インタビュー

糸島半島先端のまち北崎地区に「海の駅北崎」が登場! 仕掛け人平兮(ひらな)さん流 “和尚だからできるまちづくり”とは?

まずは周囲に相談だ! 構想わずか2ヶ月で実現間近の「海の駅北崎」

福岡市の北西のまち北崎地区でなにやら新しい動きが始まると聞き、仕掛け人で、お寺の和尚をされている平兮元祥(ひらなまさよし)さんに会いに行ってきました。平兮さんは、昨年開催した農山漁村セミナーのゲストに登壇くださり、和尚の枠にはまらない柔軟な発想とエネルギー溢れるトークで、会場でもひときわ存在感を放っておられた方です。


編集部のある博多区千代町から車を走らせること1時間足らず。平兮さんが副住職を務める福寿寺へ到着です。お会いするやいなや、さっそくお話してくださったのは、「海の駅をオープンさせる」という、なんとも夢膨らむプロジェクトです。

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こちらが平兮さん。「福寿寺」の和尚をされながら、北崎地区の活性化を図る自治会下部組織の市民グループ「北崎未来を創る会」の代表としても活動されています

玄界灘に面する北崎地区は、糸島半島の北西端に位置します。糸島半島といえば、今や全国区で名前を知られるようになった人気エリア。週末にもなれば、半島に点在するカフェや雑貨屋さんを巡る多くの観光客で賑わいます。しかし、そんな人気エリアに囲まれながら、いわゆる「立ち寄りスポット」がほとんど知られておらず、北崎地区は“通過点”になっている現状がありました。2つの漁港がある北崎地区は、福岡県の中でも有数の漁獲高を誇ります。玄界灘の新鮮な魚が多く水揚げされるにも関わらず、魚を気軽に購入できる直売所のような場所もありません。

高齢化や過疎化が進み、周辺の地域との活気の差を目の当たりにする中、北崎地区で生まれ育った平兮さんは、「海で安心して遊べ、人が集まる場所を作ることで北崎の地域を知ってもらい活性化につなげたい」と一大決心。狙いを定めたのは約3,500坪という広大な海沿いの丘です。約一万坪のビーチが隣接する場所にキッチンカーを並べ、魚も買える産直所をつくると決めたのが今年の2月中旬。あとは実行するのみ! と、あれよあれよと「海の駅計画」を進めていかれたそう。構想期間はなんと2ヶ月! 「どうやって進めているの?」と尋ねると、「全部LINEでやり取りしてるんですよ」と意外な回答。利害関係なく、「まずは周囲に相談だ!」ということで、地元の学生やメディア関係者、事業主など、総勢140人を超えるグループを「LINE」で立ち上げ、全てのやり取りを集約させているそう。周囲をグイグイと巻き込んでいく平兮さん、エネルギーもスピード感も桁はずれです。

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こちらが「海の駅北崎」ができる予定の浜。目の前は地平線の見える海で、夕日もばっちり眺められる最高の立地!

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海水は透き通っていてとても美しいです

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浜の砂もさらさらとして、とても綺麗でした。ここを裸足で歩けたら気持ちよいだろうなあ

「海の駅北崎」がオープンしようとしているこの広々とした土地、持ち主は漁業協同組合と町内会の共同所有です。その管理形態から借り手のハードルが高く、活用されないままでいたとのこと。そこは各方面に顔の広い和尚の平兮さんの出番です。「この場所に海の駅つくるけん、貸してくれんかいな?」の一言で、堰を切ったように事は進んでいきました。

もちろん、公共空間ともなれば、顔が広いだけで気軽に借りられるものではありません。6年前から無償の寺子屋で地域の子ども達に勉強を教える取り組みや、「北崎未来を創る会」での活動で成果をあげてきたことによって、地域のみなさんから信頼を得ている平兮さんだからこそ成せる技です。

「和尚は地域のパイプ役」。
平兮さん流“和尚だからできるまちづくり”

実は、この「海の駅」構想の活力になったのは、他でもない「資金の目処」でした。平兮さんは和尚という職業で培ったネットワークと瞬発力ある発想の転換で、次々と事業を生み出しているのです。

その一つが、“北崎の規格外野菜を救う”事業でした。市場に出せない規格外野菜が処分されている事実を、目をそらしたくなるほど見てきた平兮さん。元来、野菜にB品なんてくくりはありません。味は変わらない立派な糸島野菜です。「じゃあどうにかしちゃろう」と、平兮さんはその規格外野菜を買い取って販売できる直売所を立ち上げます。
さらに、弁当の製造販売会社「あじやエンタープライズ(株)」と結託し、規格外野菜を仕入れてもらうようになりました。廃棄寸前の大根葉は漬物に活用されているそう。

そうして、事業を続ける中で、一つの大きな成果が生まれます。大手コンビニチェーンのPB商品「ブリ大根」の大根に、規格外の北崎の大根を使ってもらうことに成功したのです。北崎の大根が全国へ飛び立ちました。
これらの取り組みによって生まれた売上金の一部が農家さんへ還元され、残りを「海の駅北崎」の立ち上げ資金に充てているというわけです。

ただし、平兮さんの本業は「和尚」。兼業をしづらい立場でもあります。事業化は、「あじやエンタープライズ(株)」の代表を務める倉園さんという強い協力者の存在があったからこそ、実現できたこと。今回の「海の駅北崎」も、地元の協力者はもちろん、この倉園さんとの抜群な連携プレーで実現に近づきつつあります。

きちんと収益を出す仕組みをつくり、さらには地域にお金を落としながら、双方に目を向け、事業として成り立たせていく平兮さんは、まるで優秀なビジネスマンのようです。

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とにかく忙しい毎日を送っている平兮さん。インタビュー中も電話が鳴り止みません

ところで「平兮さんはどうしてそんな活動を?」と、聞かれることも多いそう。

「地域が廃れていった時最後に残るのは寺と神社です。私は地域がどうなっても死ぬまでここにいます。じゃあ悪あがきしてみようと思ったんです。今やっているのは職権乱用ならぬ“職権運用”ですよ」と笑いながら教えてくださったのは、もともと和尚は地域のみんなのパイプ役であり、お寺は社交の場であったということ。

「仏事は、お経をあげるためだけのものではなく、親族や地域とのつながりを深め、先祖を含めた仏様を偲ぶための機会を与えてくれる時間です。軽薄な人間関係になりつつあるこの時代に人とのつながりを活かしながら地域を元気づけることは、お寺の存続・繁栄にもつながると考えています」と平兮さん。まさに、和尚だからできるまちづくりです。

お話を伺って印象的なのは、一貫している「北崎の魅力を未来に残していきたい」という熱い思い。「海側の事業がうまくいったら、次は山側で登山道整備やカフェをつくりたい」と、すでに次の展開も考えられているようです。平兮さんのように思いを形にして実行していける方が、地域の未来をつくっていくのだろうなあとあらためて感じます。同じ福岡市民としても、北崎の今後がとても楽しみです。

ご紹介した「海の駅北崎」は、夫婦岩が有名な糸島の人気スポット・二見ヶ浦から北へ直進、車で約2分ほどのところにあります。丘にはレンタサイクルも完備するとのことで、北崎地区および糸島エリアの楽しみ方ももっと広がりそうですよ。

海側へのお出かけも楽しみになってくるこれからの季節に、ぜひ訪れてみてくださいね!

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こちらは海の駅予定地からすぐの北崎の西浦漁港のようす。漁業の営みの見える風景には心いやされます

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ねこちゃんが出迎えてくれたのは西浦漁港横にある「北崎ひもの通り」。景色も綺麗で食べ物も美味しい北崎は福岡市のアナバです

海の駅北崎

■4/29 プレオープン
 ・キッチンカー12台(ラーメン「一幸舎」「唐揚げのもりやま」「ピザ グラッチェ」等)
 ・野菜の産直所(地元の野菜、山菜やあまおう等販売)
 ・北崎特産品の販売(北崎明太子ロッケ、北崎唐泊恵比寿牡蠣炭火焼 等)
 ・レンタサイクル30台完備(特産品購入者:レンタサイクル無料貸し出し有)
 ・ステージにて各種イベント有
 場所:〒819-0202 福岡市西区西浦644番地 
 営業時間:9:00〜18:00(キッチンカーは10:00〜17:00頃オープン)
 駐車場:平日無料、土日祝 車500円 バイク200円

■6/18 グランドオープン
 産直所グランドオープンとして「北崎おさかな祭り」を開催。地引き網も実施するそう!

(写真/取材 編集部)


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