夜」)をテーマに、気の合う仲間たちとお酒を飲み、気持ちをゆったりとほぐし、「今夜もよか晩だったね」と言える時間を過ごせるような活動を広げていきたいと思っています。Webサイトのトップにも、「よか晩」をテーマに作った動画を掲載していますので、見てみてください。(http://yamatozakura.com

轟木 では横山さんも。

横山 私は、長崎県の壱岐にある重家酒造で焼酎と日本酒を造っています横山と申します。壱岐は麦焼酎発祥の地と言われて、400年以上前からむぎ焼酎を造っています。重家酒造は1924年に創業しました。現在は、兄が焼酎の杜氏で、僕は日本酒を担当。「日本の國酒を世界に!」というテーマで、ミラノ万博の時に元サッカー日本代表中田英寿さんプロディースのSAKENOMYに出展するなど、世界に広めていく活動をしています。

轟木 ありがとうございます。では早速、一杯目で乾杯しましょう。ついつい飲み過ぎてしまうので、同量の水を飲みながら、自分のペースでゆっくり楽しんでくださいね。はい、よか晩に乾杯!

会場一同 乾杯〜! (会場に食事も提供されて、会場は一気にワイワイと華やいだムードに)

横山 ちなみに今日の一杯目は、重家酒造の「ちんぐ」という焼酎です。「ちんぐ」とは、韓国の言葉で「友達」という意味なんです。白と黒の二種類あり、これは白麹で仕込んだシュワッとする「ちんぐ」なので、シュワッちんぐと呼んでいます。

会場 (笑)

横山 スッキリしているので、これからの季節はBBQにもぴったりで、口をさっぱりとしてくれますよ。

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「ちんぐ」のロックを自ら振る舞う横山さん。

轟木 このあたりでまず、焼酎と日本酒は何が違うのかを説明しておきますね。お酒には、醸造酒と蒸留酒があります。醸造酒は、発酵させたものを絞ってお酒にしたもの。蒸留酒は、発酵させたものをさらに蒸留させたお酒です。わかりやすくざっくりいいますと、日本酒を蒸留すると米焼酎になり、ビールを蒸留すると麦焼酎やウイスキーになる、というイメージです。ワインを蒸留したらブランデー。蒸留という作業で、エキスを抽出しているんですね。

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横山 そうです。壱岐は昔から自然豊かな土地で、壱岐で収穫される米や麦を、当時の平戸藩に奉納していました。二条大麦という麦と米麹を掛け合わせて麦焼酎が誕生して、今でも麦焼酎製造は盛んですし、同時に日本酒を造っている酒蔵もあります。重家酒造でも1990年まで日本酒を造っていたんですが、杜氏の高齢化で引き継ぐ人がいなくなってしまって。うちの父が、免許だけでもと引き継ぐことになり、僕の代になってから改めて再興させようと奮闘している最中です。今日は、その日本酒「横山五十」も持ってきていますので、ぜひ味わってみてください。

 

焼酎は
今こそ時代の気分にぴったりのお酒

轟木 横山さんは、海外への発信も積極的に行っていますね。

横山 ええ。2004年のW杯ブラジル大会の時に、中田英寿さんが「nakata.net cafe」という試みで日本のお酒を世界に紹介して、その時の日本のお酒16種のうちに、「ちんぐ」も選ばれたんです。でもいきなりロックやお湯割で出しても、焼酎を飲み慣れていない向こうの人には受け入れられないだろうと思って、「ちんぐ」をベースにしてたカクテルを造ったりして。

轟木 海外では、どんな傾向のお酒が人気あるんでしょうか?

横山 ワイングラスで飲む場合が多いので、香りが高くて、広がりやすいものが受けますね。甘すぎるのは、好き嫌いが分かれます。あとは、麦のお酒になると向こうはウイスキーが定着しているので、そこに割って入るのはなかなか難しいなと感じましたね。

轟木 なるほど。若松さんも、海外との交流がありますよね?

若松 今日も来てくれていますが、スティーブンというニューヨーク在住の医学博士が、お酒への興味が高じてうちの蔵に毎年働きに来てくれるようになったんです。焼酎の、甘くないドライな味がとても気に入ったと。彼がある時、「焼酎は、蒸留酒の中でも一回しか蒸留しない、とてもフレッシュなお酒で、畑に近いものだ」と言って、それに僕自身ハッと気づかされました。ナチュラルワインのように、地元で採れた素材を新鮮なうちに使って、原料もシンプルという焼酎の造り方は、今の時代の気分にぴったりなはずなんですよ。

轟木 確かに。

若松 この10年間で日本人の価値観は大きく変わりました。昔は「俺寝てないんだよね」というセリフが、さも仕事ができる人のように聞こえていたけど、今じゃ平日に「明日サーフィン行ってくる」と言える人の方がカッコいいという時代ですよね。だから、焼酎の楽しみ方も“Rethink”する必要があると思っているんです。2003年頃に起こった本格焼酎ブームが焼酎のセカンドウェーブだとしたら、現在はいわばサードウェーブ期。一時的なブームも落ち着いて、より本質的で、自由な焼酎の楽しみ方がこれから広がっていくと思います。スティーブンも、焼酎の過去の歴史に捕らわれず、外国人の新鮮な目で焼酎文化を広める大使のような役割を担ってくれています。

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毎年研修に来るスティーブンさん(左)と、テッカンさん(若松徹幹さん、右)。お二人が胸につけている黄色い缶バッジには、大和桜酒造が提唱する「よか晩」の文字が。このバッジ、会場でも配布されて大好評でした

轟木 ちなみに今日は、焼酎の炭酸割りを用意していただきました。

若松 昔だったら焼酎をソーダで割るなんて、「せっかくの香りが台無しになる!」と言われて、もってのほかだったんですけどね。そういう固定概念は取っ払っていきましょう! 焼酎ソーダを美味しく飲むには、泡の強さと、焼酎の冷たさに気を配ることが大事。まず氷を入れて、そこに焼酎を混ぜて、氷を溶かして焼酎を十分に冷やします。それから、ソーダを注ぐ時は、高いところからジョボジョボと注ぐのと、静かに注ぐのでも、味わいが全く変わります。今日は紅さつまを使った大和桜を用意したので、香りが立つように高めの位置から注ぎますね。

 

ひと工夫加えるだけで
知らなかった味わいが引き出される

轟木 大和桜は、他にオススメの飲み方はありますか?

若松 シンプルにお湯割が美味しいんですけど、ロックもいいですよ。ロックは、氷が溶けて薄まっていくごとに味が変化していくので、「この瞬間が最高に美味しい!」というタイミングを見つけるのが楽しいんです。カクテルだったら、モスコミュールのウォッカの代わりに焼酎を使ったものも、評判がいいですね。「芋スコミュール」と呼んでます(笑)。柑橘にも合うものと合わないものがあって、例えば宮崎の「へべす」という、すだちに似た果実の果汁を水割りに絞ると、最高に美味しいですね。焼酎はナチュラルなお酒なので、加えるものもナチュラルなものが合うんだと思います。鹿児島の音楽フェスに出店する際の、一番人気の飲み方です。

轟木 野外で飲むのも、いいですね。

若松 アウトドア用のプラスチック製水筒がオススメですよ。あれに、前もって水割りを作って持っていくだけでも、野外で楽しむお酒の概念が変わりますから。

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「野外で飲む時は、手軽さから近くのコンビニで適当な焼酎を買ってしまいがち。でもひと手間を惜しまずに、水割りを用意して持っていけば、妥協なく美味しい焼酎が楽しめます」

轟木 横山さんの、別のオススメも教えてください。

横山 今日はもう一種類、黒い方の「ちんぐ」を持ってきました。こちらは黒麹を使っていて、どっしりとした甘みのある味わいです。「ちんぐ」もグラスもよく冷やして、冷えた炭酸で割って飲むのをお勧めします。最初の一杯目は、焼酎1:ソーダ水3の割合で割って、アルコール度数6%ぐらいの薄めに作って、グイッと喉の渇きを癒すのがいいですね。二杯目からは、焼酎1:ソーダ水2ぐらいで、アルコール度数8%ぐらいの濃度で「ちんぐ」の味をじっくりと感じるように飲んでみてください。白ちんぐに比べて、黒ちんぐは味が濃いので、焼き鳥などにもよく合います。

(この後、しばし飲酒歓談タイム。ほろ酔い加減で会話も弾みます)

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轟木 ところで大和桜のラベル、素敵ですね。

若松 これ、実はニッカウヰスキーのデザインを多く手がけた大高重治のオリジナルデザインなんです。ブラックニッカの髭のおじさんを描いた大高さんの、最後の作品。うちの蔵には、「ラベルに惹かれたから」と見学に来てくれる人が後を絶たないんですよ。有名デザイナーの大高さんが作ったからすごいということではなくて、その時デザイナーが必死で考えた熱量が、2017年の今でも人の心を動かしているっていうのがすごいですよね。ものづくりはやっぱり、意気込みや熱量が大事なんだなと、気を引き締められる思いです。

横山 分かります。僕も、2020年までには、壱岐での日本酒製造を完全復活できるように、今から計画しています。

轟木 いいですね。焼酎も日本酒も、今日のお二人のように柔軟な発想を持った杜氏たちが、新しい飲み方や楽しみ方を広げていってくれたら、嬉しいですね。本日はありがとうございました。そしてごちそうさまでした!

会場一同 ごちそうさまでした!

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いかがでしたか? 杜氏としてお酒造りに励むだけでなく、楽しみ方を積極的に提案して、焼酎や日本酒の裾野を広げる活動に尽力しているお二方。トークの引き出しも多く、参加者のお酒も進み、たっぷり3時間、充実の会となりました。最後には顔を紅潮させ、満足そうに談笑する参加者たち。この状態こそ、「よか晩」なのではないでしょうか。

さて、好評のReTHINK お酒 Projectは、次の企画も予定されています。まだ参加したことがない方も、ぜひ九州の豊かなお酒を発見、そして再発見(rethink)してみてはいかがでしょう

 

ReTHINK FUKUOKA PROJECTについて
コミュニケーションや働き方、ライフスタイルに大きな変化をもたらしている福岡。新しい産業やコミュニティ、文化が生まれるイノベーティブでエネルギッシュな街となっています。
そのチカラの根底には、この街に魅力を感じて、自らが発信源となっている企業や人がいます。
ReTHINK FUKUOKA PROJECTは、「ReTHINK FUKUOKA」をテーマに、まったく異なるジャンルで活躍する企業や人々が集い、有機的につながることで新しいこと・ものを生み出すプロジェクトです。

 


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