RethinkFUKUOKAProject

よりよく生きていくためにモノを創り出そう 建築と教育の視点から探るフィンランドのデザインの力


ReTHINK FUKUOKA PROJECT レポートvol.42

アナバナではReTHINK FUKUOKA PROJECTの取材と発信をお手伝いしています。

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福岡からの直行便が就航し、より身近に感じられるようになったフィンランド。2017年12月に独立100周年を迎えるのを記念した巡回展「フィンランド・デザイン展」では、世界に先駆けて福岡から巡回がスタートするという嬉しいニュースもありました。
会期中に開催されたReTHINK FUKUOKA PROJECT第42回目のトークは、「デザインの力、まちの魅力〜フィンランドからの100年メッセージ」をテーマに、フィンランドをはじめ、北欧建築を研究する九州産業大学教授の小泉隆さんと、デザインと子どもの教育とに長年関わられているNPO法人子ども文化コミュニティ代表理事の高宮由美子さんをゲストに迎え、フィンランドのまちの魅力やデザインのある暮らし、そして福岡のまちのこれからについてRethinkしました。内容を一部抜粋してお届けします。

 

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人間の生活が中心”の
フィンランドのまちや暮らし

古賀 今日は「デザインの力・まちの魅力〜フィンランドからの100年メッセージ」と題しまして、デザインの力がまちの魅力にどう関わるのかについて、お二人のゲストにお話しいただきます。今回、福岡から巡回展が始まった「フィンランド・デザイン展」の実行委員の方にご協力いただきました。では、ゲストの高宮さんから自己紹介をお願いします。

高宮 みなさんこんばんは。「子ども文化コミュニティ」というNPOの代表理事をしている高宮と申します。子ども文化コミュニティは文化芸術を通して子どもが豊かに育つコミュニティづくり・まちづくりをしていこうというNPOです。それと同時に展覧会企画にも関わっておりまして、毎年福岡アジア美術館で夏休みに行われる「おいでよ!絵本ミュージアム」という展覧会を10年ほど企画・製作しています。

古賀 子ども文化コミュニティの方がなぜフィンランドのお話を? と思う方もいらっしゃるかと思うんですが、フィンランドは本当に教育先進国で。今回のテーマにもある「デザイン」は子ども教育と切っても切れない関係にあるということで、高宮さんにいろんな話をしていただけると思っています。もう一人のゲストは小泉隆さんです。

小泉 九州産業大学の工学部住居インテリア設計学科で教授をしている、小泉といいます。大学時代から建築における自然光の演出に興味を持ちまして、論文を書いたり設計をしたりしています。フィンランドの建築には光の美しいものが多くありまして、そんなところからフィンランドの光の建築を求めて、ちょこちょこ足を運ぶようになりました。2005年に、ヘルシンキ工科大学(現在はアアルト大学)で1年ほど訪問研究員をしていまして、その時にいろんなところを飛び回って写真を撮りました。それらをまとめて『フィンランド光の旅』や『アルヴァル・アールト 光と建築』という本も出しています。

古賀 本の中のお写真はすべて小泉さんが撮られているんですよね。

小泉 そうですね。フィンランドの人たちって森が大好きで、森と共生しながら暮らしてるところがあるんですよ。冬は太陽高度が低いので影が長くて、雪が残っている冬の森では、太陽があたるととても美しい景色が見られます。それでまあ「森と湖の国」とも言われてるんですけど、私は「光の美しい国」と言ってます。これを流行らせれば本も売れるかなと(笑)。でも本当にいろいろな生活や文化が、極端な春夏の違いや太陽高度の低い光のもとで作られてきていて、建築も本当に美しい光のものが多いです。

古賀 なるほど。

小泉 フィンランドをはじめ北欧は、人間中心にいろんなものが考えられていると思います。生活や社会制度もそうですし、建築も本当に使いやすい構造で。人間が中に入ったときにどう見えるかを大切にしています。仕事の仕方も、朝は7時とか8時に会社に行きまして、夕方5時くらいになるとみんな帰っちゃいます。それで家族と一緒に夕食を食べる時間をすごく大切にしていますね。とにかく人間の生活を中心に、いろんなものができているというのが、とても素晴らしいし羨ましいなあと思います。

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デザインは暮らしに不可欠な存在
市民レベルでデザインへの意識が根付くフィンランド

小泉 デザインって、フィンランドでは「日常の暮らしを豊かにするもの」というイメージがあると思っています。日本ですと、わりと形とか色とかかっこいいものとかおしゃれなものとかいう感じで、暮らしやすさの先にある、「特別なもの」というイメージがまだまだあるのかなあと。

古賀 確かにそうかもしれないですね。

小泉 北欧の国々は日常生活や日用品をよくしていこう、それを北欧のアイデンティティにしていこうという思想を持ちながら発展してきていると思います。冬の暗く長い時期を室内で暮らすので、その時期をいかに快適にするかという工夫がされていますね。光をたくさんとりましょうとか、部屋にあるもの全てをデザインしちゃおうというトータルデザインの思想であるとか、良質なものを長い期間使おうというロングライフデザインの思想に繋がっていて、とにかく日常の豊かさを大切にしています。だからお医者さんと同様、建築家やデザイナーさんも暮らしに必要不可欠な大切な存在としてしっかりした地位が位置づけられていて、いろんな優遇面があるんです。そんなのが羨ましいなあと思っていますね。

古賀 なるほど。フィンランドの建築にはどんな特徴があるんですか?

小泉 例えば、ひとつの建築物を建てるにしてもルールが厳しくて、市民に公表して意見をもらいながら進めていくんです。だから手続きが結構大変なんですが、それもフィンランド市民が持っている「自分たちのまちだから」っていう考え方、「みんなが社会を良くしよう」っていう思想に繋がっていると思いますね。あとは国有地が多いので、市民から意見をもらいやすい事情もあります。ヘルシンキは約70%が市の所有地なんですよ。

古賀 そんなに! ちなみに福岡市はどのくらいなんですかね?

小泉 今日、福岡市に電話したら教えてくれました(笑)。約13%だそうです。まあ、そういう事情もあるんですが、フィンランドでは建築1つをとっても「みんなの財産なんだ」という思想があるかなあと思います。市民が建築とかデザインにとても興味を持っていまして、普通のおばちゃんや子どもも「このお皿のデザインがいいんだよー」とか「今度西のまちにできた教会はとてもすばらしいものだよー」っていう会話をしています。若い人や歳を召した方、デザインに詳しい人じゃなくてもみんながデザインに対してしっかり意識を持っていると思いますね。

古賀 なるほど。日本はどうですか?

小泉 日本の伝統的な建築は障子や襖っていうやわらかいものに囲まれているから、人への気遣いとか精神的な制御によってうまく住んでいるんだと外国の方によく評価されていたんです。それに対して西洋は、分厚い物理的な壁に囲まれて住んでいるんだ、と。けれども僕はなんだか、最近は逆のような気がします。自動販売機とかタスポとかマニュアルとか、物理的・規律的に規制しているところが今の日本にはいっぱいある気がします。向こうの人たちは信頼関係を持っていて、人を介して社会ができている感じがしますね。ギスギスした社会にならないために、そういう仕組みが日本なんかでもできていくといいなあと思います。

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デザインの力とまちの魅力の背景には
教育による一貫した精神がある

古賀 高宮さんが「フィンランドフェスタ」を企画されたのは昨年の秋ですよね。

高宮 はい。同じ年の6月に福岡とヘルシンキを結ぶ直行便が就航したことにちなんで、「フィンランドフェスタ」という展示会を10月から12月にかけて行いました。フィンランドはどんな国でどんなことを大切にしているかというような、暮らしに寄った紹介や、フィンランドデザインの最前線で活躍するデザイナーさんを5名紹介しました。その中の木工の職人であるカリさんのご自宅におじゃましたときに、庭に子ども用のかわいい家があって。フィンランドでは“レイキモッキ”といって、「小さい家」という意味なんですけど、お父さんが娘のために手づくりでつくってお庭に建てるっていうことがよくされているそうです。ちょっと中を覗くとですね、可愛らしい小さなテーブルや椅子があったり、窓にはマリメッコの布でカーテンがあったり。「ああ、こうした遊びでデザイン感覚って自然に育つんだなあ」というのを感じましたね。

古賀 そんな文化があるんですね。

高宮 はい。フィンランドフェスタでは大使館からご協力をいただいて展示をしたんですが、フィンランドでは赤ちゃんが生まれると国民全員が「育児パッケージ」という箱をもらえるそうです。この箱の中にはデザイナーさんがデザインした洋服やお布団、いろんなものが1年間何も買わなくていいというくらい入ってまして。とても素敵なデザインのものに包まれて赤ちゃんが育つんです。もともとはフィンランドが独立して間もないとき、非常に資源も少なくて貧しい人たちが多くてですね。衛生面の問題から亡くなっていく子どもが多かったので、衛生的にも安全に育てられるようにという計らいで始まったという経緯があるそうです。育児パッケージは、妊産婦や乳幼児の死亡率低下に貢献し、フィンランド国内の子育てへの意識向上にも役立っているそうです。

古賀 なるほど。

高宮 箱がそのままベッドとして使えるんですが、フィンランドで子育てをしている多くの方が、今でもこの箱を使って子育てをしているそうです。そういったシステムが早くからできた上に、実際に使った市民の声を集めて、何十年もかけて一つ一つ改善がされてきています。フィンランドではこうしたサービスのことを「サービスデザイン」の1つだと言ってますが、やっぱり公共のサービスや建物、子育て支援にしても、そうしたサービスが非常に成熟しているなあということを感じました。フィンランドフェスタでは、ちょうど子育て中の若いお父さんやお母さんたちが興味津々で育児パッケージを見られていましたね。

古賀 私もこの展示を見に行きましたが、みなさんほんとに興味をお持ちで、羨ましいとおっしゃっていました。グッズもすごく充実していますよね。

高宮 そうなんです。フィンランドのデザインは、日本はもちろん世界各地から評価され愛されているんですが、そのデザインが生み出される背景として「よりよく生きていくため、幸せに生きていくためにモノを創り出そう」という精神で実際に自分の手をかけてモノをつくってきている。それこそがデザインの力やまちの力を高めて、魅力をたくさんつくり出していっていると思います。そうした考え方の大人たちによって、子どもは小さいころから家族との時間や地域の図書館やミュージアムの中でたくさんデザインに触れたり、教育を受けたりしてデザイン力が育まれているというふうに思いますし。一つ一つのまち、都市、そしてその中の地域全てにその精神が貫かれているところが、フィンランドの教育の力でもあるなあと感じます。

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会場からは「育児パッケージを福岡でもぜひ」という声や、「おしゃれな建物を建ててほしい」「子どものころからデザインに触れられる環境をつくってあげたい」と、フィンランドへ羨望の声が多数聞かれた今回のトーク。森や湖といった魅力的な自然環境だけではなく、デザインの力、そして教育の力がフィンランドのまちの魅力を高めているということを、ゲストお二人のトークから大いに学ぶことができました。私たちもまちの建築やモノのデザインにさらに目を向けることで、暮らしがもっと豊かに、そしてより幸せに感じられる仕組みができていくのかもしれません。

 

ReTHINK FUKUOKA PROJECTについて
コミュニケーションや働き方、ライフスタイルに大きな変化をもたらしている福岡。新しい産業やコミュニティ、文化が生まれるイノベーティブでエネルギッシュな街となっています。
そのチカラの根底には、この街に魅力を感じて、自らが発信源となっている企業や人がいます。
ReTHINK FUKUOKA PROJECTは、「ReTHINK FUKUOKA」をテーマに、まったく異なるジャンルで活躍する企業や人々が集い、有機的につながることで新しいこと・ものを生み出すプロジェクトです。


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