RethinkFUKUOKAProject

もしかして私もセクシャルマイノリティ!? 性について真剣に考えると理想の未来が見えてきた

Rethink FUKUOKA PROJECT レポートvol.045

アナバナではReTHINK FUKUOKA PROJECTの取材と発信をお手伝いしています。

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好きな人と共に寄り添い、幸せな人生を全うする。どんな人にも約束されている当たり前の権利を周囲の偏見や差別で奪われてしまう人がいます。社会に根ざしている数多くの差別の中でも、身近に起こりうるのがセクシャルマイノリティ(性的少数者)への差別ではないでしょうか。最近では、「LGBT」という言葉や「同性婚」を認める条例など、社会における性を巡る意識も少しずつ変わってきています。この機会に正しい知識を身に付けて悲しい思いをする人を少しでも減らしたいと、大学生の松口健司さんと鶴田明子さんが企画したのが今回のRethink FUKUOKA PROJECTです。講師役には、福岡で同性婚・平等婚の当事者サポート団体「MarriageRings4LGBT」・LGBT啓発イベント「九州RAINBOW PRIDE」の代表を務める、あなたののぶゑさん(※1)。そして、東京でLGBT・セクシュアルマイノリティ支援を多く手がける弁護士の山下敏雅さん(※2)を迎え、「性」についてRethinkします。

100人いれば100の性がある
現代のセクシャルマイノリティについて

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松口 今日のテーマ「LGBT」について、言葉はよく聞きますが、その本質が分からないという人も多いんじゃないでしょうか。今回は、LGBTについて活動をされている「あなたののぶゑ」さんと山下敏雅さんにお越しいただき、皆さんと一から学びたいと思います。

鶴田 私も以前から興味を持っていた事なので、色々とお聞きしたいと思います。昔、女の子の友人が同性を好きだと話してくれた事があったんです。日本ってそんな事を話しにくい空気があると思うのですが、そこを変えたいと今日参加しました。

すごくざっくりな質問ですが「LGBT」って何なのでしょう。

のぶゑ そうですね、LGBTって、セクシャルマイノリティとか性的少数者と言ったりするのですが、Lはレズビアン、Gはゲイ、Bはバイセクシャル、Tはトランスジェンダーを表しています。LGBまでは「どの性別を好きになるのか」自分の外側に向かっている人たち、いわゆる性的志向です。Tは自分の性別に違和感がある方達の事を指します。Tの中に「性同一性障害」の方達がいらっしゃるわけです。でも実はセクシャリティって、このLGBTだけに収まるものではないんです。恋愛対象が存在しない方、恋愛感情があっても性的衝動が起こらない方、そして体の性が曖昧な方など多数の捉え方があります。体の性も男と女の二種類ではなくて、グラデーションになっていたりするんです。ここまでが異性愛者、ここまでが同性愛者ときっちりとした線引きはできないんですね。100人いれば100の性がある。

山下 LGBTという言葉の並びのように、海外では性的指向の運動が先にありました。日本はその逆で、10年前に性同一性障害で特例ができて、トランスジェンダーの話が先に広まって、同性愛の話がなかなか追いついていない。テレビでオネエと言われるタレントたちも一括りにされていて、女性らしい外見の人もオネエだと言われている。女っぽい、男っぽいという印象とLGBTもまた違う問題なのに、その違いも全然伝わっていない。

松口 そんなに多くの違いがあるんですか。実際にLGBTの方って、どの位いらっしゃるのでしょう?

のぶゑ 一般的には大体5〜8%、単純に計算して大体13人に1人とか20人に1人と言われています。

鶴田 今の日本で同性婚が認められるにはどうしたらいいんでしょう?

山下 日本では家族に関する法律を変える事って本当にハードルが高いので議論が始まったばかりの同性婚問題は時間がかかると思います。でも、議論しないと始まらないし、きちんとした理解を地道に築いておかなければ対応できない。

のぶゑ 同性婚に絞って言えば、私は今7年おつきあいをしている彼がいて、友人知人の間でもほぼ夫婦のような関係と認知されているんです。にも関わらず、男女の夫婦のような権利は一切無いんです。保険の受取人を指定できないし、まず2人の事を認めてもらえない。私が一番怖いのは、例えば彼が入院した時、私は病室に入れない可能性があるって事。なぜなら婚姻関係が無いから。婚姻関係があれば、病室にも入れるし、日頃の食生活や病状の報告もできる。手術のサインもできる。男女のカップルと違って、ハードルがいくつもあるんです。

鶴田 自治体レベルで同性カップルに結婚と同等な関係を認める渋谷区の例もありますが、例えば福岡市もその条例を導入した場合、先ほどのぶゑさんがおっしゃっていたようなハードルは乗り越えられるものでしょうか?

のぶゑ そうですね、渋谷区のように条例として拘束力を持ったものであればですが。他の自治体が発行する「パートナー証明書」と呼ばれるものに拘束力はないんです。

山下 渋谷区は条例なので、証明書が発行される条件が少し高いですが、その反面、認めない企業などがあれば区の方からちゃんと言ってもらえます。ただ、パートナー証明でも、民法上の結婚のような法的効力は無い。

のぶゑ 証明書があれば保険の受け取りができる生命保険会社ですとか、理解のある民間の企業も少しずつ増えてきていますので、無いよりはあった方がいいですよね。

松口 例えば、福岡市に条例の実施を働きかけるなら、僕らはどんな活動をすればいいのでしょうか?

山下 一番は当事者の人が「こんな事で困っています」という声をあげて行かなければいけないし、あとはセクシャルマイノリティでは無い方も理解して一緒に声をあげていかなければ議会に通らない。一人一人の声がとっても大事なんですよ。

のぶゑ もし皆さんの周りで、LGBTの方がいたら、ぜひ味方になって欲しい。LGBT関連の催しに積極的に参加して正しい情報を身につけて、ちゃんと共有して欲しいです。友達の後ろ盾があるだけでも、前に進む勇気が全然違う。悩んでいるお友達のために、皆さんが力になってあげられると思います。そういうところから変わっていかないとこのような問題は動かせないと思います。

ありのままの自分の性を生きる
葛藤と戦いの日々に見つけたものとは?

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松口 山下さんは同性婚の相談を多く手がけられているんですか?

山下 実は同性婚の相談ってまだそれほど多くは無くて、自分がLGBTであると他者にバラされる「アウティング」の案件が多いんです。カップルの別れ話がこじれた時に、家族や職場にバラすと脅しをかけてくる。脅されている側が本当に怖いのはバラされた後の家族とか、学校とか職場に居場所がなくなる事。社会の偏見があるからこそ起きるトラブルで、今はまだ同性婚の前の前の段階ですね。ホモネタで笑い合うとか、そんな人いるはずないと話している横で、バラされたら困ると縮こまっている人がいる。

松口 のぶゑさんは、なぜカミングアウトをされたんですか?

のぶゑ 私がカミングアウトしたのは、31歳の時です。それまではアウティングに怯えながら生きてきました。私自身、若干男性らしくない喋り方をするので、この喋り方すら変えて必要以上に男性的な仕草や喋り方を意識して10年間社会人として生きてきた。演技をする事が大前提なので、毎日が本当に苦しくて。不意に「素が出たらどうしよう」、「今の反応でバレたかもしれない」、頭の中はそっちでいっぱい。そんな状況だと毎日ストレスの塊で「私、このままじゃ壊れる」と思ってカミングアウトを決意しました。会社を辞めて、最初に伝えたのは両親(母親)。面と向かって言える勇気がなかったので、手紙を書いたんです。うちの母はすごくチャキチャキしている人ですが、それでも返事がない。一ヶ月半くらいした頃に母から手紙が届きました。「最初はやっぱり悩んだ」、「私のお腹の中で何が起きたんだろう」、「私の育て方が間違ったんだろうか」とか、ずっとそういう事が書いてあるわけです。でも、最終的に「あなたは私の子どもだから、私はあなたの事を受け入れていく。それであなたが幸せになれるなら頑張りなさい。応援するから」と締めくくられていました。それを読んだ時、30年間持ち続けていた重い荷物がやっと降ろせたような開放感、初めて認めてもらえたという安堵感で胸がいっぱいになったのを覚えています。次の日は天神の街並みがとてもキラキラして見えて、晴れやかだったのが今でも忘れられない。あの日から私の人生が変わったような気がします。

山下 とても感動しました。私は子どもの事件をメインに扱っているのですが、セクシャルマイノリティのお子さんもいるんです。セクシュアリティが家族にバレて,親から「治せ」とか,兄弟から「お前みたいなのがいると迷惑だ」と言われ,虐待から保護されて私が自立を支援しました。たまたま私につながったので安全な道に入って自分らしい生活ができているんですけど、セクシャルマイノリティの子ども達は親からでさえ排除されてしまう。そこが他の差別とは違うし、一番辛い事なんです。のぶゑさんみたいに理解してくださる人もいれば、親から暴言暴力を受けて暮らせない人もいる。自分だけではなくて、自分の子どもがセクシャルマイノリティという可能性も十分ある。

のぶゑ そうですね。私も理解はされましたけど、母との軋轢はすごかったんです。小さい時に、テレビでニューハーフの人が出ているのを見て「あんたもこげん風にならんどきーよ」とか、兄からも「おカマなんかになるなよ」と常に言われていました。自分は素直な表現をしているだけなのに、何が正解なのかがわからないまま怒られるわけですよ。そんな中で自己肯定感なんか絶対に生まれるはず無い。そんな日々が嫌で嫌で、「どうにかして家を離れたい」と高校を卒業した時に逃げるように実家を飛び出したんです。福岡に出てきてからの10年間も母との軋轢がひどかった。母に面と向かって「あんたの葬式出らんけん」っと公言するくらい。でもカミングアウトする時になぜ母を選んだかというと、この人に最初に言わないと私の人生は変わらないと思ったんですよ。たまたまうまくいったからここにいますけど、本当に受け入れてもらえない事例もたくさんあります。それを親御さんにも、学校の先生にも、大人と言われている人には皆知って欲しいんですよ。セクシャルマイノリティで悩む子ども達がいなくなるような社会になったらと思います。

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あなたの大切な人が悩んでいるとしたら…
私達にできる事ってなんだろう。

松口 お二人は今後どんな取り組みを考えていらっしゃいますか?

のぶゑ やっぱり皆さんがちゃんと知っていただける場を提供する。そして、悩んでいる人を支えられる場所でありたいです。そのためには私1人では無理なので、皆さんにもLGBTの知識を持っていただきたい。もしお友達やお友達の子どもさんがLGBTであれば繋げられる所があるよって教えてあげて欲しいし、もし偏見に満ちた言葉を聞いたら、一言「違うよ」って言える勇気を持って欲しいと思います。

山下 子ども達がありのままで生きられる社会を作るのが私たちの責任だと思います。あからさまな差別やヘイトではなくても、一人ひとりの小さなマイナス発言や無関心が集まると、1人の人を苦しめるんです。だからこそ、皆さんにはその逆をやって欲しい。LGBTについて理解がありますと大それた宣言のようなものをしなくても、LGBTの人の話を聞いてきたけど良かったよとか、間違った発言をする人を注意するとか、そういう一つひとつの小さなプラス発言だけでも当事者はよく見ているし、救われる。社会を変えていく事で法律や仕組みもできる。子ども達も幸せな人生を送られるようになる。

鶴田 周囲の支援も大切とのことですが、例えば相手がLGBTであると明言していない状態の時はどうすればいいんでしょう?
のぶゑ 本人のセクシャリティを聞き出すみたいな必要は無いと思う。相手に対して、自分はLGBTフレンドリーだよって発信してくれることが大事だと思います。

山下 私も同感です。性に関することって、プライバシーの問題でもあるんですよね。

のぶゑ 目の前の人がどんな人であれ、その人自身を受け入れてあげるのがいいと思うんですよ。だって、初対面の人にあなたは男性ですか?女性ですか?って聞かないですよね。

山下 僕の知り合いの女性弁護士さんで、セクシャルマイノリティでは無いんだけど女性の問題に取り組んでいる方がすごく悩んでいたんですね。セクシャルマイノリティの方に対して「どんな言葉が傷つけてしまうんだろう」「自分の言っていることで傷つけたんじゃ無いか」とビクビクしていたそうです。でも、お互い性に関しては当事者だと思って接するようにしたら関係性が変わったと話してくれました。理解したいなと思ってくれているところはまず第一歩。誰でも性に関しては当事者ですと意識してくれれば楽になるのかなと思います。

のぶゑ 特別な事はなくて普通に友達でいればいいのかな。アウティングに関しては、LGBTに関係なく、友達の秘密をバラさないのは当たり前のことですし。わざわざLGBTですって言わなくても、その人はそのままで生きていくこともできると思うんです。これは聞いた話ですが、NYではLGBTという言葉すら使わない。それぞれのセクシャリティで生きているわけだから、区別する必要は無いんだと。都市が発展して行く中で、もしかしたらLGBTって言葉すらなくなって行くのかもしれない。それぞれ好きな人がこうだった、というだけの話かもしれない。そういうのが理想ですね。

松口 なるほど。僕はLGBTの知識が無かったのでとても勉強になりました。今日のイベントのような地道な活動を今後も続けて、伝えていきたいです。

鶴田 私は「性の問題に関しては一人一人が当事者だ」という言葉が特に胸に刺さりました。LGBTというラベルを貼ることで逆に偏見につながる事もあると思うので、自分も当事者だと捉えて、これからも考えたいと思います。

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山下 セクシャルマイノリティだけではなく、男女間の裁判も多く扱ってきて思うのは、私たちの世代は上の世代から性についてきちんと教わっていないんですよね。相手との関係の作り方も含めて。性というのはセックスの事だけではなく、自分の心と体を大切にして、相手の心と体を思いやることだよって、そんな大事なメッセージを学校の授業だけではなくて、日常で私たち大人が教えていくことが、皆が生きやすい世の中につながると考えています。

のぶゑ それに親御さんもお友達も、この辺で普通に仕事をされている方も、意外とこういう情報は伝わっていない。そんな方達にも情報を届けたいと思うと、毎年開催しているパレードやこんなイベントはとっても大事なんですね。今後も一つずつ参加させていただきたいと思います。

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(※1)
のぶゑさんの活動、イベントはこちらのHPを参考に
http://qrp8lgbt.wixsite.com/qpr4lgbt

(※2)
ここには収まりきれなかったお話は山下さんの著書で読めます。
セクシュアル・マイノリティQ&A
どうなってるんだろう? 子どもの法律

この後も松口さんや鶴田さん、そして会場の参加者から多くの質問が寄せられ、活発な意見交換に社会の関心の高さを実感した今回の「Rethink FUKUOKA PROJECT」。「個性」という言葉の通り、性も個人によって異なるものだと捉え、認め合う事ができれば「LGBT」という単語が存在しない世の中がやってくる日も近いのではないでしょうか。
そのためにも、まずはきちんとした知識を身に付けて、他の人にも教えてあげる事。
他ならぬ、あなたも性に関して当事者の1人なのですから。

 

ReTHINK FUKUOKA PROJECTについて
コミュニケーションや働き方、ライフスタイルに大きな変化をもたらしている福岡。新しい産業やコミュニティ、文化が生まれるイノベーティブでエネルギッシュな街となっています。
そのチカラの根底には、この街に魅力を感じて、自らが発信源となっている企業や人がいます。
ReTHINK FUKUOKA PROJECTは、「ReTHINK FUKUOKA」をテーマに、まったく異なるジャンルで活躍する企業や人々が集い、有機的につながることで新しいこと・ものを生み出すプロジェクトです。


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